アイテム番号: SCP-1410-JP
オブジェクトクラス: Safe
特別収容プロトコル: SCP-1410-JPの存在する家屋は財団に所有され、現在は全ての出入り口を封鎖されています。当該家屋へ進入をする場合は担当職員へ申請し、常に2人以上が同じ空間で行動してください。SCP-1410-JP内に人がいる状態でSCP-1410-JPの戸が閉鎖した場合は、内部の人員は常に発声し、外部の人員は速やかに戸を開放してください。
説明: SCP-1410-JPは宮城県██市の市街地にある家屋の1階和室の押入れです。家屋は風雨の影響で著しく劣化しており、SCP-1410-JP本体にも湿気による膨張や汚れが見られますが、穴や破損は見られず、閉じると内外の空間を完全に分断します。SCP-1410-JPに穴を開ける試みは失敗しており、移動させることは異常性の損失もしくは拡大の可能性があるため禁止されています。
人間が単独でSCP-1410-JP内に侵入した状態で戸を閉めると、SCP-1410-JPは活性化します。複数人が進入した場合は活性化しません。活性時は内部がほぼ無音に近い暗闇になり、内部からの開閉は不可能になります。外部からは開閉が可能であり、開くことでただちに不活性化します。活性から1分〜5分経過すると、内部の人間(以下「対象」)は未知の音声を知覚します。この音声(SCP-1410-JP-Aと分類)は対象にのみ知覚され、録音機器で観測することはできません。SCP-1410-JP-Aは対象が「無音である」と認識している時にのみ現れ、心音や呼吸音を知覚していると発現しません。SCP-1410-JP-Aは知覚された回数と比例して対象へ接近し、やがて「無音である」と認識しているか否かに関わらず発現するようになります。SCP-1410-JP-Aの発現から合計20秒以上の沈黙を保つと、対象はSCP-1410-JP内部から消失します。この消失現象を記録する試みは、録画機器の破損により全て失敗しています。
補遺: SCP-1410-JPは2004年に発生した児童行方不明事件をきっかけにして発見されました。被害者失踪の直前まで遊んでいた児童は「廃屋でかくれんぼをしていたら、押入れに隠れていた友達がいなくなった」という証言をしており、警察に潜入していた財団エージェントが捜査を実施したところ異常性が発覚しました。当該物件は「一家心中のあった幽霊屋敷」として知られていましたが、本来の所有者は元建設会社社長の老夫婦であり、どちらも1993年に肺炎で死亡しています。SCP-1410-JPの異常性発現の時期は不明です。行方不明児童は現在も発見されていません。
実験記録 1410-JP-1 - 日付2016/██/██
実験責任者: ███博士
助手: █研究員
付記: █研究員はメンタルセラピストとして財団フロント企業に所属しており、SCP-1410-JP実験のために特別派遣されました。
対象: D-1985
実施方法: D-1985をSCP-1410-JPに侵入させる。
結果: 実験開始から1分後、D-1985がパニックを起こしたためスピーカー越しに█研究員との通話で精神安定を実施。鎮静後もSCP-1410-JP-Aは発現せず。20分後、SCP-1410-JPを開放。
コメント: SCP-1410-JP-Aの発現条件が人の侵入以外にもあると推測されます。なお脱出時のD-1985は泣きじゃくり過呼吸の症状がありましたが、経歴の確認の結果、軽度の暗闇恐怖症であったことが判明しました。
実験記録 1410-JP-2 - 日付2016/██/██
対象: D-1986
実施方法: D-1986をSCP-1410-JPに侵入させる。D-1986には内部では決して声を出さないよう命令。
補足: D-1986は暗闇と閉所に耐性を持つことを確認済。
結果: 2分後、D-1986はSCP-1410-JP-Aの発現を報告。恐怖を和らげるために深呼吸やため息を繰り返す。その後5分ほど待機してもSCP-1410-JP-Aの再発現は確認されなかったため、SCP-1410-JP-Aを開放。
コメント: 音声がSCP-1410-JP-Aの発現条件と関係している可能性があります。なおD-1986はリラクゼーションとして自分の心音や息を意識する癖がありました。呼吸のdB値は発現時と大きな差が確認できなかったことから、SCP-1410-JP-Aの発現条件の沈黙は対象の認識が影響する可能性があります。
実験記録 1410-JP-3 - 日付2016/██/██
対象: D-1987
実施方法: D-1987に懐中電灯を装備させ、SCP-1410-JPに侵入させる。D-1987には内部では決して声を出さないよう命令。懐中電灯の照射は許可している。
補足: D-1987は暗闇と閉所に耐性を持つことを確認済。
結果: 1分後、D-1987はSCP-1410-JP-Aの出現を報告。脱出の要請を却下し、実験を続行するも、30秒後にパニックを起こす。█研究員との通話を実施するも安定せず、実験の続行が困難と判断し、SCP-1410-JPを開放。
コメント: SCP-1410-JP-Aの発現条件に明かりは関係なく、あくまでも沈黙の認識であると推測されます。実験後、D-1987は重度の閉所恐怖症を発症しましたが、これがSCP-1410-JPの効果なのか、状況による副次的な効果なのかは不明です。
