SCP-1505-JP
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SCP-1505-JP

アイテム番号: SCP-1505-JP

オブジェクトクラス: Euclid

特別収容プロトコル: SCP-1505-JPはサイト-8163のクラスII耐熱チャンバーに収容されます。チャンバー内の気温は常に摂氏-30度に保ち、SCP-1505-JPの冬眠状態を可能な限り維持してください。冬眠から覚醒して以降は、マタタビの実を1日当たり30g、朝昼晩の3回に分けて与えてください。SCP-1505-JPの体温は常に監視し、発火に備えてください。

チャンバーから半径2km以内に霊安室を設け、死後7日以内の遺体を常に10体以上配置します。遺体の不足が予期される場合、近隣の別サイトより遺体を搬入してください。

近隣地域の███運輸配送拠点に常時2人以上の担当エージェントを潜伏させ、SCP-1505-JP-Aの出現に対応させてください。現在の収容体制下において、SCP-1505-JP-Aの届け先はサイト-8163カバー施設の住所である“京都府京都市東山区粟田口華頂町3”となります。同住所へ配送される荷物を重点的に監視してください。

SCP-1505-JP-Bは、調査研究に必要なもののみを長期生物学的保管ユニットに収容し、残りは焼却してください。

説明: SCP-1505-JPは黒い毛並みを持つ雌のイエネコ(Felis silvestris catus)です。SCP-1505-JPは自身の体温を上昇させる能力を有します。温度変化に対する適応力が高く、摂氏1000度以上の高温に曝されても問題なく生存します。ただし体温を低下させる能力は有しておらず、SCP-1505-JPを強制的に冷却する試みも成功していません。

体温が摂氏1600度を超えると、SCP-1505-JPは自然発火して焼死します。SCP-1505-JPの死骸は燃焼と並行して消失し、骨組織や灰の残留は認められません。

SCP-1505-JP焼死後、███運輸株式会社の運営する宅配便配送拠点に、依頼者不明の複数の荷物が出現します。これらの荷物をSCP-1505-JP-Aと総称します。SCP-1505-JP-Aはいわゆる“クール便”であり、宅配便事業の通常のサービス内容に従って冷凍保存下で配送されます。送料は着払い、外装は███運輸が包装資材として販売しているものと同一の段ボール箱であり、届け先として指定されている住所はSCP-1505-JPが飼育されている建造物の所在地です。

一度に出現する複数のSCP-1505-JP-Aのうち、1個には冬眠状態のSCP-1505-JPが、残りの全てには分割されたヒトの遺体が入っています。このヒト遺体をSCP-1505-JP-Bと指定します。SCP-1505-JP-Bは、宅配便事業において取扱可能な重量に収まる複数の切片に分割されています。分割のために切断されていることを除けば、目立った損傷や腐敗は見受けられません。

SCP-1505-JP-Bの身体的特徴や遺伝情報は、SCP-1505-JP焼死の直前7日間以内に死亡した特定の人物(以下、対象という)と一致します。SCP-1505-JP-B出現と同時に対象の遺体ないし遺骨、遺灰が必ず行方不明となることから、SCP-1505-JP-Bは対象の遺体が転移したものと見られますが、対象の遺体が死後に被った損傷は全て回復しています。

SCP-1505-JP-B出現に際しては、SCP-1505-JP焼死地点との距離が近い遺体ほど対象に選ばれやすい傾向にあります。SCP-1505-JP-Bが再度対象に選ばれることはありません。

発見経緯: ████/01/16、京都市内の███運輸配送拠点に出現したSCP-1505-JP-Aを同拠点の従業員が不審に感じ、京都府警に通報しました。SCP-1505-JP-Aは依頼人不明に加え届け先とも連絡が付かず、配送拠点に一時保管されていました。当該配送拠点では通報以前にも別のSCP-1505-JP-Aと思しき同様の荷物を複数回取り扱っていましたが、それらは届け先の住人によって問題なく受け取られていました。

通報を受けた警察官がSCP-1505-JPおよびSCP-1505-JP-Bを発見したことから京都府警の捜査が開始され、届け先である京都市北区の住宅へ家宅捜索が行われました。当該住宅内からはSCP-1505-JP-Bと思しき14人分の遺体が発見されましたが、大半が腐爛し個人の特定は困難な状態でした。

一方、SCP-1505-JPは、通常のイエネコなら凍死するはずの低温環境から生存状態で発見されたという特異性から財団の注目を集めました。最初の通報の3日後にSCP-1505-JPは確保されたものの、同日夜間に焼死しました。この焼死と再度のSCP-1505-JP-A出現を経て異常性の特定が進み、初期収容体制が確立しました。

