SCP-1591-JP
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アイテム番号: SCP-1591-JP

オブジェクトクラス: Safe

特別収容プロトコル: SCP-1591-JPは50匹を上限にサイト-81██の低危険度生物収容室に収容します。50匹を超えた個体は有機リン系の殺虫剤を用いて処理した後、焼却処分します。収容室内は██県██市の███川上流域の環境を再現し、1週間に1度給餌や清掃を行ってください。収容室に入るにはサイト管理官の許可が必要であり、進入はDクラス職員に限り許可されます。また、進入の際は視覚保護用の電子ゴーグルを着用してください。

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収容前に撮影されたSCP-1591-JP

説明: SCP-1591-JPはゲンジボタル(Luciola cruciata)に外見が酷似した体長15㎜程度の生物です。SCP-1591-JPは一般的なゲンジボタルと同様に夜間に尾部が4秒程度発光しますが、光色は赤色~橙色です。この光を継続して10秒以上視認した場合、その人物(以下、視認者)に異常性が発現します。異常性の発現は直接視認した場合に限られ、撮影された写真・モニターに映った映像等を視認した場合には発現しません。

視認者は異常性が発現すると、その時点で抱いていた最も強い欲求を急速に喪失します。対象となる欲求は食欲・睡眠欲・性欲などの生理的欲求以外にも、承認欲求や愛情欲求等・自己実現欲求等多岐に及ぶことが判明しています。複数の欲求を同程度の強さで抱いている場合には、より生命維持に直結する欲求が喪失する傾向があることが実験の結果から示唆されています。また、この異常性は一度に一つの欲求にのみ発現します。この喪失現象に伴い視認者は軽度の困惑を覚えますが、最終的には自身で内省的に合理化を行うことで困惑状態から脱します。欲求の喪失状態は発光中のSCP-1591-JPの視認を終えてから8時間程度で回復します。

SCP-1591-JPは20██/07/██にSNS上へ投稿された「██県██市の███川上流域に赤色に光る蛍が生息している」という情報が財団の注意を惹いたことにより発見に至りました。この投稿を行った人物は後のインタビューで、SCP-1591-JPの発見時に感じていた空腹感が光を眺めているうちに収まったという趣旨の発言をしています。SCP-1591-JPは当初異常性のない新種の昆虫であると考えられ公的機関により調査が行われていましたが、調査の過程で研究者の勤務態度が著しく悪化したという報告が頻発したため財団の興味を引きました。機関に潜入していた財団職員による調査の結果、研究員に対し異常性が発現したことにより知的好奇心や名誉欲が失われたために前述の状況が発生したと結論付けられ、SCP-1591-JPとして収容されました。異常性が発現した研究者にはAクラス記憶処理が行われ、関係者にはカバーストーリー「劣悪な労働環境」が流布されました。また、発見のきっかけとなったSNS上の投稿は財団ネット管理部門によって削除され、カバーストーリー「写真編集による捏造」を流布することで収拾されました。その後当該地域の調査を行った結果SCP-1591-JP群が発見されたため、一部を財団施設に収容したうえで残りの個体を終了処分しました。

補遺1591-JP-1: 調査の過程で、SCP-1591-JPの発見された地域には███村という集落が存在していたことが確認されました。公的記録ではこの集落には9家族が住んでいたものの既に廃村となっており、全住人が隣村に転居していることが確認されています。20██/10/██にこの村の跡地を調査した結果、SCP-1591-JPに関すると思われる文章が元住人の清池家の住居跡より発見されました。内容は以下の通りです。

清池 ██様

この度はご家族を守りたいということで私共ににご相談を頂き、誠にありがとうございます。清池様のご令妹を思う気持ちに一同感動し、何とかお力になりたいということで今回開発した「シズメホタル」の幼虫をお送りいたします。この蛍は通常の蛍とは異なり赤色~橙色の光を放ちますが、さながら焚火から飛び出した火の粉のように揺らめくこの光を10秒程度連続して視認した人物の最も強い欲望を一時的に鎮める効果を持ちます。
幼虫は清流へ放流後2か月程で成虫へと成長します。成虫は清潔な水を与えるだけで2週間程度生存するため、採集した成虫をお送りした飼育箱に入れてお部屋で飼育していただくことことが可能です。部屋に侵入した悪漢が蛍の光を見ることで興奮状態を鎮め、夜間のお二人の身を守ることができるものと考えております。この蛍が清池様とご令妹を守る希望の光となりますことを社員一同祈念しております。

19██年4月
日本生類創研 昆虫部門責任者 ██ ██

この文章が発見された清池家は公的記録においては廃村時点で母と娘1名の2人家族であったとされており、文章中で言及された清池██氏は廃村の前年7月に死亡していたことが判明しています。██氏の死亡の経緯やどのようにして日本生類創研と接触したのかについては調査が進められます。

補遺1591-JP-2: インタビュー記録-01
以下は███村が廃村となった時点でこの村に在住していた柏木██氏へのインタビュー記録です。

対象: 柏木 ██氏(87歳、女性)

インタビュアー: エージェント・桐壺

付記: 柏木氏は██地方の方言による訛りが非常に強いため標準語に直して記録しています。

<録音開始>

エージェント・桐壺: これよりインタビューを開始します。柏木さんは███村にお住まいになっていたと伺いましたが、お間違いないですか?

