SCP-1509-JP

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K-515型撮影機1により撮影されたSCP-1509-JP。

アイテム番号: SCP-1509-JP

オブジェクトクラス: Euclid

特別収容プロトコル: SCP-1509-JPの出現する周辺海域は常に監視され、活性化中における不必要な一般船舶の航行を制限します。また同時に財団フロント企業青海グループを通した海洋調査やナイトクルーズ等の適切なカバーストリー流布によって、SCP-1509-JPとそれに関連する財団の活動を偽装します。

SCP-1509-JPへの乗船を必要とする際にはオブジェクトの左右を財団船舶(SCPS)で並走した上で、船舶に搭載されたメトカーフ非実体反射力場発生装置を最低4機・2方向から投影し、十分な物理安定性を確認できた場合のみ行って下さい。SCP-1509-JP-1へ接触する職員にはレベル2以上の研究員の許可を受け、ウォーヴェ式心理テストにて80点以上の評価を得た一般職員が用いられます。

説明: SCP-1509-JPは形而上概念と形而下の限定的な接合部として観測される非実体的大型船舶です。SCP-1509-JPはその特殊な船底形状から軍事用砕氷船(砕氷艦)2であると考えられていますが、財団の調査は現在存在する国家、企業、個人のいずれもSCP-1509-JP及びその同型船舶の建造に関与していないことを裏付けました。SCP-1509-JPは主に日本国北海道の石狩・後志地方沿岸20海里付近において日没前後に出現し、淡い発光を伴いながら周辺海域を航行したのち日の出とともに消失します。

小樽市、札幌市、石狩市の周辺における「真夜中の幽霊船」の噂を受けて発見されたSCP-1509-JPは、当初その非実体的性質から詳細な調査が実行できず、Anomalous分類されていました。その後19██年代に開発されたメトカーフ非実体反射力場発生装置3(MNeRG)を用いた上で実行されたSCP-1509-JPの調査4によって、オブジェクトの更なる特異性が発覚しました。

SCP-1509-JP-1は、任意の人物がSCP-1509-JP前方の甲板に進入することをトリガーとして出現する人型実体です。外見は多くの点で男性的特徴を有しており、体長175cm前後の身体に海軍服に似た衣服と制帽、生地の厚いロングコートを着用しています。喉頭部分から首が何らかの手段で斜めに切断されていることからSCP-1509-JP-1に頭部は存在せず、断面からは白の花弁のダチュラ(Datura metel)が成育しています。

出現時SCP-1509-JP-1はSCP-1509-JP甲板の船首の付近にて、常に腕を組み項垂れた姿勢を取っています。頭部が存在しないにも関わらずSCP-1509-JP-1は何らかの方法で周囲の状況把握と発声を行っているようであり、乗船した人物が接近するとSCP-1509-JP-1は前述の状態から活性化し、その人物との対話を試みます。この際のSCP-1509-JP-1の態度は概ね友好的かつ穏便なものです。

SCP-1509-JP-1と対話を行った被験者はその会話の進行に伴い次第に感傷的な反応を見せ始め、過去に犯した過ちや自らが経験した知己の人物との死別について後悔や悲哀の感情を露わにしつつ告白を行います。この際被験者はその前後にとった己の行動の問題点や反省点を挙げることでしばしば激しい自己嫌悪に陥ることが確認されています。これらの一連の行動には強制力が存在していると推測されており、中途で対話を停止するように指示した場合や、呼びかけに応答しないよう事前に指示されていた場合であっても被験者はSCP-1509-JP-1との対話を行い続けます。例外的に、ウォーヴェ式心理テストにて80点以上の評価を得た人物のみがこの強制力に対抗可能です。

被験者の告白に対しSCP-1509-JP-1は同情的な反応を見せ、被験者の肩に手を置いたまま懐から油紙に包まれた紙巻き煙草(以下SCP-1509-JP-2)の箱を取り出し、被験者に差し出します。被験者がSCP-1509-JP-2の一本を受け取ると、SCP-1509-JP-1は自身も同様にもう一本を"咥え"5、両方に火を点けます。その後、被験者がSCP-1509-JP-2を中程まで吸いきる、もしくはSCP-1509-JPの甲板から退出するまでの間、SCP-1509-JP-1は気遣いの言葉や今後のアドバイスを被験者に語りかけ続けます。

