SCP-1754-JP
評価: +13+x
blank.png

アイテム番号: SCP-1754-JP

オブジェクトクラス: Safe

特別収容プロトコル: SCP-1754-JPはサイト-81GHの標準物品収容セル内に収容されます。SCP-1754-JPを無許可で持ち出すことは禁止されています。SCP-1754-JPを用いた実験の実施には担当職員1名からの許可が必要です。

説明: SCP-1754-JPは後述の異常性を有した換気扇です。外見や機構に異常な点は存在していません。表面には複数の損傷痕がありますが、これらは全て非異常性のものであることが明らかになっています。財団による調査の結果、SCP-1754-JPが非異常性の企業によって作成されたものであることが明らかになっています。また製造過程に異常性が存在していなかったことから、SCP-1754-JPの異常性は後天的に発現したものであると推測されています。

SCP-1754-JPは常に稼働状態を維持しています。これは動力の供給が行われていない場合であっても同様です。この理由は明らかになっておらず、本報告書が執筆された時点においても調査が継続されています。

SCP-1754-JPの換気口からは常にヒト(Homo sapiens)の血液に類似した特徴を有する液体(SCP-1754-JP-1に指定)が排出されています。SCP-1754-JP-1の排出を阻止・妨害する試みは全て失敗に終わっています。SCP-1754-JP-1のうち、排出から5分以上が経過したものは消失します。この理由は明らかになっていません。また、この性質のため、本報告書が執筆された時点においてSCP-1754-JP-1のサンプル採取や成分解析などの試みは成功していません。


補遺1754-JP.1: 発見

SCP-1754-JPは██県██市にある廃墟の敷地内にて発見されました。発見契機は██市内にて「血を吐き出す換気扇がある」という旨の噂が流行していたことであり、これを感知した財団による調査の結果、SCP-1754-JPの存在とその異常性が明らかになりました。その後、SCP-1754-JPは収容され、Safeクラスアノマリーに指定されました。


補遺1754-JP.2: 関係者へのインタビュー

財団による調査の結果、SCP-1754-JPに関係しているとされる人物の特定に至りました。該当人物は██市に在住する日本人男性である三浦 智司氏(当時14歳)でした。財団が取得した情報によれば、三浦氏は頻繁にSCP-1754-JPの存在する廃墟の敷地内に進入し、SCP-1754-JPと接触していたとされています。これを受けた財団は前述の情報の事実確認を目的として、三浦氏に対するインタビューを実施しました。

以下はインタビュー記録の一部抜粋です。記録の全容は別途資料を参照してください。

インタビュー記録1754-JP.1
Record 20██/██/██


インタビュアー: 久屋博士

対象: 三浦 智司氏(三浦氏と表記)


<記録開始>

久屋博士: では三浦さん。あの換気扇について教えていただけませんか?

三浦氏: あいつは俺の親友なんです。たった一人のかけがえのない友達なんですよ。

久屋博士: ……友達ですか。

三浦氏: 今気持ち悪いって思いましたよね? 頭おかしくなってるんじゃないかって。

久屋博士: いえ、失礼しました。詳しく聞かせてください。

三浦氏: 俺があいつと出会ったのは、今からちょうど5年くらい前のことです。当時から俺の家庭環境はめちゃくちゃで、特に父親なんですけど、殴る蹴るなんて日常茶飯事で。

久屋博士: 家庭内で虐待のようなことがあったのですか?

三浦氏: まあなんというか……平たく言えばそうなりますね。友達とかはいたんですけど、そういうこと言う訳にいかないじゃないですか。変に不安かけたくないし。……だからずっと一人で抱え込んでたんです。

久屋博士: 学校などには相談しなかったのですか?

三浦氏: できるわけないじゃないですか。だって、そんなことしたら親に連絡が行くじゃないですか。そうしたら更にひどい目にあわされますし。殴られて鼻血出す程度で済めばいいんですけど、下手したらどうなるか分からないし……

久屋博士: 確かにそれもそうですね。ですが、その出来事が換気扇を見つけることにどのように関係しているのですか?

三浦氏: 俺、たまに……というか結構な頻度で家の外に出されることがあって。その時に例の廃墟に行ったんです。そしたら、廃墟の外にあいつがいて。

久屋博士: なるほど。何故廃墟に向かったのか教えてもらってもいいですか?

三浦氏: 家の前でずっと泣いてたら更に怒鳴られるじゃないですか。『何考えてんだてめぇ』とか『俺が悪いみたいじゃねぇか』って。それが嫌なので、家からなるべく離れたところに逃げたんです。それがたまたまあの廃墟だったというか、だって町外れまで逃げてしまえばあいつ……父親も追ってこれませんし。

久屋博士: そういうことだったんですね。

三浦氏: とにかく、その廃墟の外であいつを見つけたんです。あいつ、ずっと血を吐き出してたんですよ。ポタポタって。当然、なんだろうなって思うじゃないですか。

久屋博士: 怖いもの見たさのような感じですかね?