実験記録 1410-JP-4 - 日付2016/██/██
対象: D-1988
実施方法: D-1988に懐中電灯を装備させ、SCP-1410-JPに侵入させる。D-1988には内部では音がするが危害を加えられることはないことを伝え、なるべく音を立てないように命令。
補足: D-1988は暗闇と閉所に耐性を持つことを確認済。
結果: 58秒後、SCP-1410-JP-Aが出現。D-1988が動揺したため、█研究員との通話を実施。沈黙して20秒後にD-1988は悲鳴をあげ、応答が途絶。█研究員がSCP-1410-JPを開放したところ、D-1988の姿はなく、壁に人型の染みを発見。検査の結果、染みはD-1988の体組織であると判明、強い力で壁に圧縮されたような状態になっていた。洗浄後は染みの跡はなくなり、またD-1988の体組織の99.5%の採取に成功した。
コメント: 今回の結果から、沈黙がSCP-1410-JP-A発現と進行のトリガーであると確定していいだろう。また、状況からして収容以前の被害者は死亡している可能性が高い。どうにかしてSCP-1410-JP-Aを観察もしくは確保したい。──███博士
実験記録 1410-JP-5 - 日付2016/██/██
対象: D-1991(32歳、男性)
実施方法: D-1991にヘッドセットと赤外線カメラを装備させ、SCP-1410-JPに侵入させる。D-1991には、事前にSCP-1410-JPの戸が内部から開かない事を説明してある。
<録音開始,(2016/11/██)>
███博士: D-1991、聞こえますか。
D-1991: 聞こえる。それにしても懐かしいというかなんというか、この歳にもなって押入れに引きこもるなんて。
███博士: その中で、なるべく音を立てないようにしてください。心音や呼吸も、可能なかぎり抑えてください。
D-1991: いや、心音は難しいよ。真っ暗だから不安になるし。なあ、落ち着けるように、ちょっと雑談していいか?
███博士: いいですよ。█さん、お願いします。
[会話の内容は重要でないため割愛。]
[12:53 D-1991の呼吸音のみが収音されている。D-1991はSCP-1410-JPの戸を映している。]
[13:23 映像が大きく動く。SCP-1410-JPの壁を映す。]
███博士: D-1991、どうしましたか。
D-1991: しっ。[10秒の沈黙]先生、ちょっとだけそっちの音切っていいか?
███博士: まず何があったか報告してください。
D-1991: 何か聞こえた気がする。ただ、先生の声やそっちの物音かもわかんねえから、確かめる為にそっちの声を1回切る。いいか?
███博士: わかりました。15秒経っても復帰しなければ、こちらから通信を再接続します。そちらの音は切らないようにしていてください。
D-1991: わかった。
[14:05 D-1991へのスピーカーがミュートに切り替わる。映像は奥の壁を映している。]
[14:18 D-1991側の音声が復帰]
D-1991: 先生、ここ何かいる。
███博士: 具体的に説明してください。
D-1991: 声がした。すごく小さいけど明らかに人の声だ。静かにしていると鼓動と鼓動の間に聞こえる。
███博士: わかりました。その音声はどこから聞こえますか?
D-1991: わかんねえ、たぶん壁の方から。先生、ちょっと心臓すごくて静かにできねえ、1回出ていいか。
███博士: 可能なかぎりそのまま続けてください。落ち着きを取り戻したいならまた会話にも応じます。
D-1991: まじかよ。[D-1991は10秒間深呼吸を繰り返した]うん、しょうがねえから頑張る。少し時間くれ。
[15:45 D-1991の深呼吸が停止]
[16:01 映像が激しく揺れ、壁に衝突する音が響く]
D-1991: 先生、出してくれ。
███博士: 落ち着いて下さいD-1991。
D-1991: 嫌だ!もう耐えられねえ!
███博士: 大丈夫です、私と█さんの声を聞いてください。
D-1991: そうじゃない!もう無理だ!頼む、出してくれ!
終了報告書: D-1991は叫びながら戸を叩き続けました。███博士は続行困難と判断して実験終了を宣言、█研究助手にSCP-1410-JPを開放させるとD-1991は即座に飛び出て畳に落ち、膝と手のひらに軽い挫傷を負いました。D-1991は確保され、抵抗もなく別室へ移送されました。
対象: D-1991
インタビュアー: ███博士
<録音開始>
███博士: D-1991、SCP-1410-JPの中であった事を説明してください。
D-1991: 声が聞こえたって言っただろ?あれが近づいてきた。
███博士: しかしあの後、押入れの中を調査しましたが、異常は見受けられませんでした。
D-1991: でも俺は確かに人の声が聞こえたんだ!人の声っつっても、女みたいな声でただずっと「あ」って言ってるだけだけど。
███博士: 「あ」ですか?
D-1991: そうだ。ただずっと何回も「あ」って言ってた。「あいうえお」を読み上げる時みたいな、全然感情のこもってない声だった。それが、鼓動と鼓動の隙間に何度も聞こえた。
███博士: 貴方は最初それを聞いた時、落ち着いているように見えましたが、なぜ突然あのようになったのですか?
