SCP-1434-JP
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アイテム番号: SCP-1434-JP

オブジェクトクラス: Euclid

特別収容プロトコル: SCP-1434-JPはサイト-8104の標準人型生物収容ユニットに収容されます。基本的な収容手順は人型オブジェクト標準収容手順に従います。

週に1度、SCP-1434-JP-1へ探査員が派遣され、SCP-1434-JP-1内の天気・気温・風等の記録を行います。この時、必要であればSCP-1434-JP-1内のトケイソウを採取します。

<追記> 常に1名の警備員が、収容ユニット1434-JP内にて麻酔銃を携行した状態で待機しています。SCP-1434-JPが不審な行動を取った場合、警備員がSCP-1434-JPの取り押さえ等を行います。

説明: SCP-1434-JPは脳から眼窩にかけて計2株のトケイソウ(Passiflora caerulea)が貫通した状態で生育しているモンゴロイド女性です。このような状態にも拘わらず、SCP-1434-JPは限定的な視覚を有していると主張します(補遺1434-JP.1参照)。

トケイソウの根はSCP-1434-JPの脳の大部分に広がっており、トケイソウはSCP-1434-JPの血液や脳漿を道管によって吸収しています。血液や脳漿がトケイソウの十分な栄養源になりうるかは結論が出されていません。SCP-1434-JPには手術痕をはじめとした外傷がありません。

SCP-1434-JPの腹部には木製の扉が取り付けられており、この扉を通じて異空間(SCP-1434-JP-1に指定)にアクセスすることが可能です。SCP-1434-JP-1内部にはトケイソウの花畑が広がっており、その正確な広さは判明していません。このトケイソウは枯死する様子がなく、切断された場合も生育し続けます。また、SCP-1434-JP-1内では全長10 cm程度のイトスギ(Cupressus)が確認されています。SCP-1434-JP-1内は常に夜であり、星は月以外に確認できません。SCP-1434-JP-1内の天気はSCP-1434-JPの精神状態に大まかに対応しているように見えます。例として、SCP-1434-JPが悲しみを訴えた際のSCP-1434-JP-1内の天気は雨であり、SCP-1434-JPが喜びを訴えた際のSCP-1434-JP-1内の天気は晴れであり、通常時のSCP-1434-JP-1内の天気は曇りです。


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PoI-6132。

補遺1434-JP.1: 発見経緯

SCP-1434-JPは、要注意思想-780「千篇万花」の流れを汲む要注意団体、GoI-780B「ラッパスイセンの会」1への調査の中で収容されました。当時、財団は捕縛したGoI-780Bの構成員へのインタビューを行っており、その中で「トケイソウの庭師」という人物の所在の情報が明らかになりました。エージェントが該当する地点へ向かったところ、[削除済]の民家に居住しているSCP-1434-JPが発見され、カバーストーリー「入院」適用下で確保されました。

SCP-1434-JPが居住していた民家を捜索した結果発見された、主な物品は以下の通りです。

  • 花瓶に入れられた1輪の赤いイエギク(Chrysanthemum morifolium)。回収されてから半年が経過しているにも拘わらず見た目に変化が見られず、AO-4251-JPに分類された。
  • ゴミ箱に廃棄された、SCP-1434-JP-1から採集されたと思われる約300輪のトケイソウ。いずれも茎が一部切断されていた。
  • 日本の資産家である岡 謙一(PoI-6132)の顔写真。PoI-6132はGoI-780Bの幹部或いは創始者であるとして財団によりマークされているが、2009年時点で行方不明になっており、現在も所在が判明していない。

補遺1434-JP.2: インタビューログ

確保から3日後、異常性の調査が概ね終了した段階で、SCP-1434-JPへのインタビューが実施されました。以下はその内容です。

インタビューログ1434-JP/001

音声記録

対象: SCP-1434-JP

インタビュアー: 三歳みとせ研究員


<抜粋開始>

三歳研究員: さて、あなたのお名前をお聞かせいただけますか?

SCP-1434-JP: 私に名はありません。私は庭師。花師の庭園の守り人にして、花師に花を届ける者です。

三歳研究員: ふむ。では、幾つか質問させていただきます。まず、あなたの目に刺さっているトケイソウについてですが、どういった経緯でそのような状態になったのでしょうか?確か、ラッパスイセンの会の教義は花言葉に関係があった筈ですが。

SCP-1434-JP: これは、我が師が私にお刺しになったものです。我が師は偉大な花師であり、その御手に1輪の美しいトケイソウの花、信仰の花をお取りになって、私の眼窩へとそっと生けられました。

三歳研究員: 確か、トケイソウには他にも聖なる愛や宗教的熱情といった花言葉があった筈ですが。

SCP-1434-JP: 花言葉は花師によって選ばれます。例えば、バラは愛や美という花言葉を持ちますが、花師が愛をもたらしたければ愛の花が、美をもたらしたければ美の花が生けられます。

三歳研究員: なるほど。では、あなたの師が花を生けた、というのは具体的にはどのように?

