クレジット
タイトル: SCP-1695-JP - 破滅に至る星月夜
著者: Tutu-sh
作成年: 2025
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SCP-1695-JP
アイテム番号: SCP-1695-JP
オブジェクトクラス: Safe Neutralized
特別収容プロトコル: SCP-1695-JPは異常性が無力化されたと考えられるため、その収容を必要としません。SCP-1695-JPは青木研究員による恒常的な携帯・利用を許可されます。異常性が再度発現した場合、同研究員は速やかにサイト-81██に申告し、低危険度物品収容ロッカーでのSCP-1695-JPの収容措置を再開してください。
説明: SCP-1695-JPは、2016/12/03に青木晴歌研究員により購入・契約が行われた私用携帯電話端末です。機種はApple社のiPhone 7、通信会社はソフトバンク社です。2023/11/23時点で2回のバッテリー交換を経ており、後述する異常性を除き正常な動作が確認されています。
SCP-1695-JPは不定期な間隔で不明な発信者(以下、SCP-1695-JP-A)に由来する通話を受信します。確認されているSCP-1695-JP-Aは単一の同一人物であり、かつ同一の手法でSCP-1695-JPに対し発信していると見られます。財団がこれまでに実施した全ての逆探知の試行は失敗に終わっています。
SCP-1695-JP-Aは日本語での発話を行いますが、通話内容に基づき、SCP-1695-JP-Aの本来の使用言語は日本語以外の何らかの言語であることが示唆されています。SCP-1695-JPはSCP-1695-JP-Aとの通話中に限り完全な自動翻訳機能を発現すると見られます。
実験記録01 - 日付2017/05/09
対象: SCP-1695-JP
実施方法: SCP-1695-JP-Aとの通話中に、職員支給端末からSCP-1695-JPへ英語のショートメッセージを送信する。
結果: 日本語のメッセージが受信された。翻訳を取消して英語に差し戻す操作は不可能であった。
分析: SCP-1695-JP-Aとの通話中はiPhoneの機能でない手段での自動翻訳が行われている。
実験記録03 - 日付2017/05/09
対象: SCP-1695-JP
実施方法: SCP-1695-JP-Aとの通話中に、職員支給端末からSCP-1695-JPへジュドゥーン語1のショートメッセージを送信する。音声転写にはローマ字アルファベットを用いた。
結果: メッセージが原文のまま受信された。
分析: 架空言語を翻訳対象に取らないことが示唆される。
実験記録07 - 日付2017/05/09
対象: SCP-1695-JP
実施方法: SCP-1695-JP-Aとの通話終了後に、職員支給端末からSCP-1695-JPへ英語のショートメッセージを送信する。
結果: 英語のメッセージが受信された。
分析: 異常性による自動翻訳がSCP-1695-JP-Aとの通話中にのみ発現することが示唆される。
発見経緯: SCP-1695-JPの異常性は、青木研究員が私物の携帯電話端末に定期的な迷惑電話が寄せられることについて同僚に相談したことが経緯となり発見されました。非通知拒否設定が有効化されていたにも拘わらず、番号を特定不能な発信者(SCP-1695-JP-A)に由来する着信が複数確認されたこと、また留守番電話に水中から発されたと思しき音声が記録されていたことから、異常性の疑いがあるものと判断されました。
SCP-1695-JPは青木研究員と同僚らによる非公式な意思疎通実験が行われた後、正式に財団へ報告され、異常現象に分類されました。以下はSCP-1695-JP-Aとの通話内容の抜粋です。
インタビュー記録-01 - 日付2017/04/12
対象: SCP-1695-JP-A
インタビュアー: 青木研究員
付記: 非公式に執り行われたもの。
<記録開始>
[水流のような音]
青木研究員: はい、青木です。
SCP-1695-JP-A: あ、繋がった。やっと話せるね!
青木研究員: もしもし、どちら様でしょう。何度かお電話いただいておりますが、どういったご用件でしょうか?
SCP-1695-JP-A: 用件。用件か。特にこれといった用は無いんだけどね。
青木研究員: [沈黙] では間違い電話ということでよろしいですか?
SCP-1695-JP-A: うーん、間違いでもないかな。ちょっと他の人と話してみたくてさ。ほら、たまには全く縁もゆかりも無い遠くの人と喋ってみたくならない?未知との遭遇というか、自分の知らない世界が広がっていく感じでさ。非日常的な体験を味わえるわけ。
青木研究員: それで?
SCP-1695-JP-A: たまに、思い切ってちょっと遠くに喋りかけてみようとする。そうすると、決まってあなたのところに声が届くの。運命があなたに向かって動いてるようにね。今日はようやくお話ができて嬉しいな。
青木研究員: マッチングアプリか何かをお勧めします。私個人の携帯はお控えいただけますと幸いです。
SCP-1695-JP-A: マッチングアプリ?それは何?
青木研究員: [沈黙] そう言えば声がお若いですね。失礼ですが、おいくつですか?
