アイテム番号: SCP-1737-JP
オブジェクトクラス: Euclid
特別収容プロトコル: SCP-1737-JPを契約可能とする方法は秘匿されます。現在、財団外にこの情報の流失は確認されていませんが、これと酷似した儀式手順は監視されています。
説明: SCP-1737-JPは「ブラキストーニ・タイムズ」と称する電子新聞サービスです。複数の言語に対応しており、古語や典礼言語などを使用しています。代表的なものでは、上代日本語や古代中国語などが確認されています。
SCP-1737-JPはネットワークにつなぐことのできる端末(パソコンやスマートフォンなど)を以下の手順により、儀式を遂行することで閲覧可能になります。SCP-1737-JPは儀式を行なっていない端末で接続することができず、アドレスを入力しても不明なエラーを検知します。
1. 端末を火に焼べます。薪はかならずシラカバ(学名:Betula platyphylla Sukaczev)を用いたものでなければなりません。
2. 成熟したシロサケ(学名:Oncorhynchus keta)を2〜3匹火に焼べます。
3. 火の前で楽しげな動作(複数人での談笑・遊戯・漫才・飲酒など)を行います。
この手順が成功裡に終了すると、火の影響により端末が機能を失うことはなく、ホーム画面からSCP-1737-JPにアクセス可能になります。SCP-1737-JPはまもなくして「ニュース」を表示し始めます。
SCP-1737-JPの「ニュース」はそのほとんどが架空のものですが、一部分は現実での出来事に関係しているものもあります。その際、SCP-1737-JPは「神」、「カムイ」などと呼称される存在が何らかの形で関わっていたことを事実として扱います。また、SCP-1737-JPで示唆された内容に関連して異常現象が発生することもあります。
補遺1: SCP-1737-JPはサイト-8196に現れた実体との会話の中で発見されました。2019/10/15、サイト-8196の正面エントランスに人型実体が出現し、財団職員にSCP-1737-JPに関した「取引」を持ちかけました。この実体は以下のように記録されています。
指定 | 外見 |
---|---|
SCP-1737-JP-A | シマフクロウ(学名:Ketupa blakistoni)の頭部のある人型実体。スーツを着用しているが、体表は羽毛を有している。おそらくはメス。サイト-8196の正面エントランスに突如として出現し、警備員に財団の上層部に取り次ぐように指示したのち、即席のインタビューが実施された。 |
記録1737-JP.1
対象: SCP-1737-JP-A
インタビュアー: 白石研究員
付記: 調査を目的として財団はこの取引を受諾することに決めていました。
[記録開始]
SCP-1737-JP-A: 今回我々が提供する新サービスはまさしく「新聞」です。新聞というと紙の媒体を想像するかもしれませんが、私どもは一歩先を行く電子媒体での展開を進めております。顧客の必要としている内容を厳選するため、最新技術を利用した高度なターゲティングを進めており、電子媒体だからこそ可能な先鋭化した質の高い状況を提供させていただいています。また、我が社の特徴である翻訳メカニズムは、極端に複雑な古代言語や人類が知らない言語を用いてニュースをお伝えすることができます。我が社はどんな言語も価値のある遺産であり、後世に伝えていくべき「文化」であると考えています。お客様のご要望があれば、どのような言語でも追加致しますのでよろしくお願いします。インタビュアー: なるほど。しかし我々財団に役に立つ情報があるのでしょうか?
SCP-1737-JP-A: このサービス「ブラキストーニ・タイムズ」では、ターゲティングシステムにより顧客の優先度に合わせて、ニュースを提供しています。後から自由に設定可能ですし、問題はないかと思います。人間界の皆様にもご満足のいただけるサービスであるかと思います。神同士でのシンポジウムは世界的に影響を与える自然事象を決定します。国に土着の信仰がどのように変化しているのかを知ることは、今の皆様方にも有意義なことだと思いますがいかがでしょうか。
インタビュアー: 具体的にどのようなニュースがあるのですか?
SCP-1737-JP-A: 人間界と密接に関連したものですと、日本の神社仏閣がどのように経営されているかやその経営状況に関するニュースが掲載されています。獲得できるニューステーマは多数あり、その中から選択することができます。 今なら洗剤1とトイレットペーパーをおつけします。代金は宴会と鮭です。
インタビュアー: 「宴会と鮭」ですか?何というかその支払い方法は……一般的では無いと思います。
SCP-1737-JP-A: ご契約方法の話をさせていただきますね。ここで一括でご契約なされてもいいのですが、初回利用者様には個別で決済する方法をお勧めしています。契約方法は儀式です。儀式と言ってもたいそうなものではありません。まず、ご契約したいと考えている端末をですね、シラカバの木で燃やした火に焼べてもらいます。続いて鮭を投入していただき、最後には宴会を行なって火を楽しませてください。…鮭が私の取り分で「宴会」が会社の利益となります。人間の支払いとは少々異なることを理解してください。
インタビュアー: わかりました。少々お待ちください。
[インタビュアーは席を外し、研究者と協議を行う。これは数分間に及んだ]
インタビュアー: それではサービスを受けたいと思います。
SCP-1737-JP-A: ありがとうございます。
インタビュアー: このサービス自体はどのような意図で作られたものなのですか?
