SCP-1525-JP
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SCP-1525-JP(回収時撮影)

アイテム番号: SCP-1525-JP

オブジェクトクラス: Safe

特別収容プロトコル: SCP-1525-JPはサイト-81-109の標準物品収容セル内に収容されます。担当職員は毎日午前10時にSCP-1525-JP-Aを回収してください。回収したSCP-1525-JP-Aはサイト-81-109の標準物品収容ロッカー内に収容されます。

説明: SCP-1525-JPは幅3600mm、高さ900mm、厚さ30mmの標準的な黒板です。SCP-1525-JPには後述する異常性を除いて特筆すべき点はなく、一般的な黒板と同様に使用することが可能です。

SCP-1525-JPは毎日午前10時に炭酸カルシウム製の白色のチョーク(SCP-1525-JP-Aに指定)をチョークボックス内に出現させます。この原理は明らかになっていません。また、SCP-1525-JP-Aは「摂食する」という明確な意思を持って摂食した場合、チョークを摂食した際に生じる身体的不具合1を引き起こさなくなるという性質を有しています。しかしながらSCP-1525-JP-Aはその主成分に反して強い酸味を有しているため、食用には適しません。

SCP-1525-JP-Aは加熱などの調理を行うことによって色・食味が変化し、一般的に食品として適切な範囲の食味へと変化します。SCP-1525-JP-Aを摂食している間、接触している人物(対象と呼称)はSCP-1525-JP-Aの色に応じたランダムな幻覚を体験します。また、特筆すべき点として、SCP-1525-JP-Aからは常にソメイヨシノ(Prunus yedoensis Matsumura)のものに類似した強い芳香が発せられている点が挙げられます。


補遺1525-JP.1: 発見

SCP-1525-JPは「桜の匂いのチョークの出る黒板」という噂2に興味を持った財団が噂の真偽を確かめるため、昭和・平成の小学校から高等学校卒業生に聞き込みをした際に旭上中学校3が浮上し、同校について調査を行った結果として発見されました。以下はSCP-1525-JPの収容後に行われた実験記録の一部抜粋です。

以上の実験記録から、SCP-1525-JP-A摂食時に体験する幻覚は特定の人物の記憶を想起しているものと推測されました。これを受けて1990年代に旭上中学校から卒業した複数の人物への聞き取り4を行った結果から、2000年に56歳で失踪している五十嵐 恵美子氏5と強い結びつきがあると推測されています。


補遺1525-JP.2: 異常性の発見経緯

収容当初のSCP-1525-JPは「桜の匂いのするチョークを生成する黒板」というAnomalousアイテムとして収容されていました。しかしながら、収容担当者の1人である太田博士が、実験時にSCP-1525-JP-Aの破片を偶然接触したことにより、SCP-1525-JP-Aの異常性である幻覚症状を訴えたことによって未解明の異常性が存在していることが明らかになりました。現在判明している異常性は先述の事案後の実験を経て明らかになったものです。また、この異常性の判明を受けてSCP-1525-JPはSafeクラスアノマリーとして収容されることとなりました。


補遺1525-JP.3: インタビュー記録

以下は、五十嵐 恵美子氏の関係者に対して実施されたインタビュー内容の一部抜粋です。記録の全容については別紙(付属資料.1)を参照してください。

インタビュー記録 1525-JP #003
Record 2004/03/23


インタビュアー: 白波博士

対象: 上原 優子氏(記録中では上原氏と記載)

付記: 上原氏は旭上中学校の卒業生であり、五十嵐 恵美子氏との関連性が存在しているものとされている。


«記録開始»

白波博士: では上原さん。あの黒板のことについて教えていただけないでしょうか?

上原氏: ……すみません。これ取り調べか何かですか?

白波博士: 安心してください。このインタビューは事件に関するようなものではないですし、口外もしません。何か心当たりや些細なことでもいいので教えていただけないでしょうか?

上原氏: ……あれは、わたしが中学生の時に3年2組にあった黒板です。通ってた中学校はわたしたちが卒業したあとに廃校になっちゃったのでそれっきりですが……。

白波博士: なぜ、この黒板が3年2組にあったものだと分かるのですか?

上原氏: だって、黒板の右下の方に小さく「えみばあ」って書いているでしょう。

白波博士: 書いていますが、これはどういう?

上原氏: このえみばあっていうの、わたしたちの担任だった先生のあだ名なんです。クラスの男子が画鋲でいたずら書きしてたのを覚えてます。

白波博士: ……五十嵐 恵美子さんのことですか?

上原氏: そうです。……ご存知なんですか?

白波博士: ええ、まあ。それで五十嵐 恵美子さんがどんな方だったのかについて教えてもらえますか?

