アイテム番号: SCP-1533-JP
オブジェクトクラス: Safe
特別収容プロトコル: SCP-1533-JPのアクセスポイントが存在する洞窟は、耐震工事が施された上で進入口を土砂と植物資源による偽装下に置かれています。洞窟の付近100m以内に進入した人物は拘留ののち記憶処理がなされます。SCP-1533-JPへの予定された進入実験は完了しています。
説明: SCP-1533-JPは徳島県眉山の海抜154m地点に存在する横穴の進入口より326m地点、本来は横穴の突き当たりであったと見られる位置に存在する、崩落した壁面からアクセス可能な異常空間です。各種の非侵襲的測定装置によるデータが、SCP-1533-JPのアクセスポイントより先は岩盤で隙間なく充填されているという結果を示していることに反し、SCP-1533-JPは調査人員が少なくとも1000m以上進入することを可能とする空間を有しています。現時点で、非異常組成の空気を除く何らかの物質がSCP-1533-JP内部から出現した例は確認されていません。
SCP-1533-JP内部では、常に120Hzの単一周波の音が発生しています。発生源の特定は成功しませんでしたが、進入深度と音の大きさには概ね正の相関関係が存在するようです。
何らかの知性体による加工の形跡が認められない天然の地質構造であるにもかかわらず、SCP-1533-JPは極めて複雑な内部構造を有しており、一部区域では非ユークリッド幾何学的に展開される領域も確認されています。詳細は後述する映像記録を参照してください。
補遺 - 映像記録/1533-JP
以下は初めてDクラス職員を用いた際のSCP-1533-JP内部調査の映像記録です。補足として、この試行に先んじて自律ドローンによる内部調査が行われていますが、その際は不明な原因によりSCP-1533-JP最深部への進入は不可能でした。
Record - SCP-1533-JP
第1回調査人員派遣記録
実施日時: 2020/02/23
調査人員: D-1533
担当者: 福治博士
《実験開始》
[00:00] D-1533がSCP-1533-JPアクセスポイントより内部へと進入する。黄土色の岩肌が広がる洞窟は左へ向けて伸びており、D-1533は左折して中へと入る。
[00:01] D-1533は内径不均一である歪な円筒形の洞窟を進行している。通路は徐々に狭窄していく。120Hzの単音が記録され始める。
[00:04] 洞窟は細く括れた地点を挟んで右へと大きく屈曲している。D-1533は姿勢を下げ、頭から屈曲点へと潜り込む。
[00:06] D-1533は徐々に拡張する通路を先進し、次の屈曲点へと到達する。屈曲は緩やかであるが、続く通路は扁平であり、潜り込んだD-1533は匍匐前進で進んでいく。
[00:11] D-1533は進行先の地面が扇状に広がり、中央に巨大な穴が開いていることを報告する。担当者は穴の中は今回の調査対象ではないことを伝達する。D-1533は匍匐前進のまま穴を迂回する。なお、飛行可能なドローンによる内部調査は、SCP-1533-JPアクセスポイントからD-1533の現在地までを結ぶ回廊を全て内包する巨大な空洞が存在し、この穴は空洞と連絡している唯一の出入口であることを示している。空洞の調査時に特筆すべき構造は発見されなかった。
[00:15] D-1533は扁平な空間の終点に辿り着く。この時点で調査人員の進行距離は312mを示している。D-1533は反転してから終点の穴を潜り抜け、その先の空間へ足から落下する。
[00:16] D-1533は2m×2m×2m程度の立方体状の狭い空間に出る。落下時の外傷は軽微。岩肌は無機質な灰色である。部屋には前後・左右・上下の6方向に直線的に伸びた横穴へ繋がる細い円形の穴が存在し、調査人員は天井の穴を通ってこの部屋へと到達したものと思われる。記録される120Hzの単音の音量が上がり、D-1533はそれを感知したと発言する。担当者はそれぞれの横穴をマーキングするように指示し、D-1533は前後左右上下の穴の付近を順に赤・橙・緑・黄・青・白のペイントボールでマークする。
[00:19] D-1533は担当者の指示を受け、前方の赤くマークされた穴へと入る。横穴の内部は人間が這って進める程度であり、D-1533は奥の空間へと向かう。
[00:20] 横穴の中程でD-1533は丸い岩の存在を報告する。岩は直径20cm程度の球形であり、D-1533から見て天井側に張り付いている。担当者の指示に従い、D-1533は岩に接触せずに通過する。
[00:22] D-1533が横穴を抜けると、そこは再び6方向への道を有する狭い部屋である。それらは先ほどのマークと同じ色に塗られた状態であり、最初の部屋と同一であることを窺わせる。D-1533が出た穴は、進入時の赤のマークと正対する橙のマークの穴である。
[球形の岩は全ての横穴に存在している。D-1533は岩に接触しない状態を保って前後左右4方向の横穴へと順に入っていくが、いずれの場合も正対する穴から同じ部屋に戻ってくる。床の穴に飛び込んだ場合も同様である]
[00:41] 担当者はD-1533に、前方の横穴の中で天井の岩に触れるよう指示する。
[00:43] D-1533は指示を実行した直後に、瞬間的な回転性の眩暈を感じたことを報告する。映像には明らかな振動や回転は記録されない。120Hzの単音の音量が上昇する。
