アイテム番号: SCP-1620-JP
オブジェクトクラス: Safe Euclid
特別収容プロトコル: 全てのSCP-1620-JPに指定された土地は私有地に偽装された上で完全に閉鎖されています。SCP-1620-JP-1による汚染と拡散を防止する為、SCP-1620-JP-1、SCP-1620-JP-2への侵入が許可されるのは20日以内の終了が決定しているDクラス職員に限定されています。侵入に用いられたDクラス職員の終了はSCP-1620-JP-1内で行ってください。終了と遺体の搬送には遠隔操作ロボットを用いてください。
新たなSCP-1620-JP-2が発見された場合、オブジェクトの立地している土地を閉鎖しカバーストーリー("建築物の解体")を流布してください。閉鎖後、当該オブジェクトは解体もしくは破壊されます。屋外でのSCP-1620-JP-2の発生が認められた場合、当該地点を閉鎖し異常性を喪失するまで埋め立てを行ってください。SCP-1620-JP-2への侵入が疑われる人物は侵入が確実となった時点で確保されます。確保後は記憶処理を施した上でSCP-1620-JP担当Dクラス職員として雇用、手順に則って終了してください。SCP-1620-JP-2に言及された情報はインターネットや書籍等を通じて回収不能な程に拡散されています。これらの情報は機動部隊と-2-情報捜索統括部隊("鬣犬-縞")の監視対象とされます。新たなSCP-1620-JP-2と思われる情報が認められた場合、派遣されたDクラス職員によって調査が行われます。
特別収容プロトコル: SCP-1620-JPの立地している土地は私有地に偽装された上で閉鎖されます。付近住民には安全上の目的と説明した上で周囲に高さ2mのフェンスを設置し、民間人の侵入を防いでください。
説明: SCP-1620-JPはSCP-1620-JP-1とSCP-1620-JP-2からなる一連の異常現象です。
SCP-1620-JP-1は岩手県██町███地区に存在する敷地面積495.868m2の土地です。SCP-1620-JP-1に立地している家屋に侵入した際、侵入した対象の周囲で様々な現象(事象-1620-JPに指定)が発生します。
事象-1620-JPに指定される異常現象
- 映像上でのみ確認される人型存在の出現。
- 突発的なクラスIIIテレキネシス事象の発現。
- 通信機器を通じて送信される発信源不明の音声の再生。
これらの現象はSCP-1620-JP-1内部でのみ観測され、対象が外部に脱した場合は程なくして沈静化します。
SCP-1620-JP-1への侵入からおよそ2時間後、対象は聴覚性の幻覚症状を発症します。全ての対象はこれら聴覚性の幻覚の内容を「あつい」と呟く複数の男女の声であると報告します。これらの幻覚症状を対象から取り除く試みは全て失敗しており、記憶処理や知覚歪曲誘発薬物を用いても症状の改善は認められません。この幻覚症状は時間経過と共に徐々に悪化することが報告されており、20日程度で生活に影響をきたすまでになり、4ヶ月程度で聴覚の正常な機能が失われます。
幻覚症状の発症から5~20日後、肉体に斑状、結節、丘疹、末端神経麻痺、眼症状、神経因性疼痛、脱毛、変形などが生じます。これら症状の発生は急速かつ激的であり、特に変形に伴う損傷、欠損には激しい苦痛を訴えます。なお対象の身体は明らかな病的状態にあるにも関わず、対象の肉体からこれを引き起こす病原は確認できませんでした。
急速な症状の進行を経て対象が生存した場合、4ヶ月程で対象は四肢の萎縮を原因とする運動障害と各部の筋萎縮を発症します。
これらの激的な症状の発現を経験し対象は最終的にハンセン病罹患者に酷似した外見へと変化しますが、皮膚付近のマクロファージ、末梢神経細胞内の双方かららい菌(Mycobacterium leprae)が検出される事は無く、症状に反して細胞の機能は正常であるように観察されます。この状態に至った対象への治療は目立った効果を認められず、整形手術などによる外観の再現も術後に引き起こされる身体の変形によって失敗しています。
対象が何らかの要因によって死亡した場合、死亡した場所や建築物は30分程度でSCP-1620-JP-1と同様の異常性を示し始めます(SCP-1620-JP-2に指定)。
SCP-1620-JP-2の異常性は当該建築物の破壊によって取り除く事が可能です。現在までにSCP-1620-JP-2は[編集済]件の建築物、12件の車両で確認されています。一部は研究を目的として収容されていますが、その数の膨大さから研究対象となり得ないSCP-1620-JP-2は破壊されています。
