SCP-1535-JP
評価: +40+x
blank.png
SCP-1535-JP

継承イベント発生を目的として、17世紀のSCP-1535-JP-Aが制作した襖絵。非異常性のため、制作過程に関する情報を偽装した上で財団フロント施設へ管理を委託。

アイテム番号: SCP-1535-JP

オブジェクトクラス: Euclid

特別収容プロトコル: SCP-1535-JPは、潜在先であるSCP-1535-JP-Aを保護することにより収容されます。

SCP-1535-JP-Aはサイト-8137内の専用区画にて保護されます。人型実体収容の汎用プロセスに加え、水墨画技術の修練時間が設けられています。書籍などは検閲を得て支給されます。

SCP-1535-JP-Aの保護と同期間、継承イベントでの新規SCP-1535-JP-A候補となる人材が育成されます。複数人が並行してプロジェクトに配置され、候補者はSCP-1535-JP-Aを含む専門家からの指導を受けます。

継承イベントが実行可能となった場合、事前に収容設備の更新を完了させてから、実験施設にてイベントを実行します。イベントの複雑化による未知の事例の発生を回避するため、イベントに対する実験は現在見送られています。イベント終了後、SCP-1535-JP-Aの登録データを更新することにより、すべてのプロトコル更新工程が終了します。新規SCP-1535-JP-A候補の育成プロジェクトはイベント終了後から72時間以内に開始されます。

説明: SCP-1535-JPは完全な個体として自身を流動させることが可能な知識体系です。SCP-1535-JPに内包されている知識/技術は総じて、狩野派1絵師の特色を示す水墨画法に関連します。以下、SCP-1535-JPが内包する知識/技術の具体例です。

  • 絵筆による描画技術。財団内部の美術研究者の多くは、美学的観点で高評価を与えた。
  • 水墨画や禅思想の知識。未発見の絵画や書物に基づいた情報が含まれている。
  • 作品制作や別個の物事に対する経験知。

SCP-1535-JPは特定の対象(以下、SCP-1535-JP-A)に知識/技術として保有されることにより、その存在を維持します。SCP-1535-JP-AはSCP-1535-JPを忘却できませんが、これはSCP-1535-JP-Aの忘却作用に対し、SCP-1535-JPが自身の抹消を回避する何らかの行動を取るためと推測されています。また、SCP-1535-JP-Aの身体上に致命的な負傷や病原が発生した場合、SCP-1535-JP-Aの身体から噴出した純黒の液体が部位を被覆し、その後に結晶化することで症状の進行を鈍化させます。この現象はSCP-1535-JPによるSCP-1535-JP-Aの生命維持活動と考えられています。

SCP-1535-JPに単一個体としての自律意識が内在しているかについては、現在では確定していません。財団が捕捉したSCP-1535-JP-Aは微弱な自律意識の存在を主張しており、SCP-1535-JPの潜伏期間が長期になるにつれSCP-1535-JP-A自身の意識と同化すると発言しています。

SCP-1535-JPは特定状況下においてSCP-1535-JP-Aを殺害し、新たな対象(以下、SCP-1535-JP-A′)に保有されます。このとき、一連の異常現象(以下、継承イベント)を発生させます。

SCP-1535-JP: 継承イベント

発生状況: SCP-1535-JP-A′が水墨により作品を制作。SCP-1535-JPが新規の被保有者としてSCP-1535-JP-A′を認定した場合、継承イベントが実行可能となる。SCP-1535-JP-A、SCP-1535-JP-A′両名が視認範囲内に存在することが開始の条件だが、何を起点とするのかは判明していない。

