クレジット
タイトル: SCP-1642-JP - 頭文字イニシャル提だい
著者: ©︎FattyAcid、hotarugi、renerd
作成年: 2022
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アイテム番号: SCP-1642-JP
オブジェクトクラス: Euclid
特別収容プロトコル: SCP-1642-JPはサイト-8103の、エアロック付き気密収容房に収容され、標準的なイタチ科動物の飼育手順に基づいて飼育されます。収容房の周囲には制限エリアが設けられ、エリア内への大型動物及び大型機械の持ち込みは禁止されています。
収容房内の温湿度及び気圧、気流等の環境条件、SCP-1642-JPの体温や心拍数は常に監視されます。環境条件の顕著な変動やSCP-1642-JPの高ストレス兆候が見られた場合には、必要に応じ、SCP-1642-JPの好む環境音の再生、ボール等の遊具器具の供与、緊急の場合には鎮静剤ガスの房内への噴霧を行い、攻撃行動を抑制します。
要注意団体 "遠野妖怪保護区"1は、SCP-1642-JPのより適切な管理法の確立にとって有益な情報を有していると考えられています。渉外部門主導の下、財団-保護区間の緊張関係の緩和及び、情報交換チャンネルの確立の試みが進行中です。
説明: SCP-1642-JPは四足動物型異常実体です。哺乳綱食肉目、特にイタチ科に類似する特徴を有しますが、その形態的特徴に完全に合致する既知の種は存在しません。体長は可変ですが、最大3m程度と推定されます。SCP-1642-JPは、身体の非固体化・流動化能力及び、自身の周囲の気圧・気流を操作する能力を有します。
SCP-1642-JPはウシやウマをはじめとする大型の動物及び、走行中の乗用車のような運動する大型の機械に対し、強い敵意を示します。通常、このような対象への接近は前述の異常性を利用した攻撃行動を誘発します。
SCP-1642-JPは、釜石自動車道上において相次いで発生した自動車の不可解な自損事故が財団の注意を引いたことで発見されました。収容に至った経緯については、補遺3を参照してください。
補遺1: 歴史的資料
日本国内の民間伝承に、SCP-1642-JPに類似する存在が登場するものが確認されています。神話・民俗学部門により、国内に現存する複数の資料から、SCP-1642-JPと同一あるいは同種の異常実体についての記述が収集され、記録されています。
以下に、その代表的なものである「伽婢子おとぎぼうこ」からの抜粋を示します。
提馬風だいばかぜ
抜粋
尾濃駿遠三州びでうすんえんさんしうのあひだに、提馬だいば風とてこれあり。里人あるひは馬にのり、あるひは馬を引てゆくに、旋風おこりて、すなをまきこめまろくなりて、馬の前にたちめぐり、くるまのわの轉てんずるがごとし。漸々ぜんぜんにその旋風つちかせおほきになり、馬の上にめぐれば、馬のたてがみすくすくとたつて、そのたてがみの中にほそき糸のごとく、いろあかきひかりさしこみ、馬しきりにさほだち、いばひ鳴いなゝきてうちたをれ死す。風そのときちりうせてあとなし。いかなるものゝわざとも知人なし。もしつぢかぜ馬の上におほふときに刀をぬきて、馬の上をはらひ光明眞言くはうみやうしんごんを誦じゆすれば其風ちりうせて馬もつゝがなし。提馬だいば風と號すといへり。
現代語訳
尾濃駿遠三州 (現在の愛知県・岐阜県・静岡県にあたる地域) に、提馬風というものがある。里人が馬に乗って、あるいは馬を引いていると、旋風が起き、砂を巻き上げて渦を描き、馬の前で動く。まるで車輪が回るようである。旋風が徐々に大きくなり、馬の上に覆いかぶさると、馬のたてがみが逆立ち、その毛の中に細い糸のように、赤い光が差し込む。すると馬は竿立ち、嘶いて、倒れて死んでしまう。そして、風は跡もなく消えてしまう。どのような存在によって引き起こされるのかは、誰も知らない。旋風が馬の上に覆い被さってきた際に刀を抜き、馬の上を払って光明真言を唱えると、風は消え、馬も無事である。これを提馬風と呼ぶそうだ。
上記で引用された「伽婢子」は、1666年に作家・僧侶の浅井了意によって出版された仮名草子です。この書物の内容の大部分は、中国の怪異譚を翻案して舞台を日本に移し替えたものであり、創作であると考えられています。一方で、補遺2に示す、蒐集院2が有していたSCP-1642-JPに関する情報との間で、特徴の一致が見られる点は特筆すべきです。3
補遺2: 歴史的経緯
