
SCP-1439-JP
アイテム番号: SCP-1439-JP
オブジェクトクラス: Uncontained1
特別収容プロトコル: SCP-1439-JPはローマ教皇庁に潜入した財団エージェントにより管理されます。SCP-1439-JPは各大聖堂の内側からセメントにより固定し、聖年を除く年における開放を禁じられます。
説明: SCP-1439-JPはバチカン市国に位置するサン・ピエトロ大聖堂の聖なる扉(Porta Santa)です。現在SCP-1439-JPはローマ教皇庁の権威の下に保護されており、財団による明示的かつ直接的な干渉は困難です。200█年現在、教会に潜入した█████ ███████枢機卿をはじめとするエージェントにより、財団は限定的な介入を可能としています。平常時においてSCP-1439-JPはカトリック教会の教義に従って封鎖されており、非活性状態にあります。SCP-1439-JPは西暦1400年以降約25年周期の聖年に合わせて教会により開放されます。現在財団は聖年の中止あるいは延期などによるSCP-1439-JPの制御を検討しています。
開放状態に置かれたSCP-1439-JPは低確率で活性化し、時空間ポータルとして機能します。活性状態のSCP-1439-JPからは未確認の人型実体(以下、SCP-1439-JP-A)が出現します。調査班が回収した記録映像から、SCP-1439-JP-Aの容姿は一般的な陸上脊椎動物のボディプランに類似しており、上下に開く吻部には複雑な構造の嘴が存在すること、全身が無毛であること、1対の後肢で体重を支持すること、胴部が後湾を示すことが確認されています。また、SCP-1439-JP-Aの右脚には金属製と見られる輪が装着されており、全身は背部を中心に聖痕と呼称される傷が無数に刻まれています。
SCP-1439-JP-Aは直接視認した人間(以下、対象)に自らを「神の使徒」と認識させます。この認識と対象の信仰する宗教およびその有無の関連は不明です。SCP-1439-JP-Aは中世ラテン語による対話を行います。SCP-1439-JP-Aとの直接的接触はカトリック教会により現職のローマ教皇にのみ認可されており、現時点で財団エージェントによる接触は成功していません。
対話を終えたローマ教皇は世界各地の各種機関と教会を通じて適宜接触し、対話内容を機密事項として伝達します。SCP-1439-JP-Aによる伝達事項は18, 19世紀頃までは迷信や疑似科学の流布を中心としていましたが、それ以降は兵器・医療技術などの開発や新たな学術理論といった人類の発展に寄与する内容に傾向しているように見受けられます。現時点で財団が把握している伝達事項としては以下のものが挙げられています。
- 天動説と整合的な宇宙図。
- 生物の系統発生を示唆しない階層構造図。
- H1N1亜型インフルエンザウイルス2の特効薬の製法。
- タブンとサリンに代表されるG剤3および未確認の神経ガスの工業的製法。
- 核分裂理論、およびウラン235分離の技術的手法。
- 未確認のSARS関連コロナウイルスに対するRNAワクチンの製法。
- 谷山-志村予想を用いないフェルマーの最終定理の証明。
SCP-1439-JPの設置時期に基づき、カトリック教会とSCP-1439-JP-Aの接触は15世紀頃には既に行われていたと推察されます。また過去の歴代教皇による記述において、聖痕や輪の位置をはじめとするバリエーションが複数存在するため、SCP-1439-JP-Aは複数個体の存在が示唆されています。ました。詳細は調査記録1を参照ください。
補遺: ███████枢機卿の根回しにより、四旬節の回心式(2015年2月18日)において教皇フランシスコは同年12月8月から2016年11月20日を慈しみの特別聖年に指定しました。同期間中に枢機卿によるSCP-1439-JPへの調査班派遣が実施される予定です。

SCP-1439-JP第一次調査時の写真
調査記録1: 第一次調査は2016年█月█日に実施されました。SCP-1439-JP内に派遣された調査班により、SCP-1439-JPの接続先は図書館に類似する施設(以下、SCP-1439-JP-B)であることが判明しました。SCP-1439-JP-Bには複数体のSCP-1439-JP-Aが確認されましたが、全個体が調査班の接近を察知して逃走したため、確保には成功していません。
SCP-1439-JP-Bに所蔵された書物は未確認の象形文字で叙述されており、現在言語学部門により文法構造を解析中です。掲載されている図画から推測される書物の内容は主に以下の通りです。
- 人類の数学記号とは合致しないものの、数式と思しき記述が多数見られる文書。物理法則などの解説書に該当するものと推測される。
- 天文学・宇宙工学に関する文書・書物。銀河系のやや内側からオリオン腕および太陽系に至る航路、ならびにその議論と思しき内容が叙述されている。
- 地球とその環境を論じた文書。多くはパンゲア大陸が描写されているが、その後の大陸移動を反映した図も掲載されている。
- 歴史書と推測される書物群。SCP-1439-JP-Aが何らかの抽象的物体に平伏し付き従う様子が描写された宗教史的内容の巻、何らかの敵対勢力との武力衝突が示唆される戦争史的内容の巻、マグマ噴出をはじめ壊滅的な環境下にある惑星からの脱出が描写される巻が確認されている。