D-1991: いや、最初から怖かった。でも声は小さかったし、何の音もしない瞬間にしか聞こえなかったから、落ち着けば平気だった。でも、少しでも脈が鳴らないと、その一瞬にまた聞こえて、そしてそれがどんどん近づいてきていたんだ。
███博士: 近づく、とは。
D-1991: 最初は遠くで小さく聞こえるだけだったのが次第に大きくなって、最終的には耳元で叫ばれるように何度も「あ、あ」って聞こえたんだ。なのに全然感情がねえ、ただ「あ」って言ってるだけだ。
███博士: しかし、心音と心音の間の静寂だけで発生するのでは、そこまで怯える事もないのではありませんか?
D-1991: それも最初だけだ。次第に音を出してても聞こえるようになったんだ。叫ぶ直前まで、心臓バクバク言ってたのに、ずっとあーあー言ってた、しかも耳元でだぞ。そこでパニックになっちまった。
███博士: そうですか。音以外に異常はありましたか?
D-1991: わかんねえ、耳元に息を感じたといえば感じた気もする、臭いなら自分の体臭だったかもしれねえ。押入れのカビの臭いかもしれねえ。でもあの音が聞こえた時から、いつも肉の腐った臭いがする気がするし、口の中が酸っぱい気がする。今でもあの声が耳から離れねえんだ。これって気のせいかな。
███博士: そうですか。わかりました、ありがとうございます。
<録音終了>
終了報告書: D-1991はBクラス記憶処理を受け、症状は改善されました。押入れ脱出後の異常は恐怖感からくる幻覚であると推測されます。D-1991は引き続き実験に使用されます。
実験記録 1410-JP-6 - 日付2016/11/██
対象: D-1991
実施方法: D-1991にヘッドセットと赤外線カメラを装備させ、SCP-1410-JPに侵入させる。D-1991には、事前にSCP-1410-JPの戸が内部から開かない事を説明してある。
<録音開始>
███博士: D-1991、聞こえますか。
D-1991: 聞こえるよ。それにしても、なんだこの押し入れ。戸が閉まったとたんに真っ暗になったぞ。
███博士: 押入れの中は暗いものでしょう。
D-1991: それもそうだけ[D-1991が沈黙、側面の壁を映す]
███博士: どうしましたか。
D-1991: [SCP-1410-JPの戸を映し、激しく叩く]先生、出してくれ。
███博士: 何が起きたかを報告してください。
D-1991: 何かがいる!早く出してくれ!
███博士: 落ち着いてください、その中にはあなた以外誰もいません。
D-1991: 違う!何かが俺の手を[激しい衝突音とともにカメラが落下。同時にD-1991のものではない女性の悲鳴が記録されたため、███博士は実験中止を宣言。]
終了報告書: SCP-1410-JPを開放したところ、D-1991は右側頭部と右腕を[編集済み]し、衝撃により失神していたため、緊急治療が施されました。深刻な頭蓋骨骨折、脳挫傷、肋骨骨折、靱帯損傷を負ったものの、奇跡的に一命を取り留めました。半年後に会話可能状態まで回復したため、病室でインタビューが行われました。
対象: D-1991
インタビュアー: ███博士
<録音開始>
███博士: D-1991、SCP-1410-JP内であった事を説明してください。
D-1991: 最初あの押入れに入った時、なんか気味悪いって思ったんだ。それだけなら普通なんだけど、[呻き声]先生、あのとき何かが這いずる音は聞こえなかったか?
███博士: 何かが這いずる音ですか?いえ、記録した音声には、そのような音はありませんでした。
D-1991: そうか。[D-1991は深呼吸をする][呻き声]俺があの中で聞いたのは、何かが這いずり回るような音だった。最初は聞こえなかったけど、急に遠くから、すごい勢いで迫ってきた。
███博士: ネズミの足音や衣擦れの音ではなかったのですか?
D-1991: 違う。[呻き声]ほら、ホラー映画であるだろ、オバケが腹ばいでガサガサガサってくる感じの。あんな音だ。しかも「イイイイ」って、喰いしばるように叫んでるように聞こえた。
███博士: それは、最初からそのように叫んでいたのですか?
D-1991: ああ、でも音のする方には、ちゃんと壁があったからおかしいんだよ。それで生暖かいものが手に当たって、次の瞬間に、[呻き声]まあ、見た通りだ。
███博士: 我々が戸を開けた瞬間、あなたを引きずり込むものの姿は見えましたか?
D-1991: 悪い、見えなかった。気がついたら壁に頭めり込んで、このザマだからさ。
███博士: わかりました、ありがとうございます。あなたはよくやってくれました。しっかり休んでください。
D-1991: 可能だったら、死なせてほしい。頭が半分近く潰れてここまで生きてることがこわい。
███博士: せめて少しでも楽になるよう努めましょう。
<録音終了>
終了報告書: インタビュー中、数度にわたって記録された呻き声はD-1991のものではありませんでした。音声記録を繰り返し聞いた職員は、聞くたびに音声が大きくなっていると報告。収容違反の可能性を考慮し、音声記録を確認したい職員は███博士に許可を申請してください。