前述の報告書は一般職員向けのドキュメントであり、以下に続く報告書がSCP-1599-JPの正規報告書となります。変更点は青色でハイライトされています。
アイテム番号: SCP-1599-JP
オブジェクトクラス: Safe Thaumiel
脅威レベル: 白 ○
特別収容プロトコル: SCP-1599-JPは現在海洋サイト-81KFに収容されています。サイトに常駐している職員は毎日SCP-1599-JPと収容用大型水槽の維持を行ってください。維持方法は配布された別紙を参照してください。
SCP-1599-JPの使用はセキュリティクリアランスレベル5/1599-JPを所持する職員と倫理委員会の許可を得た場合のみ可能となります。許可なくSCP-1599-JPを使用した人物は発見次第終了されます。
SCP-1599-JP-4によって得られたアイデアを基にした芸術作品は全て同サイト内に保管されます。また、実験において芸術作品を作成する場合、基本的には絵画作品を作成してください。それら以外の芸術作品が適切と考えられた場合、適宜作成する物品を変更することが可能です。
説明: SCP-1599-JPは未知のテーブル型サンゴ(Coralliidae)、8体のハナギンチャク(Cerianthidae)、1体のカイメン(Porifera)の計3種の生物群で構成された集合的海洋生物であり、それぞれが順にSCP-1599-JP-1,-2,-3に指定されています。SCP-1599-JPはSCP-1599-JP-1に地下でそれぞれ繋がっており、外見上は別種の生物群の集合に思われますが、SCP-1599-JP-1,-2,-3の全てを含めて1つの生物とすることが提唱されています。
SCP-1599-JPは通常SCP-1599-JP-2が周囲の食物を捕え、それをSCP-1599-JP-3が取り込み消費することで成長します。このとき、SCP-1599-JP-3に取り込まれる生物がヒト(Homo sapiens)であった場合、完全消化されてから1日後にSCP-1599-JP-1は産卵を始めます。このとき排出される卵はSCP-1599-JP-4に指定されており、1度の産卵で平均80個ほど排出されます。SCP-1599-JP-4からSCP-1599-JPを複製する試みは未だ成功していません。
SCP-1599-JP-4を消費した対象は芸術に関する明確なアイデアを思いつきます。このアイデアの質とSCP-1599-JP-4の味や色は、取り込まれた人物の知能指数や性格に依存していると考えられています。対象がSCP-1599-JP-4を消費する数に関係せず思いつくアイデアは1つであり、複数の対象が同産卵時に排出されたSCP-1599-JP-4を消費しても思いつくアイデアは同様のものとなります。このアイデアを基に作成された芸術作品には、取り込まれた人物が抱えていた問題の解決に不足している、何らかの別の見方や改善案が抽象化された状態で反映されています。
補遺1599-JP.1: 発見
SCP-1599-JPは2002/12/05、日本の長崎県にある不明な団体により放棄された施設で発見されました。施設内には非異常性の絵画作品や楽譜、彫刻作品等が多数放置されており、どれも既存の作品には一致しませんでした。また、SCP-1599-JPは強化アクリル製大型水槽内にて放置されており、産卵を開始していました。発見後、SCP-1599-JPはサイト-81KFに移送され収容が確立しました。
SCP-1599-JPの異常性は、施設内で発見されたノートに書かれていた情報から類推した実験により判明しました。
補遺1599-JP.2: 実験記録
実験記録1599-JP-A
対象: D-8756(男性)
対象の評価: 知能指数が低く、直情的かつ暴力的な性格。
結果: SCP-1599-JP-4を食した10名の職員に思いついたアイデアを基に絵を描かせたところ、大まかに「女児の前に跪きながら自身の首にナイフを向ける男性」の絵で統一されていた。これはD-8756が殺害した女児への謝罪の意を表していると思われる。D-8756は普段より女児の遺族に面会して心からの謝罪をしたいと述べていたが、女児の遺族はD-8756について「死んで詫びてほしい」と強く訴えており、このことをD-8756は知らなかったことが判明している。
追記: SCP-1599-JP-4の色は黒色であり、非常に苦いものであったと報告されている。D-8756が抱えていた「女児の遺族に謝罪する」という問題への解決の糸口が、このケースでは「自殺すること」として反映されていたと考えられる。
実験記録1599-JP-B
対象: D-3691(女性)
対象の評価: 知能指数が低く、温厚な性格。
結果: 前回同様の方法で職員に絵を描かせたところ、大まかに「墓石の前で花を持って佇む女性」の絵で統一されていた。幾つかの絵に描かれた女性の特徴にはD-3691の母親のものと一致する点があった。普段よりD-3691は「どんな手段を使ってでも母親にもう一度会いたい」と嘆いていたことが後の調査で確認されている。
追記: SCP-1599-JP-4の色は青白色であり、少し塩辛かったと報告されている。D-3691が抱えていた「母親に手段を問わずもう一度会う」という問題に対する解決の糸口が、「自殺すること」として反映されていたと考えられる。前回の実験においても解決の糸口が死につながるものであったことから、対象の知能指数が比較的低い場合、死や諦めを解決策として抽象化したアイデアが浮かぶと推測される。