1. SCP-1535-JPがSCP-1535-JP-Aの粘膜部位から、純黒の液体として現出。SCP-1535-JP-Aの結晶化部分は即座に破壊され、鈍化されていた症状は急速に進行する。現出したSCP-1535-JPは粘膜部位からSCP-1535-JP-A′へ進入する。
2. 再び液状のSCP-1535-JPがSCP-1535-JP-A′から放出。肥大化し、SCP-1535-JP-A′が制作した作品の主題を模した形状に変化。SCP-1535-JPはその形状を利用してSCP-1535-JP-Aを殺害し、肉体を吸収する。このときSCP-1535-JPはSCP-1535-JP-A′と物理的に接続しているが、SCP-1535-JP-A′はSCP-1535-JPを制御できない。
3. SCP-1535-JPがSCP-1535-JP-A′の体内へ収縮する。一定時間経過の後、SCP-1535-JP-A′はSCP-1535-JPの内在を認識し、イベントが終了する。


SCP-1535-JP: 経緯

1946/██/██、財団は管理を担当していた蒐集院の集団を吸収したことにより、SCP-1535-JPを捕捉しました。蒐集院施設を改装してサイト-8137が建設され、1947/2/██、蒐集院の管理手法を踏襲した特別収容プロトコルが制定されました。

財団の介入以前、蒐集院は狩野派本家と密約しており、共同管理体制を採択していました。この体制は数世紀間、狩野派が勢力を弱めた以後も継続されていたことが確認されています。そのため財団の捕捉時点では、管理施設内部に狩野派所属を称する多数の人員が配備されていました。財団は当時SCP-1535-JP-Aであった狩野源秀氏、および新規SCP-1535-JP-A候補者4人を保護対象とし、それ以外の人員は雇用処置もしくは記憶処理を実施することを決定しました。

蒐集院より回収された資料では、SCP-1535-JPの起源は狩野派2代目である狩野元信2とされています。以下は回収された資料に含まれていた、SCP-1535-JPに関する調査の総括記事です。現代語訳の上、簡易的な注釈が追加されています。



現時代におけるSCP-1535-JP管理記録


1947/2/██、SCP-1535-JPは完全収容されました。柚澤博士を主任として、SCP-1535-JPの本格的研究が開始されました。

インタビューログ: SCP-1535-JP-A-01

実施日: 1947/3/██
対象: SCP-1535-JP-A-01(狩野源秀、56歳男性)
インタビュアー: 柚澤伊吉


インタビュアー: 改めまして、よろしくお願いします。健康面も含め、初期収容時と変化はないようですが、こちらも随時記録が必要ですので。

SCP-1535-JP-A-01: 了承しております。聞いておきますが、胃にある癌も悪化していないのですよね。

インタビュアー: ええ。先日も検診をしましたが、癌細胞を結晶が取り囲み、物理的に進行を封じているようです。これもSCP-1535-JP、狩野の魂による作用だと我々は考えています。 [喉を鳴らす音] さて、本題に移りましょうか。まず、あなたがSCP-1535-JPを保有した経緯について、お話願えませんか。

SCP-1535-JP-A-01: わかりました。それには、私がここに連れられて来たときまで遡る必要がありますが、よろしいですか。

インタビュアー: お願いします。

SCP-1535-JP-A-01: 私がまだ八つほどのことでしたかね。ひもじい農民の息子に過ぎなかった私を、買い取らせてくれという者が来たのです。着物は立派で、親父のとは比べものになりません。当の金も、小作人には馬鹿みたいな額でした。私は三男坊でしたし、親父は私をほとんど迷わずに売りましたよ。そうして、この御在所の山の中へ連れて来られました。

インタビュアー: となれば、境遇に不満を抱いていたのではないですか?

SCP-1535-JP-A-01: 最初こそ自分の運命を恨みましたが、そのうちに屋敷の暮らしには慣れましたよ。待遇も酷いものではありませんでした。墨や金泥に囲まれた生活は、私の性に合っていたのです。

インタビュアー: 施設で絵師として修練を積んだ、ということでしょうか。

SCP-1535-JP-A-01: そうなります。師の制作への参加を主とし、個人での技法を磨くことも合わさっていました。それが一日中、四季を問わず行われていました。外界から隔絶され、戦争も知らずに過ぎるうちに、年月は経っていきました。連れて来られた中から逃げ出す者もいましたね。奴らがどうなったかは、私の知るところではありませんが。

インタビュアー: あなたの師も制作をしていたのですか。すると、外部から依頼を受けていたのですか?

