SCP-1530-JP
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アイテム番号: SCP-1530-JP

オブジェクトクラス: Keter

脅威レベル:

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19██年撮影

特別収容プロトコル: SCP-1530-JPの管理下個体は大型鳥類用のケージで飼養され、猛禽・肉食動物用の食餌が与えられます。当実体の終生飼養・長期安定飼養は現状ほぼ不可能とされており、わずかでも与えるストレス・負荷を軽減し生命維持するための環境エンリッチメントが求められます。捕獲や生体への侵襲的行為等SCP-1530-JPにとって不本意な接触を行う際には、情報改変による実体の観測不能化とこれに乗じた逃亡に備えてください。当該オブジェクトはその生態を保護する為に、最低限のマーキング処置の上多数が未収容状態に置かれています。1飼養下での凶暴化や衰弱による管理困難、野生の個体数調整の際には適切なデータ収集の後実体の殺処分が成されます。自然死個体の処理と個々の外部遭遇事案・目撃報告発生へは通常の対民間隠蔽手続を執り漏洩情報の除去に当たってください。

SCP-1530-JP-A探知には照魔鏡手順を経た観測機器の使用、並びにSCP-1530-JP個体の遺伝子情報を基にした戸籍調査が有効です。発見されたSCP-1530-JP-Aは常時監視下に置かれ、何らかの名目で捕獲を行う際には異常性の無い突然死として公的処理されます。個体の死亡は通常通り近親者等によって社会常識に則った形で対処されますが、この際には葬儀社スタッフや宗教従事者等として1人以上の財団エージェントが付き添い、監視誘導の任務に就いてください。

説明: SCP-1530-JPは1960年代2から日本国内にて確認されている、概ね鳥類に類似した特徴を持つ未知の生物的実体群です。体長は脚部を含めて140cm程度であり、前肢は翼状の形態に発達しています。通常移動には後肢による二足歩行が用いられ、中〜長距離の移動の際や危険からの回避と脱出等には翼を用いた飛翔が用いられると考えられています。3上記の鳥類的な特徴に反し、SCP-1530-JPは全身の殆どに羽毛を持たず、翼部構造においても通常の皮膚組織と極めて境界が曖昧な特殊生成物がその代替を果たしています。加えて最も顕著な特徴として、その頭部から胸部に掛けての形状がヒトと酷似する点が挙げられます。

SCP-1530-JPの頭部にはヒトと同様の頭髪が存在し、嘴ではなく口腔内に32本の歯を持ちます。胸部には1対の乳首が存在し、雌とされる個体の多くには乳房の発達もみられています。これらの部位に限らず、骨格や体内構造等においても複数箇所でヒトへの類似が確認されますが、発達し円形に露出した目が目蓋ではなく瞬膜によって潤滑される点や、口角が頬まで延長され広く開いた口、身体において明らかに大きな頭部比率等、異なる要素も多数混在しています。上記の様にその特徴は既知の生物種に一部類似しつつも全体としてかけ離れたものですが、留意すべき点として、当実体は未発達ながらも会話能力を保持しており、そしてこれまでに採取されたSCP-1530-JPの全サンプルにおいて、その遺伝子情報はヒトと明確に一致を示しています。

SCP-1530-JP-Aは、当初SCP-1530-JPとは無関係な存在として認知されていた実体群を指します。これらは通常の観察では異常性の無いヒトとして認識され、また一般的に行われている各種検査類においても一切の異常を示しません。しかし、別紙資料(“プロトコル:照魔鏡手順”を参照)に記載した抗情報改変手順を経た検査を用いた場合、その結果は当該実体がヒトではない事を示す明らかに異なったものへと変化します。区分上前者は認識姿にんしきし、後者は実態姿じったいしと呼称されます。