SCP-1509-JP-2を服用した被験者は安堵や爽快感、昂揚などの感情を報告し、多くの場合以前に抱えていた重大な罪の意識の軽減など、心理的諸問題の改善兆候を示します。しかしながらSCP-1509-JPを退去する際SCP-1509-JP-2は消滅し、また被験者の血中・呼気などからもSCP-1509-JP-2に由来する化学物質等は検出されないため、原材料並びに成分、その作用プロセスに関する研究は進展していません。

補足資料: インタビュー記録

インタビュー記録1509-JP

Record 19██/██/██


回答者: SCP-1509-JP-1(以下対象)

質問者: 遠部博士

序: Dクラス職員を用いたインタビューの試みが全て失敗した後、ウォーヴェ式心理テストにて92点の評価を得ていることから遠部博士が志願、インタビュアーとして抜擢された。遠部博士は担当研究班の一員として、事前にSCP-1509-JPの特異性に関する情報を把握している。


[記録開始]

対象: やあ、初めて会う御仁だろうか。何か御用かな?

遠部博士: こんばんはSCP-1509-JP-1。あなたには少し、お話を伺いたいのです。

対象: その1509というのは……俺の識別名か?ふむ。[数秒の沈黙] Rogya6、記憶した。非礼を赦してくれ、次からは正しく応答しよう。貴官のことは何と呼べば宜しいかな?

遠部博士: お好きにどうぞ。

対象: おいおい……貴官らが送り込んだヒトシやケイやエミ7だって、粗暴ではあったが少しは心易い態度であったというのに。

遠部博士: 私にあなたの特異性は通じません。それはこれまでの試験で既に判明しています。

対象: [嘆息に似た音] それはそれは。貴官は学士なのだな、相当に頭の硬い。一服のお誘いを掛けようかと思っていたのだが、その調子では色よい返事は期待できそうにないだろうか。

[対象は懐からSCP-1509-JP-2の箱を取り出し、遠部博士へ差し出す]

遠部博士: いえ、頂きますよ。

[遠部博士は手袋を嵌めたまま数本のSCP-1509-JP-2を取り出し、ハンケチーフで包んで上着のポケットへ収める8。対象は肩を落とし明確に落胆する様子を見せる]

対象: 随分と研究熱心だな、学士殿。素晴らしいことだ。貴官の様な知識人は、我らが国では最大限の敬意と待遇をもって迎えられるだろう。ああ、学士殿の前途に栄光のあらんことを。

遠部博士: その"我らが国"とは、あなた、あるいはこの船が所属している国家のことでしょうか?

対象: 愚問じゃないか、偉大なる帝国さ。

遠部博士: 帝国?

対象: そう、永遠の光射す、常世の春たる光翼の国。帝国の発展は減衰無く進み続ける光条であり、この戦艦はその無限の一端なのだよ。

[対象は両腕を広げ、遠部博士にSCP-1509-JPの全体像をアピールする]

対象: 今でこそ俺とこの船はこの僻地にて残置されているが、全ては来たるべき行動のための名誉ある待機状態であると聞かされている。俺は指令を待っている、今もなお。俺たちの労苦はいずれ帝国によって救済を……[不明瞭]

[言葉を続ける毎に声量は低下し、対象は項垂れていく]

遠部博士: SCP-1509-JP-1、どうしました?

対象: いやすまない学士殿、ここまでにしておこう。付き合って頂き感謝する。

[対象の消失。この後、夜明けを迎えSCP-1509-JPが非顕在化するまで特筆すべき現象は発生しない]

[記録終了]


後書: これ以降も数度のインタビューに渡ってSCP-1509-JPの出自や"指令"に関する質疑が行われましたが、対象が明確な返答を返すことはありませんでした。


補足資料: 実験記録


補遺: 19██/06/08の出現の際、SCP-1509-JPの船体の多数箇所において錆、亀裂、凹みなどの損傷が発生している様子が目視で観測されました。これらの損傷はこれまでも確認されていたものの、いずれも今回のように大規模かつ顕著では無かったため、この変化要因を調査する一環として遠部博士がSCP-1509-JP-1の元へ派遣されました。

インタビュー記録1509-JP

Record 19██/06/08


回答者: SCP-1509-JP-1(以下対象)

