
【参考画像】
ジェレミ・ベンサム作成のパノプティコン図
アイテム番号: SCP-1693-JP
オブジェクトクラス: Safe
特別収容プロトコル: SCP-1693-JPは常時監視体制に置かれます。隣接する旧サイト-81██はSCP-1693-JP調査のため、解体を中止します。SCP-1693-JP内部の監視塔及び各個室へ侵入する際には上位管理研究員3名以上の承認を必要とします。
説明: SCP-1693-JPは旧サイト-81██に存在しているDクラス宿舎と推測される円形の建物です。SCP-1693-JPはサイト-81██の解体時に発見され、収容が行われました。サイト-81██が使用されていた時期にこの建物を認知している職員は存在せず、建設計画及び施工関連書類においてもSCP-1693-JPの存在は確認されません。
SCP-1693-JP内部はジェレミ・ベンサムが考案したパノプティコン1を大まかに模しています。Dクラス職員の居住区と推測される棟は5階建てであり、鉄格子により封鎖された500部屋が存在しています。各個室は下記の部屋を除き、中央に存在する監視塔からその内部を確認することが可能です。
個室の内、27部屋は塗りつぶされたようなと表現される黒色の空間に置換され、封鎖されています。これらの閉鎖された部屋からは稀に不明な人物の嗚咽、すすり泣き、忍び笑いが確認されます。遠隔ドローンによる内部調査は同様の空間が少なくとも10kmは存在していると確認するのみに終わり、有意な結果は発見できませんでした。
SCP-1693-JP中心部に存在する監視塔に人間(以下、SCP-1693-JP-A)が侵入した場合、監視塔は不明な方法で閉鎖されます。現在、財団の有する道具、技術においてこの閉鎖を解除する試みは成功していませんが、下部の開閉部を通し、物資や食料を提供することは可能です。監視塔内部には生活に必要な物資、設備が存在しており、壁面にはN.アルー=ロマン『懲治監獄の計画』2が貼られています。
監視塔にSCP-1693-JP-Aが侵入した段階で各個室にはSCP-1693-JP-Aと同一の容姿を持つ人型実体(以下、SCP-1693-JP-B)が出現します。SCP-1693-JP-Bは財団を始めとする周囲の環境変化に極めて無関心であり、後述の方法を除き損傷、衰弱、死亡することはありません。これはSCP-1693-JP-Aにおいても同様です。
SCP-1693-JP-Bらの行動は一定していませんが、性格や信条と言った個性はSCP-1693-JP-Aと一致していると推測されます。以下は個室内でSCP-1693-JP-Bが取った行動の例です。
行動記録1693-JP-B(抜粋)
- 木工等の単純作業に従事する
- 大声をあげ壁を殴りつける
- 座禅し瞑想する
- SCP-1693-JP-Aの罪状を読みあげる
- 監視塔を凝視する
SCP-1693-JP-Aは監視塔内部から各SCP-1693-JP-Bに指示を出すことが可能です。これらの指示はSCP-1693-JP-Bへの褒賞、罰則の付与を含み、この指示を受けた場合、SCP-1693-JP-Bの個室内に不明な人型実体が出現し、指示に従った行動を実行します3。この人型実体による行為によってのみSCP-1693-JP-Bの衰弱、損傷が確認されます。また、この指示において死刑を命じた場合、同様の実体が出現し、SCP-1693-JP-Bの絞首刑を執行します。執行された死体は人型実体と同時に消失し、個室は解放されます。
以下はSCP-1693-JP-Aに対する会話記録です。
音声記録1693-JP-01-03 - 日付 20██/██/██
担当者: 楠木博士
対象: D-1998(SCP-1693-JP-A指定を受けてから3日経過)
«再生開始»
楠木博士: D-1998、定期報告を開始します。体調に問題はありませんか?
D-1998: はい、大丈夫、です
楠木博士: バイタルを確認しました。問題は確認できません。では、現在の状況を確認します、昨日、部屋番号61、178、334のSCP-1693-JP-Bに作業の中止、227、298のSCP-1693-JP-Bに休息、388に懲罰、419に死刑を指示したことが確認されています。その意図を可能な限り具体的に説明してもらえますか?
D-1998: 作業の中止に関しては、私が監視を始めてからずっと同じ作業をしていたので、いったん中断させるべきだと判断しました。休息は作業の結果が確認できたので褒賞の代わりに。懲罰は危険な行動を取っており、悪い影響を与えると判断したからです
楠木博士: 分かりました、何故死刑を命じたのでしょうか
D-1998: それは、[1分ほどの沈黙]419番は、私を、見ていたからです
楠木博士: 視線を感じていた、ということでしょうか。しかし、同様の行動を取っているSCP-1693-JP-Bは複数確認されています。何故419のみを死刑にしたのでしょうか
D-1998: [1分ほどの沈黙]、いえ、それは、正直なことを言えば、私は私に視線を向けてくる相手を全員死刑にしたいと思っています
楠木博士: なるほど、理由を聞いてもいいでしょうか
D-1998: 先生の言うとおりであれば、私は、私は……、あっちを監視してるんですよね? 私は監視する側で、あっちは監視される側なんですよね?
