SCP-1680-JP
アイテム番号: SCP-1680-JP
オブジェクトクラス: Safe
特別収容プロトコル: SCP-1680-JPはサイト-9123の標準収容ロッカーに施錠して保管されています。対象の珠は動かないように器具で固定して下さい。
説明: SCP-1680-JPは木製の算盤です。財団は現在650台を収容しています。
SCP-1680-JPの珠を動かした人間の体内にはテトラヒドロカンナビノール1が発生します。一般的なパイプを用いた吸引と比べると珠一つあたりの発生量はかなり少量ですが、珠一つ一つがその異常性を持つため、連続で振るなどすると死に至ることがあります。恐慌状態2の発生は確認されていません。
SCP-1680-JP-1はSCP-1680-JPによって発生したテトラヒドロカンナビノールによってカンナビノイド受容体3が増加した人間です。通常の算盤の珠を用いてもテトラヒドロカンナビノールが体内に発生するようになります。
SCP-1680-JPは20██/█/██に発生した宗教間の抗争事件が財団の興味を引き、調査された際に収容されました。詳しい経緯は補遺を参照して下さい。
SCP-1680-JPは20██/█/██に兵庫県小野市の████株式会社によって生産され、インドの█████小学校に寄贈されたものでした。工場や従業員からは特に異常性は見つかっておらず、再生産することは不可能です。同社によって販売されている市販のものはSCP-1680-JPと同一の組成をしていますが、20██年█月現在、異常性をもった商品は確認されていません。
補遺: 前述のインドの█████小学校における何回かのSCP-1680-JPを用いた授業の後に保護者がオブジェクトを所有するようになりました。その後、自然発生的に個人の所有する土地に集まり使用するようになり、SCP-1680-JP-1が急増したと見られています。コミュニティーは当初算盤教室、算盤競技大会や高齢者が集まる「算盤の会」のような形で存在していましたが、暫くするとヒンドゥー教や仏教などの既存の宗教に算盤の要素が追加された新興宗教として発足していきました。
発足から5日後、教団の一部が教えを「怠惰的・煩悩的である」と批判し分離しました。新たに作られたコミュニティーでは布教が試まれました。しかし、SCP-1680-JPは前述の団体が殆ど保有していたため、信者はあまり増加しませんでした。そのため、過激派の信者グループが強盗を起こし、結果的に█名の死者と██名の負傷者を出す抗争事件にまで発展しました。この事件が財団の興味を引き、SCP-1680-JPは収容されました。
インタビュー記録1680-JP
対象:█████・███氏。最初に発生したコミュニティーに所属しており、分離した教団に参加した。仏教徒。
インタビュアー:██博士
<録音開始>
██博士: 最初に算盤を用いるようになったのはなぜですか?
███氏: 息子に勧められたからです。「楽しい」とか「気持ちがいい」とか言われてしまって。息子の勉強に付き合うつもりでしてみたらハマってしまって。
██博士: なるほど。どのような形であのコミュニティーはできたのですか?
███氏: 息子と同じクラスの子を持つ友人に何気なくこの算盤の話をしたら変な話だね、ってなりました。なのでみんなでこの算盤についてどうするか話し合おう、という流れになって自分の家に集まることになりました。██博士: 最初は算盤を使うために集まったわけではないんですね。
███氏: はい。それから家で集まってみんなで珠を弾いていたら、まぁ、大麻みたいなこれを子供に使わせるべきではないけど、俺たち大人が使う分にはそんな悪いものではないか、っていう感じになったんですよね。で、使うなら警察に見つからないように体裁を整えようと思って、あんな形になってました。で、招待制でメンバーが増えていきました。
██博士: 宗教的な団体になった経緯を教えてください。
███氏: 最初のうちは大麻を吸う感じでぼんやりしたこととかを話しながら意味もなく珠を弾いていたんですけど、みんな慣れてきて世間話とかができるようになったんですよ。その中でも宗教とか哲学の話をした時に今まで感じたことがないような閃きが湧いてきて。そこからはみな宗教の話しかしませんでしたね。██博士: では、分離した経緯について教えて下さい。
███氏: 暫くすると、その語り合いは無くなって、形式的なものになっていったんですよね。経を読むとか、経典を読む、とかはもちろん大切だと思うんですけど、別に算盤を使いながらやる必要はないと思うんですよ。で、気づいたんです。この人達はただこの算盤でしか得れない幸福を求めているだけで、悟りを開こうとはしてないんだ、って。それはまさしく煩悩です。私は何人かの話が通じそうなメンバーに話しかけて、一緒にそこから分離しました。██博士: それからのあなたの教団について教えてください。
███氏: きちんと前の団体との差別化を図ろうと私たちは考えました。悟りの境地に至り、真理を知ることを求めることを目標に掲げました。そのために私たちはただ算盤を弾く快感に浸かるだけではなくて、語り合いの中から意味を見出そうとしたんです。それからの数日間は今にも記憶に焼き付いているほどの素晴らしい時間を過ごしました。██博士: どのような体験をされましたか?
███氏: そうですね、衝撃を受けた、という表現はよく用いられますが、私にとっては全てが溶けて新しいものが構成されていくような、非常に貴重な日々でした。今までの何でもないような日常の営みがどれほど世界へ繋がっているのか、解脱への道のりはどうすればいいのか、私たちは何なのか。そんな疑問が解き明かされていきました。
██博士: なるほど。
███氏: 素晴らしさを噛み締めていく内に、あのような邪教に入る人間を減らすためにも、私たちの活動を広めようと布教をしなければならない、と誰がが言い出しました。多分その人でなくても、他の人がいつか言ったでしょうし、おそらく私も。それで全会一致で布教を行うことになりました。
██博士: 布教はどのように行われましたか?
███氏: 布教といっても大げさなものではなくて、同じ職場の人や近所の人みたいな知り合いにそろばんについて教える、ぐらいですね。本当は講演のような形で大勢の人を集めてしたかったのですが、それはできませんでした。
██博士: なぜできなかったのですか?
███氏: 私たちには明らかに算盤が足りなかったからです。私達が所有していた算盤は離反した当初のメンバーの人数分しかありませんでした。それで人を集めても十分に算盤を体験させることはできませんし、一人一人にコツコツと布教する必要があったのです。
██博士: では、どのようにしてあのような抗争事件に発展したのですか?
███氏: ある時、算盤を隠していた場所を知っていた彼は盗みを働こうと計画しました。それは悪の業を作るだけだといって私は反対しました。しかしながら多くのメンバーは賛同し彼についていきました。私は、どうかしていたんでしょうね。彼らを見限って盗みに関わらず残ったメンバーと共に算盤を用い続けました。結果として多くの血は流れ、たくさんの親友が死ぬこととなりました。
██博士: ご愁傷様です。大変な目に会いましたね。これでインタビューを終…
███氏: いえ、違うんです。これは私達の責任なんです。あの算盤を使ってさえいなければ彼らは冷静な判断を下すことができていたのです。私だって、無理矢理にでも彼らを止めることができたはずです。真に怠惰的で、煩悩的だったのは大麻もどきに頼っていた私達だったんです。
<録音終了>