実験記録1599-JP-C
対象: D-5121(男性)
対象の評価: 知能指数が高く、冷徹な性格。
結果: 今回描かれた絵は、大まかに「迷路を歩く武装した3人の男性」で統一されていた。 これはD-5121が密かに考案していた財団施設からの脱出のイメージを表していると考えられれる。
追記1: SCP-1599-JP-4の色は無色であり、味はしなかったと報告されている。また、今回の結果は前の2例と違い、死に直結するアイデアではないものと推測される。
追記2: D-5121が雇用されていたサイトにおいて、2名のDクラス職員が脱走を図る事案が発生した。この脱走の首謀者はD-5121であり、D-5121が連行されたことを起因に独断で逃走を行ったと後のインタビューで判明している。D-5121が考案していた脱出方法をシミュレーションした結果、武装を行っていれば成功の可能性があったことが分かっている。シミュレーションで発見された警備の穴はすぐさま改善された。
実験記録1599-JP-D
注記: 当記録は厳密には事故記録であるが、便宜上実験記録として扱う。
対象: ハナブサ博士(女性)
対象の評価: 知能指数は非常に高く、人当たりの良い性格。
事故状況: ハナブサ博士は当時サイト-81KFにて3種類の異常存在の研究を担当していた。そのうちの1体であるSCP-███-JPが予期せぬ収容違反を起こし、ハナブサ博士がオブジェクトのミーム汚染を誘発する異常性に曝露し、結果としてハナブサ博士はSCP-1599-JPを用いた自殺を行った。このときSCP-███-JPは新たな異常性の発現により収容が困難となり、一時的にサイト内の約90%が放棄された。そのうえ、SCP-███-JPの収容違反が継続することにより、サイト-81KFを中心としたWDK-クラス:海水置換シナリオの発生が予期された。
結果: SCP-1599-JP-4を食した職員の書いた絵は明確に「クラゲと思われる存在がクモの巣に捕らえられ、その周囲から5人のヒトが松明で巣に火をつける」もので統一されていた。この絵を見た職員のうち3名から、絵の表現から思いついたというSCP-███-JPの収容方法が提案され、実行した結果SCP-███-JPの一時的な再収容に成功した。その後収容方法は徐々に改良され、現在SCP-███-JPは安定した収容下にある。
追記: SCP-1599-JP-4の色は深青色であり、渋みが強かったと報告されている。
実験結果を受け、後述のクリエ―ション・プロトコルが収容担当のウタガワ博士により提言され、監督評議会により承認されました。また、一般職員によるSCP-1599-JPの使用を防ぐ目的と実験記録1599-JP-Dでの実績が評価されたことから、オブジェクトクラスはSafeからThaumielに再分類されました。
補遺1599-JP.3:
クリエーション・プロトコル
LEVEL 5/1599-JP CLASSIFIED
概要: 何らかの要因で収容状況が危うい、または未収容であるオブジェクトの研究担当職員をSCP-1599-JPに取り込ませ、発生したSCP-1599-JP-4から得られたアイデアを基に芸術作品を作成し、それらの作品から推測して対象オブジェクトの有用な収容方法の考案を行います。当プロトコルにより、2018年現在まで新規に3例のオブジェクトの収容に成功しています。
SCP-1599-JP-3に取り込まれる人物には、主に以下の要点が必要とされます。
- 知能指数が財団職員内において抜きんでて高い。
- 財団に対する忠誠心が高く、オブジェクトの収容/維持の研究に熱心である。
- 性格に問題点が少ない。
当プロトコルの実行に際し、複数名の取り込まれる対象候補職員は当プロトコルの情報を一切与えられず、収容対象オブジェクトの担当へ割り振られ研究を行うことになります。その後、取り込まれる対象として選定された職員はサイト-81KF内のオブジェクトの管理担当に任命された旨を伝えられた後、該当サイトへ異動の名目で移送されます。
当プロトコル実行メンバーは、移送されてきた対象職員を生体無害性の睡眠薬で昏睡状態にした後SCP-1599-JP-3に取り込ませます。この時点で対象職員は名誉退職となります。
SCP-1599-JP-4を消費する職員は、芸術作品の完成度を向上を図るため、クラスに関係なく高い芸術の才能を持つと判断された職員のみに限られます。
当プロトコルの最大の利点は収容方法の考案のみならず、回避手段が全く不明である未発見のK-クラスシナリオの回避手段を得ることが期待できる点にあります。しかしプロトコルそのものの確実性が低いことや即効性がないこと、および優秀な人材の浪費が懸念されるため、実行にはセキュリティクリアランスレベル5/1599-JPを所持する職員と倫理委員会の許可が必要とされています。
クリエーション・プロトコルの実行は本当の意味での“最終手段”であり、SCP-1599-JPの乱用は決して行われてはなりません。理想的な収容方法の考案が当プロトコルの目的ではありますが、真に理想的かつ当たり前でなくてはならないのは、職員の努力と知恵、そしてほんの少しの新たなアイデアで収容方法が確立されることなのです。たとえ最期が迫っていても、そのことを忘れないように。
── SCP-1599-JP収容担当 ウタガワ博士