SCP-1615-JP
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アイテム番号: SCP-1615-JP

オブジェクトクラス: Euclid

特別収容プロトコル: SCP-1615-JPはサイト-81██の高気密収容室において、十分な強度を持つ二重の密閉ガラス容器内に保全されています。収容室内への入室前には衛生白衣、フルフェイスインナーヘアネット、作業帽子の着用、および全身へ粘着ローラーがけとエアシャワーの通過が義務付けられます。職員の退出後、ロボット掃除機が起動され収容室内の清掃が実施されます。SCP-1615-JPとの直接の接触が求められる実験には、3時間以内に全身剃毛を受けたDクラス職員が担当として割り当てられます。POI-1615-JPに対しては現在定期的な観察と検査が実施中です。

説明: SCP-1615-JPは特定個人に由来すると考えられている数十本の人毛の集合体です。SCP-1615-JPはそれを可能とする器官の欠如にもかかわらず自律的な活動が可能であり、視覚や聴覚といった知覚能力に加えて高知能動物と同程度の知性を示します。

SCP-1615-JPは蛇行や伸縮などヘビ類に似た運動によって移動を行います。SCP-1615-JPは極めて精密な動作が可能であり質量に対して不釣り合いなほどの運動能力を発揮できますが、その軽量さゆえに気流など周囲からの干渉によってその活動は容易に阻害されます。このためかSCP-1615-JPは人間の観察下では非活動的となり、自身を非異常の毛玉に見せかけようとする隠蔽的擬態行動をとることが知られています。

SCP-1615-JPはヒトの毛髪を発見すると、積極的にそれを絡めとり自身の一部として取り込もうとします。SCP-1615-JPと接触し総体の一部として取り込まれている間、その人毛もまたSCP-1615-JPと同様の性質を獲得します  すなわちSCP-1615-JPの一部として運動能力を発揮し始めるとともに、人毛を絡めとることでそれを支配下に置くことが可能となります。抜け落ちた体毛を集積するなどして肥大化し運動能力を拡張させたSCP-1615-JPは、やがて攻撃的擬態者や夜行性捕食者に似た行動様式を示し始めます。通常、それは人間  正確にはその頭髪を標的とした狩猟活動として観測されます。

何らかの形でSCP-1615-JPが標的とした人物の頭髪にとりつくことに成功した場合、連鎖的な接触により短時間ですべての頭髪はSCP-1615-JPの支配下に置かれます。頭髪を掌握したSCP-1615-JPは必要に応じて標的を牽引もしくは引き倒したうえで、付近の強固な構造物に自身の体を伸ばし連結させます。その後構造物を支点に力を加え、頭髪を標的から強制的に引き剥がします。これに必要な牽引力は健常な成人の場合10~15トンに達すると見積もられますが、SCP-1615-JPは効果的かつ緻密な毛髪の操作によって数秒から十数秒以内にこれを完遂します。SCP-1615-JPは標的の生死そのものには関心を示しませんが、頭髪が引き剝がされる際に生じる負荷は標的の頭皮、頭蓋骨、頚椎等に重篤な傷害を与え、ほとんどのケースにおいて致命的な結果をもたらします。

財団に収容される以前、SCP-1615-JPは██市近郊を中心に民間人を標的とした狩猟活動を繰り返していました。町中におけるSCP-1615-JPは、格子状溝蓋グレーチング下の涸れた側溝への潜伏や、電柱間に全身を渡すことによる電線への擬態といった形で日中身を隠していたことが分かっています。こうした潜伏・擬態状態は、夜間帯に孤立した人物が通過する瞬間を待ち伏せ、足下から這い上がる、あるいは頭上から落下するといった形で、そのまま標的頭部にとりつくための奇襲手段として活用されていました。

収容: このような特性から、財団がSCP-1615-JPを収容するまでには多くの困難をともないました。SCP-1615-JPは自身の組成を迅速かつ正確に分離・結合・再編することで形状を変化させ、ネットランチャーの網目をすり抜け、僅かな隙間へ潜り込み捕獲の試みから逃れ続けました。また毛髪の集合体という特性上、打撃・刺突・射撃といった攻撃手段は一定以上に肥大化したSCP-1615-JPにはほとんど有効性を発揮しませんでした。複数回の試行の中でもっとも有効と判断されたのは火炎放射器を用いた焼却でした。高熱に晒されたSCP-1615-JPはその総体を瞬時に四散させ延焼を防ぐとともに敵を攪乱し、本体は最小限の毛髪をともなって逃走を図りました。こうした複数回の接触と捕獲失敗を経て、収容チームは火炎放射器と粘着剤の散布を組み合わせることでSCP-1615-JPの収容に成功しました。