柏木氏: えぇ、そうですよ。私はあの村で生まれ、あの村で育ちました。あの村のことなら大抵のことは分かると思いますよ。

エージェント・桐壺: それでは、清池██氏はご存知ですか?

柏木氏: もちろん覚えていますよ。██ちゃんのおしめを換えてあげたこともありました。素直で優しい子でしたよ。それが、あんなことになるなんて。

エージェント・桐壺: あんなこと、とは?

柏木氏: 村に真木██という男がいたんですが、その男が清池さんの家に忍び込んで首を絞めて殺したんです。その時の清池のお母さんの悲しみ方といったら……。

エージェント・桐壺: お察しいたします。真木氏が何故清池さんの家に侵入したのかはご存知ですか?

柏木氏: あまり気分のいい話ではないですよ?

エージェント・桐壺: 構いません。ぜひお聞かせください。

柏木氏: あの村は山奥だったということもあって昔から人の出入りが非常に少ない村でした。外から入ってくる人もいなければ、外に出ていく人もいない。若い人だって限られていますから、ある程度の年齢になれば自然と誰と誰が夫婦になるのかということが村中の暗黙の了解となっていました。

柏木氏: 清池さんのところの姉妹は二人とも美人で器量もいいということで村中の評判だったんですが、当時村にいた若い男は真木しかいなかったので、姉妹のどちらかと真木が夫婦になるだろうということになっていました。ところが、この真木という男は非常に酒癖が悪く、しょっちゅう清池さんの家に上がり込んでは██ちゃんに乱暴を働いていたんです。

エージェント・桐壺: 村の皆さんは真木氏を止めようとしなかったのですか?

柏木氏: 何せ年寄りばかりの村で奴は唯一の若い男だったので力づくで止めるということはできませんでした。おまけに一番近い交番も隣町だから、お巡りさんを呼ぶにも時間がかかりすぎて誤魔化されてしまう。あと、清池さんの家は旦那さんが早くに事故で亡くなられているんですが、あの村の地主だった真木家が裏で家計を支援していたので、お母さんも強くは拒めなかったんじゃないか、なんて話もありました。

柏木氏: そんな経緯もあり、あの男は清池さんの家に何度も上がり込んでいたようです。██ちゃんとしても、自分が反抗すれば家計が困ることはもちろん、今度は妹にも害を及ぼされるかもしれない、という思いで耐えていた部分があったんじゃないかと思います。妹のことを本当に可愛がっていた、優しい子でしたから。

エージェント・桐壺: それでは、真木氏が██氏を殺害した事件のことについては何かご存知ですか?

柏木氏: 詳しくは分かりませんが、██ちゃんは首を真木のベルトで絞められて殺されたと聞いています。当日真木がズボンをだらしなく履いて歩いているところを見た人がいましたし、大方酷いことをしようとして抵抗されたから口封じのために、とかじゃないでしょうか。

エージェント・桐壺: なるほど。ちなみに、村で変わった色の蛍が目撃されたという話は聞いたことがありますか?

柏木氏: 変わった色……そういえば、██ちゃんが亡くなったあの日、清池さんの部屋の窓から赤い小さな光が見えたという話を聞いたことがある気がします。それが蛍なのかは分かりませんが……。

エージェント・桐壺: ご協力ありがとうございました。最後に、何か言っておきたいことはありますか?

柏木氏: そうですね……あの事件がきっかけとなって私を含めた住人全員が隣町に引っ越すことになりました。あの村は若者もほとんどいませんでしたし、元々終わりが近かったとは思います。ただ、それでも皆で過ごした村があんな形で終わってしまったというのは、やはり淋しいものでした。せめて心穏やかに最期を迎えたかった、というのは我が儘ですかね。

エージェント・桐壺: ……ありがとうございました。インタビューを終了します。

<録音終了>

補遺1591-JP-2: インタビュー記録-02
以下は清池██氏の妹である清池███氏へのインタビュー記録です。

対象: 清池███氏(46歳、女性)

インタビュアー: エージェント・桐壺

<録音開始>

エージェント・桐壺: これよりインタビューを開始します。お話頂くのが辛い内容もあるかもしれませんが、可能な範囲でお話頂けたらと思います。

清池氏: 分かりました。よろしくお願いします。

エージェント・桐壺: まず、清池██氏、お姉さんについて教えて下さい。妹の貴女から見て、彼女はどういった人物でしたか?