SCP-1695-JP-A: 4歳だよ。
青木研究員: その割には随分と淀みの無い喋りですね。[沈黙] ご両親か、保護者の方に代わっていただくことはできますか?
SCP-1695-JP-A: そんなのできないよ。どうやって代わるのさ。お姉さんはできるの?
青木研究員: できますね。[沈黙] もしかすると、あなたは電話以外の方法でこの端末に連絡なさっていますか?一体どうやって?何かしらの科学技術 ⸺ いえ、あなた自身の肉体や精神と不可分の手段。例えば、テレパシーのようなものですか?
SCP-1695-JP-A: わかんない。話すときはいつもこうしてるから。でもそうだね、私とは切り離せないと思う。それをあなたがテレパシーと呼ぶなら、きっとそういうものなんじゃないかな。
[青木研究員が通話を遮り、異常存在の介入が示唆される旨を同僚へ伝達する。]
青木研究員: ありがとうございます。気が変わりました。またあなたとお話ししたく思います。
SCP-1695-JP-A: え、本当に?
青木研究員: ええ、きっと私の仲間も喜ぶことでしょう。今後もお話ししたいですが、そうですね。[沈黙] 名前と連絡先が無いと不便ですね。名前はじきに私の仲間が決めると思いますが、こちらから連絡を取る場合、どこにおかけすればいいですか?
SCP-1695-JP-A: うーん、私もわかんない。こう、あの人に繋げようって思うと、意識の糸が伸びていくような感じなの。お姉さんのやり方はそうじゃないんだね?
青木研究員: 残念ながら。ではそちらからご連絡いただけますか?
SCP-1695-JP-A: いいよ!また連絡する。ああ、それとね。
青木研究員: 何でしょう?
SCP-1695-JP-A: 私の名前、「セラス」でどうかな?友達にもそう呼ばれてるの。
青木研究員: [沈黙] 良いでしょう。こちらで正式名称が決まるまで、暫定的な呼称として。私の名前はアオキ・ハルカ。「アオキ」でも「ハルカ」でも、楽な方でどうぞ。
SCP-1695-JP-A: よろしく、ハルカ。今日はありがとう!
青木研究員: どういたしまして、セラス。
<記録終了>
終了報告書: 精神感応的干渉を示唆するサスペクテッド・アノマリーとの接触に成功。4歳児を自称しているが、発言が流暢であること、水中のような籠った音が響いていることから、精神感応と異なる異常性や背景が存在する可能性がある。正体が非人型実体である可能性も視野に入れ、今後の接触では正体の同定を目指す。
⸺ 青木研究員
青木研究員により上記の接触事例が報告され、青木研究員の私用携帯電話端末が異常存在として分類されました。監視下に置かれたSCP-1695-JPは低危険度物品収容ロッカーに保管され、各種ファイルおよび通信のリアルタイムスキャンが実行されました。またSCP-1695-JP-Aに由来する再度の着信に備え、即応的な実験およびインタビュー体制が整備されました。
以下はSCP-1695-JP-Aとのインタビュー記録の抜粋です。完全な記録はアーカイブをご確認ください。
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インタビュー記録-02 - 日付2017/04/18
対象: SCP-1695-JP-A
インタビュアー: 青木研究員
<記録開始>
青木研究員: もしもし、青木です。
SCP-1695-JP-A: こんにちはハルカ。またお話ししようよ!
青木研究員: 分かりました。まずその前に、こちらで運用するあなたの名前が決まりました。SCP-1695-JP-A。今後はそう呼ばせていただきます。
SCP-1695-JP-A: えすしーぴ?
青木研究員: SCP-1695-JP-Aです。今後その言葉が言及されたら、それはセラス、あなた自身のことであると認識してください。
SCP-1695-JP-A: 覚えづらいなあ。意味の無い数字の羅列を覚えるなんて、思考と意識の無駄遣いとは思わない?ハルカはそうじゃないの?
青木研究員: 個人として同意はしますが、規則ですので。それに、じきに慣れますよ。
SCP-1695-JP-A: そうかなあ?
青木研究員: ではSCP-1695-JP-A。あなたにはお聞きしたいことがたくさんあります。あなたはどこから来たのか、あなたは何者なのか、あなたはどこへ行くのか。[沈黙] ですが私とあなたとの間に一体どれほど理解の障壁があるのか、そこもまだ掴めていません。前提となる常識や世界観の相違 ⸺ いえ、そもそもの世界に差異がある可能性も無視できませんからね。まずはそこからある程度詰めていきたく思います。
SCP-1695-JP-A: 分かった!どうやってその差を埋めていくの?
青木研究員: 一言テストをしましょう。私が良いというまで、私の質問や発言には必ず一言で回答・返答してください。
SCP-1695-JP-A: [沈黙] なぜ?