SCP-1434-JP: まず、トケイソウの茎の先を鋏で切り落とされました。そして、その先にふっと息を吹き掛けられたのです。するとたちまち花は淡い白の光を放ち始めました。そうなった花は、かの御方の手によって、私の眼球へ、眼窩へ、脳へ、するりするりと入っていったのです。痛みも苦しみも何1つなかったものの、私の目にゆっくりと近づいてくる花は、とても恐ろしく見えてしまいましたけれど。

三歳研究員: ありがとうございます。では、次にあなたのお腹に広がっている空間についてお訊きします。その空間は明らかに異常に見えますが、これはどういったものなのでしょうか?

SCP-1434-JP: 先ほど申し上げた通り、私は庭師です。そして、庭は私の中にあります。聖陽も私の中で輝き、風は私の中で吹いて、時には悲しい雨が降る。この庭園は、そうして生き続けています。

三歳研究員: 聖陽、とは?

SCP-1434-JP: あの空で輝く、大いなる光のことですわ。

三歳研究員: ああ、太陽。では、あなたの庭はどのように造られたのですか?

SCP-1434-JP: 花を生けるのが花師であるように、庭園を造るのは造園師です。造園師様は我が師の命を受けて、私に大いなる信仰の庭園をお造りになりました。聞けば、私は最も強い信仰心を有しているから、だそうで。 [笑い]

三歳研究員: ふむ。ところで、その花師や造園師にも名前はないのですか?

SCP-1434-JP: ええ。この世の全ての者は神の庭に咲く花々に過ぎません。花の1輪1輪に名があるのはおかしいでしょう?

三歳研究員: なるほど。では最後に、岡 謙一さんのことについて聞かせていただきます。岡さんとあなたはどのような関係にあったのですか?

SCP-1434-JP: 岡?いえ、存じ上げませんが。

三歳研究員: そうですか。あなたの家に顔写真がありましたから、てっきりお知り合いなのかと。

SCP-1434-JP: 顔写真?それを、それを見せていただけませんか。

三歳研究員: え?でも、あなたには見えないのでは。

SCP-1434-JP: [沈黙] 確かに、私には物を見ることはできません。残念ですが。

三歳研究員: 物は?つまり、人は見えるということですか?

SCP-1434-JP: はい。人も、生まれたばかりの命も、死んだばかりの命も。今も、あなたのことがはっきりと見えていますよ。美しい顔をしていらっしゃいますね。

三歳研究員: そ、そうなのですね。

SCP-1434-JP: それで、その顔写真ですが。もしかして、私の家の玄関にあったものですか?

三歳研究員: はい、そうです。

SCP-1434-JP: [沈黙]

三歳研究員: どうしました?

SCP-1434-JP: すいません、少し。 [沈黙] 花は、開かなければなりません。私は既に蕾ではなく、開かれた1輪のトケイソウ。万人にその心を開く者。あの御方のことについて、お話ししなければならないのでしょうね。

三歳研究員: 無理のない範囲で構いませんよ。

SCP-1434-JP: いえ、ご心配なく。その方は、先ほど私がお話しした我が偉大なる師です。岡 謙一、という名前でいらっしゃったのですね。

三歳研究員: ええ。岡さんとはいつ頃に出会われたんですか?

SCP-1434-JP: あの御方は、5年程前に私の前にお現れになりました。最初の出会いは、突然薬で眠らされて、気がつけば椅子に縛り付けられていた、というようなものでしたけれど。

三歳研究員: それは、その、大変な出会いでしたね。というと、先ほどの花を生けられた時というのは?

SCP-1434-JP: ええ、その時です。私はその時初めて花開き、我が師にお仕えする者として生まれ変わったのです。

三歳研究員: それからは、どこで岡さんに仕えていたんですか?

SCP-1434-JP: ずっと、あの家で。あの御方は私の家にやってくる度に、私の庭からそっとトケイソウを手折り、持って行かれました。時折、私の家で、あの御方とお茶をしたりもしました。そうして、私の庭は晴れやかになっていったのです。

三歳研究員: なるほど。それで、現在の岡さんの居場所について心当たりはありますか?

SCP-1434-JP: いえ、残念ながら。我が師は、数ヶ月前を境に、私の前にそのお姿をお見せにならなくなったのです。その理由は、私にもわかりかねます。

三歳研究員: そうですか。

SCP-1434-JP: その、あと、すいませんが、我が師についてもう少し詳しくお教えいただいても宜しいでしょうか?せめて、何をされていた方なのかだけでも。

[三歳研究員が担当博士と相談する]

三歳研究員: ええ、構いませんよ。岡さんは、日本の資産家でした。ご存知ありませんでしたか?