質問者: 遠部博士


[記録開始]

対象: おお、よく来てくれたな。学士殿。

遠部博士: SCP-1509-JP-1、この船には一体何が   [対象が身振りで言葉を遮る]

対象: その前に、これを。受け取ってくれるだけで構わない。

[対象はSCP-1509-JP-2を遠部博士に差し出す]

遠部博士: いえ、私は……[数秒の沈黙] 分かりました、頂きましょう9

対象: ありがとう。貴官に最大の敬意を。

[遠部博士と対象の手にSCP-1509-JP-2が渡り、2本に火が付けられる]

遠部博士: [煙を吐き、SCP-1509-JP-2を口から離して] 改めて伺います。SCP-1509-JP-1、この船に一体何が起こっているのですか?

対象: 何が起こっているように見える?

遠部博士: 一言で表すのならば……急激な老朽化でしょうか。

対象: そうか、なるほど。賢明な学士殿が言うのならそうなのだろう。俺もこの船も気付かぬうちに、どうも長い年月が経ってしまっていたらしい。もとより俺は、ここに居るべきでは無い存在なのだ。何故ここに居る?それを俺は忘れてしまった。

[手元のSCP-1509-JP-2に対象が目を落とす]

対象: そうだ、あの方が……あの尊き方がこのFugol-Taback10を下さったのだ。この船の甲板を清掃していた俺に、出陣の労いとして。

恐らくその訪問は異例なものであったのだろう。船団に属する高位ヴェンロータイ11はすべて出払っており、船には俺しか居なかった。知識の足らぬ俺にも一目で分かる、あの方はまさに天蓋を見上げるばかりの高次に燦然と。小さき御体と歳に不相応な、この世の者とも思えぬほどの輝きに目の眩むような思いだった。畏敬で動けぬ俺に彼女は近づいて……きっとあのお方は、俺がただ肉壁として動員された卑しいヤグェンドであることに気付いていなかったのだ。名誉にも、その御手づから恩寵の下賜を。

この思いがけぬ光栄は俺の誇りであり、無聊の慰めになった。戦友達は俺を羨み、盛んにそれを自分にも寄越せとねだる。分けても彼のMedie12は、俺と幼い頃より共に過ごした気安さ故か、ひどく繁くに頼み込んできた。だが俺は、戦友達へはもったいぶりながらも度々Tabackを遣ったのに、何かと理由を付けて奴にだけはこれを渡さなかった。俺は後ろ暗い優越を感じていたのだ。あのMedieを、いつも聡く俺より先を進んでいた幼友を、ただの偶然と言えども一度出し抜けたことに。

[対象は掻き毟るように頭を抱える]

対象: やがて船団は帝国外地の激戦地へと至った。我らはこの海に栄光を持って侵略を……いや違う。あの海はここではないし、どこでもなかった。闇と氷に閉ざされた形而の潮流……無形万系の最前線での戦い。末端の俺にとっては侵略は順調に進んでいるように思えた。だが、俺たちは忘れていた。奴らは人では無かった。

戦況は目に見えて悪化していた。一人、また一人と戦友達は傷を負い倒れ、気付けば消えていた。敵の忘失に呑まれたのだ。俺は彼らの顔を思い出せなくなっていた。戦攻府からの伝達と補給もいつしか届かなくなっていた。最終指令はただ一言、"暫時待機せよ"と。それでも我らは侵攻の手を緩めなかったが、ある日ついに大きな混乱が起こった。指揮を執るべきヴェンロータイが誰一人居なくなっていたのだ。彼らもまた呑まれていたことは明白であった。それに最後の最後まで誰も気付けなかったことも。俺たちは頭脳を失い最暗黒の海に取り残され、ついに暴動が起こった。

俺はMedieと共に船室に逃げ込み、ドアを閉ざした。彼は酷い傷を負っていた、他ならぬ戦友たちの、恐怖と狂乱に駆られた手によって。気丈に振る舞ってはいたがその声は弱々しく、長く持たないことは俺にも分かった。それでも何とかMedieの魂を繋ぎ止めようと、俺は彼の手を握って幼い頃の話をした。路地の暗がりにも漏れ聞こえた、SozaXeiを征く華やかなゲ-ディル女官祭列の楽。属州より貢がれ運ばれていく種々の品物の、鼻慣れぬ異国異時の香り。外市街の小高い丘よりNi-Doのまぶしさに目を細めながら遠望した、あの光々しき宮の威容……。尽きぬ思い出を1つ1つ語り終わると共に、少しづつ彼の肉体から熱が抜けていくのが感じ取れた。