SCP-1530-JP-Aの多くは戸籍等を持つ民間人として日本国内に存在しており、情報改変による認識姿の上ではヒトに極めて類似した知能や容貌、自我、会話能力等を持つ様に周囲の観察者へと知覚されています。この知覚情報が観察者同士で矛盾する事は無く、前述の手順を用いず他の人間と当該実体とを区別し異常性を感知する事は困難です。ただし、多くの例で周辺人物あるいは認識姿の人格当人が他者との僅かな言動・思考の差異を認識している事、また一部の実体は後述する概ね共通した特定記憶を持つと主張している事が指摘されています。現状認識姿は当該実体がヒト社会へと紛れ込む為に用いる単なる擬態パターンであるとの意見が主流ですが、その人格表現の詳細さ・鮮明さから、意思疎通不能である実態姿が持つ何らかの知能の発露であるとの意見も述べられています。

SCP-1530-JP-Aの実態姿は概ねヒトに近い形状ではあるものの、鳥類に類似すると評価される外見的特徴を持ちます。しかし扁平で極めて短い嘴や不規則的に生えた羽毛等それらは極めて不完全かつ乱雑なものであり、加えて身体構造に関してもその内外に多数の不具合や根本的欠陥を抱えています。これによりSCP-1530-JP-Aは年月の経過に伴い徐々に容態を悪化させ、後述する置換事象から凡そ10年〜20年(認識姿における10代後半〜20代後半)程度で致命的な生理破綻へ至り死亡します。不完全な身体構造から比すればSCP-1530-JP-Aは比較的長期間の生存が可能であると言えますが、ヒト同様の生存は不可能です。

前述した主要なSCP-1530-JP-A探知方法である照魔鏡手順はその機構の複雑さから量産不可能とされており、当該実体の全個体把握は困難です。これに対し技術班では開発初期から継続して手順の簡略化と普及手段を模索していますが、現状進展はみられていません。実体に通常のヒト以上の目立った危険性は確認されておらず、またその特性上社会への露顕はほぼ無いものと推測される事から、20██年現在積極的な隠蔽工作はなされていません。

SCP-1530-JPの生態に関する調査報告
下記はSCP-1530-JPに対して行われた、経年観察調査から得られた生態記録の抜粋です。

調査概要

 1980年5月から2000年12月まで、SCP-1530-JP野生個体に対する断続的な野外追跡調査を行なった。調査対象は常時6~10体程度を維持し、後期では粘着式GPS弾等のテレメトリ追跡や自動撮影装置の使用も加えた。地域は福島、千葉、長野、京都、愛媛、佐賀の6箇所である。これらの記録の中から、多数個体に共通してみられた事項を本実体の持つ生物的特徴であるとして報告する。

報告

 SCP-1530-JPは基本的に夜行性を示し、森林や山岳地帯の洞穴、岩壁、大木の洞等に営巣する。人口密度の高い地域では、度々家屋の屋根裏や廃墟空間、利用頻度の低い倉庫類、視線の通らない中高層建造物の屋上部等が巣として利用されている。食性は動物食で、魚類、鳥類、中型までの哺乳類等を捕食するが、稀にヒト4を襲う事も確認されている。

 当実体の多くは雌雄でつがい関係を結び、行動を共にする。一部例外的に擬似性交もみられたが、内性器は退化しており有性生殖は行わないとされる。完全な雌雄分業であり、雄個体は前述の食餌を確保する為に夜間の狩りへと専念し、雌個体は特異な方法を経て単独で生殖活動を行う。これについて、その詳細を以下に記述する。

 SCP-1530-JPの雌個体はつがいでの生活が安定すると、日中に営巣地から出て単独で生殖のための活動を行う。この時、当該個体は目視追跡が不可能となるほか、レーダー類含む観測装置や発信器類でもその位置を特定する事が出来なくなる。5個体位置が不明となってから数分〜数十分程度経過した頃、SCP-1530-JPの営巣地から前述した時間で移動可能であると推測される不特定の空間 — その多くは、多数の人間が集まる立地環境である — 近辺において、“歌”と例えられる特徴的なパターンを持つ音声が長時間に渡り観測される。これは最長で6時間にも至るが、その独特の音域・動きから、その場の民間人が通常の環境音とこの音声を識別する事は極めて困難であると思われる。また一般の機器類によって録音されたものにおいても、多くの事例で単なる雑音、あるいは機器不調によるノイズと認識され目立った認知がされていない事が報告されている。財団が用いる高精度機器を用いた録音では、その波形に詳細不明の欠落部分や歪みが存在する事が認められており、後述する特殊効果も考慮し、この音声には人間の聴覚や録音装置では捉えられない未知の波長が含まれていると考えられる。

