アイテム番号: SCP-1605-JP
オブジェクトクラス: Euclid
特別収容プロトコル: 生息地域αから50km2圏内への民間人の侵入を制限し、SCP-1605-JPの活動地域としてください。侵入した人間の救出は行われませんが、SCP-1605-JPに遭遇し、生還者した者がいた場合は確保し記憶処理を施して解放してください。α域外で発見されたSCP-1605-JPのコロニーは遠距離から火炎放射器・爆薬等を用いて破壊してください。
説明: SCP-1605-JPはバーチェルグンタイアリ(Eciton burchellii)に類似したグンタイアリの1種です。SCP-1605-JPの個体はバーチェルグンタイアリと同等の大きさ・体色をしておりますが、遺伝子検査の結果はヒメサスライアリ(Aenictus lifuiae)との遺伝子情報の類似性が示されています。また、バーチェルグンタイアリの生息地域が中南米であることに対し、SCP-1605-JPはアフリカ大陸にのみ生息が確認されています。このことからSCP-1605-JPは 収斂進化の結果、バーチェルグンタイアリと似た特徴を持つようになった別種であると考えられています。
バーチェルグンタイアリのコロニーが定常期と遊牧期を繰り返すのに対して、SCP-1605-JPは樹木を拠点としてコロニーを形成します。1つのコロニーに200万~300万匹のSCP-1605-JPが生息しており、互いの体を使って枝に擬態します。SCP-1605-JPが拠点としている樹木近辺に動物が侵入するとSCP-1605-JPのワーカーは一斉に落下を開始し、被捕食者(以下、対象)へと降りかかります。SCP-1605-JPは対象の四肢・眼球を集中的に攻撃しその場から動けなくし、可食部分を分解・運搬します。SCP-1605-JPは目が退化しているにも関わらずどのように高度から対象を発見し、的確に四肢を攻撃しているのかは不明です。絶命した対象の死肉は完全に運搬されず、一定を残して放置されます。この死骸に釣られてやってくるハイエナやジャッカル等の腐肉食動物を新たな対象とすることでライフサイクルを維持していると考えられています。
繁殖期のSCP-1605-JPはバーチェルグンタイアリと同じくオスのみが羽を持ち、コロニーを飛び出し未交尾の女王アリを探します。交尾に成功した女王アリ(SCP-1605-JP-α)はコロニーのワーカーの一部を引き連れます。この状態のコロニーに対象が侵入した場合、SCP-1605-JP-αはワーカーを引き連れて対象へと降下します。ワーカーは対象の四肢を攻撃せずに頭部への侵入経路を作成し、SCP-1605-JP-αを脳へと導きます。SCP-1605-JP-αは対象の脳機能へ作用し、対象を新たな樹木へと誘導します。対象が移動している間、SCP-1605-JP-αは対象の体内で産卵を行いSCP-1605-JPワーカーの数を増やします。体内で孵化したSCP-1605-JPは対象を消費しながら短期間で成虫へ変態します。SCP-1605-JPのコロニーとなっていない樹木へ到着した対象はワーカーによって分解・捕食されコロニー形成の栄養源となります。一方で、宿主となった対象は動きが緩慢であるため肉食動物に容易に捕食されます。この際SCP-1605-JPは宿主を護衛するといった動きが見られず対象が死亡すると多くは散開し死亡します。財団発見後の統計では、SCP-1605-JP-αが新たなコロニーを形成できる確率は5%未満です。
事案1: 2024/8/13、長野県█市の█キャンプ場から「キャンプ客が蟻の大群に襲われている」との通報がありました。警官に偽装した財団エージェントが現場に急行しSCP-1605-JPのコロニーが形成されていることが確認され、カバーストーリー「熊害」を適用しキャンプ場周辺を一時封鎖しました。救命救急隊に偽装した機動部隊によって即座にコロニーを破壊・SCP-1605-JPを駆除しました。通報者の証言によると被害を受けたのは米島 哲也氏(40)、米島 妙子氏(38)、米島 裕介氏(8)、米島 琉華氏(6)の一家4人で、虫捕りに向かった琉華氏の悲鳴が聞こえ、駆けつけた時には既に全身をSCP-1605-JPに覆われた状態でした。
事案1発生時の通報者に対してインタビューを行いました。以下はその記録です。
対象: 谷口 莉央氏(█キャンプ場運営スタッフ)
インタビュアー: エージェント・桜井
付記: エージェント・桜井は警官に偽装しており、事情聴取の名目でインタビューを行っています。
<録音開始>
桜井: 谷口さん、被害に遭われた米島さん一家のことについてお聞かせ願えますか?
谷口氏: はい。米島さん一家は3年前から毎年遊びに来てくれていた常連さんでした。家族仲も非常によく、お子さん二人とも礼儀正しかったので他のお客さんにも可愛がられていました。私も裕介君と琉華ちゃんに会えるのが毎年の楽しみでした。
桜井: 無理のない範囲で結構ですので、何が起こっていたのか教えて下さい。
谷口氏: 私は設営の準備の終わっていた米島さんと喋っていたんですが、琉華ちゃんが裕介君を連れて虫捕りに行きたいと言い出しました。いつもは裕介君のほうが元気いっぱいなんですが、夏バテして体調が良くなかったのか琉華ちゃんが手を引いていました。お昼ごはんも殆ど食べていなかったそうです。
桜井: 続けてください。
谷口氏: 少ししたら琉華ちゃんの悲鳴が聞こえたんです。ご両親と血相を変えて二人の元へ駆けつけたんです。そしたら、うっ
[数秒の沈黙の後、手で口を押さえて大きくえずく]
桜井: 大丈夫ですか。一旦休憩しましょうか。嫌なことを思い出させてしまってすみません。
谷口氏: [数秒後] いえ、大丈夫です。すみません。職業柄、昆虫には慣れているはずなんですけど。
桜井: 何があったんですか?