青木研究員: あなたはとても自然な日本語を話していますが、セラスという自称を含めて日本人でない可能性が非常に高いと考えています。一言という制限は、文章での回答が孕んでいるかもしれない誤訳や誤謬を弾きながら、我々の共通認識をすり合わせていく措置ですね。ちなみに、この仕組みは『ドクター・フー』です。ピーター・カパルディを知っていますか?
SCP-1695-JP-A: 何?
青木研究員: 分かりました。SCP-1695-JP-A、あなたはイギリス人でもなさそうですね。質問を変えましょう。あなたは人間ですか?
SCP-1695-JP-A: うん。
青木研究員: 自らの種族のことを人間と呼称していますか?
SCP-1695-JP-A: うん。
青木研究員: 人間の学名はHomo sapiensですか?
SCP-1695-JP-A: 不明。
青木研究員: [沈黙] 切り口を変えます。あなたは ⸺ 意識や自我を保つために、外界との間で物質のやり取りを必要としますか?酸素、水、硫化水素。何でも構いません。
SCP-1695-JP-A: うん。
青木研究員: 有機化合物を主体とする物体は、その物質収支の対象ですか?
SCP-1695-JP-A: うん。
青木研究員: 固形の物体を自己に取り込むとき、外との接触を取り持つ開口部が必要となるはずです。それを何と呼びますか?
SCP-1695-JP-A: 口。
青木研究員: あなたは何かしらの物体を口へ運び、有機物を体内に取り込むと。では、どの部位を介して対象物との物理的な干渉を実現しますか?
SCP-1695-JP-A: 腕。
青木研究員: 腕は2本ありますか?
SCP-1695-JP-A: もっと。
青木研究員: 4本ですか?
SCP-1695-JP-A: もっと。
青木研究員: 6本?
SCP-1695-JP-A: もっと。
青木研究員: 何本ありますか?
SCP-1695-JP-A: 9。
青木研究員: なるほど。[沈黙] 腕には硬組織が付随していますか?例えば外側を被覆するか、あるいは内側から支持するような、外力や重力に抵抗する機構が存在しますか?
SCP-1695-JP-A: ううん。
青木研究員: では、体のどこかにはそのような構造が存在しますか?
SCP-1695-JP-A: うん。
青木研究員: その硬組織が存在するのは ⸺
[約20分間に亘る内容を省略]
青木研究員: ありがとうございました。もう普通に喋って良いですよ、SCP-1695-JP-A。
SCP-1695-JP-A: ああー、窮屈だったあ!それで、何か分かったの?
青木研究員: あなたの種族は奇しくも「人類」を自称していますが、その意味は我々の把握するところと異なるようです。我々の言葉で「人類」はHomo sapiensあるいはその近縁属種を指しますが、あなた方もあなた方自身の種族への指定として「人類」や「人間」という語を用いているようです。おそらく翻訳の過程でそのように訳語が当てられたのでしょう。
SCP-1695-JP-A: つまり、ハルカも私の知る人間じゃあないんだね。
青木研究員: そうなります。おそらくここでの「人間」とは、知的種族に対する自己言及的な用語なのでしょう。その者を対象に強い共感性を発揮できる、発達した、神聖なる知性を持った存在。我々は傑出した知性を持つ種族同士でありながら、全く異なる存在ということになるのでしょう。
SCP-1695-JP-A: 意外だね。こんなにも言葉が通じるのに。
青木研究員: むしろそれが必然なのかもしれません。生命の持つ知能はその収容容器のサイズやシェイプに必ずしも束縛を受けるとも限りません。互いに想像もつかないほど多様性に富んだ進化の道筋の果てに、異なる世界に君臨する第1位の生命として我々は並び立っているのでしょう。
SCP-1695-JP-A: なるほど、同じ姿形に収束する可能性は限りなく小さいということね。
青木研究員: 我々の既知の生物群に当てはめれば、SCP-1695-JP-A、あなたの体制は軟体動物のそれにごく近似できるように思います。発達した消化器官の存在と、内骨格や体節の欠如。その中でもとりわけ、頭足類という高知能の自然生命に似ています。
SCP-1695-JP-A: へえ、私の仲間を知ってるんだ。
青木研究員: あくまで類似性があるというだけです。頭脳が発達しているとはいえ、あなたのような卓越した能力を持つ個体や種族は存じ上げません。
SCP-1695-JP-A: なるほどね。まあ私もハルカみたいな生き物は見たことないしなあ。
青木研究員: さもありなんですね ⸺
[沈黙]
青木研究員: ちょっと待ってください。私の外見が分かるのですか?
SCP-1695-JP-A: 質問の雰囲気からある程度分かるよ。何かしらの前提に基づいていて、思考に偏りがあるだろうから。それは別種の生命でも変わらないと思う。ハルカは硬組織を全身に纏ってるか、あるいは内部に埋め込んでいるのかな。2本の腕が生えていて、それを物体の操作に使う。運動器官は別にあるのかな?偶数に拘ってるようだったから、あるとすればもう2本か4本か。頭も体の外に飛び出してるようだから、体の輪郭はところどころに突起が生えてるようなものなのかも。光を処理する仕組みは私とそう変わんないみたい?