 この単独活動から雌個体が営巣地へと帰還する際には、大抵の場合未就学から小学校低学年程度のヒト小児が脚に捕らえられている。この小児は基本的に当実体に対して従順であり6、以降当該小児はSCP-1530-JPのつがいと共に生活を開始する。小児は雌個体の乳房から分泌される乳汁を摂取し、以後これを栄養源とする様になる。

雌個体の乳汁を継続的に摂取した小児には、その経過と共に劇的な身体構造の変化が発生する。拉致からおよそ5年程度で、捕らえられたヒト小児はSCP-1530-JP成体へと変態し、これまでに食性も完全な動物食へと移行する事が確認されている。この乳汁はこれまで採取調査された限り通常のヒト母乳と成分的には同一であるとされ、上記異常プロセスとの直接的関係は不明である。同時に養育される小児は最大2体までであり、殆どのつがいは拉致小児がSCP-1530-JP成体となるまでこの養育に専念し、前述した生殖活動は行わない。その後この新たに生まれた若い個体は、親にあたるつがいの元を巣立ち、同様に他の営巣地から独立した異性個体と結ばれる。

生殖に関しての補足

他の生物個体/ヒトの身体を自らと同質のものに変態させる当実体の殖え方は極めて特徴的であると言える。変態後の体構造は明らかにヒトと異なるものでありながら、その劇的な変質に反しオブジェクトが持つ遺伝子情報は本来のヒト遺伝子から一切の変化をみせていない。未確定ながら注目すべき情報として、拉致・育成を行なった実体を親個体、拉致小児から育成された実体を子個体とした際、一切の血縁が存在しないにも関わらず、本来のヒト小児が持っていた形質に加え各子個体には親個体からの形質遺伝がみられるとの指摘(██・██報告、2001年)がなされた事が挙げられる。これについて当該オブジェクトの「遺伝」は個に内在する遺伝子ではなく、先に述べられた授乳行為を媒体とした形相上eidosにおける何らかの情報因子置換という形で受け継がれており、これが質料へと働き掛けているという旨の仮説が提言された。担当班内では現状これを暫定的な見解としつつ、その真偽について議論が続けられている。

上記報告でSCP-1530-JP個体に拉致される小児は、前述する“歌”が観測されたロケーション・時刻において迷子や個別行動等で一時的に保護者の管理認識下から離脱した状態へ置かれていた事が聴取から認められています。しかし確認される限りこれらの事案はその殆どが数分から数時間の後に、本来SCP-1530-JPに拉致されその場に居ないはずの当該小児とされる人物が保護者の元へと帰還する事によって終息していました。この時帰還し保護された小児は、確認される限り、前述した照魔鏡手順を経てその全てがSCP-1530-JP-A個体の擬態する認識姿であると報告されています。

保護者の元へ“帰還”したSCP-1530-JP-Aが主張7する自らの体験には共通項が存在します。それは孤立して保護者の元への帰還が困難となった自身を壮年の女性が導いたというもので、実際の状況や立地によって些細な誤差はあるものの「女性に手を引かれ、共に何らかの童謡等を歌いながら保護者の近隣まで歩いた」という形で概ね一致します。この女性については衣服も含めて容貌の明確な言及はされておらず、また近辺の監視カメラ等にもこれまで関連の疑われる事象は一切記録されていません。採取された映像ではSCP-1530-JP-Aはすべて死角箇所から出現したのち単独で保護者の元へと向かっており、この女性はSCP-1530-JP-A認識姿の主張のみに登場する非実在存在であるとされています。