SCP-1642-JPの存在は1667年に蒐集院によって認知され、以降200年以上に渡り、蒐集院による隠蔽工作及び収容の試みが断続的に行われてきました。1888年、SCP-1642-JPは蒐集院によって成功裡に確保され、岐阜県に所在する院所有の宗教施設において、隠秘学的手法を用い、不活性状態で収容されていました。その後、第二次世界大戦期に、SCP-1642-JPは大日本帝国異常事例調査局4の組織する特殊自治大隊 (通称 妖怪大隊) に徴用され、戦力として利用されていた記録が残っています。
以下に、蒐集院から引き継いだ資料の抜粋を示します。
辻風鼬蒐集物覚書帳目録第〇九一〇番
寛文七年捕捉。 研儀官 大江山弥二郎により発見。美濃国から三河国に至る街道沿いにて馬の怪死が続いたことから、研儀官と衛士の一団を遣わし、捕捉に至った。神出鬼没にて捉え難く、また、身の素早さと強靭さのために蒐集は成功せず。
身を辻風に変ずる大鼬。鎌鼬の大型化した変種と思われる。なお、鎌鼬については蒐集物覚書帳目録第〇三三一番を参照されたし。体躯は十尺ほどあり、鎌は持たず、人語を解さない点で鎌鼬とは異なる。また、鎌鼬は人を襲うが、この辻風鼬は牛馬を襲い、生気を吸い、死に至らしめる。度々、風として鼻より入り、肛門から出るなどといった、奇妙な振る舞いも観察される。当地では、不空大灌頂光真言によりて退くとの口承もあり。
延宝八年追記。 蒐集法の完成のため研儀を進めるも、五行結社5の介入もあり、難航。結社は辻風鼬の殺害を目論んでおり、陰陽道に基づく占術で位置を特定しては攻撃を仕掛けている。彼らも、かの大鼬の素早さと強靭さには苦戦しているようだ。当院の結論は、蒐集のためには辻風鼬の動きを止める手法、あるいは鼬を追い続けながら実行可能な封印術式が必要であり、技術の進歩を待つ他ないというものであった。以降、担当者の任は情報収集と隠蔽となる。
明治二十一年蒐集に成功。 この前年に新たに延伸開業された官設鉄道東海道線の熱田大垣間において、運行中の鉄道車両の不可解な損傷が複数回に渡って発生していた。当時の内閣鉄道局長官、井上勝から折り入っての相談を受けて調査を行い、車両の損傷が辻風鼬の攻撃によるものであるとの特定に至った。牛馬のみならず、大きく動くもの全てに反応すると推測される。
協議の末、当年創設されたばかりであった帝国異常事例調査局への情報提供を名目とし、実質的に当院主導での共同蒐集作戦が決行された。作戦においては、汽車に牽引された貨車に当院所属の術師数名が乗り込み、辻風鼬の襲来を迎撃する形で封印が試みられた。車両内に陣を敷き、並走しながら儀式を完遂したのである。作戦は成功し、辻風鼬は当院の管理下となった。
昭和十四年追記。 帝国異常事例調査局による接収を受け、辻風鼬は当院の管理下を離れた。調査局の使者曰く、特殊自治大隊、すなわち妖怪大隊における運用を目的としており、大陸方面で対騎兵及び対戦車の戦力としての活用を見込んでいるとのこと。簡単に調教などできるとは考えづらいが、使者は自信ありげな様子であった。
恩を仇で返すとはまさにこのこと — 記・研儀官 吉野五郎
終戦後にIJAMEAが解散してから財団に発見されるまでの間、SCP-1642-JPがどこに存在していたかは不明でした。遠野妖怪保護区からの情報提供により、1945年の終戦直前、SCP-1642-JPは調査局の管理下を脱して他多数の異常実体群とともに保護区に移入し、寒戸郷妖怪保護センターで管理されていたことが判明しました。詳細は補遺3を参照してください。
補遺3: 確保作戦
財団がSCP-1642-JPを発見した数時間後、要注意団体 "遠野妖怪保護区" の区役所対外課からの接触がありました。区からは、SCP-1642-JPが蒐集院管理物の第〇九一〇番と同一の存在であるという情報とともに、更なる情報提供と確保作戦への協力の打診がありました。渉外部門の超常コミュニティ交渉担当者、エージェント・牧谷がこの職務に割り当てられました。
会議転写記録
参加者:
- 渉外部門 Agt.牧谷
- 機動部隊 わ-6 ("トップギア・フルスロットル")6 隊員3名
- 隊長 Agt.有原
- 隊員 Agt.紅川
- 隊員 Agt.苅屋
- 遠野妖怪保護区 区役所対外課 木津 貴士7
- 遠野妖怪保護区 妖怪保護センター職員 鎌鼬 一郎8
[記録開始]
Agt.牧谷: そちらからの申し出通り、車両運転に長けた機動部隊を招集しておきました。"トップギア・フルスロットル" の皆さんです。
Agt.有原: よろしくお願いします。
[Agt.有原が手を差し出す。鎌鼬が握手に応じようと試みるが身長の問題で失敗し、木津が代行する。]
木津: ありがとうございます。こちらこそ、よろしくお願いします。
Agt.紅川: しかし、なぜ我々が? 走行しながら収容をするのですか?