SCP-1535-JP-A-01: いいえ。すべては修練です。技を磨き続けるための。描いた絵は余所から来た者たちが勝手に持っていくのです。

インタビュアー: それはあまりにも虚無的では? 師を評価する者はいないのでしょう?

SCP-1535-JP-A-01: さぁ。しかし、それでも良かったのかも。私自身、この生業を虚無的とは思いませんから。魂に突き動かされ、絵の道を進んでいくことに生き甲斐を見出していた、そう思われます。

インタビュアー: なるほど、失礼しました。では、実際に魂を継いだあなたの感覚はどのようなものですか?

SCP-1535-JP-A-01: [息を漏らす音] 不明確、といいましょうか。魂が私のどこを彷徨っているのか、今ではまったくわからない。移ろっているのか、止まっているのか、それすらも。一つ決定されているのは、絵師として在り続けることです。

インタビュアー: 今では、と言いましたね。昔は覚えていたのですか?

SCP-1535-JP-A-01: おそらくは。少なくとも、以前はより分かれていたと思います。これも慣れでしょう。より若い感覚が知りたいなら私が死んだ後、継いだ者に聞きなさい。4人にまで削られましたが、皆よく育ってくれました。特に、あなた方も残した宮原という男はなかなか筋がいい。

インタビュアー: そうですか。 [沈黙] もう一つ、よろしいでしょうか。継承イベント、あなたのいう儀式の必要性についてです。

SCP-1535-JP-A-01: つまり、何ですか。

インタビュアー: 我々からすると、このオブジェクトにおいては儀式を実行する必要を感じないのです。

SCP-1535-JP-A-01: なぜでしょう?

インタビュアー: 現状、あなたは実質的に不死です。目的が技術の継承であるとしたら、儀式の手順など踏まず、あなたが残ればいい。あなたもそれを望むはずだ。儀式を実行すれば、現保有者は殺害されると文献にはあります。我々としては、事象の観測を行うためにも実行を了承するでしょう。が、あなたを含めた歴代の保有者たちが後継者育成に積極的だった理由が解明できないのです。蒐集院から強い指示があったとも思えません。何か告げておくべき事項があるならば、この場で述べてください。

SCP-1535-JP-A-01: なんと言いますか、複雑に考えているのですね。ですが、答えは単純です。あなた方が納得するかは別としてね。

インタビュアー: それでも構いません。

SCP-1535-JP-A-01: 儀式とは、柱です。狩野派がどうだという全体の話ではなく、私個人の話として。ただ、これが何の柱だったかは忘れ……いや、溶けたと言いましょうか。

インタビュアー: 溶けた?

SCP-1535-JP-A-01: はい。狩野の魂を捉えることができないのと同様に、儀式への感情もすっかり私の中で混濁してしまったようです。しかし、それは関係がありません。私は儀式に向かって自らと弟子たちを鍛え続けるしかない。

インタビュアー: では、すぐにでも実行してはどうですか? 技量などという曖昧な水準に囚われずに。そもそも、継承を済ませればあなたが持つ全技術は受け渡されるのですから、これも虚無的ではありませんか。

SCP-1535-JP-A-01: 残念ながら、判定をするのは魂です。私ではありません。弟子たちを見ているのは私ではなく、狩野派の体系なのです。 [沈黙] 体に留めた私には伝わる感覚ですが、まだ継承には時間がかかるでしょう。

収容以降、SCP-1535-JP-A-01の性格傾向は寡黙な状態へ徐々に変化していきました。また、サイト内行動の自由化や美術に関する資料支給に対する要求回数が年月経過とともに増大しました。一律に前者は却下、後者は定期的な供給を実施することで対応しました。

1968/11/2、新規SCP-1535-JP-A候補として育成されていた宮原今治氏の制作作品がSCP-1535-JP内の水準に達した、とSCP-1535-JP-A-01は報告しました。宮原氏の承諾後、宮原氏をSCP-1535-JP-A′と指定しました。

SCP-1535-JP-A-01、SCP-1535-JP-A′へインタビューを試みたところ、SCP-1535-JP-A-01のみがこれを拒絶しました。

インタビューログ: SCP-1535-JP-A′

実施日: 1968/11/2
対象: SCP-1535-JP-A′(宮原今治、43歳男性)
インタビュアー: 柚澤伊吉


インタビュアー: このインタビューはイベント実行に伴い、心理状態などを記録するためのものです。早速ですが、現在の心境はどのようなものですか?