これまでに述べた状況から、SCP-1530-JPは小児拉致の際にその発覚を防ぐ、あるいは遅延させるための代替品に、SCP-1530-JP-Aを当該小児の模造体として未知の過程を経て生成し、その場に残すものと判断されました。これは記録上SCP-1530-JPによる置換事象として扱われます。過去複数回に渡ってこの拉致された小児の救出作戦が実行されていますが、乳汁摂取後の小児には不可逆的な身体的・精神的変化が残り、ヒト社会には一切適応しません。摂取以前に確保する試みも、拉致時点で何らかの心的改変がなされる様であり、長期的にはその試み全てが失敗に至っています。

下記はSCP-1530-JP、SCP-1530-JP-A双方共に比較的安定した管理環境を維持出来た1例における聴取記録です。

インタビューログ SCP-1530-JP-████

対象:SCP-1530-JP-████

インタビュアー: サイト-8102研究員 大江

付記: SCP-1530-JP-████はヒトへの警戒が他個体よりも薄く、比較的長期に渡る安定した飼育が維持できました。推定年齢は25〜30歳程度であるとされ、当人の証言また遺伝子検査の結果から本来は「岸 千恵莉」という人物であった事が判っています。

<録音開始, 20██/██/██>

大江: さあ、ご飯をあげますから、自分のお名前を言えますか。

SCP-1530-JP-████: カジ、イイ、カジ、イイ。8

大江: お名前。言えますか。

SCP-1530-JP-████: キーシ。チエリ。

大江: よくできました。ほら、どうぞ。

[SCP-1530-JP-████は大江から提供された鶏生肉を摂食する。摂食の際には僅かに歓喜とみられる鳴き声、興奮した様子の挙動をみせる]

大江: どうして、あなたはそんな姿をしているのですか。

SCP-1530-JP-████: [数秒の思案]ワアンナイ。

大江: そうですか。[SCP-1530-JP別個体9の写真を提示する]あなたを育てたこれは、何ですか。

SCP-1530-JP-████: オアーサン?

大江: お母さん。では、こちらは何ですか。[SCP-1530-JP-████の遺伝子上の実母にあたる岸 愛恵まなえの写真を提示する]

SCP-1530-JP-████: [僅かな沈黙]オアーサン。

大江: こちらもお母さんですか。

SCP-1530-JP-████: ドーブツエン、イッタ。

大江: 動物園ですか。何処の動物園か分かりますか。

SCP-1530-JP-████: [不明瞭]。ワアンナイ。

大江: いつ頃の事か、覚えていますか?

SCP-1530-JP-████: オアーサン、アッタ。[不明な語句]ナッタ。

大江: 何ですか。

SCP-1530-JP-████: [不明な語句]オアーサン、チエリ、イッショ。オアーサン、バイバイ。

大江: 何と言いましたか。最初に言った言葉が何なのか、もう一度教えてくれますか。

SCP-1530-JP-████: [10秒程度の思案] [不明な語句]……ハネ、オアーサン?

大江: なるほど。あなたの言うお母さんには「お母さん」と「羽のお母さん」があるのですね。

SCP-1530-JP-████: オアーサン、ハネ、オアーサン、ハネ、ナイ、オアーサン、イナイ、オアーサン。

大江: “居ない”お母さんとは、なんですか。

SCP-1530-JP-████: イナイ。シロイ。クロイ。ナイ。ナク。ナク。ダーン、ダーン、ダーン。バー、バー。オアーサンオアーサン。イッパイ。

大江: それはどこで会うのですか?どこに居るのですか?

SCP-1530-JP-████: イッパイ。イッパイ。イッパイ。イッパイ。イッパイ。イッパイ。[両翼を拡げ、軽く羽ばたいてみせる。対象物がとても多量である事を示すジェスチャーとみられる。]

大江: [僅かな沈黙]そうですか。

SCP-1530-JP-████: オアーサン……ハネ、ナイ、オアーサン、スキ、オアーサン、ドコ、オアーサン?