木津: ええ、その通りです。院の資料にありませんでしたか? 当時は鉄道で
Agt.牧谷: 申し訳ありません。うちのアーカイブ部門は優秀ですが、昨日の今日では彼らに資料を渡す暇もなく。こちらには用意しています。
[Agt.牧谷が電子化された資料をモニター上に表示する。]
Agt.有原: なるほど、並走しながら、と。他の手段では?
Agt.牧谷: 8103の収容スペシャリストの見解は、最も迅速かつ高コストパフォーマンスな手段はこれであろうと。
Agt.有原: 了解した。だが、もう少し情報が欲しいな。そもそもなぜ保護区から脱走したんです?
木津: それはですね、ええと
鎌鼬: 木津さん、誤魔化しても仕方ないでしょう。こちらの落ち度なんですから。
Agt.牧谷: と言いますと?
木津: ええ、初めから説明します。保護区の東にはイーハトーヴ合区という地域が広がっていまして、銀河鉄道、言うなれば "飛行機関車" の駅があります。提馬風がいた保護センターからは西の方角にあたります。
[木津が地図の一部をモニター上に表示する。]
木津: 役所のIT推進顧問に作ってもらいました。まあ、こういう位置関係なわけでして、提馬風への配慮のために、東へは飛ばないようにと駅には約束してあったんですね。ところが何かの手違いで、汽車が山の上空に来てしまいました。運悪く、運動のために彼を外に出していたこともありまして、ええ、あとはお察しの通り、汽車を追って外界へ。
Agt.苅屋: 外に出してたんですか。財団では考えられないな。
木津: 馬と牛と車が関わらなければ大人しいんです。本当ですよ、眉に唾を塗らないで下さい。
Agt.牧谷: SCP-1642-JPは現在、釜石自動車道付近に潜伏していると考えられています。残念ながら、車が関わる状況です。
Agt.有原: 迅速な収容が求められるな。作戦の詳細について聞かせてください。
鎌鼬: トラックを走らせて囮にし、荷台に飛び込ませることを考えています。荷台に馬でも乗せておけばいいでしょう。保護区でも一度混乱して暴れたことがありまして、その時は朧車で誘導をかけました。恐らく似たようなことが出来るはずです。
Agt.有原: 難しそうだが、不可能ではなさそうだ。事故の多くは東和インターチェンジの先で起きているからこの辺りで接触するとして、赤部トンネルに入る前に
Agt.紅川: ルートの詳細は後ほど地図を見ながら詰めましょう。機材の方はどうです?
Agt.牧谷: 物流部門からオブジェクト輸送用の収容チャンバー付きトラックを提供してもらっています。荷台を気密仕様に改造しているところです。
Agt.苅屋: いいですね。他に懸念事項はあります?
木津: 五行結社。
Agt.牧谷: あの陰陽師集団ですか?
木津: ええ。提馬が区を出たことに気づけば、彼らは必ず来るでしょう。十分にお気をつけて。
Agt.有原: 何か対抗するのに必要なものは?