SCP-1535-JP-A′: 興奮と現実味の無さが織り交ざったような、心境としてはそう言えるのでしょうか。目指してきたことが目の前にあり、むしろ存在していない気さえしているのかもしれません。

インタビュアー: このイベントをよほど神聖視されているようですね。

SCP-1535-JP-A′: あなたたちは神聖視と呼ぶかもしれませんし、他の者からすると確かにそうなのでしょう。しかし、私とあなたの生活観が異なるのも事実です。財団という組織が我々に介入する以前から、私と仲間は絵に呑まれていました。隔絶され、限定され、研がれて今の私があるのですから。

インタビュアー: それでは、詳しく聞かせてもらいましょうか。

SCP-1535-JP-A′: はい。先ほども言った通り、私は現在までを絵に捧げてきました。屋敷に連れて来られ、私は絵筆を与えられました。それが取り柄のない私に与えられた、誇るべき一点となりました。何より、何より……愉楽だったのです、描くことが。あの屋敷は、私に尽きることのない愉楽を与えてくれたのです。今が昔ほど楽しいかと聞かれたら違うと答えますが、忘れてはいません。

インタビュアー: ありがとうございます、熱意は伝わりました。続いて質問ですが、イベントを経ることで自分はどうなると考えますか?

SCP-1535-JP-A′: [沈黙] 段階を進めることができる、と考えています。

インタビュアー: つまり、具体的に言うと?

SCP-1535-JP-A′: [呼吸音] 正直に言うと、絵に行き詰まりを感じています。これ以上筆を走らせたところで、本当に技量が上達するのかと。形を取ることが重要なのは理解していますが、風格が不足しているのです。師には到底、及ばない。けれど、師の技を直接受け継げるのであれば。

インタビュアー: 源秀氏の技法により、解消できると。

SCP-1535-JP-A′: そうです。本来自らの力により解決すべき課題なのですが、このまま留まっていて何かが変わるとは思えないのです。依存するつもりは全くありません。師の技を得ることで何かが少しでも変われば、私には十分です。だから、覚悟とともに喜びを感じてもいます。ですがこれは……課題解決のためだけではないですね。

インタビュアー: 他にも、起因する出来事があるのですか。

SCP-1535-JP-A′: 別に大したことでは。単に、認められたことが嬉しいという幼稚な理由です。重ねてきた修練が実を結び、師から後継を言い渡されたことが、何よりも嬉しい。それだけです。他の仲間には、悪いですけど。

インタビュアー: 後継認定を下したのは源秀氏ではなく、SCP-1535-JPですが。

SCP-1535-JP-A′: ああ、そうでしたね。すみません。 [沈黙] あの、師と面会する時間は、今から取れますか。

インタビュアー: 難しいでしょうし、私が判断するとしても却下します。ただ、イベント開始前には実質的に会話は可能でしょうがね。何か、ありましたか?

SCP-1535-JP-A′: いえ。しかし……私は師を殺すことについては、随分と前から覚悟はできていました。恐れることがないわけではないのですが、狩野という組織のために必要だと理解しています。けれど、師に拒絶の意思が本当にないとは限りません。だから顔を合わせたかったのですが……あの、願いを聞いてもらえませんか。

インタビュアー: どうぞ。

SCP-1535-JP-A′: もし師が儀式に否定的ならば、すぐにでも中止してくれませんか。

インタビュアー: 共有し、議論します。ありがとうございました。


1968/11/4、プロトコルに従って継承イベントは開始されました。

事例ログ: 継承イベント01

実施日: 1968/11/4
実施場所: サイト-8137大規模実験場


SCP-1535-JP-A-01: 狩野源秀(76歳男性、現SCP-1535-JP保有者)
SCP-1535-JP-A′: 宮原今治(43歳男性、次SCP-1535-JP保有者)