SCP-1439-JP-Bの壁面にはSCP-1439-JPと同様の構造を示す扉がSCP-1439-JPを除いて72枚確認されました。それぞれの扉は基底世界と異なる時空間との接続が示唆されます。以下は確認された扉の一覧です。
番号 | 接続先 |
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SCP-1439-JP-1 | ギザの三大ピラミッドが確認される。ピラミッドは光を反射して白く輝いており、表面を被覆する石灰岩が失われていないことが示唆される。また現代よりも森林が発達しており、ピラミッド竣工から間もない時代と推測される。 |
SCP-1439-JP-2 | サバンナ気候が広がり、類人猿の群れが生息する。また現生のアフリカの哺乳類相の他にホモテリウム(Homotherium)と見られるサーベルタイガーが生息しており、新第三紀漸新世のアフリカ大陸と推測される。 |
SCP-1439-JP-3 | ティラノサウルス(Tyrannosaurus)、トリケラトプス(Triceratops)、エドモントサウルス(Edomontosaurus)などの恐竜が多く生息する。後期白亜紀マーストリヒチアン期のララミディア大陸と推測される。 |
SCP-1439-JP-4 | 大規模な火山活動の続く熱帯地域。莫大な火山噴出物により地表・大気が被覆されており、周囲の植生に現代と有意な差が見られないことから、トバ・カタストロフ理論で指摘されているトバ事変の最中にあると推測される。 |
SCP-1439-JP-5 | 雪原と針葉樹林が広がり、大型の肉食性2足歩行鳥類が原始的な集落を形成している。哺乳類は少数の小型翼手目を除いて確認されない。該当する生物群は地球史上に確認されておらず、年代未特定。 |
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SCP-1439-JP-70 | 強い酸性雨が示唆される、雨期のサバンナ気候が広がる。酸性環境に耐性を示す植物・菌類(地衣類含む)が豊富な土壌水分を利用して生息している。地形および降雨の性質から後期三畳紀カーニアン期と推測される。 |
SCP-1439-JP-71 | 玄武岩質マグマの噴出が広範囲に亘って断続的に発生している。大気中の低酸素濃度を加味し、ペルム紀末・チャンシンジアン期のシベリア付近と推測される。 |
SCP-1439-JP-72 | SCP-1439-JPおよびSCP-1439-JP-1~71と異なり、進入が不可能であった。 |
付記: 調査の結果、SCP-1439-JP-Aは銀河系内の太陽系外惑星に起源を持つヒューマノイドと推測されています。SCP-1439-JP-1~71が等しくペルム紀末以降の時代と接続することから、SCP-1439-JP-Aはペルム紀以前への時空遡行技術を持たないこと、あるいは地球史におけるペルム紀頃の生物が未来へ時空間を接続したことが予想されています。ただし、本稿執筆時点で両仮説のいずれもコンセンサスは得られていません。
歴史書の内容から、SCP-1439-JP-Aは大規模な宗教戦争の末に母星の表層環境を壊滅させ、存続した宗派が外宇宙への脱出と地球への入植を計画していると推測されます。SCP-1439-JPおよびSCP-1439-JP-1~72は入植に最適な年代を取捨選択するための視察手段と考えられています。ただし、高度な時空間工学技術を有する彼らが惑星改造など強硬手段の採択に至っていない理由に関しては統一的な見解がなく、警戒の強化と共にさらなる調査が必要とされています。
調査記録2: 第二次調査は2016年█月██日に実施されました。SCP-1439-JP-1~72には特筆すべき変化はありませんでしたが、SCP-1439-JP-Bの床には複数のSCP-1439-JP-Aの遺骸が放置されていました。遺骸はいずれも内臓が乱雑に除去されており、全身に何らかの中毒症状が確認されました。またSCP-1439-JP-Bの床上にはSCP-1439-JP-72に繋がるように未知の粘液が残されており、SCP-1439-JP-Aの遺骸と共に粘液サンプルが回収されました。
回収されたSCP-1439-JP-Aの解剖の結果、解剖学的特徴は地球の陸上脊椎動物と完全に一致することが確認されました。特に骨盤付近まで存在する肋骨や頭骨の側頭窓4の数に基づいてSCP-1439-JP-Aは非哺乳類型単弓類に同定され、大型かつ弓状の側頭窓や犬歯の発達などの形態形質から後期ペルム紀のディキノドン類に近縁であることが判明しました。直立二足歩行とそれに伴う変化など既知の種と合致しない形質は数多く見られますが、約3億年におよぶ偶発性の蓄積たる脊索動物の進化と一致する異星進化は存在しえないとする古生物学部門の見解により、SCP-1439-JP-Aの非地球起源説は棄却されました。時空間監視の目的としては、環境変動に合わせて地球を去ったSCP-1439-JP-Aが故郷たる地球を視察している可能性が考えられています。
なお、SCP-1439-JP-Aの直接の死因は塩化水素・シアン化水素の混合ガスの吸引と判断されました。また、SCP-1439-JP-Bの床から採取された粘液は未確認の糖タンパク質を主成分とすることが判明しました。当該の糖タンパク質はL体アミノ酸ではなく鏡像異性体であるD体アミノ酸から構成されており、前者で構成される地球生物由来の物質から逸脱することが示唆されています。