三浦氏: うーん、なんか違う気がするけど……まあ、そんな感じですかね。それで俺、近づいてみたんですよ。足音を殺して、ひっそりと。そしたらあいつ、割とマジで近づいた時に血をどばって吐き出してきて。

久屋博士: それで三浦さんはどうしたんですか?

三浦氏: ビビりましたよ。急にいっぱい血が出てビビらない訳ないじゃないですか。思わず変な声出しちゃって、逃げようとしたんですけど、びっくりして腰が抜けちゃって。その場で蹲ってたんです。……でも、でもですよ。

久屋博士: はい。

三浦氏: あいつ、何もしてこなかったんです。しばらくしたら血も前みたいにポタポタって感じで吐き出すようになったし。なんというか、拍子抜けしてしまって。『え、これだけ?』みたいな。……で、それと同時にこいつもビビったんじゃないかって思ったんです。

久屋博士: ビビった、ですか?

三浦氏: はい。もしかして、俺が近づいたことでびっくりしてめちゃくちゃ血を吐き出したんじゃないかなって。ほら、人だって目の前で手をパンって叩かれると『うわっ』ってなるじゃないですか。あんな感じ……いや具体的には違いそうですけど、ともかく驚いたことには間違いないのかなって。

久屋博士: 何故そう思ったのですか?

三浦氏: 何故って……本当なんとなくですよ。強いて言うなら、まあなんというか本当変な話であるし自意識過剰かもしれないんですけど、俺と境遇が似てたからですかね?

久屋博士: 境遇ですか。

三浦氏: 俺ってよく親から虐待されたり、外に出されたりしてたじゃないですか。友達もいるけど完全に心を開けてるわけでもないし。なんというか、孤立状態だったんですよ。たまに殴られて血を出すこともあるし。身体のあちこちにも殴られてできた青痣があるし……。それに、自分の意思でどこか遠くへ行くこともできない。

久屋博士: 話を聞く限り、確かにそうですね。

三浦氏: で、あいつも孤立してたんです。建物は廃墟だし、誰も寄り付かない。血を吐くなんて気持ち悪いし、誰もまともに取り合ってくれなかったんじゃないですかね? 全身赤錆まみれでしたし、まともにメンテも受けてないんじゃないかって感じで。しかも傷もついてたからこいつも虐められてたんだろうなって思って、でも誰も寄りつけないし自分からも動けないから苦しんでたんじゃないかって。

久屋博士: 言われてみればそうかもしれません。ですが、大分無理があるのではないでしょうか?

三浦氏: 無理があるかもしれないのは分かってます。でもそう思っちゃったんだから仕方ないじゃないですか。想像するならただでしょ?

久屋博士: ……それもそうですね。

三浦氏: んで、そうやって見るとあいつのことがなんだか愛らしく見えてきて。まるで子供が一生懸命泣いて自分の存在を周りに発信してるみたいな、そんな感じがしたんです。

久屋博士: 三浦さんはそう思ったんですね。

三浦氏: はい。それで、俺、あいつに何かしてやれないかって考えて。だってずっと一人だったから、せめて寄り添ってあげたいじゃないですか。……ずっとひとりぼっちだった俺だからこそ、相手にしてあげられるって思ったんです。

久屋博士: 気持ちとしては理解できますが、相手は換気扇ですよ?

三浦氏: 小っ恥ずかしい話なんですけど、あいつのことを無視できなかったんです。本当ならメンテとかしてやりたかったけど、俺そういうの分かんないし。だから、せめてって思って手持ちのハンカチで拭いてやったんです。

久屋博士: 気持ち悪いとは思わなかったんですか?

三浦氏: もちろん気持ち悪いとは思いましたよ。血は生臭いし、汚いし。……でも、あのまま放置するのもかわいそうだったし、勇気を振り絞ってあいつに触れたんです。

久屋博士: なるほど。

三浦氏: あいつの表面はやけに冷たかったです。ひんやりしてて、なんとなく『こいつしばらく放置されてたな』ってのが分かって。思わず、俺まで悲しくなりました。

久屋博士: その後、三浦さんはどうしたんですか?

三浦氏: あいつの傍にしばらく座ってました。何か話したりするわけではなかったけど、不思議と心が落ち着いたんです。それで親が寝静まったかなってタイミングで家に帰りました。

久屋博士: ハンカチはどうしたのですか? 汚れているとなると、両親から不思議な目で見られたりするのではないでしょうか。

三浦氏: とりあえず家に帰ったらすぐにベッドの下に隠して、翌朝、両親が家を出てからこっそりと洗濯してました。でもまあ……今思うとなんでバレなかったのか不思議ですね。

久屋博士: そうですね。それで、次の日から毎日あの換気扇に会いに行ったと。

三浦氏: はい。あいつに会いに行くのが日課になってました。会いに行って、ハンカチで錆をふき取って、ちょっと話して帰る感じですね。

久屋博士: 話とは、具体的にどのようなものですか?