谷口氏: [震える声で] 琉華ちゃんの腕に小さな黒い虫が大量にいたんです。そして裕介君は全身が虫で覆われていました。全く裕介君の姿が見えなくて輪郭も一回り大きかったような気がします。裕介君の手から琉華ちゃんに向かって虫が移動していってました。哲也さんが琉華ちゃんを引き離して裕介君に群がる虫を手で払い除けましたが、いくら払っても虫がどこからか湧いてきていました。[数秒の間] 妙子さんは琉華ちゃんについてる虫を払っていたのですがどんどん妙子さんにも虫が群がって行きました。私は、怖くて近寄れなくて、とにかく警察を呼ばないと思ってその場を離れました。
桜井: その後はどうなさったんですか?
谷口氏: 警察に通報した後は、周りのお客さんに施設に逃げるように促しました。よほどの表情をしていたのか皆さん従ってくれました。そのうちにあなた達がやってきてくれました。
桜井: なるほど。よくわかりました。ありがとうございます。
谷口氏: あの、米島さんは、裕介くんと琉華ちゃんはどうなったのでしょうか?
桜井: 詳しくは言えませんが、残念ながら。
谷口氏: [嗚咽]
<録音終了>
谷口氏には記憶処理が施されました。
█キャンプ場には防犯の観点から監視カメラが複数設置されており、事案1の映像を入手することができました。
[再生開始]
[00:00] 裕介氏と琉華氏がキャンプ場から林間地帯へやってくる。裕介氏の足取りはややおぼつかないように見える。
[01:21] 琉華氏が頭上を指さし、裕介氏に話しかける。裕介氏の視線が上を向く。
[01:35] 琉華氏が虫取り網を掲げ、昆虫の捕獲を試みている。裕介氏の口腔部よりSCP-1605-JPが出現し始める。裕介氏は微動だにしない。
[01:50] 琉華氏が捕獲行動を終了し、虫籠に触れる。裕介氏の顔面の下部はSCP-1605-JPで埋め尽くされている。
[02:20] 裕介氏が琉華氏の腕を掴む。琉華氏が裕介氏の異変に気付く。驚愕の表情で悲鳴を上げているように見える。
[03:30] 哲也氏、妙子氏が駆けつける。哲也氏が裕介氏の全身を覆うSCP-1605-JPを手で払いのけようとする。妙子氏は琉華氏の保護を試みている。
[04:50] SCP-1605-JPの除去に失敗した哲也氏が自身に付着するSCP-1605-JPを払おうと藻掻いている。眼球部はすでにSCP-1605-JPの攻撃を受け損傷しているように見える。妙子氏、琉華氏も同様の状態に陥っており、琉華氏は脚部に大量のSCP-1605-JPが群がっている。
[05:30] 琉華氏が脚部の損傷からか、バランスを崩し転倒する。
[05:43] 哲也氏が頸部を抑えながら転倒する。
[06:30] 琉華氏の抵抗反応が消失する。この時点で絶命もしくは意識を消失したとみられる。
[09:15] 全員がSCP-1605-JPに対して抵抗しなくなる。
[12:00] 遺体を覆っていたSCP-1605-JPが離脱し始める。樹木にコロニー形成し始めているものと推測される。
[30:20] 米島一家の遺体がSCP-1605-JPによって分解・運搬され始める。特に遺体の損傷が激しい裕介氏・琉華氏の分解が著しい。
[50:35] SCP-1605-JPの運搬作業が概ね終了する。
[再生終了]
裕介氏の遺体の解剖の結果、胃の中から大量のSCP-1605-JPの卵殻が発見されました。
補遺1: 2024/8/14、事案1の調査として米島氏の家宅捜索を行いました。特筆すべき内容として米島 裕介氏の日記が発見されました。以下は日記の内容です。
[7月23日] きょうから夏休みです。しゅくだいの日記をまいにちわすれずにつけようとおもいました。
[7月24日] きょうは、妹のるかとちょうちょをつかまえました。お父さんと夏休みの間にキャンプにいくやくそくをしました。とても楽しみです。
[無関係な日時を省略]
[8月11日] せみをつかまえようとしたら、上からアリがたくさんおちてきました。それからずっと頭がいたいです。あさってはキャンプなのでぜったいにいきたいです。
[8月12日] おなかがきもちわるいです。るかちゃんが心ぱいしてくれてうれしかったです。 お父さんがおしごとからかえってきていっしょにおふろにはいりました。あしたはかぞくでキャンプにいってきます。カブトムシがいっぱいとれるといいな。
このことから、裕介氏は8/11にSCP-1605-JPの宿主となっていた可能性が極めて高く、8/13に█キャンプ場に到着後、コロニーとなりうる樹木に近づいたためSCP-1605-JPが体内から発生したと考えられています。
補遺1を受けて米島氏自宅から半径3kmの街路樹・公園内の樹木を確認しましたが、SCP-1605-JPの発見には至りませんでした。SCP-1605-JPの日本への侵入経路の可及的速やかな特定及び、特別収容プロトコルの更新が検討されています。
ページリビジョン: 3, 最終更新: 17 Jul 2024 16:03