各地に存在するSCP-1620-JP-2は内部で引き起こされる事象-1620-JPにより、心霊スポットとしてインターネット上で共有されています。これらの情報は機動部隊と-2-情報捜索統括部隊("鬣犬-縞")によって捜索、検閲されていますが既に幾つかは隠蔽不可能な程に拡散されています。その為、拡散されてしまったSCP-1620-JP-2は完全に破壊、立地していた土地は財団フロント企業を通じて売却済みです。
補遺1(2004/12/04修正): SCP-1620-JP-1は1984年に補足、同年に収容されました。当時SCP-1620-JP-1は独立した異常存在であると考えられており、SCP-1620-JP-1単体でSCP-1620-JPに指定されていました。
SCP-1620-JP-1は岩手県██町███地区で発生した一家心中をきっかけに発見されました。SCP-1620-JP-1に居住していた████氏は新潟県███市からの移住者であり、SCP-1620-JP-1には不動産会社による紹介で事件発生1ヵ月前から入居していました。████氏は1984/5/5の未明に就寝中の妻子を灯油を用いて焼殺し、妻子の死亡を確認した後に自身も焼身自殺を図りました。この際、付近を通った新聞配達員は焼殺された妻子のものと思われる叫び声と家の中に見える火を認めていました。新聞配達員は火災を疑い消防署に通報。駆けつけた消防隊によって火は消し止められ、火災は寝室の一部とベッドを焼くに留められました。同室内で発見された████氏と妻子を含む4人は死亡が確認され、キッチンからは空のポリタンク2つと共に████氏が記した思われる文書が発見されました。調査にあたった地元警察はこの文書を████氏の遺書であると判断、氏は何らかの精神疾患を患っていたものとして処理されました。その後この文書は急遽派遣されたエージェントにより警察内から回収されました。
以下は回収された文書とその転写文です。
文書-1620-JP-A-1(1984/05/06)
あいつら、は、何かを隠してる
うるさい うるさい、うるさい うるさい
だまれ うるさい 熱いのは 分かってるんだよ
あいつらは、何かをした、何かをした
何をしたんだ。何をしたらこうなるんだ
おれ、もみどりも、たけおも、ゆきも、
みんなびょうきになた
からだが こわ れて る
なで
なにおし
ぜんぶ、 つぶして わから なく しな き や
ぜんぶ やけ てなくなてしまえ
その後、財団は火傷による損傷が比較的激しくない████氏の遺体の解剖を実施しました。結果、遺体の皮膚表面はSCP-1620-JP-1に侵入した対象に見られる変化の途上にあったことが分かりました。検証は行われていませんが████氏の妻子に関しても同様の状態であったと推測されています。
補遺2(2004/12/04修正): 1984/5/9、████氏の自宅での一件に関与した消防隊員、警察官十数名が聴覚性の幻覚症状を発症していた事が判明しました。彼らは地元病院を通じて財団の監視下に置かれ、隔離されました。この事態を受けて財団は早急な異常性の把握を現地に派遣されたエージェントらに指示。異常性の把握を目的とした付近住民へのインタビューが実施されました。しかしながら住民らは一様にインタビューへの回答には終始非協力的であり、応じた場合であってもはっきりとした回答は得られませんでした。当時、住民らの非協力的な姿勢は閉鎖的な地域性によるものであると結論づけられました。この結果を受けて精神誘導剤を用いた尋問の実施が申請されましたが、当該地域の住民のほとんどが高齢者であり薬物の使用による副作用が懸念される事から尋問の申請は却下されました。
代替的な措置としてDクラス職員によるSCP-1620-JP-1内の探査が許可されました。以下は有人探査時の記録です。
探査記録-1620-JP-1984/5/9-1
探査人員: D-66521
装備: 映像送信端末、ボディカメラ。
備考: この探査はSCP-1620-JP-1の有する異常性の詳細な把握と検証の為に行われました。
<記録開始>
[00:01:24] D-66521が玄関からSCP-1620-JP-1に侵入する。侵入から4分間が経過するまで目立った異常は観察されなかった。
[00:04:11] D-66521がキッチンに侵入したと同時に流し台に放置されていた食器が不明な原因によって破壊される。クラスIIIテレキネシス事象であると推測される。