宮原氏が制作した作品は六曲一隻の屏風であり、主題は雲龍図であった。


[00:00:00] SCP-1535-JP-A-01、SCP-1535-JP-A′、実験場に配置。SCP-1535-JP-A-01は逃亡防止のために簡易的に拘束し、位置を固定。担当職員より、観測開始が告げられる。

[00:00:15] SCP-1535-JP-A′が発話。内容は謝罪と礼、イベント開始前に対話を求める趣旨のものである。SCP-1535-JP-A-01はこれを無視し、別の方向を向いている。

[00:00:46] 発話は継続したまま、SCP-1535-JP-A′がSCP-1535-JP-A-01に接近。SCP-1535-JP-A-01がSCP-1535-JP-A′の方向を見る。

[00:00:55] 少々の距離を取ってSCP-1535-JP-A′が静止。発話は継続しているが、次第に声量が増加。SCP-1535-JP-Aは首を下方へ傾ける。

[00:01:02] SCP-1535-JP-A-01が口を開く。

[00:01:04] SCP-1535-JP-A-01の口内からSCP-1535-JPの液状化実体である、純黒の液体が現出。同時に目、鼻孔、耳などの粘膜部位から同様にSCP-1535-JPが放出される。SCP-1535-JP-A′が後退を開始する。

[00:01:26] 放出量は加速度的に増加し、床に一定量が蓄積。SCP-1535-JP-A-01の周辺が、その足首までの高さでSCP-1535-JPに満たされる。また、SCP-1535-JP-A-01が床に倒れるが、これは胃の結晶化部分が破壊されたためと考えられる。

[00:01:31] SCP-1535-JPの一点が隆起。不明な推進力により中空へ持ち上がる。

[00:01:36] 隆起した一点から一本の流れが発生し、放出されたSCP-1535-JPがその方向へ流れ始める。

[00:01:42] 放物線状の軌道を取り、SCP-1535-JPがSCP-1535-JP-A′へ向かう。

[00:02:06] SCP-1535-JPがSCP-1535-JP-A′を捕捉し、接触。

[00:02:07] 粘膜部位から、SCP-1535-JPがSCP-1535-JP-A′へ進入。

[00:02:35] SCP-1535-JP-A′への、放出されたすべてのSCP-1535-JP進入が完了する。SCP-1535-JP-A′は床に倒れるが、意識を保っているのが確認される。

[00:02:40] SCP-1535-JP-A′の表皮に振動が見られ、再び液状のSCP-1535-JPが現出。

[00:02:53] 放出量が一定に達し、SCP-1535-JPが特定の形状への変化を開始する。

[00:03:07] SCP-1535-JPが段階的に飛散。空間に液状のまま固定される。

[00:03:18] 全長7m程度の"龍"を模した実体と"雲"を模した不定形実体へ変化し、自律行動を開始する。SCP-1535-JP-A′は"龍"の内部へ格納された。

[00:03:23] "龍"が浮遊し、SCP-1535-JP-Aへ移動を開始。SCP-1535-JP-A-01はこれを視認しているが、移動しない。

[00:03:37] SCP-1535-JP-A-01が口を開く。発話したとされるが、声量の不足から音声収録に失敗している。

[00:03:40] "龍"が備わった爪により、SCP-1535-JP-A-01を攻撃。胸部全体を貫通。この時点で、SCP-1535-JP-A-01は死亡したと考えられる。

[00:03:46] 実験施設内に強風が発生。(事後観察により、"雲"の作用と推定。)SCP-1535-JP-A-01が宙に吹き飛ぶ。

[00:03:49] "龍"がSCP-1535-JP-A-01を捕食。

[00:03:55] "龍"、"雲"が自壊し、SCP-1535-JPとして集合する。SCP-1535-JP-A′が表出し、SCP-1535-JPは再度粘膜部位から進入する。