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成熟奇形腫における嚢腫内部の参考画像。

起源: 収容後SCP-1615-JPを対象に実施されたDNA鑑定の結果から、財団は遺伝的な一致を見せる20代女性(POI-1615-JP)の存在を特定しました。SCP-1615-JPの起源になったと考えられているこの人物に対して経歴・身辺・身体的な調査が行われましたが、特筆すべき異常は発見されず、なぜSCP-1615-JPがこのような性質を示すに至ったのかは不明です。POI-1615-JPはSCP-1615-JPの存在が初めて確認された██病院において、右卵巣に生じた成熟奇形腫1の摘出手術を受けていました。このとき摘出された嚢腫の内容物が、術後に病院スタッフが短時間目を離した間に失われていたという証言は、SCP-1615-JPの起源を推し量るうえで注目すべき点です。

発見: 財団がSCP-1615-JPの存在を始めて認知したきっかけは、██市の██病院から寄せられた多数の緊急通報の補足でした。これを受けて財団エージェントのA.徳島、A.神尾、A.房野の三名が偵察および要救助者の発見のために派遣され、病院内への侵入が行われました。以下はA.徳島が院内探索時について語った証言を書き起こした記録です。

インタビューログ1615-JP

対象: エージェント・徳島

記録: ██博士

前記: A.徳島は任務中に生じた側頭部から後頭部に及ぶ軽度の負傷、頚椎捻挫の治療のため、インタビューは財団の治療室で実施された。


[記録開始]

出動要請を受け取ったのは深夜だった。██病院から寄せられたという緊急通報は、どれもが混乱しきった内容だった。「患者が消えた」「黒い影が襲ってくる」  そんな曖昧で、パニックに陥った声ばかりだったが、どれもただ事じゃないと思わせる緊迫感に満ちていた。たまたま近くにいた俺たち三人が駆り出され、情報を精査する暇もなく現場へと急行した。

俺たちは装備を確認し、安全装置を外して隊列を組んだ。自動ドアを押し開け、先頭は俺、続いて房野、最後尾に神尾という順で、建物内へ侵入した。踏み込んだ院内の空気はどこか湿っぽく、静まり返った空間に足音だけが響いていた。通路はひどく荒れ果てていて、私物やカルテが散乱し、車椅子や点滴スタンドが倒れ、何かが引きずられたような跡が薄く床に残っていた。房野が「これ、本当に患者が逃げただけなんですかね」と声を潜めて言ったが、俺も神尾も答えなかった。憶測を重ねるよりも先に、目の前の状況を把握することが必要だった。「気味悪いっすね」と呟く房野を、神尾が「黙ってろ」と短くたしなめた。俺はそんなやり取りを聞き流し、ただ手を上げて前進の合図を送った。

俺たちは慎重に前進を続け、やがて病棟へと到達した。いまだ人影は見えず、不気味なほどの静寂が支配している中で天井から聞こえる空調音だけがいやに耳に付いたのを覚えている。そこから歩を進めるごとに、背中の毛がざわざわと逆立つような不快感が濃くなっていった。廊下の隅、曲がり角の陰、どこを見回しても誰もいない。ただ、どこからか誰かに見られているような、そんなじっとりとした視線を感じていた。背筋を這う冷たい感覚と嫌な予感が胸を満たし、それがピークに達したとき俺は進行を止めていた。背後で訝る二人の気配を感じたが、俺は自身の直感に従う選択をした。そこに確かな根拠などなかったが、情報が不足している以上、頼れるのは自分の感覚だけだ。銃を握りなおし、「警戒しろ」と二人へ注意を促しながら振り向いた、まさにその瞬間だった。

天井から垂れ下がる黒い触手のような何かが、神尾の頭に絡みついていくのを俺は見た。それは生き物のようにうねりながら、とてつもない速度で神尾の体を引き上げた。ヘルメットが宙を舞い、それが床に落ちるよりも早く神尾の頭は天井の制気口カバーを突き破っていた。直後に響いたのは耳を覆いたくなるようなひしゃげる音  骨が砕け、肉が押し潰される音だ。それが何を意味するのか、俺たちは嫌でも理解せざるを得なかった。すぐにくぐもった悲鳴が続いたが、それもすぐに途切れ、代わりに恐ろしい静寂が降りてきた。房野の顔が青ざめていたが、俺も同じだ。何が起きたのかもわからないまま、俺たちは仲間の一人を失っていた。