[00:04:31] 同室内において食器棚の硝子に不明な原因によって亀裂が発生。クラスIIIテレキネシス事象であると推測される。
[00:04:35] D-66521が振り向いた際に同室内の左奥側に人型存在が直立しているのが映像に記録される。司令室はD-66521に確認を命じたが、D-66521が再び振り向いた際には既に消失しておりD-66521も視認していないと報告した。
[00:06:48] リビングへと移動。
[00:06:53] D-66521のカメラ正面を何らかの存在が通過する。映像はかなりの至近距離を通過したことを示しているがD-66521は認識していなかった。
[00:07:09] 同室内壁面に陥没と裂傷が生じる。クラスIIIテレキネシス事象であると推測される。
[00:07:47] 映像送信機器に原因不明の通信障害が発生。96秒間に渡って通信が途絶。
[00:09:23] 通信が回復。D-66521は通信途絶中に無線機から複数の男女が「あつい」と連呼する音声が発せられていたと報告した。
[00:10:01] リビング内の固定電話に入電。
[00:10:09] D-66521に司令室から電話を受けるように命令が下される。
[00:10:24] D-66521が電話に出る。通話は電話交換室を経ることなく突然開始された。通話の内容は複数の男女のものと思われる音声で「あつい」というフレーズが連呼されるというものであり、通話はD-66521が受話器を置くまでの32秒間に渡って継続した。
[00:11:34] リビングを探索中、何も無い場所でD-66521の右足に不可解な衝撃が加えられる。この時点でD-66521は歩行に影響が出るほどの痛みを訴えた。後の検査で右足小指の末節骨と基節骨が激しく骨折している事が認められた。確認された衝撃はクラスIIIテレキネシス事象であると推測される。
[00:11:48] D-66521が撤退を要請。
[00:12:58] 司令室が撤退を許可。
[00:13:37] D-66521がリビングを出ようとした際の映像に複数の人型存在の影が捉えられる。存在は床を這うようにして群れており、最低でも14体が確認された。これにおいてもD-66521は視認しておらず再度カメラを向けた際には全て消失していた。
[00:14:03] D-66521が廊下に面する仏間の前を通った際に再び通信が途絶。映像の代わりに複数の男女のものと思われる「あつい」と連呼する音声が37秒間に渡って送信された。
[00:14:40] 通信が回復。
[00:17:01] D-66521が玄関に到着。
[00:17:57] D-66521がSCP-1620-JP-1から脱し、待機していたエージェントらと合流する。
<記録終了>
事後報告: 探査終了後、D-66521は1時間42分で聴覚性の幻覚症状を示しました。他の被影響者と比較すると発症のタイミングに個人差は見られますが、凡そ2時間程度で発症すると思われます。
1984/05/11から翌日にかけて、聴覚性の幻覚症状を訴えていた警察官、消防隊員らがハンセン病様症状を示しました。探査に参加したD-66521は13日に同様の症状を発症しました。これらハンセン病様症状の発現には2日から3日の時間を要するものであると推測されています。
補遺3(2004/12/04修正): 1989/09/03、監視下にあった被影響者であった███氏が肺炎を発症し死亡しました。原因は神経麻痺による嚥下障害であると推測されており、SCP-1620-JP-1との関連性は無いと判断されています。███氏の死亡から27分後、同氏を含む被影響者達を収容していた岩手県立███病院敷地内で散発的に事象-1620-JPの発生が報告されました。この事案を受け、財団は機動部隊を主体として病院関係者と収容患者の施設外への退避を実施しました。事象-1620-JPの発生から凡そ2時間後、███氏の死亡時に病院内に存在していたのべ382名が聴覚性の幻覚症状を訴えました。
これら382名は1989/09/03から翌日にかけてハンセン病様症状を発症しました。岩手県立███病院はSCP-1620-JP-1と同様の異常性を示していると判断され、当該施設はSCP-1620-JP-2に分類されました。現在、岩手県立███病院は病院施設の移転を表向きの名目として周辺の土地ごと閉鎖/収容されています。