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生前の森石氏

補遺1 最初に発見されたSCP-1505-JP-Bは、森石渉という名の日本人男性と特定されました。森石氏は、当該住宅を所有者より借り受けて居住していた人物です。

森石氏は過去に、近畿地方で活動していた窃盗団“火車”の一員として活動していたことが判明しています。“火車”は墓地の副葬品を狙った犯行を繰り返していた窃盗団で、森石氏にも墳墓発掘罪での逮捕歴がありました。遺体発見の約2年前、“火車”は構成員の一斉逮捕によって壊滅状態と化し、その後は組織立った活動は確認されていません。“火車”壊滅からSCP-1505-JP-B発見までの森石氏に関する情報は乏しく、SCP-1505-JPとの接点も含め、詳細な情報は調査中です。

補遺2: SCP-1505-JP発見の2日前に当たる████/01/14の早朝、京都市北区船岡山公園にて「人が燃えている」との通報が京都市消防局に寄せられていました。通報現場には焼け焦げた衣類のみが残っており、超常現象を疑われる事案として財団の監視対象となっていました。

後に、通報者の目撃した「燃えていた人物」の特徴が森石氏と一致すること、SCP-1505-JPに類似した黒いイエネコも同時に目撃されていたことが判明しました。現在、当事案はSCP-1505-JPが森石氏を巻き込んで焼死した後、森石氏の遺体がSCP-1505-JP-B化して転移したものと考えられています。

補遺3: 生前の森石氏と面識のある人物に対するインタビューが実施されました。以下はその内容です。

インタビュー記録

対象: 塩津達郎

インタビュアー: 伏屋研究員

補足: 塩津氏はかつて窃盗団“火車”の一員として活動していた人物であり、同組織における森石氏の先輩に当たります。現在は窃盗罪で実刑判決を受け服役中です。インタビューは森石氏に関する警察の捜査を装い、刑務所内の面会室で行われました。


[記録開始]

伏屋: さて、本日伺ったのは他でもない、森石渉という人物について教えていただきたいのです。御存知ですね?

塩津: 渉……何かやらかしたのか?

伏屋: 何か心当たりが?

塩津: ……いや、別に。

伏屋: 森石とあなたは2年前まで窃盗団“火車”のメンバーだった。森石が逮捕された際も、あなたは一緒に逮捕されていますね。2人とも不起訴だったそうですが。

塩津: そこまで知っているなら、もう俺の話すことはないよ。

伏屋: 森石さんは、何か動物を飼っていませんでしたか。

塩津: はあ?

伏屋: 動物です。犬とか猫とか。

塩津: 動物ねえ……ああ、そうだった。飼っていると思う。

伏屋: と思う、とは?

塩津: あいつは確かに猫を飼っていた。黒い猫だ。だが一回しか見たことはない。あいつがいなくなった日の昼間に、一度だけ見た。

伏屋: いなくなった?

塩津: 2年前だ。あいつが突然黒猫を連れてきた。なんだそいつはと訊いたら、買ってきたと言いやがる。その頃はちょうど実入りが良かったから、少々高い買い物をしても不思議じゃなかったが……まさか猫とは。驚いたよ。

伏屋: どこで買ったのですか。

塩津: どうだか。猫の買い方なんて考えたこともない。それに、そんなことを考える間もなかったんだ。次の朝にはあいつの姿はどこにもなかった。黒猫もろとも。どこに消えたのやら見当もつかない。あんた、知ってるのか。

伏屋: 彼は、亡くなりました。

塩津: なんだと?

伏屋: 死亡しました。自殺です。

塩津: そうか……だから止めたのに。

伏屋: 止めた? 森石が何か企んでいたのですか?

塩津: 企みなんて、そんな大仰なものじゃないさ。

伏屋: 詳しく伺っても?

塩津: 判った……話すよ。知っているだろうが、俺たちは墓場専門の盗人だ。身寄りも仕事もないような連中が自然と協力し合うようになって、いつの間にか窃盗団なんて呼ばれるようになった。“火車”……墓から死体を盗む妖怪の名前だが、俺達が狙うのは死体じゃなくて副葬品だ。骨壷と一緒に埋められた、遺品の宝石や高級時計……そういうものを盗んで売って、そうして生きている。

伏屋: 森石と会ったのは?

塩津: 4年くらい前だ。それより前のことは、聞いたことがない。多分、普通の堅気だったんじゃないか? 会ってすぐの頃は、まだ盗みに対する抵抗感みたいなものが残っていた。すぐに手慣れてきたが……自分の境遇に納得していない様子だった。

伏屋: それで、組織を去ろうとしていた?

塩津: あいつは俺の弟分みたいなものだった。時々相談されることがあったんだ。ここを抜けてもっと良い生業を探したいと。そのたびに俺はあいつを止めた。高望みはやめておけってな。

伏屋: 高望み、ですか。

塩津: 世の中には物好きな人間が大勢いてな。例えば、高い金を払ってでも人間の死体を欲しがる連中がいる。京都の、なんとかクラブとかいう成金共だ。渉はそいつらとの取引を構想していた。

伏屋: そんなことを……しかし、死体なんてどこから?

