補遺2: 実験ログ抜粋
実験記録1579-JP-01~03 - 20██/██/██
実験者: 菅原博士
対象: D-111245、D-111246、D-111247
目的: 秋野神社を中心に発生しているとみられる異常認識現象の確認。
実施方法: 秋野神社境内にてD-111245、D-111246、D-111247にイエイヌの縫いぐるみを見せる。なお、実験前にD-111246は実験に使用する縫いぐるみを確認しており、D-111247には実験目的を伝達した上で、実験中に縫いぐるみが生きているイエイヌに見えた場合に報告を行うよう指示した。
付記: 本実験は初期収容直後に行われており、この時点ではSCP-1579-JPは発見されていない点に留意してください。
結果: D-111245、D-111246は縫いぐるみをシベリアンハスキーの子犬であると主張した。加えてD-111247および菅原博士も縫いぐるみを子犬であるように見えると認識したが、実際は縫いぐるみであるという認識を持っている点でD-111245、D-111246と差異が生じた。また、D-111245、D-111246は実験後のインタビューにて縫いぐるみへの強い愛着を示した。実験1579-JP-03の終了とともに秋野神社はSCP-1579-JPに指定され収容対象として承認された。
分析: オブジェクトの性質として想定されていた異常特性の一部が確認された。なお、今回の調査結果は『非生物の存在が動物として違和感なく理解される』という調査時に確認されていた特性に加え、『非生物の存在が動物のように知覚されるが、この矛盾は理解できる』という観察者ごとに異なる2つの結果をもたらしている点に注目したい。事前調査及び実験結果からオブジェクトは記憶改変もしくは認識改変能力を持つものであり、その異常性の強度は異常認識現象への知識によって軽減が可能であると推察できる。
私は実験中最後までD-111245と話が合わなかった。彼は最後までただの縫いぐるみを生物として案じて『犬を抱くやり方が下手だ』と注文を付けてきたからだ。-菅原博士
実験記録1579-JP-09~18 - 20██/██/██
実験者: 菅原博士
対象: D-111248
目的: SCP-1579-JPとして指定される異常性オブジェクト物品の抽出。
実施方法: 秋野神社からの押収物を無作為に設置した実験室にイエイヌの縫いぐるみを投入しD-111248にそれが何か答えさせる。 なお、菅原博士は対ミーム処置を施された別室で観察している。
付記: 本実験は実験記録1579-JP-03以降の実験にてSCP-1579-JPの異常性が確認できていないことから収容オブジェクトの再定義のため行われた。
結果: 実験1579-JP-18にて石像を設置した時のみ、D-111248は縫いぐるみを秋田犬であると主張し同時に石像を土佐犬であると主張した。しかしこの時菅原博士は変化を観察できず、菅原博士がD-111248に対して事実との矛盾を指摘すると、D-111248はそれについて理解できないという態度を示した。また、D-111248は縫いぐるみに対し強い愛着を示した。
分析: 神社からの回収物を抽出した実験で初めて異常性が再確認された。今後の実験ではこの石像こそが異常性の根源であるという仮定を基として行っていくものとし、石像をSCP-1579-JPとして暫定的に再定義する。なお、SCP-1579-JPは実験以前より物質的に石像であるにも関わらずイエイヌとして観測される性質からオブジェクトの影響下にあるとして監視下にあった。このため、SCP-1579-JPは常に自身の特異性に被曝している特徴を有すると推測されている。また、SCP-1579-JPの異常性に対し対ミーム処置が有用であることが確認されたことから、SCP-1579-JPの暴露対策として対ミーム観察室を今後も活用するものとする。
実験記録1579-JP-31- 20██/██/██
実験者: 漆原博士
対象: 菅原博士、D-186250
目的: 事案1579-JP-01を受け、SCP-1579-JP担当研究員がSCP-1579-JPの異常性に暴露しているかの検証。
実施方法: 実験室にイエイヌの縫いぐるみを投入し、D-186250にそれが何か答えさせる。その後実験室に菅原博士を入室させ、D-186252と菅原博士に同様の質問を行う。なお、漆原博士は対ミーム処置を施された別室で観察している。
結果: D-186250は1回目の回答では縫いぐるみを正確に認識していたが、菅原博士の入室後の2回目の回答は縫いぐるみをゴールデンレトリバーと主張するものに変化した。また、菅原博士も縫いぐるみを同様に認識し、D-186250と菅原博士の両名は縫いぐるみに対し強い愛着を示した。その後両名にクラスB記憶処理を実施したところ、認識は正常化した。これを受け、サイト81██の全職員に対し適切な記憶処理が実施された。
分析: SCP-1579-JPの認知異常効果を菅原博士が有していたことが確認された。以降、このようなSCP-1579-JPに由来する異常性を有する個人をSCP-1579-JP-Aとして分類する。財団は菅原博士が実験記録1579-JP-01にてSCP-1579-JPに暴露している点から、実験記録の信用性を確認するため実験の再検査が審議中である。なお、SCP-1579-JPに由来する認識災害の解消にはクラスB記憶処理が有効であることから、SCP-1579-JP担当職員には本実験同様に記憶処理を今後義務化するものとする。
補遺3: インタビュー記録1579-JP-01 - 20██/██/██
当インタビューは秋野神社の確保以前の聞き取り調査にて神主である██氏へ行った聴取を一部文章化したものである。
対象: 神主
インタビュアー: エージェント・乾
<録音開始>
[重要性の低い会話のため省略]
エージェント・乾: 私は最近越してきたのでこんなところがあるなんて初めて知りました。この神社にはどんな歴史があるんでしょうか。
神主: 歴史、といってもこの神社ができたのは戦後のことでございます。手入れが行き届かなくてめっきり古ぼけてしまいましたが、そのおかげか皆さん風情があると、年期が入ってそうだと、そう話をされます。こればかりは少々複雑な気持ちなのでありますな。
エージェント・乾: 神主さんはずっとここの神主で?建てたのは神主さんのお父様やお爺様ですか?