[00:04:11] 再度、SCP-1535-JPのSCP-1535-JP-A′進入が完了する。

[00:04:12] SCP-1535-JP-A′は意識を保っている。呼吸は荒いが、外傷は見られない。

[00:04:42] 担当職員より、観測終了が告げられる。

1968/11/5、SCP-1535-JP-A′をSCP-1535-JP-A-02に登録する作業が完了。連動してインタビューを試みましたが、SCP-1535-JP-A-02は複数回これを拒絶しました。また、食欲不振、睡眠障害の症状が発生しました。これらは後に、精神不安によるものと診断されています。

1968/12/15、SCP-1535-JP-A-02側の申請により、インタビューを実施しました。

インタビューログ: SCP-1535-JP-A-02

実施日: 1968/12/15
対象: SCP-1535-JP-A-02(宮原今治、43歳男性)
インタビュアー: 柚澤伊吉


インタビュアー: 長期間、ほぼ収容室に引きこもっていたようですが、一先ずは安定しましたか?

SCP-1535-JP-A-02: おそらく、問題はないと思います。気は収まりました。

インタビュアー: この期間は何を? いや、カメラで監視はしていますが、あなたは僅かな水墨画の修練を除き、何もしていないようでしたし。

SCP-1535-JP-A-02: 考えごとをしていました。瞑想、といえばわかるでしょうか……すみません、このような回答で。懇意でこれまで私の面倒を見てくれていたというのに。

インタビュアー: あなたが心配することはありません。我々としても、あなたを欠いては職務に支障をきたしますので。源秀氏をあのような形で失ったことはショックかもしれませんし、私も人間ですので同情はします。

SCP-1535-JP-A-02: い、いえ! 違うんです。私が、私があの状態になったのは、師を死なせたからではありません。もちろん、実際に感じる衝撃はありますが……覚悟はしていたことです。

インタビュアー: それではなぜ、あのような状態に。差し支えなければ、お聞かせ願えませんか。

SCP-1535-JP-A-02: [長時間の沈黙]

インタビュアー: 話せば、我々なら問題解決の糸口を掴めるかもしれない。

SCP-1535-JP-A-02: [沈黙] 私は、何も変われなかった。変われなかったんです。

インタビュアー: それは何について言って [SCP-1535-JP-A-02により遮られる]

SCP-1535-JP-A-02: 師から体系を継いだというのに、私は何も変われていないんです。風格は不足していて、線は折れそうで、濃淡は煩雑でした。繰り返し、繰り返し描いても結局は浅薄な模様が紙の上に並ぶだけでした。私はあの未熟な頃のまま、一歩も動けずに固まっているのです。

インタビュアー: 一旦落ち着いてください……要約すると、水墨画技術に変化がなかったのですか?

SCP-1535-JP-A-02: そうです。あんなにも大逸れた儀式を経て、師を無残に殺しておきながら、私は変われていなかった。それが私を締め付けました。

インタビュアー: 少々不可思議な話ですね。しかし、それなら考えられることがあります。変化がなかったということはつまり、あなたの水墨画技術はSCP-1535-JPに内在するそれと既に同等です。これは誇るべき事項だと思いますが。

SCP-1535-JP-A-02: 私はそれを十分とは感じません。

インタビュアー: 敢えて聞きますが、なぜですか。

SCP-1535-JP-A-02: 以前も言ったと思います。私が求めていたのは、行き詰まりを打開することでした。私はもう、自力では限界に達してしまっているのです。師が描くような見事な絵は、私には描くことができない。だから認められ、技を継げることを喜んだ。それなのに、なのに。私は先に進めないのです、何をどれだけ望もうと。

インタビュアー: 壁に到達してしまったのですね。

SCP-1535-JP-A-02: はい……あの儀式を経て、狩野の魂を継いで解決できないなら、私にはどうすることもできない。そう考えてもおかしくはないでしょう。私は確かに、魂に認められるという目標に達した。けれど、そこからどうしろなんてことは、最早誰も言ってくれません。師すら既にいないのですから。思えば、認めてほしかったのは魂などではなく、師その人だったのかもしれません。そして、互いに関係を続けたかったのかも……遅い後悔ですが。

インタビュアー: ですが、こうして顔を見せているなら、越える切っ掛けを掴んだのですよね?