大江: 今はここには居ません。

SCP-1530-JP-████: オアーサン、イル? アエル?

大江: また、そのうち会えるでしょう。

SCP-1530-JP-████: オアーサン、アッタラ、チョット、カジ、イイ。

大江: だめですよ。では、今日はここまでにしましょう。またお話させてください。

SCP-1530-JP-████: ワアッタ。

<録音終了>

終了報告書: 上記インタビューはSCP-1530-JP-████の収容から2ヶ月が経過した、比較的オブジェクトの心身状態が安定していたとされる時点の記録です。当該実体は収容後6ヶ月の経過した20██年██月頃から収容環境へのストレスから鬱状態と見られる容態を示し、異常行動・凶暴化がみられるようになりました。担当班では管理下での可能な限りの状況打開策を模索しましたが、その後収容約9ヶ月目にあたる20██年██月██日に度重なる自傷行為を元とした衰弱で死亡しています。末期段階ではコミュニケーション能力も殆ど失われており、外部からの問い掛けに対しても反応せず、母を呼ぶ鳴き声のみを繰り返していました。

インタビューログ SCP-1530-JP-A-████

対象:SCP-1530-JP-A-████(戸籍名:岸 千恵莉)

インタビュアー: サイト-8102研究員 大江

付記: SCP-1530-JP-A-████は東京都文京区のアパートに戸籍上の母である岸 愛恵と居住していました。当実体は収容前年に██大学獣医学科を卒業し、同年から██████████へ勤務しています。現在、公的には事故死したものとして処理されています。

<録音開始, 20██/██/██>

大江: それでは記録を開始いたします。あなたがご自身をヒトであると認識したのはいつからか、記憶にありますか。

SCP-1530-JP-A-████: いいえ。その、少なくとも私は物心がついた頃からここに来るまで、自分は普通の — そういった妄想をした事こそありますが — 他のひとたちと同じ様に人間であると、ずっとそう思って生きてきました。

大江: 物心がついた頃と言いますが、具体的にはいつ頃でしょうか。覚えている最も古い記憶を教えてください。

SCP-1530-JP-A-████: そうですね [数秒の思案]たぶん、ディズニーランドです。私がポップコーンのバケットを抱えて派手な柄のベビーカーに座っていて、ものすごく背の高い人影がその周りに沢山いるんです。見上げるそれが全部シルエットにしか見えなくて、その合間から見える夜の空に、何発も花火が打ち上がっていました。以前母と話して、まだ父がいた頃に3人で行った時の記憶だろうと。たしか、3歳か4歳あたりだったはずです。

大江: という事は、それはあなたの経験ではありませんね。あなたが本来の岸千恵莉さんに成り代わったのは彼女が10歳の時、20██年と推測されています。置換事象が発生したと推測される日、以前お話いただいた██動物園での話を、もう一度お聞かせ願えますか。

SCP-1530-JP-A-████: はい。少なくとも私は、その、それ以前から生き物が大好きだったはずで。何度もあちこちの動物園やふれあい牧場の様な施設に行っていました。どの園だったかまでは覚えていないのですが、その時も母にねだって休みの日に連れていってもらったんだと思います。興奮して、ただひたすらに次から次と走って檻の中を食い入る様に覗いていました。……妙に覚えているものですね。それなのに、しばらくしたら、いつの間にか何か音楽といいますか、歌のようなものに気をとられていて。

大江: 歌ですか。誰がどのように歌っていたかは分かりますか。

SCP-1530-JP-A-████: いいえ。なんだか、誰かが歌うというよりも、園内放送とは別に、その場所そのものにほわほわとBGMみたく重なっていた様な印象があります。ぼーっとそれを聴いて無心に歩いていたら、気がついたら何処にも母の姿がなくて。焦って怖くて半泣きであちこち走り回っていたら、優しそうな女の人が話しかけてくれたんです。

