アイテム番号: SCP-1476-JP
オブジェクトクラス: Safe
特別収容プロトコル: SCP-1476-JPはサイト-8181内の低脅威度物品ロッカーに収容してください。インターネットを24時間監視し、SCP-1476-JPに関連する記述が発見され次第、送信場所を特定の上SCP-1476-JPの回収を行ってください。
説明: SCP-1476-JPは、プラスチック製のシュノーケリングゴーグルです。SCP-1476-JPは、後述する異常性を除き、一般的なゴーグルと異なる点はありません。
SCP-1476-JPは、ゴーグルを着用した人物(以下、着用者)が水中に全身を潜らせた際に異常性を発現させます。着用者は水中に全身を潜らせて10秒後に、所在地不明の海(以下、SCP-1476-JP-A)に瞬間移動します。この時、SCP-1476-JP-Aのポータルとなりうるのは、1317サイズのユニットバス1よりも小さな浴槽に限られています。海の中で着用者は自由に行動することが可能です。また、SCP-1476-JP-A内では水圧が比較的低くなっていることから、海中で耳抜きを行わずとも泳ぐことが可能です。
海中から元の場所へ戻る方法は、海面に体の一部を出すことのみと判明しています。着用者がSCP-1476-JP-A内でSCP-1476-JPを外したとしても元のポータルに戻ることはできませんが、SCP-1476-JPを外した状態であっても先述の方法で戻ることが可能です。SCP-1476-JP-A内に滞在できる時間に限度はないとみられています。ただし、SCP-1476-JP-A内で経過した時間にかかわらず、SCP-1476-JPを着用してポータルに潜ってから元の場所へ出てくるまでに経過する時間は常に10分です。
SCP-1476-JP-A内は生物が存在していません。財団の調査の結果、SCP-1476-JP-Aは水面、底面を除く四方が透明な障壁で囲まれており、その領域は100m×100mであることが判明しています。また、障壁の向こう側はSCP-1476-JP-Aと同様、海が続いているように見えるため、この障壁を目視で区別することはできません。
SCP-1476-JP-A内は比較的暗く、視程は約30cmとなっています。また、SCP-1476-JP-A内は周囲にランドマークとなるものが存在しません。このため、着用者は空間識失調2を発生させ、上下左右の判別がつかない状態に陥ります。加えて、着用者はSCP-1476-JP-A内に移動した際、水面からの深さ約50mの地点に、頭を水底、足を水面に向けた状態で出現します。以上のことから、着用者は事前の説明および適切な装備がなければ水面まで自力で上がることができず、水死する結果となります。水死をした着用者は一旦水底に沈みますが、死後体内で発生する腐敗ガスの影響で浮上します。結果として、着用者は水面まで浮上し元のポータルへと戻ります。
発見経緯: SCP-1476-JPは山形県中山町のY氏宅の浴室で初めて発見されました。発見当日、Y氏から「息子の様子を見に行ったら腐敗死体があった」と通報を受け、財団職員が現場に急行しました。到着時浴槽には、SCP-1476-JPを着用した遺体が背中を水面に向けた状態で浮かんでいました。遺体は腐敗ガスの影響で身体が膨張し容貌が大きく変わっていたため身元の特定が非常に困難でしたが、検査の結果Y氏の息子であることが判明しています。
事件当日、Y氏は遺体が発見される約15分前までY氏の息子と浴室に入っていましたが、Y氏の息子は水に潜る練習をするために浴室に残っていたと証言しています。当該事案は事故として処理され、Y氏は記憶処理の上、通常の生活に復帰させています。
補遺1: SCP-1476-JP-A内に小型潜水機を持ち込み海底の調査が行われました。調査の結果、水深60mの地点に、約2500m2の地表面を確認しました。地表面は砂地となっており、小型の建造物、ビーチサンダル3およびパラソルの存在が確認されました。これらのアイテムは一般的な海水浴場に見られるものと似ており、地表面で時間を過ごすためのものであると推測されています。建造物内は1室を除き、完全に海水で満たされています。以下は、建造物内で確認されたポスターです。
夏休み…海で泳ぎたいけどパパやママがいそがしくて連れて行ってもらえない…
そんなきみたちのために作ったのが、このゴーグル!!使い方はこのゴーグルをかけてお風呂にもぐるだけ。するときみたちは南の島の上空に出るよ!上空から島に向かって空を泳いでいこう!!
もどりたくなったら強くジャンプだ!!来たときより高いところまで飛べるよ!空から島を見ながら元の場所へ帰ろう!!