三浦氏: 家での諸々を話したり、学校であった面白い出来事を話したりしました。あいつ、全部興味深そうに聞いてくれたんですよ。こんな感じで俺に寄り添ってくれるやつ初めてで、俺めちゃくちゃ嬉しかったんです。今まで俺の話をまともに聞いてくれるやつなんて一人もいなかったので、なんというか新鮮でした。

久屋博士: 換気扇が話を興味深そうに聞くのですか?

三浦氏: そうです。悲しい話をすれば血をぽたぽた流して泣くし、面白い話をすれば笑ったように血を吐き出すんですよ。これって話に共感してるからじゃないんですか?

久屋博士: ……そうではないとは言い切れませんね。

三浦氏: でしょ? 俺はあいつが話に共感してくれたからこうやって反応したんじゃないかって思うんですよ。暑いときは強風出すし、これってあいつがしっかりと自分の意思みたいなものを持ってるからですよね?

久屋博士: 分かりませんが、その可能性はあると思います。

三浦氏: まあ、そんなこんなであいつと話をしたりする時間があったんですよ。……でも、ある時クラスメイトにあいつと話してるところ見られちゃって。

久屋博士: それでどうなったのですか?

三浦氏: 大人なら言わなくても大体わかるでしょ……。まあ、言っちゃえばいじめの対象になりました。気味悪い物に話しかけてる頭おかしいやつだって言われるようになって。周りから無視されたりとか、からかわれたりすることが増えました。

久屋博士: 換気扇との関係はどうなりましたか?

三浦氏: あいつとは会わなくなりました。またクラスメイトに同じところ見られたらいじめはヒートアップするだろうし、そうなったらもう耐えられないので。でも──

久屋博士: でも?

三浦氏: ……あいつを無視することはできなかったんです。心の中にはあいつへの想いがずっと残っていました。あいつは俺に寄り添ってくれたし、俺の話に共感してくれたんです。なのに、俺は何も返せてない。あいつの想いをもらってるだけだったんです。

久屋博士: 続けてください。

三浦氏: このままじゃ後悔するって、そう思ったんです。だから、またあいつに会いに行きました。周りの目とかは気にせずに、あいつのことだけを考えてました。途中でクラスメイトに会ったし、からかわれたりしたけど、俺は全部無視しました。

久屋博士: そうしてあの換気扇と再会したわけですね。

三浦氏: はい。あいつ、俺の姿を見ると同時に泣いたんですよ。血がすうって流れ落ちて。俺は急いであいつに駆け寄って、ハンカチであいつの身体を拭いてやったんです。服に血がついたりしたけど、それはそこまで気にならなかったです。

久屋博士: なるほど。

三浦氏: そんで、あいつの身体を拭いてたら俺も泣いちゃって。俺の涙はあいつとは違って透明だし、量もあいつほど多くはなかったんです。でも、あの時の俺らは一緒でした。通じ合えていたんです。俺は『ごめんな』って言って、あいつとまた話をしました。あいつはファンを静かに回しながら、俺の話を静かに聞いていたんです。

久屋博士: そうして、三浦さんとあの換気扇は通じ合うに至ったと。

三浦氏: はい。あいつは俺の親友です。これからも、これまでも、あいつ以上の友達はできないと思います。

<記録終了>


終了報告: 上記インタビュー終了後、三浦氏は記憶処理後に解放されました。

なお、当該インタビューから半年が経過した20██/██/██、三浦氏の死亡が確認されました。死因は頚部圧迫による窒息死であり、死亡現場の状況から自殺であると推測されています。なお、死亡現場には遺書と思しき文書が存在しており、そこには「誰にも相談できない」や「なんだか心が虚しい」および「何か大切なものを失った気がする」などの文言が複数記載されていました。当初、財団はSCP-1754-JPと当該事案の関連性を疑いましたが、調査の結果として当該事案が非異常性のものであることが明らかになっています。このため、財団が当該事案に対して干渉することはありません。


補遺1754-JP.3: オブジェクトに対する検証とその結果

補遺1754-JP.2におけるインタビューの内容を受け、研究担当チームによるSCP-1754-JPに関する実験が行われました。これはインタビュー中にて三浦氏が極度にSCP-1754-JPに対して感情移入していたことを理由としたものです。また、インタビュー中の三浦氏の言動からSCP-1754-JPには知性および精神影響性があると推測されたため、それらの性質について確認する目的から実験の実施が決定されています。

実験はSCP-1754-JPに対して様々な行動(接触や呼びかけなど)をとり、それに対する反応を記録する方針で行われました。結果としてSCP-1754-JPが有知性的もしくは精神影響的な挙動を見せなかったため、暫定的にそういった異常性を有していないアノマリーとして判断されました。インタビューにて三浦氏が言及していたような挙動はランダム性によって生じるものであることが確認されています。そのため、三浦氏の行動や発言内容は非異常性の擬人観に由来するものであると推測されています。

これらを受け、SCP-1754-JPのAnomalousアイテム再分類が検討されています。検討が終了次第、本報告書は更新される予定です。

特に指定がない限り、このサイトのすべてのコンテンツはクリエイティブ・コモンズ 表示 - 継承3.0ライセンス の元で利用可能です。