補遺4(2004/12/04修正): SCP-1620-JP-1を████氏に売却した不動産会社を対象に調査を実施したところ、SCP-1620-JP-1は████氏に売却される以前にも貸家として利用されていたことが判明しました。担当者への尋問の結果、不動産会社側はSCP-1620-JP-1の有する異常性を把握していた事が明らかとなりました。
収容以前にSCP-1620-JP-1に居住していたことが認められるのは少なくとも8名であり、内4名は既に死亡していることが判明しました。財団が実施した広域調査の結果、死亡した4名の周辺ではSCP-1620-JP-1と同様の異常性を示す建築物が発見されました。これらはSCP-1620-JP-2に指定され、市街地に存在する物や一般人の関心を引く恐れのある物は全て解体されました。
また、これら建築物に侵入したSCP-1620-JP-2生成キャリアである対象は271名であり、そのうち54名は既に死亡しており新たなSCP-1620-JP-2を生成していました。SCP-1620-JP-2は日本各地で確認され、その広大な拡散範囲からオブジェクトクラスの再分類要請がなされました。審議の後、オブジェクトクラスはSafeからEuclidに再分類されました。
補遺5: 2008年頃からインターネット掲示板などを通じて未確認SCP-1620-JP-2と思われる建築物の情報が心霊スポットとして投稿されています。当初財団は投稿を削除していましたが発見時には既に情報の拡散が深刻となっていた為、全ての情報の隠蔽は困難でした。この情報を元に調査を進めたところ、新たに8つのSCP-1620-JP-2が発見されました。影響を受けたSCP-1620-JP-2生成キャリアの数は不明ですが、建築物の状態などから一般人の侵入があったことは確実視されています。現在は各医療機関内に潜入したエージェントによってハンセン病様症状を示すSCP-1620-JP-2生成キャリアの捜索が行われています。
この事案を受けSCP-1620-JP-1の所在する岩手県██町███地区での調査計画も再始動しました。また前回調査時からの研究優先度の引き上げにより、以前却下された精神誘導剤を用いた尋問の実施が許可されました。以下は現地で実施された調査の記録です。
インタビュー記録-1620-JP-2009/11/06-1
対象: ████氏 (以下対象)
インタビュアー: 野田フィールドエージェント (以下インタビュアー)
<記録開始>
インタビュアー: では、あなたが██さんのお宅について知っていることを教えてください。
対象: はい、私は40年くらい前に青森から嫁いで来た者なので、それ以前のことは分からないんですけど、私がここに来た時はあそこは貸家でして、別の人が住んでました。
[野田フィールドエージェントが記録を確認する。]
インタビュアー: その居住者というのは███さんですか?
対象: そうです。███さんも青森の人でして、仲良くしてもらってました。
インタビュアー: ███さんとの間に交友があったと。
対象: はい。でも、すぐに引っ越されたんですけどね。
インタビュアー: 引っ越されたのは入居からどれくらいでしたか?
対象: 確か……
[対象は12秒間に渡って考えている様子を見せる。]
対象: 2、3ヶ月ぐらいだったと思います。
インタビュアー: 引っ越しの理由などについて███さんは何か仰っていませんでしたか?
対象: なんというか、お化けが出る、みたいなことを言っていた気がします。
インタビュアー: 詳しくお願いします。
対象: えーと、なんの機会に聞いたのかは覚えていないんですが…一緒にお食事に行った時だったかなぁ?その時に「お化けが出る」と。
インタビュアー: 続けてください。
対象: なんか、突然お皿が割れたりだとか突然誰かに殴られたみたいな衝撃を受けたりだとかって言ってました。あと、耳元でずっと「あつい」って喋ってくるとか。
インタビュアー: あなたはその話を聞いてどう思いましたか?
対象: 私は███さんが冗談を言ってるものだと思ったんです。そりゃあ小さい頃はよくお化けだの妖怪だのとは言いましたけど、大人の口から出てくるとどうにも馬鹿馬鹿しくて。
インタビュアー: なるほど。
対象: でも、私が気になったのはお化けの話よりも███さんの外見の方でしたね。
インタビュアー: 外見ですか。
対象: えぇ。最初ご挨拶をした時はなんともなかったんですけど、ある日会ったら誰かわからないくらいに肌がぼこぼこになってて。
インタビュアー: それでも███さんとの交友は続いたんですか?