神主: いいえ。実は私、元はこのあたりの土着の人間でもありません。気が付けばここにいたような私にとってこの社の神主という立場は借り物のようなものですな。この土地にこの神社を設計したのはアキさんでございます。
エージェント・乾: アキさん、それは地元の方でしょうか?
神主: ご存じないのも無理はないでしょう、もう遠い所へ行ってしまった方でしたので……すみません、話がそれてしまいました。
エージェント・乾: いやいや、こちらこそご協力改めてありがとうございます。では、こちらのご神体について聞かせていただいてもいいでしょうか。
神主: はい、この神社が祀っているのは人間と動物との地球の隣人としての歩みです。その中でも特に我々が大切にしているのはあちらの『クレオ』ですな。
[住職はSCP-1579-JPを指し示す。]
エージェント・乾: へぇ、生き物がご神体なんですね。
神主: クレオは立派なものです。一番星から迷い込んだ犬たちを見つけ、その親元まで帰れるまで共に遊び、お乳を与え、守ったのでございます。
エージェント・乾: 母性のあるワンちゃんですね。
神主: いえ、彼はあなたくらいの歳の若者でした。
エージェント・乾: え?そんな若者だなんて、犬じゃないですか。
神主: そう、そこでございます。このクレオが伝える教訓は短くまとめると、我々の存在する形は”何者であるか”と定義する中にあるということであります。そして己のその思いが強ければ、自らのあり様も、周囲の見る目も変わるということです。
エージェント・乾: あーなるほど、説話ですか。何かを成し遂げるには自分にはできると信じることが大事と伝える話なんですね。
神主: いえ、それだけにとどまりません。これは言い換えれば、我々は何にでもなることができるということでございます。これは人として、ということではございません。人間として暮らしているから私は人間だ、と皆は漠然と思っています。だからこそ人間が人間であるということはある意味、しがらみであるとも言えます。クレオの行いは人を超え、また失うことです。けれどそれは決して浅ましいことではございません。人間は常に相対的に幸せを見つめます。絶対的な幸せとは人が人を見失った先にこそあるのでありますから。……失礼、これはアキさんからの受け売りでございます。
エージェント・乾: わかりました。では、この神社を建てたアキさんとはどんな人だったのでしょうか?どうしてこの神社を建てたのでしょう?
神主: 私にもそれはわかりません。ですが、アキさんの仰っていたことで私がもう1つ覚えていることがございます。愛を込めて飢えを迎え入れ倫理を恐れることだ、と。渇望を叶えるために自身がどれだけ歪もうとも、臆面は捨て置いて進むのです。クレオの下ではこの啓蒙は知らず知らずに伝道されてゆくことでしょう。クレオ自身もそうだったのですから。
エージェント・乾: あの、神主さん。クレオは、この犬は一体何者なんですか?
神主: 元はどうだったのでしょうな。こちらのクレオは元より憑代、彼自身もうおりません。私が彼を知るより前に、クレオはアキさんに引き取られてしまいましたから。彼はアキさんが生み出した多くのものの中で、一番の本物、すなわち正規採用品あったと伺っております。彼とはどこか星雲の果てで会えることでしょう。しかし、それを彼と傍目に知ることができるのは、クレオ自身のみでしょう。しかし、それも良いものだと私は思うのです。秘すべきものを曝け出し、見咎められない。それは欲されうる禁断であり、それを求め魂を引き換えに差し出す善き飼い犬こそアキさんが最も愛おしいと見る姿なのです。クレオは昇華したのです。より高位な悦楽を得られる存在に。
<録音終了>
終了報告書: インタビュー後に実施された神社の収容に伴い、神主にはBクラス記憶処理が実施されています。神主の証言に従って周辺住民へのインタビューが実施された結果、『AKI先生』という通称で親しまれる名士が秋野神社の関係者として明らかになるとともに、オブジェクトの制作時期と予想される年代に近隣住民の榑尾██氏が失踪していたことが確認されました。また、調査の中で██市内には家畜および愛玩動物を特別視し神聖に取り扱う迷信が局所的に信じられていることが確認されています。財団はこれらをSCP-1579-JPの異常性や起源に関連したものと断定するとともに調査が継続中です。