楠木博士: SCP-1693-JPの構造が持つ意義としてはその通りです
D-1998: なのに、アイツらは、私のことを監視しているんです。じっと見つめて、アイツたちを見ている私を見ているんです。最初は気にもしてませんでした、でも、私なのに、監視するのは私なのに、私がアイツらを監視して、殺す権限まで持ってるのに、アイツらは好きにずっと私のことを見つめてるんです。こっちを見ている奴らだけじゃない、仕事をしている奴も、叫んでる奴も、目をつぶってる奴も、私を見ているんです
楠木博士: 落ち着いてください、D-1998。SCP-1693-JP-Bはあなたではありません。必要であれば安定剤の他、可能な限りの物資を提供します
D-1998: [1分ほどの沈黙]、すいません、取り乱しました。ありがとうございます。でも、先生、私はやっぱり思うんです。あの監獄に閉じ込められているのは私で、私がどうするかをじっと見つめているって。そしていつか、私に死刑を告げる日を待っているんだって、死刑になった、あの誰もいない部屋から、お前のいる場所はここだぞって
«再生停止»
インシデントレポート1693-JP-01 - 日付 20██/██/██
上記音声記録の3日後である20██/██/██、SCP-1693-JP-Aとして指定されていたD-1998、及び全SCP-1693-JP-Bが消失していることが判明しました。このインシデントは完全な監視体制下にも拘わらず実行され、管理者はその発生を確認していませんでした。
映像記録を調査したところ、D-1998及び全SCP-1693-JP-Bは同時に監視塔と各個室の扉を開き、D-1998を先頭に、死刑により空室となった個室に全個体が入室したことが確認されています。この個室は前述した黒色の空間に変化したうえで閉鎖されており、内部から発される声がD-1998のものであること、D-1998の所持していたGPS端末の反応が内部から確認されることが判明しています。
また、個室へ侵入する際のD-1998及び全SCP-1693-JP-B個体が笑顔であったことは特記事項とされます。
これ以降、下記のインシデントを除き、SCP-1693-JP-Aに指定された対象は全て消失し、封鎖された部屋は増加しています。
インシデントレポート1693-JP-02 - 日付 20██/██/██
20██/██/██、SCP-1693-JP-Aとして指定されたD-1994が消失することなく生還しました。インシデント時、D-1994と全SCP-1693-JP-Bは監視塔及びそれぞれの個室を破壊する形で脱出しており、前インシデント時と同様に管理者はその発生を確認していませんでした。このインシデントに際し発生したSCP-1693-JPの破損は不明な原理で回復しています。
以下はD-1994に対するインタビュー記録です。
担当者: 楠木博士
対象: D-1994
«再生開始»
楠木博士: D-1994、では該当インシデント時の状況を教えてもらえますか
D-1994: 特に話すことはねえと思うんだけど、カメラ見たんだろ? 見た通り、扉をぶっ壊した
楠木博士: あの扉は我々の保持する機材では破壊できませんでした。どのように行ったのですか
D-1994: いや、あの監視塔の中に椅子とかいろいろあるだろ? アレでガンガン叩きつけてたらさ、壊れたんだけど
楠木博士: なるほど、では質問を変えましょう。あなたは何故扉を壊そうと思ったのでしょうか
D-1994: そりゃ外に出たいと思ったからだよ、あそこにいて、アイツら見てると多分ダメになると思ってさ
楠木博士: ダメになる、ですか
D-1994: そうだよ、アイツら見てるとさ、たまに目が合うんだ。そうすると、なんかムカつくんだよな。俺が見る側なのになんでお前が見てんだよって
楠木博士: 確かに、これまでの実験参加者もそういった証言をしています
D-1994: だろ? 先生が言うならここは監視塔だもんな。だから俺も最初の方は見とかなきゃいけないんだな、と思ってたんだけど、よく考えれば別にさ、見なくていいじゃんな?
楠木博士: ……そうですね、我々はあなたに監視を依頼しているわけではありません
D-1994: そうそう、だから見なくてもイイじゃん、って思ってさ、そんな真剣にやってなかったんだよ。でもまあ、チラチラ目に入るだろ? そうすりゃあ何をやってるとかは分かるわけだ。で、気づいたんだけどな、あそこで閉じ込められてるのは俺なんだよ
楠木博士: SCP-1693-JP-Bがあなたである、と?
D-1994: うん、何かわけわかんないけど怒ってる奴とかも、じっと見てくる奴も、俺なんだよ。だから、俺は監視してるんじゃねえんだ。あそこにいるのも俺で、ここにいるのも俺なんだ。で、それは悪いことじゃねえし、別に気にすることはないんだ。だって俺を見てんのは俺だよ
楠木博士: つまり、自分の中にSCP-1693-JP-Bの視線を取り込んだということでしょうか
D-1994: そんな難しい話されても困るけどさ、誰か偉そうなやつが見張ってるんじゃないんだ、閉じ込められた俺を見てるのは俺で、閉じ込められながら見てるのも俺だ。そう思ったらさ、別のムカつきが出てきたんだ
楠木博士: 別の怒り、ですか
D-1994: なんで俺がお互いに見張ってんだろうってな。俺は俺だよ、偉そうな誰かとか、それがいなくなればいい誰かじゃないんだ。だから多分、何ていうのかな、ここの仕組みか、それにムカついたんだよ。俺たちを閉じ込めて見張らせてる誰かは俺だ、なら悪いのはこの場所だしこの仕組みだろ、それなら脱走してやろうって思ったんだ
楠木博士: なるほど
D-1994: だから俺は扉ぶっ壊して、そしたら見張られてた俺も全員扉ぶっ壊してて。全員が俺の方へ来た。そっから先は覚えてねえけど。[1分ほどの沈黙]、あのさ、先生。そういや扉ぶっ壊した時、俺、何でか分かんないけど、泣いてたんだよ。俺だけじゃねえよ、あっちにいた俺も全員泣いてたんだよ。カッコ悪いよな
«再生停止»
インシデント後、D-1994の精密検査を行いましたが、SCP-1693-JP侵入以前と比較し異常は確認されませんでした。このインシデントを受け、現在までSCP-1693-JP内部への侵入は実施されていません。また、D-1994の脱出後、内部調査を行ったところ、監視塔内の『懲治監獄の計画』が消失していることが確認されました。これは現在まで発見されていません。