青木研究員: [沈黙] 驚きました。流石の理解力ですね。
SCP-1695-JP-A: ちょっと頭使いすぎちゃった。もう寝るね。
青木研究員: ああ、ええ。ご負担をおかけしてしまったようであれば申し訳ありません。お疲れさまでした。もし差し支えなければ、また連絡していただけますか?
SCP-1695-JP-A: もちろんそのつもり。おやすみ。
<記録終了>
コウイカ(Sepia esculenta)
終了報告書: SCP-1695-JP-Aは頭足類に類する、無関節の触腕を持つ動物型生物であると予想される。オウムガイ類やコウイカ類に代表されるように、頭足類は炭酸カルシウムの骨格を持つ。基底世界の地球と同様の進化史を辿ったと仮定すれば、SCP-1695-JP-Aは現生鞘形類の多くが退化させた甲を今なお残存させている系統ということになる。なお予察的ながら、SCP-1695-JP-Aが会話の中で示した非常に明晰な推理力は、鞘形類(特にコウイカ類)の発達した知性との類似性が想起される。
他方SCP-1695-JP-Aの概形を把握できた点は大きいが、現状ではどの惑星に生息しているか、同一宇宙に存在するか定かでない。財団エレベーター部門によれば物理法則の著しく異なる宇宙との接続は考えづらく、また異星の生命が地球のものと限りなく収斂することもダンチェッカー問題の壁に突き当たる。現状における個人の所感として、直近数億年まで同一の過程を辿った分岐世界の地球に起源を持つとすると節約的でなかろうかと考える。
⸺ 青木研究員
インタビュー記録-07 - 日付2017/05/12
対象: SCP-1695-JP-A
インタビュアー: 青木研究員
<記録開始>
青木研究員: はい、青木です。
SCP-1695-JP-A: こんにちは!この前言ってたのは、私の居る世界を知りたい、そうだよね。
青木研究員: ええ、その通りです。あなたが一体どんなところで暮らしているのか、何をしているのか、それを把握しておきたいのです。そうですね。
[沈黙]
青木研究員: あなたが水の中に居る、ということは認識しています。その水質、地形、共存する生物、そういったことの情報を求めています。
SCP-1695-JP-A: ふうん。そうすると、やっぱりハルカは私と全く違う生き物みたいだね。水が無くても生きられるなんて。
青木研究員: 否定はしません。[沈黙] やはり、あなたからすると不思議ですか。
SCP-1695-JP-A: そうだねえ。一応、「世界」と「水」が同義じゃないことは何となく理解してるの。この世界の片側に向かって力が働いてるし、何もしなければ沈んでいく。そして私たちが落ちていくその反対側から、一定の周期性を持って光が降り注ぐ。私たちはこの周期に応じて「昼」とか「夜」とか、そういう時間の名前を割り当ててるんだけど。
青木研究員: 私たちもそうです。上下方向の非対称性がある中で生活し、また時間変化を利用して時刻を定めています。
SCP-1695-JP-A: 良かった、そこは一致してるんだね。それで、昼に私達を照らす光はどこから来るんだろう、と考えたの。一見すると世界の外側からやって来るような気がする。でも本当にそんなことがあるのかなあって。
青木研究員: なぜ懐疑的なのですか?
SCP-1695-JP-A: じゃあせっかくだから、ハルカの聞きたがってるこの世界の話も交えながら喋っちゃおっか。私の居る場所はゴツゴツした岩みたいなたくさんの生き物が地面を彩ってる。入り組んでいて奥行きのある、とても言葉で言い表せないような景観が広がってるの。
青木研究員: 珊瑚、あるいは複雑で緻密な形状を持つ他の造礁生物の発達。生物多様性の起爆剤ですか。生息地、餌場、繁殖場所 ⸺ 生命にあらゆる場を与える繁栄の舞台。生態学の原則はあなたの世界とも共通しそうですね。動物相の様相はどうですか?
SCP-1695-JP-A: 大体の動物は鰭を上下左右に振って水を掻き分けてるかな。私がよく食べるのは、つるっとしてる、砂を掘って泳ぎ回ってるようなやつ。外が硬いけど、中身の肉がふっくらしてて美味しいの。他にも全身に棘の生えたやつ、鋭い武器を持ってるやつ、砂の中を潜るやつ、その上をうねうねのたうち回るやつとか、そういうのが縦横無尽に動き回ってるね。群れを作っていて、見てると泳ぎながら入れ代わり立ち代わり群れの中での居場所を変えてるのも多いよ。
青木研究員: あなたはそれらの生物を全て食餌にしているのですか?
