SCP-157-JP
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財団による発見時のSCP-157-JP。

アイテム番号: SCP-157-JP

オブジェクトクラス: Euclid

特別収容プロトコル: SCP-157-JPはサイト-8163の特殊防音コンテナに保管されています。対象の振り子部分には緩衝材を取りつけ、振り子同士がぶつかり合うことを避けてください。なお、振り子そのものが動かなくなるような固定は禁止します。オックス・イベント発生時に実験その他の理由でSCP-157-JPを取り扱う際、担当職員には財団指定の遮音装置の着用が義務付けられます。

説明: SCP-157-JPは底面に日本語で「めさましとけひ」と刻印された、西洋風の振り子式時計です。材質や機構そのものに異常な点は確認されないにもかかわらず、収容から現在に至るまでSCP-157-JPは劣化・破損・ゼンマイ切れ他の理由で稼働を停止する兆候を見せていません。

SCP-157-JPは毎夜のAM2:00(JTC/UTC+0900)頃に活性化し、その異常性を発露します。活性化時、対象は一定間隔を空けて連続で振り子部分をぶつけあわせ、16,000Hzから22,000Hzまでの特殊な高周波音1を60dBで発生させ続けます。以降、この周期的活性化をオックス・イベントと呼称します。

実際に音として認識したかにかかわらず、この特殊音を爬虫類・哺乳類・鳥類が聴取した場合、外的刺激への鈍化、身体動作の停止、意識レベルの低下といった反応が即座に表れます。この反応は急性的な睡眠発作に類似しており、財団による曝露実験では、被験者は由来不明の耐え難い眠気を感じると報告した直後に昏倒しました。引き起こされる睡眠に異常な点は無く、オックス・イベントの終了後、曝露者の意識レベルは時間の経過とともに自然に回復します。

オックス・イベントは、SCP-157-JPが特定の状況下に置かれた場合のみ終了します。現在財団が確認している条件は2種であり、1つは振り子部分に緩衝材が取り付けられる等により、オブジェクトが特殊音を発生することが達成できない場合です。この状況に置かれたSCP-157-JPは二度振り子を打ち付けた時点で特殊音の発生プロセスを停止させます。振り子そのものが動かなくなるような固定はこれに当てはまらず、多くの場合振り子の動力がSCP-157-JPの材質・機構では不可能なレベルにまで瞬間的に増加することで固定は破壊されます。

2つ目は、オブジェクトが京都府京都市の集合住宅「████」の212号室の内部にある場合です。この条件が満たされる場合、オックス・イベントの開始から数分後、SCP-157-JPの周囲では不定方向の微弱な衝撃波が発生します。この衝撃波によりSCP-157-JPは僅かに揺れ動き、特殊音の発生プロセスを停止させます。これら諸現象の発生とオックス・イベントの終了との関連性は不明です。

補遺1: SCP-157-JPは、消滅済みのインターネット怪談フォーラム「南関東奇譚会」内で確認された数例の"奇妙な物件"に関する投稿と、それらに対する財団の調査に引き続いて発見されました。当時「████」の212号室は長く空き部屋となっていたにもかかわらず入居者を断り続けており、投稿はそれを不審に思っていた投稿者による独自調査に次いでなされたものでした。

以下は、同集合住宅の管理人を務めていた土岐 泰子氏に対するインタビュー記録です。

回答者: 土岐 泰子氏

質問者: Agt.松里

序: インタビューは当該集合住宅の管理人室で行われた。土岐氏の発言には関西方言が含まれるため、適宜平易な言葉に直している。


[記録開始]


土岐氏: それで、何から聞きたいの?

質問者: では、あなたがあの時計について認知した時期を教えてください。

土岐氏: このアパートの管理人になってすぐだから、11年くらい前かね。前任からの引継ぎで、"他言無用"と念を押しであれに引き合わされてね、まぁたまげましたよ。時計が動き始めたと思えば気が付いたら朝になってるんだから。後は指示通り波風立てずやってきたわけだけど、最近の若い人2は変なことに興味を持つもんだね、ホント。

[以降数分間、関連性の薄い発言が続く]


質問者: なるほど、興味深い話ですね。ところで、先ほど言っていた"指示"とは?

土岐氏: ああ、あの時計を絶対に212号室から持ち出すなだとか、部屋は定期的に掃除しろだとか供え物をしておけだとか、そういう細かい指示だね。正直なところ面倒だったけど、そうしないと祟りがあるって脅されちゃあねえ3

質問者: そうした指示は前任の管理人によって作成されたのでしょうか?

土岐氏: いやぁ、前任者も詳しいことはオーナーに聞けって言ってたね。ああ、今はもう前オーナーだった。直接会ったのは2,3回くらいだけど、時計について何か知っていた人が居るならあの人だと思うね。私の勝手な見立てだけど。

質問者: その方の連絡先を教えていただけますか?

土岐氏: 構わないけど、暫く前に亡くなったはずだよ4

質問者: 他に何かオーナーから聞かれたことは?

土岐氏: えーと、確かあの時計について尋ねたことがあったんだがね。なんでも昔はここに大きい屋敷か何かがあって、けど、戦争が終わってからお家が潰れてしまった後にこのアパートが建ったらしくて……ああ、そうそう!時計は屋敷があったころに献上されたものだって聞いたねぇ。

質問者: 献上ですか?

