初期収容プロトコルが確立される以前の、D-10302のPETスキャン。
アイテム番号: SCP-1693
オブジェクトクラス: Safe
特別収容プロトコル: SCP-1693に感染したDクラス職員、総称してSCP-1693-1の5個体から成る安定した集団を、文書SCP-1693-HCUS-Aに記載されている仕様に従って改良したセクター-25の標準的ヒト型生物収容ユニットに維持します。
財団職員および/または民間人が、確証されたSCP-1693-1個体、またはSCP-1693-1個体と疑われる人物の発声やその記録に曝露する事態は許容されません。“発声の記録”には、物理的な転写やデジタル音声の可視化映像などの音声に依らない手段も含まれます。収容の維持に必要とされる域を超えたSCP-1693やSCP-1693-1個体の実験・観察は、現時点では全て却下され、そのような試みは収容違反であると見做されます。
SCP-1693-1個体の補充が必要になった場合のみ、Dクラス職員をSCP-1693、SCP-1693-1個体、またはその発声に曝露させます。
SCP-1693-HCUS-Aは、要約すると、FAV分類レベル15の防音設備を含むように改良されたヒト型生物収容ユニットを定義します。収容ユニットの内部や周囲に音声・映像監視機器は設置されません。収容されているSCP-1693-1個体の健康状態を監視するため、ミリ波を用いた遠隔バイオメトリック監視機器が維持されます。防音対策を講じた前室を各収容ユニットの入口に設けます。各収容ユニットとの消耗品配達/廃棄物回収は自動化されたシステムを介して実行されます。収容ユニット内への立ち入りが必要な点検の際には、まず最初に収容されているSCP-1693-1個体の移送/終了を行う必要があります。
SCP-1693-1個体になる割当のDクラス職員は、既存のSCP-1693-1個体がいる収容ユニットの前室に入場させられた後、遠隔操作を介して、文書SCP-1693-D-A1のハードコピーまたは合成音声(Dクラス職員の識字能力レベルに準ずる)を提供されます。SCP-1693-1個体の補充に関する具体的なプロセスの詳細は、文書SCP-1693-HCUS-Aに記載されています。
文書SCP-1693-D-A1は、SCP-1693-1個体になる割当のDクラス職員以外には、如何なる人物にも閲覧されるべきではありません。これらの状況以外で起きた文書SCP-1693-D-A1への曝露は収容違反と見做されます。
収容違反が発生した場合、影響を受けた全てのSCP-1693-1個体と、曝露した疑いがある全ての財団職員および/または民間人が終了されます。
説明: SCP-1693は聴覚を介して感染するアルツハイマー病です。感染の物理的な性質は現在不明です。非言語コミュニケーションなどの他の感染媒介が存在する可能性は現在不明です。予防接種や治療法として記憶処理が有効かは不明です。潜伏期間は不明ですが、最初の曝露から3~5分程度と仮定されています。
文書SCP-1693-D-A1の内容は不明であり、感染媒介物の可能性があると見做されています。
SCP-1693の初期収容と現在の収容プロトコルの確立に関する情報は、19██年のSCP-████収容違反と、その後のデータベース情報破損およびハードコピー破壊によって失われています。
私の名前はジェイク・ウィリアムソン。68歳。彼らが君に与えたような番号もあるが、ずいぶん前に忘れてしまった。君が宝くじに当選したと知らせるためにこれを書いているんだ、友よ。私と同じく、君は自分が酷い場所にいると気付いているだろう。君は犯罪に手を染め、その償いをしている。君は死刑を宣告され、代わりにここに連れてこられた。ややこしいと思わないか?
そう、私にはここがどんな場所かを考える時間がたっぷりあった。何しろ私はかなり長くここに居るからね。自由時間が沢山あると、思考する時間も沢山確保できる。そして私の考えというのはこうだ。ここは刑務所だが、私たちのではない。もっとずっと悪質なモノ — 病気の刑務所だ。ある種の病院であり、私たちは患者だ。私たちは感染するためにここに居る。そうすれば彼らは私たちを棒で突き、何がいつ私たちの身体から落ちるかを見ることができる。ナチスが収容所でそういう事をやったのは知っていたかい? 私たちがどういう連中と付き合っているのかこれで分かったんじゃないかな?
しかしそんな事はもうどうでもいい。君は私と同じように運に恵まれたのだからね。彼らは私に何やらかなり悪い病気、脳を腐らせて気を狂わせる病気を移したと考えた。君も知っているはずだ、年寄りが罹るアレだよ。私のような年寄りと言ってもいいな、考えてみれば。しかし、この部屋に入った当時の私はまだ若者だった。彼らは私の前に住んでいた男から、私に狂気を感染させるつもりだった。ところが彼は狂っておらず、私に全てを話してくれた。
彼は真相を打ち明けた — 病気は存在しない!
きっと昔々は存在していたのかもしれない。しかしこれだけは言える。その病気は今ここには、ここの独房には全く存在しない。彼らは捕まえた病気を失くしたか、そもそも捕まえられなかったのかもしれない。患者はいつの間にか自然に治ってしまったのかもしれない。彼らが初手から勘違いをしていたのかもしれない。分かる筈が無い。誰が気にするものか。
そんな訳で過去30年かそこら、私はここに一人、完璧に正気のままで暮らしている。まぁ、たった一人きりでこれだけ長く過ごした者としては正気の範疇に入るはずだ。君も気を付けなさい。本を読もう。映画を観よう。彼らはここに娯楽を貯め置きしてくれる程度には親切だった。常に頭を働かせ続けるんだ。本物の気違いになりたくはないだろう! 死刑宣告を受けた男にとって、30年間の奇妙な人生はかなり良いものだと思わないかな?
何をやろうと君の勝手だが、実は正気だというのを彼らに勘付かせるな! 彼らは決して部屋に入らないし、監視や盗聴もしないが、時々君を別室に移すことがある(君をノックアウトしてからね)。そして、君が死んだ後には部屋に入って清掃する。だから何も書き留めてはいけない。壁に印を付けてはいけない。ゴミを室内に放置してはいけない。君はただの寿命を迎える前に頭のネジが外れてしまった男(女かもしれないな)ではないかもしれないと彼らに思わせる行動を取ってはいけない。私たちがこのハッタリを続けていられるのは君のおかげなんだ。
これを読んだなら、君は独房の中へ送り込まれる。君はそこで、恐らく死に掛けの誰かに出会う。容態は悪いかもしれないから、どうか親切のつもりで助けてやってはくれないか? ここに医療は無い。鎮痛剤も、慰めも無い。その男が苦しんでいたなら、終わらせてやってくれ。その後は、もし運が良ければ、素敵で長い平和な生活に腰を落ち着けられるだろう。
君が誰であろうと、幸運を祈る! それと、もしもここの本に何やら刺激的な写真が挟まっているのを見つけたら、次に来る人のためにも汚さないようにしてほしい。そして君をここに閉じ込めた馬鹿どもを笑ってやるがいいさ!
敬具、
ジェイク・ウィリアムソンより。
ページリビジョン: 4, 最終更新: 07 Oct 2022 16:21