SCP-1687-JP
評価: +106+x
blank.png
91F0F409-FA56-4230-A3A6-55C73641BE3D.jpeg

SCP-1687-JP-1の一種

アイテム番号: SCP-1687-JP

オブジェクトクラス: Safe

特別収容プロトコル: SCP-1687-JPが活動場所としている一帯を含めた山岳地帯は一般社会においてアイルランド政府直轄の国立公園として取り扱われます。SCP-1687-JPがSCP-1687-JP-1を生育している区域は有毒ガスの発生地域であるというカバーストーリーを流布する事で民間人の立ち入りを禁止し、無許可で侵入した人物はクラスA記憶処理を施した上で国立公園の管理者を装った職員が下山するよう促します。

SCP-1687-JPはアノマリー保護の観点から1週間に一度、財団の技術部によるメンテナンスを行います。インタビュー等は担当職員に許可を申請した上で行ってください。

SCP-1687-JP-1の生育区域は種子の飛散を防ぐ事を目的に強化ガラス製のドームで完全に遮断します。生育区域の拡大阻止の為、一定の年数が経過したSCP-1687-JP-1はSCP-1687-JPの許可を得た上で摘み取る必要がありますが、無許可のSCP-1687-JP-1の採取はSCP-1687-JPと財団との関係性を悪化させる恐れがある事から認められません。生成されたSCP-1687-JP-1に未確認の種が確認された場合は現地でSCP-1687-JP立ち合いの下調査を行います。

説明: SCP-1687-JPは体のおよそ半分が機械によって構成された人型実体です。大まかな外見はコーカソイド系の30代前半の男性の特徴を有していますが、身長が2m42cmと大柄である事、肉体の至る所に未知の技術によって構成された機器が接続されている事、左腕が欠損している事等、身体的に異常な点が複数見られます。SCP-1687-JPは一般的な成人男性と比較しても遜色のない知能を有しており、英語・日本語等複数の言語を介しての会話が可能です。SCP-1687-JPの肉体に見られる機器類は外見上「パッチワーク」と表現される粗雑な合成を施されたように付属していますが、接続部分には一切の継ぎ目が無く完全に肉体と一体化しています。機器類には錆や苔の侵食が見られ、財団が発見した時点で少なくとも30年以上風雨に晒された状態にあった事が判明しています。

SCP-1687-JPの腹部には直径30cmのカプセル型の機器が存在し、24時間に一度起動します。活性化したカプセルは内部で植物の種子を生成し、排出された種子は土壌に埋められると異常な速度で成長します(以下、植物をSCP-1687-JP-1と呼称)。

SCP-1687-JP-1は全ての例において一般的な草本植物の性質を保った形で発見されており、現在までに1273種が確認されています。確認例の大半は既知の草花と一致していますが、30%ほどの割合で未確認の種類やサクラやツバキなど本来は樹木として存在するはずの種類、複数の花の特徴を有する種類が発見されています。またSCP-1687-JP-1は通常の草本植物と比較して非常に生存期間が長く、確認されている中では最長で10年間細胞劣化の兆候が見られなかった例も報告されています。生命力も強靭であり、高温や低温、強風などの環境的要素に対して強い耐性を持ちます。これらの事からSCP-1687-JP-1は、根を下ろす土壌が存在すれば極度に汚染された環境でも支障無く成長する事が可能です。現在、財団が確認しているSCP-1687-JP-1の総数は約1万4000輪です。

発見経緯: SCP-1687-JPはアイルランド国内に伝わる都市伝説の調査をしていた財団エージェントによって発見されました。都市伝説は「ある高原にはこの世の全ての花が咲く場所があり、番人がそこを守っている」というもので、財団が接触する以前に一般人がSCP-1687-JPと遭遇し流布したものと見られています。SCP-1687-JPが活動していた高原は一年を通して霧が発生しやすい地域であったことから財団はカバーストーリー「幻惑作用のある霧」を周辺地域へ流布する事でこれ以上の情報伝播を阻止しました。SCP-1687-JPは財団エージェントに対して友好的であり、収容する過程の各種検査においても特筆して反抗的な意思を見せず、上記以外の高危険度な異常性が確認されなかった為、SCP-1687-JP-1の適切な範囲での育成を条件に財団の収容下に置かれました。

