SCP-1490-JP
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アイテム番号: SCP-1490-JP

オブジェクトクラス: Safe

特別収容プロトコル: これまで発見されたSCP-1490-JPは緩衝材を詰めた容器内に保管されます。財団によって確保されていないSCP-1490-JPを考慮して、以下の手法により全国的への調査を行います。

  • カバーストーリー「発がん性物質」に基づくSCP-1490-JPが封入されたデザイン、またはそれに酷似した瓶によって売り出された香水の回収
  • 全国で発生している行方不明者の最終発見地周辺におけるSCP-1490-JPの芳香の確認

説明: SCP-1490-JPは香水です。発見当時には容量約80mlの球状の瓶に封入されており、貼り付けられたラベルには鎖に絡め取られた櫛のイラストと「愛だけでは足らぬ者達の為に」と英語により記載されています。成分分析において異常な物質は確認されていません。匂いに関しては「仄かな金属臭と花が混ざった様な」と形容される風味を有します。
一定量以上のSCP-1490-JPを吸入した人間(以下、SCP-1490-JP-Aと記載)は即座に昏倒、深い睡眠状態に移行します。効果が持続するのは平均して4時間弱であり、外部からの刺激によって覚醒させる実験は全て失敗に終わっています。覚醒したSCP-1490-JP-Aは「夢の中で海外の路上を自由に歩いた」と全員が一様に話し、これまでに行ったインタビューにおいて、SCP-1490-JP-Aが見た夢は以下の共通点を含みます。

  • 気が付くと貧民街の路上に立っていた。周辺への干渉は不可能だが、歩行による自由な行動が可能である。生理的現象は一切感じない。
  • 貧民街の間取り・住民は全て共通している。民家に飾られているカレンダーの日付は1901年12月を示している。
  • 住民はSCP-1490-JP-Aからの呼びかけに反応せず、身体に触れようとした手は全てすり抜けた。
  • 民家内のカレンダーから2~30日に渡る時間が夢の中で瞬間的・不規則に経過する。
  • 複数回SCP-1490-JPを用いたSCP-1490-JP-Aは内部での時間経過を引き継ぐ。季節の変化等に合わせて住民達の会話内容も変化するが、SCP-1490-JP-Aは温度の変化を感じない。

SCP-1490-JPを吸入したSCP-1490-JP-Aは、昏睡中に同質量の無色透明の液体に変化する場合があります。匂いは希釈したSCP-1490-JPと酷似したものであり、液体を吸入してもSCP-1490-JPと同様の効果は確認されません。
追記:インタビュー記録-02に基づく追加実験から、希釈されたSCP-1490-JPに変化する事が確認されました。

SCP-1490-JPは2001年11月6日、神奈川県内の倉庫において「倉庫内で見付けた古びた香水を試しに使った作業員が倒れた」旨の通報を受けた事から救急隊員に変装した回収部隊により被害を受けた対象を確保に向かった結果、被害を受けた対象が昏倒する際複数個の瓶を巻き込んで割っていた為倉庫内に侵入したエージェント5名が昏倒、防毒用設備を装着した追加の部隊が派遣された上で回収・影響を受けた対象の確保が行われました。
当時通報を行った作業員は慢性的な鼻づまりに悩まされており、結果的にSCP-1490-JPの吸入を阻害したものと予想されています。

<SCP-1490-JP関連記録-01>

日付: 2001年11月6日

対象: 調査任務に赴いた際SCP-1490-JPの影響を受けたエージェント6名。回収後のインタビューの総括。

概要: エージェント達は香水の匂いを嗅いだ途端に緩やかに高所から落下するかの様な感覚を数秒間味わった後、1900年代初期のアメリカの貧民街に放り出されたと証言。2名は影響を受ける事を防ぐ為にその場から一切行動せず、4名は通信機器が作動しない事を確認後空間内部の調査を開始した。街の外への移動は不可視の圧力の様な感覚によって不可能であり、夢の中において以下の物品・人物に対して、視認したエージェント全員が「強い興味を抱いた」と回答している。

  • 住宅街内部のアパートにおいて「Mr.James Dillingham young」と名刺が郵便受けに貼り付けられた家に住む夫婦と思わしき男女の人型実体2名。関係性は極めて良好であるが、生活は当時と比較して貧しい状態にある
  • 同アパートから2ブロック離れた質屋のショーケース内に飾られた金製の懐中時計
  • アパートの最寄りに店を構える毛髪を取り扱う商人。「極めて美しい」と称される金色の毛髪の手入れを頻繁に行っている

体感時間において約30分が経過した後、街中の季節が急激に変化する。民家内に飾られたカレンダーから、凡そ100日の時間が経過したと思われる。女性の人型実体は近くの食事店で働き始める。店内の会話から「主人の大事なものを買い直す為」と最後まで昏倒が続いたエージェント1名が言葉を聞いた。
追記: 後に同条件下でDクラス職員にSCP-1490-JPを吸入させた結果、概要と同様の夢を見たと全員が証言。