SCP-1695-JP-A: してるよ!ゲテモノ以外は大体食べるかな。近くを泳いでるやつとか、それが居なければその辺をほじくり返して、ひょいっと。
青木研究員: あなたの価値観でどれがゲテモノに当たるのか分かりかねますが、何にせよ高次消費者であることは理解しました。[沈黙] 固着性の生物はどうですか?例えば、緑色の何かとか。
SCP-1695-JP-A: ひらひら揺れてるやつかな?ずっと一定の位置に生えてるね。場所によっては山ほど密集してるけど、私は食べないなあ。
青木研究員: おそらく、我々の言葉ではそれを藻類と呼びます。多細胞の光合成生物も生育するわけですね。彼らは有機物を体内で合成し、私たちのように餌を探し回らずとも生きていけるだけの進化を遂げています。光と水、あるいは他の物質があればどんどんとエネルギーを蓄えられる発明は、やはりそちらの世界でも ⸺
SCP-1695-JP-A: そう、それ!それなの。昼だと緑のあれ ⸺ 藻類、だっけ。もし昼なら、それに小さな泡が幾つもくっついてることがあるかな。その近くには生き物も集まりやすいし、私たちもいくらか頭が冴える気がする。あと、昼と夜で私たちも大人しくなったり元気になったりするし、他の生き物たちもそうだと思う。あとはそう、私たちは光で食べ物を捕捉するし、食べ物は私たちを見て逃げていくように思う。
青木研究員: [沈黙] 続けてください。
SCP-1695-JP-A: つまりね、生き物はみんな光に影響を受けてるってこと。むしろ、光が無ければ生活できないんじゃないかな。そんな大事なものが世界の外からやって来るとするなら ⸺ 私たちは理外の領域に依存してることになる。それは歪じゃない?私の認識していた「世界」は、そのものじゃなくてその一部。完結していないの。界面は世界の果てなんかじゃなくて、その上にも世界は続いてる。
青木研究員: 見事ですね。直感的ながらその年で ⸺ 海に束縛された制約下で宇宙観を作り上げているなんて。
SCP-1695-JP-A: 宇宙?海?
青木研究員: ああ。[沈黙] そうですね、宇宙とは、私たちが考えている「世界」に最も近い概念の1つです。宇宙は神羅万象が揃っていて、非常に広大です。その中の一部が地球という場所で、地球には地球上最大の水圏である海が存在します。私の宇宙では生命が海で出現したと言われていますが、きっとあなたのところでもそうでしょうね。
SCP-1695-JP-A: じゃあ私の居るところが海なのかな?ここは地球?
青木研究員: 地球とはまだ断定できませんが、「人間」という語が別種の生命間で重複しているくらいですので、あなたの方も「地球」と呼称して良いかもしれません。[沈黙] ところでSCP-1695-JP-A、あなたは地面を見たことがありますね?重力に引かれるその先に広がっている平面のことです。あるいは断崖絶壁の斜面や壁面でもいいですが。
SCP-1695-JP-A: あるよ!あるある!
青木研究員: どうでしょう。それは界面の上へ続いている気がしませんか?
SCP-1695-JP-A: あれは、確かにそうかも?
青木研究員: ええ。水との界面よりも上に露出した地面を、陸というのです。私はそこに住んでいます。
SCP-1695-JP-A: へええ!本当に?あの界面の先にハルカが居るの?
青木研究員: そうかも、といったところでしょうか。実際には私の仲間があなたを観測していない以上、私たちが同一宇宙に共存している可能性は限りなく小さいです。ですが、もし私のような生命体がそちらにも実在するのであれば、きっと界面を越えた陸の上に立っていると思います。
SCP-1695-JP-A: 見てみたいな!ハルカじゃなくても、会ってみたい。
青木研究員: [沈黙] おそらくですが、あなたの目は水中における光の屈折率を前提とした形態のはずです。なので、そのまま界面の外に顔を出しても周囲は ⸺
SCP-1695-JP-A: そうかもね。それでも構わないよ。そもそも昼だと光が強すぎてどのみち見えないからね、肌が痛くなるし危なすぎる。でも今は夜だから好機なの。上を目指して、ハルカの宇宙を感じてみたい。
青木研究員: [沈黙] くれぐれも無理はしないでください。もし危険を感じたらすぐに引き返すようにしてくださいね。
SCP-1695-JP-A: ありがとう!気を付けるよ!
<記録終了>
インタビュー記録-08 - 日付2017/05/12
対象: SCP-1695-JP-A
インタビュアー: 青木研究員
<記録開始>
青木研究員: どうかしましたか?
SCP-1695-JP-A: 見てきた!見てきたよ、外!
青木研究員: 見えたのですか?てっきり ⸺
SCP-1695-JP-A: 勿論そんなに鮮明ではないよ。でも、ぼんやりとした景色の中で、これまでに見たこともない異様なものが煌めいてるのは分かったよ。[沈黙] むしろ、今までも視界に入ってはいたけれど、揺れる界面や濁度のせいで正しく認識できていなかった、の方が正しいかも。
青木研究員: 星でしょうか。見たものをもっと詳しく教えていただけますか?