鎌鼬: 連中は古いやり方にこだわりがあるみたいです。古典的な陰陽術への対策があるといいかもしれませんが。
Agt.牧谷: 隠秘学研究の部署に連絡を入れておきます。それと、アーカイブ部門にも蒐集院の資料を当たるようにと。
木津: 古いやり方を好む友人、うちにも ええ、私どもの方でも情報は集めておきます。
Agt.牧谷: では、一旦お互いに連絡の時間も兼ねて、休憩としましょうか。その後に、作戦の詳細を有原さん主導で詰めていただけると。
Agt.有原: 了解した。
[記録終了]
付記: その後の会議、関係部署との調整を経て、"オペレーション・ダブルダッシュ" の発動が決定した。
以下は、2020/██/██ 夜 〜 ██ 未明にかけて実施された、SCP-1642-JPの確保作戦 "オペレーション・ダブルダッシュ" の記録です。作戦は釜石自動車道の花巻ジャンクションから遠野住田インターチェンジまでの区間、約40kmを通行止めにして行われました。作戦は、担当機動部隊わ-6の3名に、保護センター職員の鎌鼬氏を加えた4名で遂行されました。
作戦にあたって、オブジェクト移送用の特殊トラックが物流部門から提供され、サイト-8103工学技術事業部門の収容スペシャリストらによって、後部荷台が気密収容チャンバーに改装されました。オブジェクトを荷台に誘い込むために、馬型の模型が製作され、ウマの体臭成分を含む溶液が塗布されました。想定される五行結社による妨害への対策として、隠秘学研究チームは被弾時に対象の隠秘学ポテンシャルを一時的に撹乱する非殺傷弾薬と発射用の拳銃を提供しました。
作戦記録
オペレーション・ダブルダッシュ
<20:00> 釜石自動車道の夜間通行止めを開始。カバーストーリーは[事故多発による緊急点検と改修]が用いられた。
<20:14> 全ての民間車両の釜石自動車道からの退出を確認。
<20:26> 作戦用特別車両が花巻空港ICに到着。機器の最終点検を開始。模型馬が荷台に積み込まれる。
<21:32> 機動部隊わ-6・鎌鼬一郎間での計画の最終確認が完了。
<22:05> 機動部隊わ-6の有原隊長、紅川通信手が特殊改装トラックに、苅屋隊員と鎌鼬一郎が作戦支援車両 (日産・フェアレディZを改装したもの) に乗り込む。
<22:30> 作戦開始。
[以下はトラックの車載カメラ映像および4人の会話記録の書き起こしである。車間でも各人のヘッドセット越しに通話が可能だった]
[26分間、片側一車線で中央分離帯のない釜石自動車道を、トラックは左、支援車両は右車線で並走し続ける。速度はおよそ20km/hを維持]
紅川通信手: 高速道路でこの遅さ……そろそろSCiPもかかっていい頃では?
有原隊長: 運転でも代わりたくなってきたか?
紅川通信手: いえ、隊長の方がドライビング・テクニックは優れていますから…… ただ、この雨の中車線変更すらできないのが怖いですね。対象がどれほどの異常性を持っているのか
鎌鼬: 提馬風、いえ、SCP-1642-JPはあくまで一体の妖怪です。風に変化することができても、台風を起こす程のことはできませんよ。この車を ええ、我々が彼のことを知らなければ、壊すことはできたでしょうが。
苅屋隊員: 例えば、爆破してくるとか、レーザーを打ってくるとか、そういうことはないんですよね。
鎌鼬: はい。その通りです。
有原隊長: その「風になる」という特性も、鎌鼬氏の協力で感知でき [6秒間沈黙] 今、何か聞こえたか?
[トラックの車載カメラには断続的な爆発音が記録されている]
苅屋隊員: 雨音が酷いですが、確かに、爆発のような。対象は
鎌鼬: 彼にそんな力はありません! 気流の変わった感覚すらないですよ!
有原隊長: 至急作戦本部に連絡を。
紅川通信手: ……通じません、先程までは大丈夫だったのですが。
有原隊長: 苅屋、少し速度を上げるぞ。各自後方を確認!
[2台が50km/h程度まで加速する。風雨のため視界が悪く、車載の後方カメラに爆発音の原因は映らない]
苅屋隊員: 雨とカーブのせいで見づらい! 二百メートルで山を抜けて視界が開けるはずです!
[車載カメラに一瞬、矢が映る。矢は着弾地点で爆発し、道路に設置してあったライブカメラを破壊する]
紅川通信手: 馬だ! 馬に乗った奴らがこっちに向かってきます!
苅屋隊員: 馬だって?
紅川通信手: 数は……二、三……五騎です!
[騎兵集団の先頭が放った矢がトラック後方約10mに落ち、爆発が起こる]
有原隊長: まさか、五行結社の連中か!