土岐氏: そうそう、これ。時計と一緒に箱に入ってたそうなの。

[土岐氏が書類棚から古びた紙片を取り出す。以下、紙片に書かれていた文章の転写]


[解読不能の漢字]様
御子息のめさましとけひ
確かに御納めし〼

東弊組


質問者: これは…… [数秒沈黙] この"東弊組"についてご存じのことは?

土岐氏: さあてね。でもあんなものを送ってくるくらいだから……きっと随分、冗談が好きな方々なんでしょうねぇ。

[土岐氏は忍び笑いをもらす]


土岐氏: 夜に鳴って人を眠らせる時計なんて、一体誰が「目覚まし時計」と呼ぶのかしら。

[記録終了]

20██年現在、該当の集合住宅「████」は財団が買い取り、SCP-157-JPの実験に利用されています。


補遺2: 20██/██/██の夜間、サイト-8163は蒐集院残党勢力の一つ"漏刻守辰司寮"による襲撃を受けました。襲撃の目的は不明瞭ながら実行部隊はSCP-157-JPの収容区画に侵入し、複数のオブジェクトの収容違反に引き続いて同サイトに駐屯していた機動部隊ろ-5("陰陽師")との戦闘を展開しました。その結果SCP-157-JPの緩衝材は外れ、終了条件が満たされていない状況でオックス・イベントが開始されたと見られています。

以降の記録は当インシデント後に回収された断片的なものに留まっています。少なくとも発生直後に機動部隊ろ-5("陰陽師")及び漏刻守辰司寮の部隊がSCP-157-JPの異常性に曝露したと見られ、その数分後にはサイト-8163に勤務していた財団職員に加え、サイト近隣に居住していた一般市民が昏倒する様子が複数の監視カメラで確認されました。

「SCP-157-JPから発せられる特殊音は通常の活性化時と同じく60dBを保っていた」という音声記録から確認された事実とは相反するように、これらの映像はSCP-157-JPの特殊音が通常の音に比べ明らかに遠距離にまで到達し、同時に振り子が打ち鳴らされる度にその到達範囲が拡大していったという不可解な事象の発生を示しています。

京都府外の財団サイトには、運転中のドライバーが睡眠状態に陥ったことで発生した多数の交通事故に関する市内からの通報と、それらの通報が全て中途で断絶したという奇妙な現象についての報告が相次ぎ、更に京都市内に配置された全国現実性強度観測網("Kant-NETs")のモニタリングポストは大規模な負の現実性変動を記録しました。これはSCP-157-JPの特殊音がサイト-8163を中心とした半径80m範囲にまで到達したことが確認されたのとほぼ同時刻のことであり、その変動範囲は同半径円内に重なっていました。

この時点で範囲内の平均現実強度は0.12Hm以上0.9Hm以下の低ヒューム空間となっており、身体の一部が溶け崩れる、動物の特徴が混ざりこむ等の異形の特徴がみられる人型実体が多数出現したことが確認されています。これらの実体は列を成して進み、以下の同一の一文を口ずさんでいました。

ひとねぶりは あやし目覚めざ


これらの実体により形成された複数の隊列の進行方向は、全て集合住宅「████」に向かうものでした。また実体が確認され始めると同時に、「████」を震央とする微弱な地震が京都府内に発生したことが観測されています。地震は影響範囲の拡大と連動するように断続的に発生し続け、拡大の半径が約1500mに達するまで継続されました。これはサイト-8163と「████」との間の直線距離にほぼ等しいものとなっています。

これらの諸異常現象についての初動対処は財団サイト-8163のダウンにより遅れ、当時緊急で行われた推定では事態の収束までに最大でおよそ1,400,000人規模の直接的・間接的被害が発生すると予測されていました。

しかしながらその予想に反し、当インシデントは発生から約2時間が経過した時点で自発的に収束しています。

研究班はこの終了について、特殊音が「████」付近にまで到達した際、212号室内及びサイト-8163内のSCP-157-JPの周囲に衝撃波が発生し、室内の物品とSCP-157-JPをほぼ同時に北東方向へ吹き飛ばしたことについて注目しています。これは形態的な面では過去の実験で212号室内にSCP-157-JPを置いた際に発生した衝撃波に近いものの、そのエネルギーについてはより大きいものであると推定されました。またこの衝撃波の発生直後、範囲内の現実性変動が回復すると同時に、活動していた異常実体が平伏の姿勢をとって消失したことが確認されています。

当インシデントの終了後、改めてSCP-157-JPと「████」212号室との関連性についての検証が行われました。特に当時発生していた地震についてはインシデント時の記録から行われた調査の結果、その震源は「████」の直下1,100m付近であると推定されており、この地点には巨大な帯水層が存在することが判明していますが、両者の明確な関連性は不明なままとなっています。


調査報告書の開示請求には セキュリティクリアランスレベル3(SCL-3) を、旧蒐集院の文書を踏まえた完全な調査報告書の開示には 日本支部理事会専用クリアランス(SCL-J) を提示してください。あなたの資格情報は不足しています。



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