上原氏: 分かりました。五十嵐先生は国語の先生で、よく「チョークって実は食べれるのよ」って言っておどけて笑ったりするような先生でした。クラスだけじゃなくて、学校全体からも信頼されてた先生だったと思います。

白波博士: はい。

上原氏: でも、夏休み明けに中学校が廃校になるって聞いて、五十嵐先生はすごく悲しそうでしたね……。いつも笑っている先生だったから、とても印象に残っています。

白波博士: それというのは、廃校について悲しんでいる様子でしたか?

上原氏: わたしの4つ上の姉が在校生だったころからいた先生だったので、他の先生よりも愛着があったんじゃないかなと思います。……でも、それだけじゃない気もしてて。

白波博士: それだけじゃない?

上原氏: 卒業式の日の前の日のことです。最後のホームルームで急に「この学校も皆さんの卒業とともに終わりを迎えますが、私の心はこの桜の香りと一緒にいつまでもここに残りつづけます。辛いときは思い出してね、そしたらまたいつでもここに帰ってこれるんですからね」って言いだして、そのあとに「ごめんね」って言って。そのときは意味が分からなかったんです。でも卒業式の日にはいつもみたいに笑って送り出してくれました。先生、泣き笑いって感じでしたけどね。

白波博士: 分かりました。続けてください。

上原氏: 卒業してから同窓会を開くってなったんですけど、普通だったら先生も招待するじゃないですか。それで幹事が連絡しようとしたんですけども、消息がつかめなくて。

白波博士: ふむふむ。

上原氏: それでみんなで色々調べてみたら、先生、あの卒業式の翌年に突然失踪してて。それで行方不明者になってたみたいなんです。

白波博士: そうでしたか。そのほかに五十嵐 恵美子さんについて……そうですね、あの黒板と何か特別なつながりというか、そういうものを感じたことは?

上原氏: 黒板と、ですか。まあ先生だし、よく触れてたとは思うけど……。まあ、あると言えば廃校になることが決まった夏休み明けに、わたしが忘れ物を取りに教室に戻ったとき、黒板に手を当ててたそがれてたというか。やっぱり落ち込んでるんだな、とわたしまで悲しくなっちゃって。

白波博士: ありがとうございます。それでは……

上原氏: ちょっといいですか? この黒板ってどうなるんです?

白波博士: ……あの廃校は取り壊しが決まりましてね。たた、あの黒板は他の学校に寄贈されるようです6。どこまでかは存じませんが……。

上原氏: そう、ですか。……大事にしていただけるといいんですけどね。えみばあの黒板。

«記録終了»


終了報告書: 上原氏は記憶処理剤を投与した後に解放されました。

上記インタビューの終了後、収容室内に保管されていたSCP-1525-JPから青色のSCP-1525-JP-Aが1本出現しました。このときに出現したSCP-1525-JP-Aの摂食実験の際、摂食した対象は「塩味と薬品のようなえぐみを伴う強い苦味」を感じ、「病室と、窓から遠くにある花をつけた桜が見えた」との幻覚を報告しました。このとき、なぜ白色ではなく青色のSCP-1525-JPが出現したのかは判明していません。

また、上記インタビューが行われた日時は五十嵐 恵美子氏の失踪日時と同日であることが明らかになっています。このことから、財団はSCP-1525-JP-Aの出現には五十嵐 恵美子氏および五十嵐 恵美子氏に関連する日時と何かしらの関係性があると推測しています。現在、この推測についての検証と調査が進行中です。


補遺1525-JP.4: 回収された文書

2004/04/07に五十嵐 恵美子氏の居住していた住居の捜索を行った際に、以下の遺書と推測される書き置きが発見されました。現在、書き置きは文書1525-JP.1に指定されたうえで保存されています。以下は文書1525-JP.1の内容を転写したものです。

こんにちは。3年2組のみなさん、お元気ですか?

わたしは、お世辞にも元気とは言えません。
現在、わたしは持病が悪化して入院していて、検査の結果、余命宣告されてしまったので、こうしてみなさんに向けてメッセージを書いています。わたしが死んでも、みなさんは自分のやりたいことに突き進んでいってくださいね。わたしとの約束ですよ。

みなさんとの思い出は数えきれないほどあります。わたしの誕生日にプレゼントをくれた佐々木さん7たちに、卒業式で一緒に写真を撮った渡辺さん8たち。廃校になることを忘れるくらいに楽しかった修学旅行に、クラスでのみなさんの話。数え出したらきりがありません。思い出語りの続きはまた今度と言えないのは悔しいです。

でも、これらの思い出を抱きながら死ぬのなら、怖くないです。

わたしの心はこの桜の香りと一緒にいつまでもここに残りつづけます。辛いときは思い出してね、そしたらまたいつでもここに帰ってこれるんですからね。

忘れないでね。

五十嵐 恵美子

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