対象: そうです。同郷のよしみというのもありますけど、何よりも外見が酷く変わってしまったのが可哀想で。でも引っ越される4週間くらい前からは全く会えていなかったので、そこからどうなって引っ越しに至ったのかはよく分からないです。
インタビュアー: 会えなかったのは何か事情があったのですか?
対象: えぇ。あの時は、███さんが大変そうにしてらしたのでお宅に上がってお手伝いをしようと思っていたんです。そうして準備をしていたら主人が「あの男のところに行くのか」ってすごい剣幕で行ってきたんです。
インタビュアー: 続けてください。
対象: それで頷いたら、「あの男は癩病だから会うのは許さん」って言って私を殴ったんです。普段は静かな人なんで、そんな主人が私を殴ったのは驚きでした。なんというか、私にうつるのを恐がっていると言うよりも、███さんに関わられる事を嫌がっているように思いましたよ。
インタビュアー: なるほど。
インタビュアー: 他に何かご存知の事があればお話願えますか。
対象: そうですね。
対象: ███さんが引っ越されてからも何人かあの家には住んでる人がいましたけど、みんなすぐに出ていきましたよ。あの家の話をすると主人の機嫌が悪くなるのであまり気にしてませんでしたけど、みんな出ていっちゃうんだからもしかすると本当にお化けが出たのかも知れませんね。
[対象の笑い声]
<記録終了>
終了報告: ████氏の供述が事実であるならば、現地住民らはSCP-1620-JP-1の特性を理解していた可能性が高いと思われます。████氏の夫にあたる██氏は2001年に他界していますが、同年代の現地住民らへの調査が可能であれば更なる情報が得られると思われます。その為、インタビューが拒否された場合を想定して精神誘導剤の使用を申請します。
この要請は受理されました。SCP-1620-JP関連研究での精神誘導剤の使用を許可します。
インタビュー記録-1620-JP-2009/11/06-8
対象: ███氏(以下対象)
インタビュアー: 金子フィールドエージェント(以下インタビュアー)
補足: インタビューに際し精神誘導剤が投与されました。███氏の発言のうち、方言により内容の理解が困難であると判断された部分には標準語訳が括弧内に追加されています。
<録音開始>
インタビュアー: ██さんのお宅について知っていることを教えて頂けますか。
対象: [不明瞭な発言。精神誘導剤投与が原因と思われる。]
インタビュアー: ゆっくりで構いませんよ。
[48秒間の沈黙]
対象: もう、良い。
インタビュアー: では、改めてお聞きします。██さんのお宅について知っていることを教えて頂けますか。
対象: あっこに入ったもんは、みぃんな祟られんだ。
( 訳: あそこに入ったものは、皆祟られます。 )
インタビュアー: 祟られるとは?どういう事でしょうか?
対象: あっこさ入ったら、癩病のもんこが、おらぁどぉさ憑いてくんだ。憑かれたら、もうどうにもできねぇ。
( 訳: あそこに入ったら、ハンセン病患者の幽霊が私達に取り憑きます。取り憑かれたら、もうどうすることもできません。 )
インタビュアー: 癩病とおっしゃいましたね。あの家には癩病患者と何か因果関係があるのですか?
対象: 憑かれんのは家でねぇ。憑かれんのはあっこの土地。
( 訳: 取り憑かれるのは家ではありません。取り憑かれるのは土地です。 )
インタビュアー: その土地の上に家が建てられたという事ですか?
対象: んだな。
インタビュアー: では、その土地がその様な異常性を示すようになった原因について知っていることを教えてください。
[104秒間の沈黙]
インタビュアー: 大丈夫ですか?休憩を挟みましょうか?