SCP-1695-JP-A: いいよ、そのために連絡したんだから![沈黙] そうだね、まず陸が見えた。ハルカが言うように、界面の上にも地形が続いていたよ。水の中にも山脈や谷があるけど、似たような形がずっと雄大に聳えてるんだろうなって思う。
青木研究員: 藻類のようなものは生えていましたか?あるいは地面が剥き出しでしたか?
SCP-1695-JP-A: 細かくは見えてないけど、たぶん、礁を作る生き物は居ないんじゃないかな。ほぼ岩と同じ色が広がってた。もしかすると、ちょっとだけ緑がかってたかもだけど。
青木研究員: ありがとうございます。つまり陸上の光合成生物は不在か、少なくとも植生を発達させるには至っていない。陸上生態系が構成されているとも考えづらそうですね。走り回ったり、空を飛んだり、動物の類も見当たらなさそうでしたか?
SCP-1695-JP-A: 動くものは無かったと思う。そんなこともできるんだね!いやほら、私は界面から出た途端に押し潰されそうだったからさ。
青木研究員: お疲れ様でした。そうですね、私たちの宇宙では飛翔性の動物も少なくありません。あなたが水中を泳ぐように、界面の上でも3次元的な移動を可能とする者が居るのです。そちらの世界には居ないのでしょうね。
SCP-1695-JP-A: 見てみたかったなあ。ハルカも陸を歩けるんだもんね。
青木研究員: はい。私は飛べはしませんけどね。空はどうでしたか?
SCP-1695-JP-A: 広かった。とてつもなく高かった。深く暗い海の底なんて比にならないくらいに、高く遠くまで広がってた。まるで終端なんてものが存在しなくて、無限にどこまでも続いていくような果てしない空間だった。私の知ってた世界が、完全に覆ったよ。
青木研究員: 空には何がありましたか?色は、模様は?
SCP-1695-JP-A: ほぼ真っ黒だと思ってたけど、目が慣れてくると違ったの。意外だった。一切光が無いと思っていた夜でも、あれだけの輝きが存在するんだって。そしてその光源を取り巻くように、もっと彩度に富んだ色がまだらに弧を描くように広がってる。私が知らなかっただけで、夜の空は微細だけど確実な千変万化を遂げていたんだね。
青木研究員: 光源と言いましたね。どんな光でしたか?
SCP-1695-JP-A: 無数の光。気泡をぶちまけたような光があちこちに散らばって ⸺ でも、一番強く光っていたのは丸くて白い大きなものかな。今思うと、あの光だけは水の中にも届いてたかも。誰かが「月」って呼んでた気がする。
青木研究員: [沈黙] 奇しくも、私たちもそう呼んでいます。夜空に浮かぶ一際大きな天体を、地球の持つ唯一の衛星 ⸺ 月と。
SCP-1695-JP-A: あれあれ。本当にハルカ、同じ地球に居るんじゃないの?
青木研究員: そう空想するのは勝手ですが、やはり天体が同じ歴史を辿っただけの分岐世界である見込みの方がはるかに大きいです。月が地球の周辺に存在するという条件だけで同一宇宙に収束する確率は、まさに天文学的なものになるでしょう。
SCP-1695-JP-A: ふーん、まあいいや。で、月にも驚いたんだけど、それよりもっと話すべきことがあったんだ。個人的にはこっちの方が衝撃的だったんだけど、ハルカにとってはどうかな?
青木研究員: 何ですか?
SCP-1695-JP-A: 空に何かが架かってた。生き物じゃないよ、動いてる物は何も無かった。でも月の光に照らされるようにして、白い帯が弧を描くようにしてずっと続いてたんだ。界面に吸い込まれて消える所まで、帯が緩やかに、滑らかに曲がりながら。
青木研究員: オーロラ、ではないですね。帯。帯ですか?
SCP-1695-JP-A: 山どころじゃない高さだった。空は果てしなく遠くに続くと言ったけど、もし知らないだけで空に端っこがあるとするなら、きっとそれはあの帯に支えられてるんじゃないかと思うくらいに。遥か彼方へ昇る柱。
青木研究員: それは私も知ら ⸺
[沈黙]
SCP-1695-JP-A: ハルカ?
青木研究員: いや、ひょっとすると ⸺
SCP-1695-JP-A: 何か知ってるの?
青木研究員: 憶測程度ですが。[沈黙] 少し整理する時間をいただけますか?
SCP-1695-JP-A: いいよ!ゆっくりやってて。私も空が気になるから!
青木研究員: ありがとうございます、SCP-1695-JP-A。今日もお疲れさまでした。
SCP-1695-JP-A: お疲れ!