プールや川みたいな広い所で使ってもふつうのゴーグルだから注意してね!!ゴーグルを着けてみんなも南の島で遊ぼう!!
建造物の地下1階部分には重力調整装置が存在しており、これを使用して人間が浮遊できる状態を作り出していたとみられています。ただし発見当時、重力調整装置は誤作動を起こしており、標準設定よりも重力が大幅に弱く、適用範囲も広範になっていました。この重力の低下によって、SCP-1476-JP-A内の海水面が大幅に上昇し、現在の状態になったとみられています。
地下2階には空気圧によって扉の開かない部屋が1室確認されています。レーダーによる簡易調査の結果、室内に成人男性の遺体が存在していることが確認されました。遺体には両手握りこぶしからの出血の他、多数の傷が確認されています。ただし、これらの傷が死因ではなく、酸素不足による窒息死あるいはショック死が直接の死因であることがわかっています。
補遺2: SCP-1476-JPの制作者が██氏であることが判明しました。██氏はAnomalousアイテム4を制作し頒布している人物として、SCP-1476-JP発見の8ヶ月前に財団によって確保、拘束されていました。以下は、██氏に行われたインタビュー内容です。
対象: ██氏
インタビュアー: エージェント・千堂
<録音開始>
エージェント・千堂: 今回はこちらについていくつかお伺いさせていただきます。
██氏: あーこれね。凄いでしょ、これ。
エージェント・千堂: それはどのような意味で仰ってますか?
██氏: 言葉通りだよ。凄いものを作ったでしょ、俺。
エージェント・千堂: 少なくともこれを堂々と自慢するあなたの意図が、私には分かりかねます。
██氏: なんだよ、自分たちの思う正しさから外れてるものは、何が何でも駄目というのかい、財団さんはよ。
エージェント・千堂: これでお子さんが何人も亡くなっているのですよ。その中で…
██氏: ちょっと待てどういうことだ。これは安全を考慮して作ったはずだ。そんなことはありえない。
エージェント・千堂: あなたと私との間で認識の齟齬がありそうですね。どのような意図でこちらを作成されたのか教えてください。
██氏: 分かった。あんたは子供の頃海を見たことあるか。
エージェント・千堂: ええ。
██氏: そうか、俺はなかったんだ。うちは金も無かったし両親は常に忙しくて俺を海に連れていく余裕など無かった。別にその事で親を恨む気は毛頭ない。ただ、友人たちが海の話をしているところに一度も交ざれなかったし、夏の間ずっと家に居なければならなかったのはつらかった。今のご時世、俺みたいな子供は少なくなっただろうが、まだまだ沢山いると俺は思っている。だから俺は誰でも手軽に海に行ける便利グッズとしてこれを作った。
[数秒目をつぶる]
██氏: 危険な生物のいないところを見つけて海水浴場を作った。イメージは南の島の無人島。出入り口は海水浴場の上空に設置した。上空から宇宙遊泳のようにゆっくり海水浴場に到達することができるように重力を調整してな。そんで、帰りは強くジャンプすれば宙に浮いて出口までゆっくりと上がっていける。海も空も泳げる場所というわけだ。なんか、そういうの楽しそうで良いだろ?
エージェント・千堂: あくまで善意で作ったと言うことですか。
██氏: ああ。実際、これを使った子たちから感謝されることも多かった。安全を考えて行き帰りでぶつからないよう、出口と入口の高さは変えておいた。重力を調整して水圧を低めにして耳抜きしなくても良いようにした。やれるだけの対策はやったつもりだ。なあ子供たちは何が原因で死んだんだ……
[担当に確認を取る。SCP-1476-JP-A内の状況を伝える許可が出る]
エージェント・千堂: 現在、ゴーグルを使用すると水深50mほどの位置に出現します。あなたの仰る出口は水面になっています。水面まで50mもあるため大抵の方は……
██氏: ありえない……そもそもあそこには俺が捕まっても大丈夫なように、俺とは別の奴を常駐させている。毎日とまでは行かないが点検もしてもらっている。あいつは信頼できる奴だ、そんなことが起きるはずが。
[██氏が頭を抱える]
██氏: なあ、あの海に行かせてくれないか。自分の手で何とかしたい。変なアイテムを作ってたのも何か便利なものを作りたかっただけだし、このゴーグルも何か特別なことをしたかったわけではなかったんだ。俺はただみんなに海を、海を見せたかっただけなんだよ……
<記録終了>
追記: ██氏の申し出は棄却されています。また、██氏のインタビューの後、██氏の証言と販売リストを元にSCP-1476-JP全██点の回収が完了しています。