クレジット
タイトル: SCP-1403-JP - /虚偽/回帰/渇望/欺瞞/排他/否定/前進/輪転/夢幻/怪奇/の埋葬、或いはそれらの再認知、或いは自己満足
著者: ©︎AMADAI
作成年: 2021
アイテム番号: SCP-1403-JP
オブジェクトクラス: Safe
特別収容プロトコル: 旧京蘭ホテルは封鎖され、クラス3建造物封鎖プロトコルにより収容されます。
説明: SCP-1403-JPは旧京蘭ホテル1階の非常階段入口ドアより進入可能な空間を指します。SCP-1403-JPは反復構造となっており、設置されている階段を用いた昇降を行っても必ず1階の非常口へと到達します。他の階からは問題なく非常階段が使用可能です。記録上旧京蘭ホテルには地下室が存在しないにもかかわらず、SCP-1403-JPには下方向への階段が設置されています。
階段で降下を行った人物は踊り場に存在する実体を報告します。これは降下している人物及び降下した機器類でのみ認知、記録が可能です。また、降下階数によりその実体の形状が異なることが報告されています。詳しくは調査記録1403-JPを閲覧してください。
発見当初、旧京蘭ホテル1階の80%は非異常の土砂によって埋没していました。また非常階段入口ドアは複数枚の鋼板で固定され、開閉が不可能な状況でした。鋼板の一枚には"SCP財団 [解読不能]"と印字されていましたが、当オブジェクトが過去に収容された記録は存在しません。
調査記録1403-JP
(カメラに一つのキャンバスが映し出される)
降下1階
何も描かれていないキャンバス。
物部研究員: 見たところ、何の変哲もない普通のキャンバスです。何かが描いてあるわけでもありません。あ、いや、裏面に何か塗りつぶした跡があります。大きさと位置から考えて署名か何かでしょうか。
実体: そこに居ない。誰も見ていない。全ては白に戻り、全てはあの日に帰っていく。
実体: 全てはあの陽に帰っていく。陽は眩しく輝いている。
物部研究員: でも貴方は、帰らずにここに居ます。
実体: 誰?……ああ、二度とその顔を拝まなくて済むと思ってたのに。
物部研究員: 帰ってきたも何も、私がここに入るのは初めてですが。
実体: 知りませんよ。ようやく完成したと思ったのに。ようやく創りあげたのに。また現れて。また私のキャンバスをぐじゅぐじゅにして。
物部研究員: ですから、私がここに来たのは初めてです。それに、キャンバスは真っ白のままですが。
実体: いや、白は、白は違う。それは無限へと至る白。あなたみたいな凡人に理解できるものじゃない。違う。ああ、また新しいあなたが現れる。また。うんざりです。私の視界から消えてください。
物部研究員: ではそのように。
実体: ただ、その度に新しいあなたを探していることは否定できません。
実体: 帰りましょう。あの日々に。あの白に。あの陽に。何も作れずに死んで行った私達に花束を。
(物部研究員が降下を再開する)
(カメラに7体の人型実体が映し出される)
物部研究員: 各種機器類に反応はありませんが、誰かがこちらを見ているような、そんな感覚があります。それと少し頭痛が。鎮痛剤は不要な程度の痛みです。
降下71階
直立し、頭部が存在しない人型実体。視認した人物によってその人数が変化することが報告されている。
物部研究員: 服装はバラバラですね。宇宙服、全裸、白衣、旧型の機動部隊用スーツ。残念ながら右腕にある個人ナンバーは削り取られているので、個人の特定は不可能ですね。
実体: これに近づいている私がいることに恐怖を感じる。一番これを避けていたのは私なのに。
物部研究員: これ、とはこの死体のことでしょうか。
実体: 死にたくない。まだそちらに行きたくない。まだ私は生きている。まだ私は生きていたい。
実体: 私が居る。私が居る。幾千万の私が見える。幾千万の終わりが見える。
実体: 「それ」で完成するなんて私は認めたくない。認めたくない。でも、なのに、どこかで「それ」を望んでいる私が居る。違う。そんな花束は受け取りたくない。
実体: さっさと死んで楽になれよ。
(複数名の笑い声)
物部研究員: 私はまだ死ぬ気はありませんよ。
(物部研究員が降下を開始する)
実体: 置いて行かないで。
実体: まだ私と一緒に、他愛もない話で微笑んで。
(カメラにゾウの死骸が映し出される)
物部研究員: 確認できるのはゾウとサメ、それにバッタですね。幅が通れるギリギリで助かりました。あまりこの上を通るのはいい気分ではありませんから。
物部研究員: 注目すべきはここですね。ゾウの両前足が人の腕に置換されています。
降下120階
数種類の生物の死体。一部の死体において、体肢が人のものに置換されていることが報告されている。
実体: 違う。そんなつもりじゃなかった、それすらも肯定しないといけなかった。いや、それも違う。
実体: 正直になれない。正直になれない自分が嫌だ。正直に「楽しもう」と言うあの日々は既に死んだ!
物部研究員: 貴方が殺したのですか。
実体: 違う。殺す勇気すら、弱い剣を持つことすら私はできなかった。それでどうなるかはわかっていたのに!何もせず、剣もペンも持たず、ただただ傍観し、胃液を吐き続けた!
物部研究員: それで恨みを買う位なら、何もしない方が良い選択肢だとは思います。
実体: 何もしないなんて、死んでいるのと同然だ。かと言って、何かを成し得る訳でもない!もう死んでいる。とっくにそんな事は気づいている。こんなものでしか、表現出来ない。
実体: 私はまだ、生きていたい。生きていたかった。
(物部研究員が降下を再開する)
実体: 月日が経てば、何かを楽しむことすらできなくなっていく。
(カメラに10名の人型実体が映し出される)
物部研究員: 拍手、鳴り止みませんね。
降下430階
花束、抱えられた人間の幼児、周囲で称賛する人々。幼児の顔は笑っている。
物部研究員: 嬉しい事でもありましたか?
実体: 行けなかった。だから我々は、私は、僕は、ここに居る。
物部研究員: どこに行けなかったのですか?なぜ?
実体: 雪の中。或いは無限に広がる夢街。誰もが皆忘れ、行き着く場所。何故?わからない。そこに行くはずだった。切符だって貰っていた。なのに、なのにここに閉じ込められた。こんな瞬間なんて忘れていい。忘れたほうがいい。こんなものに縋り付くことなんてしなくていい。こんな私で酩酊なんてしなくていい。
(嗚咽)
実体: 何故完全に忘れさせない?何故こんな中途半端な方法で。まさか、それが目的か?
(全ての人型実体がひび割れ、崩壊する)
物部研究員: 調査を継続します。
(物部研究員が降下を再開する)
(カメラに一つのキャンバスが映し出される)
物部研究員: またキャンバスですね。ただ1階とは違って、裏面の署名らしきものはありません。
降下560階
降下1階目と同様、何も描かれていないキャンバス。
実体: 肥えたそれを穿つことはできない。唸らせることもできない。だから閉じ込められた。忘却の果てに消えそうな、消されそうな物を繋ぎとめる。私だってそうだ。一番"底"で、彼らが一番"保護"すべきとしたのが私だ。かつての始まりを、初演を、初稿を、始めて筆を躍らせる瞬間を、初めて自分が"最高"と思えた瞬間を。
(キャンバスが"燃えるように"消失する)
実体: どうか。
(下方向への階段は存在しない)
(物部研究員がSCP-1403-JPより退出する)