補遺1: 以下は初期収容時におけるSCP-1687-JPのインタビュー記録です。

回答者: SCP-1687-JP

質問者: エージェント██

付記: SCP-1687-JPが収容に応じた後初めて行われたインタビュー。
<記録開始>

エージェント██: オーケイ。ではインタビューを始めよう。改めてよろしく、SCP-1687-JP。

SCP-1687-JP: よろしく。何というか[少しの沈黙]その呼ばれ方は慣れないな。

エージェント██: そこはどうか我慢してくれ、これも決まりなんだ。

SCP-1687-JP: 分かってるよ。花を荒らさないならどう呼んでくれたって構わないさ。

エージェント██: 感謝する。さて、本題といこう。君の事を教えてくれないか?

SCP-1687-JP: うん。僕は見ての通りの存在だ。機械がいっぱいついた、お腹の中で様々な花の種を作れる、ただそれだけの冴えない奴さ。

エージェント██: 君は元からその姿だったのかい?

SCP-1687-JP: そんなはずないだろ?僕は人間だよ。こんな姿をしてはいるけれどね。

エージェント██: という事は、誰かに改造されてその姿に?

SCP-1687-JP: あぁ。僕の最愛の人だ。

エージェント██: 最愛の人?

SCP-1687-JP: そう。どこに居るかは分からないけど、彼女は今もどこかに居るはずなんだ。

エージェント██: でも君の様子から察するに、その彼女は相当な歳なんだろう?君の錆や苔、劣化の具合からして少なくとも30年以上は経過してる。

SCP-1687-JP: そんな事はないよ。彼女は不死身なんだ。

エージェント██: [沈黙]何だって?

SCP-1687-JP: 彼女は不死身で不老不死なんだ。頭も良くて、そして美しい。最高の女性だ。

エージェント██: 一応聞くけど比喩じゃないんだね?

SCP-1687-JP: 比喩抜きで不老不死だよ。出来た傷は数分かそこらで完治するし、病気にもかからない。それこそ死んでもすぐに蘇る。何度か見た事があるから間違いじゃない。

エージェント██: [少しの沈黙]なるほど、それでその彼女に改造されてしまった。

SCP-1687-JP: 僕が望んだんだ。「されてしまった」なんて言い方をするな。

エージェント██: すまない。[少しの沈黙]それで、何故改造を望んだんだ?

SCP-1687-JP: 一緒の時間を生きたかったからさ。

エージェント██: [沈黙]

SCP-1687-JP: 悲しんでいたんだ。誰も彼も彼女の手から離れていく。一緒に笑い、悲しみ、心を通わせた人たちが皺だらけになって死顔を晒すんだ。その乾いた瞳には一生分の時間が経とうが何の変化も無い自分の顔が映り込むんだ。

SCP-1687-JP: 彼女は人との関わりを絶ってここに石のように丸まってた。多分僕と初めて会った時はあまりいい気持ちじゃなかったろうな。

エージェント██: 君はどうしてここに行き着いたんだ?