[対象が同意したためインタビューは一時中断され、14分後に再開された。]
インタビュアー: では、再開します。
インタビュアー: その土地が異常性を示すようになった原因について知っていることで良いので教えてください。
[28秒間の沈黙]
対象: おらどぉがわらすん時だったけど、ここら辺で癩病の患者がでてだんだあ。
( 訳: 私達が子供の時でしたが、この辺でハンセン病の患者がでました。 )
インタビュアー: 癩病ですか。
対象: んだ。盛岡とか、███の方じゃ癩病の患者が連れていがれだりってのもあったらしいけど、おらほの村ですっただことはねがった。
( 訳: そうです。盛岡や、 ███の方面ではハンセン病患者が連行されたりしたらしいですが、私の村ではそのようなことはありませんでした。)
インタビュアー: 続けてください。
対象: 今だから癩病ば大してうつんねぇって分かってけど、昔はうつるもんだと思ってだったから癩病のもんさば近寄らねぇことさしてだんだ。山さ小屋っこ建でて、そこさ押し込んでな。
( 訳: 今となってはハンセン病はあまり伝染しないと分かっていますが、昔は伝染するものだと思っていたのでハンセン病患者には近寄らないようにしていました。山に小屋を建てて、そこに押し込んでです。 )
対象: んだども、疎まれて、嫌がられて、きっとさびしかったんでねぇべがな。ある日、癩病のもんが山の小屋からおりで村さ来てだったんだよ。すぐに山さ連れでいがれて、小屋さば外から閂までつけで閉じこめたんだ。
( 訳: ですが、疎まれ、嫌がられ、きっと寂しかったのだと思います。ある日、ハンセン病患者が山小屋から出て来て村に来たのでした。すぐに山に連れ戻されて、小屋には外から閂までつけて閉じ込めました。 )
対象: そしたら、癩病のもんが山からおりできてから1ヶ月ぐらいした時に、長内ってとこのわらすが癩病さなったのす。
( 訳: そうしたら、ハンセン病患者が山から降りてきてから1ヶ月程経った時に、長内という所の子供がハンセン病になったのです。 )
対象: 長内んとこの親父は癩病をうつされたって言ってさぶすぅごんぼほってよ。村のもんも、癩病のもんのせいだって言ってな。
( 訳: 長内の父親はハンセン病をハンセン病患者にうつされたと主張して怒っていました。村の者達も、ハンセン病患者のせいだと主張していました。 )
インタビュアー: あなたもその様に思いますか?
[対象は不明瞭な言葉を口にする。]
対象: あん時は思ったかもしれねぇけんど、多分、ほんとは違かったんでねぇべかな。
( 訳: あの時は思ったかもしれませんが、事実は違かったのだと思います。 )
[29秒間の沈黙]
インタビュアー: 話を続けてください。
対象: …そんで、長内んとこのおやずと若いもんが小屋さ行って癩病のもんを問い詰めたんだ。んだども、そもそも会ってないって言うもんだがら、嘘っこついてるってことになってな。ごんぼほってたおやずがその辺におづでた木の棒で癩病のもんを殴っちまったんだな。若いのがすぐに止めたんだけど、もう動かなくなってでな。
( 訳: 長内の父親と若者が小屋に行ってハンセン病患者を問い詰めました。ですが、そもそも会ってはいないと言うのですから、嘘をついているという事になりました。怒っていた父親はその辺に落ちていた木の棒でハンセン病患者を殴ってしまいました。若者がすぐに止めには入ったのですが、もう動かなくなっていました。 )
インタビュアー: 長内氏が癩病患者を殺害したのは現在の██さんのお宅が建っているあの土地ですか?
対象: いんや。違ぇな。
対象: そん時は癩病のもんはまだ死んでねがった。それに、おやずが殴ったのもあっこでねぇ。
( 訳: その時はハンセン病患者はまだ死んでいませんでした。それに、父親が殴ったのもあそこではありません。 )
インタビュアー: 詳細をお願いします。
対象: おやずが殴って動かなぐなったったから、勝手に死んだってことさすんべってなったんだ。長内んとこのおやじが殺したんでなぐ、病気で死んだってことさするべってよ。
( 訳: 父親が殴って動かなくなったので、勝手に死んでしまったという事にしよう、となりました。長内の父親が殺したのではなく、病気で死んでしまったという事にしよう、と。 )
インタビュアー: それは誰の提案でしたか?
対象: さぁなぁ、おらぁまだわらすだったすきゃあそこんとこはよぐ分がんねぇけど、おらのあんちゃが教えでけだったから、村のみんなで決めたんでねぇべかな。
( 訳: さぁ、私はまだ子供だったのでそこのところはよく分かりませんが、私の兄が教えてくれたので、村のみんなで決めたのだと思います。 )
インタビュアー: 村全体で隠蔽しようとしたということですか?