塩津: 奈良の山の中には今も土葬の文化が残っている。葬儀屋や火葬場と共謀する手もある。手段は色々だ……理屈の上ではな。思いついただけで実現できるなら、俺だってそうしている。

伏屋: つまり無理だと?

塩津: まず無理だ。お前も警官なら判るだろう? 死体を盗むなんて大それたことを繰り返せばすぐ足がつく。俺だって昔はそんな一攫千金を夢見たこともあった。だがな、分不相応な夢は夢でしかない。俺は結局、ただの墓泥棒でしかないんだ。墓の中の遺体すら宝石や時計で飾られているのに、俺には何もない。財産もない。家族もいない。死んだら入る墓もない。俺はきっと、死ぬまでずっと、他人の墓からしか、何かを得ることができない。

伏屋: しかし森石は……。

塩津: 同じだよ。あいつも同じだ。全てを失った、何も持っていない人間だった。なのに、そのことを認めたがらなかった。何かを得ようとしていた。腐った死体じゃない何かを。俺はあいつが……。

伏屋: 羨ましかった?

塩津: まさか! そんなわけがない。哀れだった……いや、気の毒だったんだ。身の丈に合わないあいつの高望みが。余計な希望は身を滅ぼすだけだ。俺は忠告した。どうせ俺たちは何も得られないんだ、死体を掘って暮らすのが俺たちにはお似合いなんだって。だけどあいつは耳を貸さなかった。そしてあいつは、黒猫を連れてきた。

伏屋: 失礼ですが、黒猫と森石の構想と、どんな関係が?

塩津: 知らん。だが猫を手に入れて、あいつは覚悟を決めたらしい。あいつは俺にだけ言った。明日からはこいつと一緒に頑張っていく、と。

伏屋: それが脱退の決意表明だったと?

塩津: そう思う。あいつは猫を撫でさせてくれた。あんなに温かい生き物に触ったのはいつ以来だったか……それで、あいつはもう決めてしまったんだと思った。……退路を断ったんだ。

伏屋: どういう意味ですか?

塩津: だから、その猫はつまり、あいつの……家族になったんだよ。

伏屋: はあ……要するに、猫を飼い続けるには安定した暮らしを得るしかない、と?

塩津: そういうことだ。翌朝にはあいつは消えていた。今頃どこかで野垂れ死んだか、ひょっとしたら本当に成功しやがったのかと思っていたが……自殺か。得られなかったんだな、結局。

伏屋: 他に何か知っていることは?

塩津: もうない。

伏屋: そうですか。それでは以上で……。

塩津: なあ、ひとついいか。

伏屋: はい?

塩津: 猫は……あいつの黒猫はどうなった?

伏屋: ……森石と一緒に死んだようです。

塩津: そうか……心中か。

伏屋: それが何か?

塩津: いや、一緒に死ぬ家族がいただけでも、あいつは良かったのかもな……すまない、呼び止めて。

伏屋: いえ。それでは私はこれで。

[記録終了]

補遺4: 森石氏宅の居間からGOI-8110“石榴倶楽部”との関連の疑われる文書が回収されました。以下に内容を示します。

 御無沙汰しております。
 先日の提案については御検討頂けたでしょうか。
 貴方にとって彼女が大切な存在であることは承知しておりますが、私共としても彼女を無碍に扱うことは致しませんし、相応の補償も御用意しております。
 決して悪い条件ではない筈です。
 私共としても身を切る覚悟で条件を提示しております。もし今の条件でも御納得頂けないようであれば、残念ながら今のようなお付き合いの継続は難しいかと存じます。
 私共は貴方のことを良く存じ上げているつもりです。
 十日後に遣いを寄越しますから、それまで良くお考えください。
 双方にとって益のある回答を期待しております。

橋詰1

補遺5: 森石氏宅の箪笥から“飼主様へ”と題された文書が回収されました。以下に内容を示します。

飼主様へ


一、一日三回木天蓼を与えて下さい。
一、突然発火する事が御座います。火災に御気を付け下さい。
一、御土産を拾って参る事が御座いますが、飼主様を喜ばせんと思っての行動です。暖かく御見守り下さい。
一、寒い場所を嫌います。周囲をなるべく暖かく保って下さい。
一、飼主様の体温を何よりも好みます。積極的に触合うよう御努め下さい。
一、責任を持って御育て下さい。

豆田屋商会

SCP-1505-JPにマタタビの実を継続的に与えたところ、焼死までに要する期間に有意な延長が見られました。ヒトの体温への曝露によるSCP-1505-JPの反応についても実験が行われましたが、特筆すべき影響は確認できませんでした。

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