SCP-1737-JP-A: 他の新聞と同じです。しかし、私の少数言語に対する思いがあったかもしれません。20年前、人間のアイヌタイムズを読みました。人間にもまだアイヌ語が使われているところがあるんだと知り、まだ捨てたものではないと強く思いました。言語は人の写し鏡です。言語は消えてはいけません。心に残るべきなのです。
インタビュアー: なるほど。
SCP-1737-JP-A: 少々自分の事を語りすぎたようです。それでは今後もTtt社をご贔屓にお願いします。
[記録終了]
補遺2: 以下に示すのはSCP-1737-JPの各実例です。
天空神国際サミット開催される
デンマークシェラン島で天空神国際サミットが開催された。天空神国際サミットは今後100年の天候方針を決定する自然環境にとって重要な会議となっている。西暦1319年に初めて開催され、今年で8回目となった。毎回最初に議論される氷河期の到来は例年通り延期され、今年100年の大まかな天候変化と気象変動が決定された。
今年は前回欠席した日本神話の天照大神も参加し、総勢13柱の天空神が集まることとなった。
天照大神「この会議は同じ役職にある天空神が一堂に会するということでとても意味のあることだと思います。天空神は世界の創生に関わっていることも多いですが、アミニズムの環境下においても中心に崇拝されることは少ないものです。それは人間にとって自然の諸現象で身近には考えられていないからですが、実際、人間は天候に左右されることが非常に多いです。これは明日の運動会の天気が心配だったり、改元の時に晴れ間が見えると感動的であるということに限りません。寒さ1つで人類は大きく被害を被るのです。天空神は世界の創生に関わってから何もしないことから"暇な神"とも呼ばれており、これは偉大な空を支配する神として誠に遺憾です。いまこそ天空神同士で集まり協調性を持つことが大事なのではないでしょうか?」
アステカ神話、チョコレート児童労働問題に取り組む
アステカ神話の食糧神と平和神はアフリカ諸国の児童労働問題について解決を目指すことを決定した。アステカ神話代表者ケツァルコトルと現地神代表者ガーナアシャンティ人の神オニャンコポンとの間で協議がなされ、児童労働に含まれる悪を例年より1%減少させることを取り決めた。オニャンコポン「かつての時代には残虐なこともたくさん行われていたことを皆さんは知っているでしょう。しかしこれからはより良くなっていく時代でないといけません。」
アイヌ語再生運動
アイヌ神話連合教育庁は2019年から新たに言語復興運動の一環として、大和民族の児童に対するアイヌ語普及活動を再開することを発表した。この活動では、日本の小学校の児童を対象としてユーカラの読み聞かせを実施する。幼い頃から身近なものにすることで、日本に多民族の意識を持たせ長期的には日本の多言語化を目指している。また、これを受けて日本の他の神話族、琉球神話も反応している模様。
このムーブメントはエジプト神話におけるヒエログリフ復活運動やメソポタミア神話における叙事詩の近代的再出版に端するものである。その影響は各地の忘れられた宗教、神話、民話に拡大し古典言語を擁する様々な媒体が名乗りを上げた。次回からはこの流れをコラムでご紹介する。
補遺3: SCP-1737-JPのいくつかの事例で、様々な人型実体2の出現に関連した内容を記述しています。以下は、2019/8/19に出現したSCP-1737-JP-Aの記録です。SCP-1737-JP-Aは████大学の少数民族の言語に関する授業の時、"教授の代理"として出現しました。
記録1737-JP.2
対象: SCP-1737-JP-A
[記録開始]
えー、こんにちは。私はコタンコロカムイというものです。後藤教授が諸般の事情でお休みなのでかわりにやってきました。私の名前を聞いて不思議に思った、あるいはピンと来た人が多いかと思います。むしろここは文学部なのですから当然気づかなければいけないでしょう。この授業が少数民族の言語に関する授業であということを知って、前もって復習していた方ならよくわかるでしょう。例え私自体は知らなくとも名前の「コタン」という単語から、私がアイヌと何か関係していることは察してもらいたいです。さて、前振りはここまでにして種明かしをしましょうか。私が自己紹介したコタンコロカムイは3つの単語に分割できます。コタンはアイヌの言語で村。コロは守る。カムイは神という意味です。つまり私の名前「コタンコロカムイ」は村を守る神ということになります。ここで私がカムイの一種であると言ったことになりますが、これは悪質なジョークです。あまりそれがどういった意味であるか、本質については考えないようにしてください。授業に関係しているのは、アイヌにおいてコタンコロカムイというシマフクロウの神が崇められていたことです。後藤教授は私の知り合いですが、彼が神と知り合いだったなどという噂をどうか流さないでもらいたいと思います。
それでは本題に入りましょう。私が今回語るのはアイヌという民族のことです。アイヌは、北は樺太、東は千島列島、南は本州の北端までの地域に居住していました。アイヌはアイヌ語で「人」という意味を持つ単語ですが、正確には人間としてちゃんとした、という形容が付随します。例えば、仕事や借りを行わない怠け者などはウェンペ、悪いやつという意味の単語を用います。このように人間自体を指す言葉が後々に部族や民族の名前になることは珍しくありません。例えば、かつての日本人は倭人と呼ばれていましたが、これは我、ワという意味の単語から来ているのではないかという学説があります。アイヌは縄文文化をそのまま保持した民族で、狩猟採集民族でした…[省略]
最後になりますが、アイヌやその宗教、言語は日本やロシアへと融和していきその形をぼやかしていきます。その多様な文化風俗は消えていき、1つの民族としての形はなくなりました。その時代の流れが悪いとか良いとかは言いませんが、ただ少し寂しい気分です。…今もアイヌ語の普及活動は行われています。例えば、新しい単語を作り出したりです。このような地道な活動を私は知ってもらいたかった。
[チャイムがなる]
おっと、時間を忘れていました。ではこれで講義を終了します。
[記録終了]