<記録終了>
基底世界の地球に環が存在した場合の想像図
終了報告書: SCP-1695-JP-Aが口述した生態系は海洋を中心に生物圏が構築され、陸上にはほぼ進出していない様子であった。複雑な生物礁が発達しかつ陸上植生が未発達である光景は、地球生命史において古生代オルドビス紀〜シルル紀に相当する。もし今後生物が陸上へ進出するならば、海中と比較して淘汰圧の大きい環境であるため持続性の課題がありうるが、一方で進化と放散は加速的な進行が期待される。
他方、SCP-1695-JP-Aが説明した天文の様子は地球のものと異なるようである。1個の著明な衛星の存在は地球とも共通するが、SCP-1695-JP-Aが説明したアーチ状の構造は現在の土星や木星に存在するような惑星の環を示唆すると考えられる。SCP-1695-JP-Aの母星は環を持つ岩石惑星と推測される。
この発見により、直ちにSCP-1695-JP-Aの惑星を特定可能になるわけではない(系外惑星探査に際して環を持つ岩石惑星の検出意義がある程度高まりはする)。本件に関するより大きな1つの展望は、大気との接触でSCP-1695-JP-Aがその宇宙観を躍進させた可能性があることである。オブジェクトの知的領域に修復不能な変容をもたらしうる点に懸念はあるが、遠く離れた人類の理解者として並び立つ日の到来も目指せるのではないか。
⸺ 青木研究員
インタビュー記録-9 - 日付2017/09/27
対象: SCP-1695-JP-A
インタビュアー: 青木研究員
<記録開始>
青木研究員: ご無沙汰しています、SCP-1695-JP-A。あれから長らく連絡がありませんでしたが、どうしていましたか?
SCP-1695-JP-A: ごめん。星を見るのに夢中になってたの。
青木研究員: 天体観測ですか。
SCP-1695-JP-A: そう。あれから気になっちゃってね。夜な夜な界面から目を出して、なるべく眺めるようにはしてるんだ。とはいえぼやけて見えるから綺麗じゃないんだけど。
青木研究員: こちらとしても、入手可能な情報が増えるのは喜ばしいことです。何か分かりましたか?
SCP-1695-JP-A: 月の形は一定周期で変わってる。でも月は傍目には小さい物のように見えるけど、山と同じで、あれだけ遠くにあるなら実際には物凄く巨大なはずだよね。そんなにすぐに形が変わるとは思えない。
青木研究員: 実際には変形していないと?
SCP-1695-JP-A: うん。もし月が何かの光を反射しているのだとすれば、その跳ね返りの変化で変形したように見えるかも。月の色って輪のそれに似てるし、たぶん自分で光ってはいないんじゃないかな。光の照り返した部分だけが私の目に見えてるなら、欠けてる部分は実際には残ってるけれど、陰になって見えなくなってるはず。
青木研究員: では、その光源はどこにあると思いますか?
SCP-1695-JP-A: 昼に降り注ぐ大きな光。私たちが「太陽」と呼ぶその天体が光を出してるなら、月を照らせるかも。太陽の光が直角に差し込めば、月は半分に切られた形になる。私と同じ側から太陽が照らせば、月はまん丸に映し出されそう。
青木研究員: 素晴らしいですね。私たちの宇宙論と同じです。昼の太陽を見られないのに、よくそこまで練り上げられたものです。
SCP-1695-JP-A: 合ってる?
青木研究員: 私の宇宙とあなたの宇宙とで法則性が違う可能性は棄却しきれませんが、それは無に近似してしまえる程度のものでしょう。私とあなたは同じ型の自然現象を目にして、妥当な推論を導き出しています。
SCP-1695-JP-A: やったね。地球の大きさが分かれば、月の大きさも、月との距離も、それに太陽との距離も割り出せそうなんだけどね。まず大きさの基準を決めるところから始めなきゃならないかな。誰でも同じように使えて、いつでも変わらない指標を作らなきゃ。
青木研究員: [沈黙] 地球の大きさ。
SCP-1695-JP-A: うん。直径とでも言うべきかな。
青木研究員: 地球が球体であることはどこから導きましたか?
SCP-1695-JP-A: まず月が丸いからね。同じようなものが宇宙にごろごろ存在するとすれば、薄っぺらの円ってこともないだろうから、3次元物体だとして球形になる。あとは空に浮かんでる無数の小天体も弧を描くように並んでいるから、もし球の真ん中に沿って環のように取り巻いてるんだとすれば合理的かなって。
青木研究員: なるほどです。環が存在する分、惑星の球形に気付きやすくなっていたのですね。そして驚きました、あれが赤道面を取り巻く環であることも見出していたとは。優秀ですね。
SCP-1695-JP-A: ありがとう、ハルカ。
[沈黙]
SCP-1695-JP-A: でね、ハルカ。
青木研究員: はい。
SCP-1695-JP-A: 実は、今日連絡したのは観測の話をするためだけじゃないの。
青木研究員: [沈黙] と言うと?