SCP-1535-JP-A-02: いえ。先ほども言った通り、この1ヶ月はろくに修練もせず、瞑想にふけっていました……水墨画は禅宗寺院で発達したものだと、大昔に師が教えてくれたので。そうすると、技術とは関係のない何か、私に内在する何かが見えてきたのです。それを報告しに出てきました。

インタビュアー: それを言語化することは可能でしょうか?

SCP-1535-JP-A-02: 感覚的ですので、伝わりにくい部分があるかもしれませんが。 [呼吸音] 目を閉じると、下方に薄く、輝きが見えることがあります。どことなく暖かく、けれど突き放す棘めいたものも持っています。私は、それに触れようとしてみました。

インタビュアー: 接触ができるのですか?

SCP-1535-JP-A-02: あくまで、比喩です。しかし、あなた方ならそういったことも実際にできるかもしれませんが。とにかく、意識を自分の体の底へ沈めていくと、近づいていくような気がしました。それは私とは異なっていましたが、同系であるとも思えました。

インタビュアー: なるほど。おそらく、薄く重なる部分があったのでしょう。それで、その存在の正体に、心当たりは。

SCP-1535-JP-A-02: これが正確なのかは本当に確証がありませんが、よろしいですか。

インタビュアー: お願いします。

SCP-1535-JP-A-02: 私に最も近い場所に師が、狩野源秀が居ました。その奥に師に近い誰かがいて、またその奥に誰かがいる……鎖は連なり、奥へ奥へと繋がっていました。最奥に誰がいるか察しが着いたところで、瞑想が解けてしまった。見たものとしては、こういったことしか言えません。

インタビュアー: いえ、構いません。結構な収穫です。

SCP-1535-JP-A-02: 助けになるのであれば、私としても光栄です。 [沈黙] ところで柚澤博士、突然ですみませんが、私にも弟子をつけてくれないでしょうか。

インタビュアー: 申し出があれば協議して決定しますが……確かに急ですね。あなたが見たものと弟子の募集に、何か関係が?

SCP-1535-JP-A-02: 正直、わかりません。しかし、師があの場所にいたのは、何かを成したからでしょう。私は師に近づきたく、絵に努めてきました。ならば、師の真似事からでも何かを始めてみれば、私もまだ絵の道を歩くことが許されるかもしれません。弟子に限ったことではなく、まだ成していないことは他にもあるのではないか、と。

インタビュアー: ですが、あなたが継承イベントを起こした場合、あなたは死亡します。それを考慮すると、後継者は育成すべきではないと考えることもできますが。

SCP-1535-JP-A-02: 死んでしまおうと、どのみちここからは無間の地獄です。未だ壁を越える方法は見つかりませんが、腹に穴を空けたとしてもそれを見つけ、私は進んでいきたいのです。画流を継ぐとは、きっと彼らを継ぐということなのでしょう。ならば、私は応えなくてはなりません。 [沈黙] 今なら、師が龍に食われる前に呟いたことが理解できます。

インタビュアー: あなたには聞こえていたのですか……彼は何と言ったのですか?

SCP-1535-JP-A-02: 「最高の景色だ」と、聞いたことのない明るい声で。きっと、この根源である光信も、彼を継いだ晴信も、その景色を見たのでしょう。見られるから、この環は持続するのでしょう。私も、最高の景色とやらを見ます。見てから、師の下へ向かいます。

1968/12/24、協議の結果、財団側より後継者候補を派遣するプロトコルが新規に追加され、同年12/27に5人のDクラス職員がプロジェクトに配置されました。

特に指定がない限り、このサイトのすべてのコンテンツはクリエイティブ・コモンズ 表示 - 継承3.0ライセンス の元で利用可能です。