清池氏: 姉は本当に穏やかで、頭の良い人でした。███村の人からもとても慕われていましたし、家でもとても優しくて……今でも私にとって自慢の姉です。

エージェント・桐壺: ありがとうございます。それでは、真木██氏がお姉さんを殺害したときのことは何かご存知ですか?

清池氏: ……あの、その前に1ついいですか?

エージェント・桐壺: はい、どうしましたか?

清池氏: 例えばですが、今回お話することが何かしらの法に触れていたとしたら、どうなりますか?

エージェント・桐壺: 私たちは警察ではありませんので何もありませんし、秘密は必ず守りますよ。

清池氏: そうですか……(約20秒沈黙) あの日、いつものように真木が家に上がり込んで姉の部屋に向かっている足音が聞こえました。でも、あの日はやけに静かだったんです。あまりに静かすぎました。私は何となく胸騒ぎがして、姉の部屋の様子を探ろうと廊下に出ました。

清池氏: すると、ちょうど真木がぼんやりとした顔で姉の部屋から出てくるのに遭遇しました。顔だけではなく、ズボンは脱ぎ掛けだしシャツははだけているしで随分だらしない様子でした。真木は私の方をちらりと見ましたが、特に何も言わずそのまま家から出て行きました。

清池氏: もしかすると姉の身に何か起きたのではないかと思い、私は急いで姉の部屋に向かいました。半開きのドアを開けると、姉は穏やかに眠りについているようで布団がゆっくりと上下していました。何が起きたのかは分かりませんでしたが、どうやら姉は心穏やかに眠ることができているのだ、真木の恐怖はもう無いのだと、少し困惑はしましたが安心したのを覚えています。真木がもう来ないのであれば、これまで以上に姉と協力して楽しい日々を過ごしたいと思いました。

清池氏: 一安心して自室に戻ろうと思った時、窓際で赤い光がゆらゆら浮かんでいるのが目に入りました。それはとても美しく、私は目を奪われました。心が落ち着くような、不思議な光でした。そうしてしばらく眺めていると、いつも抱いていた姉への温かい気持ちが段々と消えていき、ふと「姉さえいなければ」と思いました。……それは、心のどこかにしまい込んで考えないようにしてきたことでした。

エージェント・桐壺: 詳しく教えていただけますか。

清池氏: あの村では、私は███ではなく、姉の妹でした。出来の良い姉と普通の妹。器量よしで美人の姉は村で一番裕福な男が許嫁で、妹の私は結婚相手になりそうな人もいない。何をとっても姉と比べてしまう事ばかりでした。

エージェント・桐壺: なるほど。しかし、真木氏はあまり評判が良くなかったと他の元住人の方からは伺いましたが。

清池氏: 真木は確かに乱暴な人でした。決して良い人ではなかったと思います。でも、少なくとも地主である彼と結婚すれば将来の生活は約束されたようなものでした。一方で村には他に若い男はいませんでしたので、私の将来はどうなるのだろうかという不安がいつも頭の片隅にありました。

清池氏: 私は姉のことを心の底から尊敬していましたし、姉がいたからこそ日々を平穏に過ごせていたことも理解しています。……でも、心のどこかで同じくらい姉のことを妬ましく感じていました。姉さえいなければ、せめて歳が逆だったらと思ったのは、一度や二度ではなかったです。

清池氏: そんなことを考えているうちに、足元に真木のベルトが落ちていることに気が付きました。……頭が急に冷えてくるような感覚がしたのを覚えています。今姉を殺めてしまっても状況を考えれば罪に問われるのはきっと真木だけだろう、私は部屋に居たと言えば疑われることはないだろう、そんな考えが頭の中を駆け巡り、頭の中が真っ白になりました。

清池氏: ……我に返った時には既に姉は冷たくなっていました。私は自室に戻り、朝が来るのをじっと待ちました。翌朝、母が姉の異変に気付いたようで村中が大騒ぎになりました。お巡りさんがうちに来て何かを話したり、真木が逮捕されたと人づてに聞いたりしましたが詳しくは良く覚えていません。私はただ、姉を乱暴者に殺された不幸な妹としての日々を過ごしました。そうしているうちに村の廃村が決まり、私たちはあの村から去りました。

清池氏: 結局のところ、姉を失って得たものは僅かばかりの真木家からの謝罪金だけでした。残ったのはただ姉への申し訳なさと劣等感、あとは真木さんへの後ろめたさです。姉に手をかければ、大好きだったはずの姉を、村の生活を、私自身のせいでダメにしてしまう事は分かっていたのに。それでも、あの赤い光を見た時に沸き上がった感情を、私は抑えることができませんでした。

エージェント・桐壺: ありがとうございました。インタビューを終了します。

<録音終了>

終了報告書: 清池███氏はBクラス記憶処理を行ったうえで解放されました。なお、真木██氏は逮捕当初より清池██氏の殺害について否認していましたが、20██年に有罪が確定し現在も服役中であることが判明しています。

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