<SCP-1490-JP実験記録-01>

日付: 2001年11月9日

対象: D-1490-JP-1。SCP-1490-JPを吸入させた後、夢の中での行動を答えさせる。

概要: D-1490-JP-1は覚醒せず、SCP-1490-JP吸入から約12時間後にSCP-1490-JPと同様の芳香を有する無色透明な液体に変化。

<SCP-1490-JP実験記録-02>

日付: 2001年11月10日

対象: 調査任務に参加していたエージェント6名。全員が本人の志願により実験に参加している。

概要: エージェント達は第1回インタビュー記録と同様の手順を踏まえて街へと放り出されたと証言。季節は春から秋、体感時間において約1時間の間に推定200日の時間が経過している。強い興味を抱いた物品は変わる事は無く、女性の人型実体は継続して食事店で働き続けているが、両目の下には隈が浮かんでいるのを確認している。懐中時計は店頭に置かれているだけでなく時折店主によって磨き上げられ、金色の毛髪も手入れを続けていると誰もが証言した。今情報を元に夢の中の世界はオー・ヘンリー作の短編小説「賢者の送り物」に準拠すると仮説が立てられている。

追記: 参加したエージェントの内2名が覚醒せず、SCP-1490-JP吸入から約4時間後SCP-1490-JPと同様の芳香を有する無色透明の液体に変化。覚醒したエージェント4名の心理的動揺が殆ど確認出来なかったのは留意するべきと思われる。

<SCP-1490-JP実験記録-03>

日付: 2001年11月12日

対象: 調査任務に赴いた際SCP-1490-JPの影響を受けたエージェント4名。全員が本人の志願により実験に参加している。

概要: エージェント達は第1回インタビュー記録と同様の手順を踏まえて街へと放り出されたと証言。季節は体感時間において約8年の時間が経過している。女性の人型実体は働き続けているが、金時計を購入するだけの貯金は手に入っていない。髪はロングヘアと呼称するには十分な長さを得ているが、日頃の仕事によるものか状態は極めて悪化している。

追記: 参加したエージェントの内3名が覚醒せず、SCP-1490-JP吸入から約2時間後SCP-1490-JPと同様の芳香を有する無色透明な液体に変化。

<SCP-1490-JPインタビュー記録-02>

日付: 2001年11月15日

対象: エージェント・二村。調査任務に赴いた際SCP-1490-JPの影響を受けたエージェント。11月14日に保管エリアより持ち出したSCP-1490-JPを吸入している。

インタビュアー: 栗尾博士

<記録開始>

栗尾博士: 此処に呼ばれた理由はお分かりですね。無断でSCP-1490-JPを吸入して…今度は何を見たのですか?

エージェント・二村: 何を見たのかって…記録の通りです。「賢者の贈り物」のその後の街の中でした。

栗尾博士: 実験記録と比較して、どんな変化があったのかを…(表情を歪める)教えて頂けますか?

エージェント・二村: ただ時間が経過していました。民家の窓から見えるカレンダーからするに、ざっと80年くらいの時間が流れていました。ほんの半日くらいしか過ごしていなかったのに…

栗尾博士: 80年ですか。その間…明確な変化は何かありましたか?

エージェント・二村: 何もありませんでしたよ。

栗尾博士: 何も無かったんですか。

エージェント・二村: 何も変化はありませんでした。彼女はしわくちゃのお婆さんになっても働き続けていました。髪は伸ばし続けていましたが、ぼさぼさで美しさは少しもありませんでした。

エージェント・二村: 彼女は夜遅くまで働いて、家に戻ってからは食事の準備を行います。旦那となる彼の帰りは更に遅いです。旦那はお爺さんになっています。時計は質屋で常に美しく、店に売られた髪もまた欠かさない手入れで美しく…それだけです。ええ、それだけなんです。

栗尾博士: ならば、どうして貴方以外のエージェントとDクラス職員が液体に変化したのでしょうか…?

エージェント・二村: 分かったからだと思います。途中で人と話してました。俺も話しました。

栗尾博士: 夢の中で貴方と…貴方達と接触した存在が居たのですか。

エージェント・二村: ええ、話しました。ずっと悔いていました。子供の頃に物語を読んで…ええ、結局何も知らなかったんです。結局あの夫婦は、綺麗な髪と上等な時計を売り払ってしまっただけで…櫛も金の鎖も、全てが無意味になってしまったんですからね。

エージェント・二村: 何かを得ようとしたんでしょう。何かを得させようとして…物語を付け加えてしまったんです。最高の贈り物を渡した後の物語を続けてしまいました。それがあの香水なんです。出られなくても、彼はもう出られないそうです。

栗尾博士: (インタビューの中止を提案する。却下される)

エージェント・二村: 我々はただ見るばかりではなかったのです。強いて言えばSCP-1490-JPの中へ、一方的な干渉が可能だった…可能だったんです。しかし…だからこそどうする事も出来なかった。

栗尾博士: (インタビューの中止を続けて提案する。却下される)

エージェント・二村: 物語は美しいままでなければならなかった。たまたま訪れた者達の気まぐれによって、あの生活に不必要な恵みを与えるべきじゃなかったと、誰もが分かっていたから。

栗尾博士: (エージェント・二村の身体からSCP-1490-JPに酷似した匂いが放たれている事を理由にインタビューの中止を提案する)

エージェント・二村: 結局何もする必要も何も無かった。彼女達はただ素晴らしい物を得ていたので……

(エージェント・二村の身体がSCP-1490-JPと同様の香りを有する無色透明の液体に変化)

<記録終了>

追加情報: エージェント・二村が変化した液体の総量はエージェント・二村の体重と完全に一致しており、液体を煮詰める事でSCP-1490-JPと同様の異常性が発生する事が確認。これにより液体をSCP-1490-JPに加工、香水として出荷していた人物の存在が示唆されています。以下はラベルの裏側に記載されていた英文の和訳です。

しかし、何も与える必要が無いと分かったのならば、あなたに出来ることは何も無いのです。-Andersen

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