対象: んだな。
対象: ただ、見れば殴られたのは分かっからよ、燃してしまうことさしたんだ。
対象: あん時はここら辺はまだ土葬だったんだけど、結核とか赤痢とかで死んだのば伝染るかもしれねぇからって事で、特別に火葬してだったのす。少し山さ入った所にそれ専用の火葬場みたいなのもあった。んだから、癩病のもんは、燃してしまっても問題ねぇって。…そんで、警察さ伝わる前に燃してしまうことさなって、その日のうちに燃したのす。
( 訳: あの時はここら辺はまだ土葬でしたが、結核や赤痢で死亡した場合は伝染する恐れがあったので、特別に火葬していました。少し山に入ったところには火葬場のようなところさえありました。ですから、ハンセン病患者は燃やしてしまっても問題は無いと。…それで、警察に伝わってしまう前に燃やしてしまう事になり、その日のうちに燃したのです。 )
[18秒間の沈黙]
インタビュアー: 続けてください。
対象: 生きてだった。燃しはじめで、すぐによ。おきあがっだったのす。死んだのを燃すと、筋っこが縮んで起き上がることがあんのは知ってだった。けんど、起き上がって、暴れて、喋ってだったの。あつい、あついってよ。
( 訳: 生きていました。燃やし始めて、すぐにです。起き上がった のです。死体を燃やすと筋や筋肉が縮んで起き上がることがあるのは知っていました。ですが、起き上がって、暴れて、喋っていました。あつい、あついと。 )
対象: そんで、燃したのがあっこの土地だ。
( 訳: それで、燃やしたのがあそこの土地です。 )
インタビュアー: 生きていると分かった時、誰も助けなかったんですか?
[31秒間の沈黙]
対象: んだ。んだすきゃあ祟られたんだ。
( 訳: そうです。なので祟られたのです。 )
対象: おらどぉわらすは、ただ薪っこ集めて離れたとっからみてるだったすきゃぁ何ともねがったけど、近くにいたもんはみんな祟られたんだ。
( 訳: 私達子供は薪を集めて離れたところから見ているだけだったので何ともなかったのですが、近くにいた者達は皆祟られました。 )
対象: おらのあんちゃもだった。あつい、あついって聞こえんだってよ、そんで、何日もしねぇうちに突然癩病になっちまった。他んとこのもだった。あん時に近くにいたのはみんな、癩病さなった。
( 訳: 私達の兄もでした。あつい、あついと聞こえるのだそうで、それで、何日もしないうちに突然ハンセン病患者になってしまいました。他のところもです。あの時近くにいた者達は皆、ハンセン病患者となったのです。 )
インタビュアー: 発症した彼らはその後どうなったんですか?
[20秒間の沈黙]
対象: 燃した。みんな燃した。
対象: 全部、ながったことさしようとしたんだべな。
[127秒間の沈黙]
対象: …そっからは、あっこの土地は入っちゃいけねぇって事さなった。んだども、おらが出稼ぎさ行って村さ戻ってきたら街の方の不動産屋が貸家を建てでだった。
( 訳: そこからは、あそこの土地には入ってはいけないという事になりました。ですが、私が出稼ぎに行って戻ってくると街の方の不動産屋が貸家を建てていました。 )
対象: 村のもんさ聞いだら、やっぱし建ててる時に大工が癩病さなったらしいってな。完成はしたんだけんど、誰も住まねぇべって事だった。んだども、何回か街の方から人っこが入ったった。
( 訳: 村の者に聞いたところ、やはり建設中に大工がハンセン病になっているらしいと。完成はしましたが、誰も住まないだろうという事でした。ですが、何回か街の方から人が入居しました。 )
インタビュアー: 入居者に対してそれを教えたりはしなかったんですか?
対象: 誰であれ村じゃああの事さ触れんのは、許されなかったすきゃあよ。そりゃあ何年経っても変わんねぇこっただ。
( 訳: 誰であれ村ではあの事に触れるのは許されなかったのですから。それは何年経っても変わらない事です。 )
<記録終了>
終了報告: この証言はインタビュー記録-1620-JP-2009/11/06-1で得られた████氏の証言との整合性が認められる為、信憑性も高いものと考えられます。
追記: 当時82歳だった█████氏はインタビューの8日後に副作用による半身麻痺を発症しました。現在は財団関連医療施設で治療を受けています。
これらインタビューの結果から、SCP-1620-JPの起源にはインタビュー記録-1620-JP-2009/11/06-8で証言された岩手県██町███地区での一連の事件が起因していると考えられます。異常性の獲得に至った経緯や、対抗策に関しては研究が進行中です。