被検者: D-1856
支給された装備: 標準探索装備、2L(水)のペットボトル2本、携帯食料。
付記: D-1856は[削除済]年の自宅放火事件で逮捕されており、被虐待歴があります。耐恐怖指数は82です。
[録音開始]
D-1856: 侵入したぞ。
ラン博士: オーケー、D-1856。まわりに何か見えるか?
D-1856: いいや、なにも。というか真っ暗で足元すらぼやけて見えるぜ。前方には、通路の出口なのかな、小さい光が見える。小指ぐらいの大きさしかないけどな。
ラン博士: 前方の光は待機している奴らが出口側から内部を照射している光だろう。では奥へ進んでくれ。何か異変があれば報告するように。壁に落書きがあるとか、それ位のことでも構わないよ。気晴らしぐらいには付き合おう。
D-1856: ありがたいね。不気味だし、俺もあんまり長居したくない場所だ。さっさと通り抜けるよ。
[省略]
D-1856: うぉっ、なんだこれ。
ラン博士: どうした。D-1856。
D-1856: 地面が真っ赤だ。薄暗くて気が付かなかったな。多分歩き始めは普通だったような気がするんだが。
ラン博士: 赤……、血か?
D-1856: いいや、違うな……。[D-1856がしゃがみ込む音] クレヨンで塗りつぶしたみたいな……、いいや、口紅か?
ラン博士: 口紅?
D-1856: わかんねぇ、真っ暗なんだよ。でもなんかの匂いがする……。[D-1856の舌打ちの音が入る]気にしてもしょうがなさそうだ。進むぞ。
ラン博士: そうか、またなにか気が付いたら報告してくれ。
D-1856: あぁ、なんかあったらな。今は気分が悪いから黙りたいが。
[省略]
ラン博士: D-1856、目視では出口までどれぐらいのところに来た?
D-1856: 大して変わらねぇな。小指ぐらいの出口が親指ぐらいになったぐらいだよ。ここ、ホントに出られんのかよ。
ラン博士: 入り口があるのだから出口もきっとあるだろうさ。
D-1856: そうだと良いけどな。
[所持している計器からD-1856の心拍数の上昇が確認される。]
ラン博士: D-1856、なにかあったか?
D-1856: いいや、何もないな。……いや、後ろから足音が聞こえる……ハイヒール?
ラン博士: 後ろから?何か見えるのか?こちらは何も聞こえないぞ。
D-1856: いいや、音だけだよ。でも確かに後ろから来てる。気味が悪いな。
ラン博士: 何か音に変わりがあれば教えてくれ、些細なことで構わない。
D-1856: 分かった。気持ち悪いから少し急ぐからな。
[心拍数の上昇が再び確認される。]
D-1856: こっちが足を速めると向こうもついてくるみてぇだ。クソ、音がでかくなってきてやがる。
ラン博士: こちらでも音を確認した。なるほど、ハイヒールか何かだな。
D-1856: 分析どうも、マイクから陽気な音楽でも流してくれないか。不安でしょうがないんだよ。
ラン博士: 生憎、持ち合わせがないな。
[心拍数の上昇が確認される。]
D-1856: 頼むよ、恐ろしくて仕方がねぇ。足音がさっきより近いんだよ。
ラン博士: こちらでも音が大きくなったのを確認している。
D-1856: そういう問題じゃねぇよ!なんかが確かに来てんだよ。頼むよ。音楽でなくともなんでもいい。
[心拍数の上昇が確認される。]
D-1856: ああ、また近づいて来てる。もう耳元で鳴ってるみたいだ。助けてくれ。走らないと、もっとはやく。
ラン博士: D-1856、落ち着くんだ。
D-1856: 近い、近い、近い。後ろまで来てる。追いつかれちまう。肺がいてぇ。脚がもつれる。
[録音されている足音がD-1856の音声をかき消すほどにまで大きくなる。]
ラン博士: D-185……。
[心拍数の上昇が確認される。]
D-1856: [悲鳴]
[急激に心拍数が上昇し、計器が心肺活動が停止したことを示す。録音された鈍い音はD-1586が倒れた音だと思われる。]
ラン博士: D-1856。応答を。
[D-1856は応答しない。先ほどまで確認されていた足音は遠ざかっていき、2分35秒後に消失した。]
[録音終了]