大江: 女の人。その女性の姿については、何か思い出せませんか。

SCP-1530-JP-A-████: [しばらくの思案]すみません。黒か茶色あたりのセミロングっぽい髪型だったと思いますが、どうもぼんやりして。服も薄ピンクだったようなクリームだったような、スーツだったようなワンピースだったような、そんな感じです。顔も、なんだかのっぺらぼうな印象しか残っていません。ただ、とても優しい声で励まして、一緒に母を探してくれると手を引いてくれた事は覚えています。不思議と安心して、それからずっと手を繋いだまま歌を歌って園内を歩いていました。今思えば、ずっと歌っていたのはその人だったのかもしれません。それでふと前を見たら母がいて、嬉しくて飛ぶように走り寄って抱きついたんです。そこで手を離してから、あの女の人は見ていません。母に経緯を伝えても、振り返って見た時にはもう姿はありませんでした。

大江: その前後で、記憶や体感に何らかの差異や違和感はないのですか。自身が周囲と異なる存在である事を認識されたりなどは。

SCP-1530-JP-A-████: わかりません。少なくとも私は、ディズニーランドも動物園も、それ以降も、ずっと一繋がりの自分の記憶だと思っていたんです。ただ[僅かな沈黙]そうですね。そう言われれば何でもそう感じられてしまうものですが、周りとのなんとも言えない食い違いみたいなものは、ずっと抱えていたかもしれません。

大江: 詳しくお話ください。

SCP-1530-JP-A-████: 何でしょうかね。私はずっと周りの人達を必死に真似し続けているのに、いつも浮いてしまっていました。喋る度にみんなを困らせているような気がして、好きなものも楽しいものも、考え方もいまいち何処か合わなくて。そそっかしくて怪我ばかりで、独りだけ直ぐに疲れてしまって。普通になりたいと願っても、いつも私の立ち位置は、変人か、変わり者でした。こんな調子でずっと生きていました。ですから、周囲とも上手くいかない事が多くて。何か起こる度に、母には相当な迷惑を掛けたと思います。重荷になってしまってばかりなのに、大学まで出してもらって。█████園で獣医として働けるよう声を掛けて頂いていたので、これから今までの分やっと恩返しが出来ると、そう思っていました。

大江: あなたが母と呼称する岸 愛恵さんについて、どの様に考えているかお話ください。

SCP-1530-JP-A-████: そう、ですね。[10秒程度の沈黙。目を閉じて軽く手を当て、深い呼吸をする]今はただ、申し訳ない気持ちで一杯です。こんな、紛い物を二十数年も育てさせてしまって。私が受けるべきではないものを、沢山貰ってしまって。可哀想に思う気持ちで一杯です。それに、そうですね……[暫く沈黙]

大江: 何でしょうか。

SCP-1530-JP-A-████: いいえ。ただ、色々と、やりたい事もあったのになあ、と。

大江: そうですか。これでインタビューを終了いたします。

<録音終了>

付記1: このインタビュー時点でSCP-1530-JP-A-████の実態姿身体は既に破綻を来し、衰弱・崩壊が始まっていました。認識姿にも僅かながらの恒常的な体調不良が表れ始めており、記録から3ヶ月後の20██年██月██日に収容室内で死亡した旨が確認されています。この様子は、認識姿上では異常性の無い突然死であるように表現されていました。

付記2: 上記は情報改変への対策を施していない通常の機器を用いてSCP-1530-JP-A-████との対話を記録したものです。SCP-1530-JP-A-████が発言するその内容は全て当実体の持つ特異性により歪曲された虚偽のものである事に留意してください。当インタビュー記録の収集時には照魔鏡手順を施した抗情報改変仕様の記録機器も併行して稼働させていましたが、後者においてSCP-1530-JP-A-████の発言部分にあたる箇所に記録されているのは、大型猛禽類のものに部分的に類似した一切の意味を持たない喚声でしかありません。

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