鎌鼬: 犬追物なら反則だぞ! 奴ら [更なる爆発に言葉を区切る] 爆弾矢9を射ってきている!
有原隊長: 雨で狙いは良くない、振り切ります!
苅屋隊員: [至近距離で連続した爆発に悪態をつく] 了解!
[2台が90km/hまで加速し、爆弾矢による攻撃を回避。一方、五行結社の騎兵も襲歩で同程度の速度を出す]
紅川通信手: 依然連絡が取れません、江刺田瀬インターで直接応援を呼ぶしか…… 奴ら速い!
鎌鼬: あの態勢……押し捻り、後方に矢を打っています、何らかの呪矢の反動で加速している!
有原隊長: 攻撃頻度は少なくなりました、江刺田瀬まで約七キロ、五分もかかりま
鎌鼬: 後ろに風が! 来ます!
[最後方に位置していた五行結社の1騎が、突如転倒する。転倒の直前にはわずかに赤色の発光が見てとれる]
苅屋隊員: 来たか!
鎌鼬: はい、提馬です!
[SCP-1642-JPが、全長およそ2mのイタチの姿をとって実体化する。五行結社の残り4騎は散開しつつ、弓を実体に向けて構える]
有原隊長: 五行の奴らは気を逸らしている、今のうちに排除を!
[騎兵らがSCP-1642-JPに向けて一斉に矢を放つが、SCP-1642-JPは非実体化し、それを回避する]
紅川通信手: 了解!
[紅川通信手がトラックの助手席から半身を乗り出し、拳銃を6発打つ。銃弾は1騎を掠めるも、無力化には至らない]
紅川通信手: もう一度
[反撃の矢が紅川通信手に向けて放たれる]
鎌鼬: 危ない!
[鎌鼬が支援車両から瞬間的に消失し、身体をトラックの窓に引っ掛けるように再出現する。紅川通信手を狙った矢は不自然に軌道を逸らす]
紅川通信手: 助かった!
鎌鼬: [身をよじって車内に入ろうとしながら] 自力で戻れます、運転に集中を。
[SCP-1642-JPは機動部隊に気を取られた2騎を無力化し、再度実体化する。体長を3mほどに増大させ、支援車両に向かって大きく吠える]
苅屋隊員: こっちに向かってくる!
有原隊長: 思いっきり飛ばせ! 後方ドアを解放!
紅川通信手: 了解、後方ドア解放完了!
[トラック荷台の後方ドアが開き、中の模型馬が外部から見える状態になる。急加速した支援車両は矢を1本回避することに成功するも、もう1騎の放った矢が命中する]
紅川通信手: へい、こっちだSCiP!
[SCP-1642-JPがトラック内の模型馬に大きく反応する]
鎌鼬: 爆発しない?
苅屋隊員: 効いたか 紅川の弾が当たってたんだ!
鎌鼬: あんな急拵えの呪い封じの弾でも役に立つとは
[先ほど銃弾を受けた五行結社の騎兵は急速に失速し、相対距離が大きく開く]
紅川通信手: あくまで一時的ですがね!
[SCP-1642-JPが非実体化し、トラック荷台中の気圧計が強く反応する。模型馬の周囲に局所的な旋風が発生する]
紅川通信手: ドア閉鎖!
[荷台のドアが閉じ、SCP-1642-JPが確保される。実体は閉じ込められたことに気づき逃走を図るが、気密チャンバーが揺れるに留まる]
有原隊長: 成功! このままトンネルに突っ込む! 抜けたら応援と合流してICから出るぞ。追手は一人、トンネル内では爆発も起こしにくいはずだ。
苅屋隊員: トラック右後方につきます、このまま
[残った五行結社戦闘員が弓を捨て、法螺貝を大音量で吹き鳴らす]
紅川通信手: うるさ
有原隊長: 前方注意!
[赤部トンネル内部の路肩に潜伏していた五行結社戦闘員13騎が、2台に向けて矢を一斉に放つ。両者のフロントガラスががひび割れ損壊し、有原隊長、苅谷隊員、鎌鼬が軽い切り傷を負う]
鎌鼬: トンネルに隠れて しかし、爆弾じゃなくて良かった!
有原隊長: 全速で駆け抜ける! 江刺田瀬はすぐそこだ!
苅屋隊員: 適当ですが撃ちます!
[苅屋隊員が銃を後方に乱射する。2台はトンネル内を約150km/hで走り抜ける]
紅川通信手: もうあと一分でイン
鎌鼬: かあっ!