やがて弛緩した体を伝って赤黒い血が床へ滴り始めたが、その体はいつまでたっても落ちてはこなかった。2俺たちはそのまましばらく、制気口へ銃口を突きつけながら息も忘れて振り子みたいに揺れる神尾を眺めてた。それが……おそらく3往復もしないうちだったと思う。少しずつ気持ちが落ち着き始めた俺の頭に、ふと閃いた思考があった。神尾を吊るし上げて殺したクソッタレは、おそらく空調システムの中に潜んでる。そしてその配管は病院全体に張り巡らされ、どことだって繋がってるってな。それに思い至ると同時に背筋が凍り、後ろから聞こえたほんの微かな落下音に気が付いた。反射的に振り向いた視線の先には、真っ黒な何かが沼のように広がっていた。

蛇みたいに首をもたげて起き上がった何か……そのときはでかい影にしか見えなかったそれに向けて、俺は本能的に引き金を引いていた。雄たけびとともに銃弾を浴びせまくったが、それは動じる様子さえ見せなかった。それどころか、こちらに向けて突っ込んできた。房野に下がるよう叫んだが手遅れだった。仕方がないんだ。あいつはまだ若くて……そして神尾と友達だった。だから俺が、もっと早く指示を出してやるべきだったんだ。

俺は横っ飛びになんとか躱すことができたが、房野は津波のような勢いに全身を飲まれた。そのまま壁際まで引きずられ、後頭部が壁に打ち付けられる鈍い音が響いた。黒い波は壁を伝って四方八方へ広がると、そのまま手すりや取っ手、周囲のあらゆるものに絡みついた。やがてそれは張り詰め、ギチギチと音を立てながら万力のように引き絞られていった。

それからの数秒の間、房野は俺を見ていた。俺も、房野を見ていた。俺は無力で……あいつは本当に勇敢だった。最期まで涙ひとつ浮かべず、助けを乞うこともしなかったんだ。なのにその顔が、徐々に、徐々に引き攣って……

[A.徳島は項垂れ、数秒間沈黙する。]

神尾はいい奴だった。房野も、本当にかわいい奴だったんだ。なのにこの先、俺があいつを悼むとき、そしていつの日かあいつのことを懐かしむとき……真っ先に思い浮かぶのは、きっとあいつが最期に見せた顔になる。いろんな顔を見てきたってのに、一緒に腹抱えて笑ったときの顔でも、訓練中泣き言垂れながらベソかいてるときの顔でもない。曹長に舐めた口きいてボコボコに腫れあがったバカ面でも、朝まで飲んでゲロ吐きまくったときのアホ面でもないんだ。

[██博士からの休憩の提案を遮り]

あんた知ってるか? 頭から八つ裂きに剝がされるほどに頭皮を引っ張られた人間の顔が、どんな風に歪んでいくのか。それをやった毛の塊が、仲間たちの頭皮を張り付けたまま体を這い上がってくるときの気分は? 仲間の頭が潰れる音も、脳漿を零しながら揺れる体も、後頭部から剝き出した骨の白さも、あの日起きた何もかもが俺の心から離れない。

だから……どうかお願いだ。一刻も早くあれを捕まえて、収容房に閉じ込めてくれ。俺たちみたいな目に遭う奴がこれ以上出ることがないように。こんな思いを、もう誰もすることがないように。

[記録終了]


財団はすみやかにSCP-1615-JP収容のための調査班と捕獲班を結成し、SCP-1615-JPが原因と思しき民間人の不審死が発見され始めた██市近郊を中心とした調査と捜索を開始しました。そしてこのインタビューから18日後、収容チームによってSCP-1615-JPの収容が達成されました。SCP-1615-JPが収容されて以降、頭髪を喪失した不審死事例の発生が完全に途絶えたとの報告を受けたことで、A.徳島は記憶処理薬を用いた精神治療に同意しました。現在は心身ともに快方へと向かっており、職務復帰のためのリハビリテーションプログラムに参加中です。

██市近郊では、SCP-1615-JPの収容以降も現在に至るまで、民間人の異常な不審死がさらなる高頻度で発生し続けています。発見された犠牲者らはいずれもその体から、歯、皮膚、骨、腸菅、呼吸器、脊椎、脳などの、多種多様な異なる特定部位を欠いていました。このことからSCP-1615-JPと類似した性質と同一の起源を持ったアノマリーが複数存在する可能性があるとして、財団はさらなる情報収集と調査を継続中です。

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