[SCP-1509-JPの船体に亀裂が走る。大きく唸り軋むような音が響く。船体が僅かづつ傾いてゆく]

対象: Medieは血を吐きながら、ぼやけた目であのFugol-Tabackが欲しいと言った。俺はそれを寝台の上に置いてきたことを思い出し、船室を抜け出し駆けた。幸いにも邪魔する者は無かった……ひどく静かだった。まるで誰も居なかったかのように人の姿はかき消え、ただ破壊の跡が残っていた。俺は瓦礫をくぐり抜け寝台に辿り着いたが、そこにTabackは無い。あるのは空の箱だけだった。

頭の芯が冷たくなっていくのを感じた。暴徒に奪われてしまったのか、無くなるのに気付かず気前よく誰かに遣ってしまっていたのか?俺は震える手で箱をとり、散らばっていた端材や布切れを紙片で巻いた。できあがった不格好なTabackのまがい物を箱に詰めてMedieの元に走る、だが彼は、ああ、もはや既に。

[突如として甲板に面したハッチの1つが勢いよく開く。その中は薄暗い小部屋となっており、腹部の裂傷から多量の血を流した男性が、壁面により掛かるようにして息絶えていることが分かる]

遠部博士: そうか。まさか、あなたの罪は。

対象: 気付けば俺はこの海にいた。ここにやってくる誰かは皆何かを抱えていて、俺はそいつらの話を聞いて、過去を見ずに先へ進むよう促してやった。しかし……しかし、俺は?俺はもう進めない。俺はヒトシやケイやエミを記憶している。だが、俺のことを覚えている者たちは全てここを去っていった。俺を置いて、誰もが先へ進んでいくのだ。ここに来て、俺はきっと疲れてしまったんだと思う。

[船体が大きく傾く、唸り軋むような音が更に大きくなる。錆び付いたSCP-1509-JPの各部が砕け、海中へ落下して行く。船体の亀裂から、重油に似た見かけの粘稠性を示す幽物質(エクトプラズム)が激しく漏出し始める。遠部博士に無線でSCP-1509-JPからの退避命令が下される]

遠部博士: あなたはまだここに居る、ここに居て良いはずだ!

対象: [首を横に振る] ここにあるのは過去の影だ。留まり続けるこの存在が痛い、ここに居た"今"が苦しいんだ。この世の春はとうに失われた。季節の過ぎた花はいずれ散る、残り火はただ燃え尽きる。素晴らしい者は全て去り、どうして俺だけが残ってしまったのかと……ずっと考えていた。それは最後に、彼らが残したものに、ふさわしい始末を付けるためだったのだと今は思う。あるべきものを、あるべき場所に。

[対象の手が痙攣し、SCP-1509-JP-2を取り落とす。先端に灯った火は対象のコートに燃え移り、火はそのまま身体の表面全体へと移り広がっていく]

対象: ありがとう、学士殿。そして[判別不能]

[SCP-1509-JPの汽笛が吹鳴し、対象の言葉を掻き消す]

遠部博士: 待て  

[MNeRGを起動していた周囲の財団船舶が異常な事態を察知しSCP-1509-JPから離れたために、足場が非実体化し対象と遠部博士は海面に落下する。対象に燃え広がっていた火が流出したエクトプラズムに"引火"し、SCP-1509-JPの爆発的な霊素崩壊が引き起こされる]

[記録機器の感光と破壊、映像・音声の途絶]

[記録終了]


後書: この事例の以後、現在に至るまでSCP-1509-JPは出現していません。海に落下した遠部博士は財団船舶によって回収され、治療の後に現在は職務に復帰しています。またその際に遠部博士が把持していたSCP-1509-JP-2残骸の回収に成功し、その組成が異常な点を示さない紙や布の切れ端であることが明らかになりました。これらが人間の精神に影響を及ぼしていた原理は判明していません。

当該アイテムは現在、研究資料として遠部博士のオフィスに保管中です。

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