SCP-1695-JP-A: ここしばらく変な夢 ⸺ ああ、「夢」って言うのは、寝てるときに浮かんでくる情景のことなんだけど、とにかくおかしな夢を見るの。その景色が頭にこびりついて、食餌中にも、観測中にも、ずっとついて回ってくる。むしろ、観測の時に思い出して、寒気がすることの方が多いかも。
青木研究員: 夢ですか。専門外ですがお聞きしましょう。一体どのような?
SCP-1695-JP-A: 環が、落ちてくるの。
青木研究員: 環が?
SCP-1695-JP-A: より厳密には、環の中の1つ1つの粒。粒がだんだん大きくなってきて、こっちに近づいてくるの。ちっぽけな点にしか見えないけど、実際は海の底にあるどの岩よりもずっと大きい。それはもう物凄い勢いで。止めようもないし、逃げようもない。だんだん空気が熱くなってきて、肌がヒリヒリしてくる感覚がする。
青木研究員: 天体の断熱圧縮ですね。しかし ⸺
SCP-1695-JP-A: 現実じゃない、それは分かってる。でも現実味を感じさせるように、想像ができてしまうの。砕いた食べ物の破片が底へ沈んでいくように、空の上にある天体にも同じような力はきっと働いてるんじゃないかって。これまでは何らかの理由で落ちて来なかっただけで、古くから、ずっと以前から、その力は働いていて。
青木研究員: それは ⸺
SCP-1695-JP-A: あの夢が、私たちの置かれてる状況そのものなのかもしれない。ある日突然、現実になるかもしれないの。ハルカはあの力を「重力」って呼んだ。たぶんそれは、この地球が当たり前に持ってる力だと思う。宇宙に浮かぶ巨石を躍動させて、加速させながら距離を縮ませていく。そんな想像が止まらない。
青木研究員: それはあくまで夢。休眠の最中にあなたの脳が見せた、混沌とした演算の帰結でしか ⸺
SCP-1695-JP-A: お願い、助けてハルカ!このままじゃ ⸺
[通信途絶]
青木研究員: [沈黙] セラス?
[約10秒間に亘って不通音が繰り返す。]
[青木研究員が周囲の職員と無言で目くばせしたのち、通話を終了する。]
<記録終了>
終了報告書: SCP-1695-JP-Aは不可解な言動を示して通話を終了した。この出来事を説明付ける要因として、社会性を持つ動物が他個体との相互作用で受けた精神的な衰弱や、我々の干渉によるSCP-1695-JP-Aの脳の処理能力の超過、あるいは類稀なるSCP-1695-JP-Aの計算予測能力の内因的暴走などが候補に挙げられた。
実際に発生した事案の仔細はSCP-1695-JP-Aからの再度の連絡を待って判断したい。なお直近の連絡から既に4ヶ月が経過していたことを踏まえると、SCP-1695-JP-A内で我々への連絡の重要度が低下している可能性が大きく、再度の連絡には相応の時間を要することが予想できる。
⸺ 青木研究員
2017/09/27の通信を最後に、SCP-1695-JP-Aに由来する着信は確認されていません。
5億年前から4億年前の隕石衝突と全球平均気温との関係。地震・津波に起因する巨大角礫岩形成時期や、堆積物中の地球外起源クロム鉄鉱異常蓄積期間と共に図示されている。
追記: 2024/09/12、オルドビス紀の地球に環が存在した可能性がモナシュ大学の研究者らにより指摘されました。Tomkins et al. (2024)によれば、約4億6600万年前から約4000万年間に亘って地球に隕石群が集中的に衝突しており、それにより起因する21個の衝突クレーターが全て当時の古地理における赤道帯に形成されたことが指摘されています。この隕石の分布様式は地球の赤道面上に環の存在を仮定した場合に調和的とされます[1]。
当該仮説において、約4億6600万年前に地球のロッシュ限界内に突入した最大直径約150kmの巨大な小惑星は、莫大な潮汐力を受けて破壊され、無数の岩片を地球近傍に飛散させました。巨大天体の直撃による回復不能なK-クラスシナリオを回避したものの、地球近傍を公転する無数の小惑星群は顕生代における最も著明な爆撃期をもたらしました[1]。SCP-1695-JP-Aが基底世界内の当時の地球生物であるとする場合、これらの隕石の衝突により地域個体群の壊滅に相当する大規模自然災害を受けたと推測されます。
オルドビス紀末の大量絶滅事変
なお、オルドビス紀は約4億8685万年前から約4億4310万年前までに相当する地質時代です。オルドビス紀末の海棲動物は科レベルで約20%、属レベルで約50%が絶滅しており、当該の動物相の大量消失は顕生代の五大大量絶滅事変の最初の事例とされます。当時全球的に進行していた寒冷化やそれに伴う氷床の発達・大規模海退は、大量絶滅に帰結する直接的な主因あるいは他の因果関係を促進する誘因となったと推測されます。
Tomkins et al. (2024)は、地球近傍に形成された環が太陽放射を直接的に遮蔽し、氷河期の維持・促進に寄与した可能性を指摘しています。