[トンネルを抜けた先で更に9騎が出現。同時に鎌鼬が非実体化してトラックの座席から消失し、2台に直撃する軌道の矢3本が逸れる。鎌鼬はトラックの後方ドアの取っ手にしがみ付いた状態で実体化する。後方で大きな爆発が起こるが、車両に大きな損壊は無い]
苅屋隊員: 鎌鼬さん、どこに!
鎌鼬: 荷台に掴まってる、落ちちゃいない! [不明、鳴き声のような音を荷台に向けて発する] 提馬も無事だってさ!
有原隊長: 高速をこのまま進むぞ、減速するな!
紅川通信手: 宮守ICに通信繋がりました! 江刺田瀬はダメです!
有原隊長: 了解、宮守まで飛ばそう。道中はトンネルが多い、連中も爆弾は使いにくいはずだ!
鎌鼬: インターチェンジからさらに敵方増援! まずい!
[江刺田瀬ICで待機していた財団職員は攻撃を受け、退避。更に3騎が合流し、銃弾を受けていない計20騎が一斉に矢を放つ]
苅屋隊員: 何とか避
有原隊長: くっ
[3本の矢が空中で爆発し、他の矢も巻き込まれる。爆発は車両には届かない]
紅川通信手: 一体何が?
鎌鼬: 遅かったな! やっとだ!
[後方からバイク10に乗った黒装束の人間が3人出現する。財団車両に向けて更に放たれた矢が投擲物で迎撃される]
紅川通信手: 忍者?
苅屋隊員: どういうことだよ?
鎌鼬: 我々が呼びました! 忍者は天狗と仲がいいんですよ、保護区にはコネが。
有原隊長: 何でもいい、協力者なんだな? [音声をスピーカーに出力し] 我々は宮守まで行く、援護を頼む!
[リーダーらしき無尽月導衆の構成員1名が親指を立てるジェスチャーをトラックに向け、有原隊長はサイドミラー越しにそれを確認する]
[無尽月導衆の構成員により、五行結社の騎兵隊は爆弾矢の射出を阻害されている。各騎兵は、徐々に減速し1騎ずつ隊から脱離していく]
紅川通信手: よし、あと二分で応援とも合流できます!
苅屋隊員: 待て、あれは何だ!?
[残留した最後の五行結社騎兵が弓を捨て、長槍を取り出す]
紅川通信手: どこに隠してた? 投げ槍だろうと届くわけ
[槍は投げられると同時に、後方から何らかのガスを噴射し加速する]
鎌鼬: もう一度 !
[鎌鼬が非実体化し軌道の変化を試みる。槍は僅かに上方に逸れるも、回避に十分ではない]
鎌鼬: [空中できりもみ回転しながら] 重すぎる!
苅屋隊員: いや、間に合った!
[苅屋隊員の特殊銃弾が最後の戦闘員に命中し、槍の推力が消える。槍は財団車両の後方15mに落下し、爆発を起こす]
有原隊長: 鎌鼬さん !
[鎌鼬は空中できりもみ回転を続けていたが、姿勢を安定させつつある]
鎌鼬: えへへ、イタチの最後っ屁ってね。こっちは
[鎌鼬は無尽月導衆のバイクに着地し、タンデム乗りになる]
鎌鼬: 大丈夫!
[財団の応援部隊が合流する。2台は速度を緩め、宮守ICから釜石自動車道を抜ける道に入る]
紅川通信手: [応援部隊に] こちらは確保完了です、江刺田瀬の救護をお願いします! 任務中、五行結社の襲撃を受けましたが、増援の
[無尽月導衆のバイク3台が突如木の葉に覆われ、消失する。同乗していた鎌鼬も同時に姿を消す]
紅川通信手: いえ、後で記録の際に話します! ともあれ確保には成功しました!
[記録終了]
付記: 作戦後、SCP-1642-JPはサイト-8103へ移送され、初期収容体制が確立された。
確保作戦 "オペレーション・ダブルダッシュ" が成功してから1日後、2枚の書面がサイト-8103正面玄関に突如出現しました。1枚は封筒に入っており、SCP-1642-JPの管理権を委任する旨と管理に際しての注意点が記載されており、末尾には「遠野妖怪保護区区長 日奉藪」というサインがありました。
もう一方の書面はわら半紙に墨で書かれていました。内容は以下の通りです。
大変でしょうが、たまには運動の時間を取っていただければ、同族としても嬉しいです。 一郎
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