SCP-1687-JP: 偶然だよ、本当さ。身寄りもなくて、まだ子供だったから働けもしなくて、だったらもういっそ好きな事しようって旅に出た。当てもない旅路だった。

エージェント██: 勇敢だな。

SCP-1687-JP: 臆病だよ。訪れた場所の景色や人々を孤独から逃げる為の手段として使っただけだ。どこでも、誰の中にでも良いから居場所が欲しかった。[少しの沈黙]そんな時に彼女と出会ったんだ。

SCP-1687-JP: その透き通る様な緑色の目を見た瞬間、僕は確信したよ。彼女の為に生きたいって。分かりやすい一目惚れだ。それから僕は彼女の事を沢山知ったよ。不死身な事、花が好きな事、泣き虫な事、たまに見せる笑顔が素敵な事、本当に沢山。

エージェント██: そして、ずっと一緒にいたいと思うようになったのか。

SCP-1687-JP: 「何十年かかっても一緒になろう」って、そう伝えた時は彼女もすごく喜んでくれたっけ。それから二人で色んな所を巡ったよ。不老不死に関する話があれば何処にでも行った。そして見つけたんだ。

エージェント██: それが改造だった訳だ。

SCP-1687-JP: 思えば簡単な話だ。機械に体を入れ替えれば、メンテナンスさえ欠かさない限りどれだけでも動くことができる。旅の途中で会った男の人も協力してくれてね。「気まぐれ」って言ってたけど最後まで居てくれた。良い人だった。

エージェント██: その男の話も気になるが[沈黙]まあ後日聞くとしよう。そして改造は成功した訳だな。

SCP-1687-JP: [沈黙]そうだね。

エージェント██: どうしたんだ?成功したんだろ?

SCP-1687-JP: [沈黙]そこに居たのは男の人だけだったよ。

エージェント██: [沈黙]

SCP-1687-JP: 男の人が教えてくれた。「彼女はもう二度と会いたくないと言って出て行ってしまった。『同じ地獄を味わって』と言い残してね。手術は成功だ。君もこれで不老不死の仲間入りという訳だ」とね。

SCP-1687-JP: 目の前が真っ暗になったよ。不老不死になった事がショックだったんじゃない。彼女の気持ちを全く理解できていなかった事に絶望したんだ。僕は独りよがりだったんだ。恨みを買われて当然だよ。不死の苦しみを分かつなんて結局は理由づけ。ただ彼女のことが好きだっただけだったんだ。

エージェント██: じゃあ君はそれからずっと?

SCP-1687-JP: [沈黙]僕にはもうこれしかないんだ。お腹のこれは彼女の大好きだった花を幾らでも生んでくれる。せめて彼女に会ったこの場所を、いつまでも綺麗にしておきたいんだ。

SCP-1687-JP: そして[沈黙]そしてもし彼女が帰ってきたら、僕は。

[暫くの沈黙の後嗚咽]

エージェント██: ありがとう。インタビューを終了する。

<記録終了>

補遺2: SCP-1687-JPの情報を記録する為、許諾を得た上で行われた身体検査で、腹部のSCP-1687-JP-1の種子を生成する部分に生体的な機構が見られる事が判明しました。この機構は人間の臓器と見られる物体に水分の注入ケーブルや複数の電極、ナノマシンと見られる機械群等によって構成されており、臓器部分からはSCP-1687-JPの肉体から産出された遺伝子情報と全く一致しない人間のDNAが発見されました。精密検査の結果、臓器部分と全く同一の遺伝子を有する皮膚や筋肉、臓器等がSCP-1687-JPの身体の複数箇所から発見され、当該部位から生成される細胞がSCP-1687-JP本来の肉体に劣化の極端な遅延化を齎している事が判明しました。また、当該人物の細胞には全く劣化の兆候が見られず、細胞を採取した際に着けた微細な傷が数分の内に跡形も無く消失した事は特筆すべき点です。

補遺3: 20██年█月█日。SCP-1687-JPの管理する花畑内に正体不明の人型実体が確認されました。当該実体は瞬間的に出現し、30秒後に消失した為に確保には至りませんでした。下記のメモは確認地点付近で発見されました。

彼女の行いはこの上無く愛に満ちていた
どうか、いつまでも幸せに。
-パングロス

特に指定がない限り、このサイトのすべてのコンテンツはクリエイティブ・コモンズ 表示 - 継承3.0ライセンス の元で利用可能です。