SCP-1434-JP: [沈黙] ええ、全く。

<抜粋終了>


補遺1434-JP.3: SCP-1434-JP-1の状態の変化(1回目)

1回目のインタビュー以降、SCP-1434-JP-1内の天気が常に雨になり、2日が経過した段階でSCP-1434-JP-1内のトケイソウが萎れ始めました。この事案を受け、SCP-1434-JPに対して2回目のインタビューが行われました。

インタビューログ1434-JP/002

音声記録

対象: SCP-1434-JP

インタビュアー: 三歳研究員


<抜粋開始>

三歳研究員: どうしましたか?庭の様子が良くないようですが。

SCP-1434-JP: [声が小さく聞き取れない]

三歳研究員: 庭師さん?

SCP-1434-JP: [沈黙] 私は、知らなかったんです。あの御方の、我が師のことについて、何も。

三歳研究員: それは、辛かったでしょうね。

SCP-1434-JP: あの御方は、ご自身のことについて何も私に教えて下さらなかった。お茶をする時も、決してご自身については語られなかった。あの御方が語るのは、いつも、死んだ神のことばかり。

三歳研究員: 死んだ神?

SCP-1434-JP: 我らの神は既に死んでいるのです。あの御方は、いつもそんな神の復活のことばかり仰っていました。私と話しているときも、その心は神に開かれていて。

三歳研究員: なるほど。

SCP-1434-JP: [嗚咽] 私にとっての聖陽は、トケイソウの花の聖陽は、あの御方だったのに。私は、師の聖陽にはなれないのですか?師にとっての聖陽は、いつまでも、神なのですか?

三歳研究員: 落ち着いてください、庭師さん。

SCP-1434-JP: あなた方は私の家に入り込んだのでしょう?ならば、あのキクのこともご存じの筈。あのキクは、いつまで経っても枯れなかった。つまり、あの花は他の庭師の庭のもの。その庭師もまた、我が師の寵愛を賜った者の1人なのでしょう。私は所詮、数多の庭師の1人に過ぎないのです。ああ、私は師だけを見るために、この目を捨てたのに。いつしか、師は私の前から消え失せてしまった。花には日の光が必要なのに、私が見るのは反射した月の光だけ。 [沈黙] ねえ、あなた。

三歳研究員: は、はい?

SCP-1434-JP: どうすれば、あの御方は私の方に向いてくださるのですか?

三歳研究員: [沈黙] そうですね、あなた達の教義に従って、愛の花言葉の花を刺してみる、とか。 [沈黙] に、庭師さん?

SCP-1434-JP: それは。 [沈黙] そんなことは、できませんよ。あの御方の臓物を、弄ぶだなんて。

<抜粋終了>


補遺1434-JP.3: SCP-1434-JP-1の状態の変化(2回目)

2回目のインタビューから6日後、探査員はSCP-1434-JP-1内部のイトスギが全長50 m程度に生長しており、周囲のトケイソウが更に萎れているのを発見しました。また、これまでと異なりSCP-1434-JP-1内の天気が晴れに変化しました。この事案を受け、SCP-1434-JPに対して3回目のインタビューが行われました。

インタビューログ1434-JP/003

音声記録

対象: SCP-1434-JP

インタビュアー: 三歳研究員


<抜粋開始>

三歳研究員: さて、庭師さん。また、あなたにお訊きしたいことができました。

SCP-1434-JP: 存じております。イトスギの巨木のことですね?

三歳研究員: ご存知でしたか。では、あなたがあの木をあそこまで大きくしたんですか?

SCP-1434-JP: ええ。大きな樹でしょう?

三歳研究員: 確かに。ですが、突然何故あのようなことをしたんでしょうか?それに、この間までは庭には雨が降っていたようですが、今は晴れています。

SCP-1434-JP: [笑い] あなたがヒントを教えてくれたのではないですか。

三歳研究員: 私が?

SCP-1434-JP: ええ。我が師にとっての聖陽は神であり、私たち庭師は聖陽にかき消される星でしかありませんでした。しかし、あなたの言葉で私は気づいたのです。私が他の星々よりも輝けないのであれば、空から私以外の星を奪ってしまえばいい。

三歳研究員: 何を。

SCP-1434-JP: [遮るように] この木は、私の中ですくすくと育っていきます。その花の咲いた枝を刺せば、星はたちまち光を失うでしょう。私には既にその力があります。

三歳研究員: あなたは庭師ではなかったのですか?

SCP-1434-JP: 庭師が花師を兼ねてはいけない等という道理はありませんよ。さて、この夜はとても長いものでした。しかし、やがて夜明けまでに1つを除いて全ての星が消え去り、我が師によって聖陽による朝が訪れるでしょう。その時、私は聖陽すら消し去ってみせます。

三歳研究員: [沈黙] すいません、1つだけ。あなたの知っている、イトスギの花言葉を教えてください。

SCP-1434-JP: [笑い] イトスギは、かのイエス・キリストの十字架に用いられたとされています。そのことから、死、という花言葉を持ちますわ。

<抜粋終了>

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