[00:45] 横穴を抜けたD-1533は再び6色のマークが施された部屋に出るが、マークの配色が以前から変化しており、上下にあった青・白が左右に、左右にあった緑・黄が上下に移動している。
[00:47] 指示の下、D-1533はもともと天井であった青の穴に入る。横穴の途中でD-1533は不明な人工物を発見したと報告する。D-1533は人工物を確保しながら丸い岩に接触する。120Hzの単音が更に増強される。
[00:50] 部屋へと現れたD-1533は確保した人工物を改める。それは以前の内部調査時に電源の喪失のため機能停止したドローンである。ドローンは球形の岩に接触することができず、調査の終了まで現在D-1533が居る区画をループし続けていた、と担当者はD-1533に伝達する。D-1533は動揺する。現在、横穴のマークは前後左右上下の順に青・白・黄・緑・赤・橙である。
[D-1533は引き続き指示の下で前後左右の横穴に入り、内部の球形の岩に触れていく。その度にD-1533は眩暈を報告し、部屋の“回転”が発生する。120Hzの単音は段階的に増強を続けている]
[01:09] 6回目の岩への接触後にD-1533が部屋へ再入室した際、D-1533は前方と右方の横穴の間に新たな横穴が出現していることを報告する。この横穴は他と比較して明らかに広大であり、調査人員が立ったまま進入可能である。この段階で120Hzの音量は調査人員と担当者の連絡に支障をきたす程になっている。先ほど部屋の床に置いたドローンは、現在は後方の壁面に張り付いているように観察される。
[01:11] D-1533は新たな横穴を走って通過していく。調査人員は単音の増強による明らかな動揺を示している。
[01:13] 横穴を出たD-1533の周辺は深い暗黒に包まれる。120Hzの単音はこの時点で最強となる。ライトの出力を上げると、洞窟の最深部に存在する広大な空洞と、その中央に聳える全高不明の黒色の塔のような構造が朧げに確認される。この時点での調査人員の総移動距離は828mである。
[01:16] D-1533は空洞を一周し、螺旋状の塔の外観を確認する。塔は鈍色の岩から構成されているように見え、その壁面には如何なる加工の形跡も認められない。直立して進入可能な大きさの進入口が1ヶ所のみ存在する。担当者はD-1533に塔への進入を命じる。特筆すべき点として、ここへ到達するまでに何らかの自律行動する実体はD-1533の他には一切確認されていない。
[01:19] D-1533は左巻き螺旋状の塔を登り始めている。通路の天井の高さは一定のようであり、曲率からはおよそ12周で頂上へと到達するものと推測される。通路の内側には床面および壁面から突き出す多数の棘状・襞状の岩石構造が並んでいる。指示に従って構造物に触れたD-1533はその度に120Hzの単音が減弱していくことを報告するが、録音機材はそのような事実がないことを示している。D-1533は当惑する。
[01:23] D-1533は塔を登る通路が行き止まりになっていることを報告する。通路の曲率より、調査人員は塔状構造の頂上へ到達したと判断される。調査人員の総移動距離は1209m。D-1533は120Hzの単音がもはや聴取不能なレベルまで低減している旨を主張する一方で、録音機材には引き続き最大音量の単音が記録されている。担当者はD-1533にその場での10分間の待機を命じる。
[01:27] 突如として録音機器への120Hz単音の入力が途絶える。D-1533はそれを感知できないため、沈黙を保つ。続く30秒間、周囲は静寂に包まれる。
[01:28] D-1533は急激な狼狽を示し、何者かによって自身と所持機材とが通路の行き止まりの奥へと引きずりこまれる旨を報告する。映像記録にはD-1533に力学的作用を与えている存在は記録されない。ビデオカメラはD-1533の体から離れ、両者は別個に壁面を抵抗なく通過する。両者は不明な異常空間に転移したものと推測される。カメラは異常空間内部に以下の構造物が存在することを記録する。
- 雲のない快晴の青空。
- 一面に広がる凪いだ海面。陸地は確認できない。
- カメラに正対する天球に存在する太陽。
- 膝を抱えて浮かぶ成人女性に類似した形状を取る、全長不明の巨大な岩塊。カメラに対して体側面を向けており、頭部と見られる部位の奥に先述した太陽が存在するため、実体は逆光で撮影されている。
- カメラ自身と共に、岩塊の頭部側面に存在する穴へと直線的に引き寄せられているD-1533。
[01:29〜] D-1533とカメラは岩塊に接触し、抵抗なくその内部へと取り込まれる。映像は完全にブラックアウトする。録音機材は極めて高速で流れている成人男性の発語と見られる音声を記録し始める。音声は徐々に若年男性、小児、そして乳幼児が発するものへと変化していき、5時間33分間の記録が完了して以降は完全な無音状態となる。音声の解析結果は、少なくとも最初の7分24秒間はD-1533が財団への雇用からSCP-1533-JP調査任務の終了までに行った全ての発言が逆順で圧縮されたものであり、それ以降の音声もD-1533に由来すると推測されることを示す。
《実験終了》
反復して試行された追加の調査実験は、いずれもSCP-1533-JP最深部における調査人員の喪失という共通する結果をもたらしました。各試行の特筆すべき差異は最終的に記録される音声の変化のみに留まり、それらは試行時の調査人員が生涯に行った全ての発語を5時間33分に圧縮して逆再生したものであると見られます。