


図 1.1: SCP-1777-JPとSCP-1777-JP-A (赤円内) 。第二次内部探査の際に撮影。
特別収容プロトコル: SCP-1777-JPへのアクセス経路は植林場の存在を名目に封鎖し、一般人で侵入を試みるものは常駐の職員が確保し警察機関へと引き渡します。ポータルの位置にはマーカーを設置し、その場所を明らかにする必要があります。SCP-1777-JP-Aの全てのキャリアとキャリアと疑われる人物/物品は、迅速にSCP-1777-JPへと封じ込めが行われます。封じ込め完了後、担当職員は自身がキャリアではないことを証明しなければなりません。現在SCP-1777-JPへの侵入は、如何なるクリアランスを所持する職員であっても禁止されています。

図 1.2: ポータルの大まかな場所 (赤円内) 。
説明: SCP-1777-JPは日本の北海道樺立峠の森林の特定地点からのみ侵入可能な異常空間です。空間に繋がるポータルの位置には目印となるようなものは存在せず、ポータルに対し特定の方向から侵入することでのみ空間内部へとアクセスすることが可能となります。その性質から、ポータルはSSUIS2世界重複に指定されています1。
ポータルを通ると、SCP-1777-JPに存在するくねった一本道2の始点に出ます。帰還の際にはこの道を辿り戻ることでSCP-1777-JPから抜け出ることが可能です。一本道の総距離並びに空間の正確な範囲は判明していません。空間内部には外部と同等の植生が存在し3、常に霧が立ち込め時間帯に関係なく一定の明るさを保っています。空間内部において、SCP-1777-JP-Aに指定されている存在以外の何らかの動物や実体などの痕跡は発見されていません。
SCP-1777-JP-Aは自身の色相を変化させ続ける、モザイク処理を施されているように観測される存在であり、周囲の霧があるにもかかわらず常に明瞭に観測されます。SCP-1777-JP-AはSCP-1777-JPに侵入した対象を追跡しますが、SCP-1777-JP-Aの体長が不明であることと常に明瞭に観測されるという異常性によって、オブジェクトとの正確な距離を認識することは困難です。現在、SCP-1777-JP-Aは非実体的存在であると考えられています。
SCP-1777-JP-Aを直接視認した人物はオブジェクトに強い恐怖感を抱き、多くの場合恐慌状態に陥ります。加えて、一度SCP-1777-JP-Aを直視すると、モザイク処理が施された映像や画像等に対しても強い恐怖を示すようになります。この影響は記憶処理を施せば除去可能であることが確認されています。また、SCP-1777-JP-Aは生物と機械類に寄生する能力を有しています (寄生された生物/機械類は“キャリア”と呼称) 。キャリアとなる存在の条件は判明していません。
SCP-1777-JP-Aは現在未確定の他の異常性を数多く有していることが確認されています。また、補遺1777-JP.6に示される種々のリスクを考慮して、SCP-1777-JPの内部調査は現在中止されています。そのため、SCP-1777-JP及びSCP-1777-JP-Aの説明には不足が生じている可能性があることに留意してください。未確定情報の詳細は補遺群を参照してください。
補遺1777-JP.1: 発見
SCP-1777-JPは2018/10/14、ポータル付近で森林再生事業を行っている団体により発見され、その異常を警察機関へと通報したことをきっかけに財団の調査対象となり収容に至りました。帰還した人物たちには保護した後に身体検査4とインタビューを行い、その後それぞれにクラスB記憶処理を施して解放しました。また、SCP-1777-JP内部に侵入した発見者ら6名の内、男性2名 (芝███氏と古川██氏) が現在も行方不明であることから、これらの失踪者を捜索するためのチームが結成されました。
SCP-1777-JPの起源並びにポータルが何故発見地点に存在していたのかは不明であり、調査は継続して行われています。
以下はSCP-1777-JP発見者の1人である尾野辺██氏への、保護後すぐに行われたインタビュー記録の音声転写です。インタビュアーはエージェント・桜野でした。他の発見者らへのインタビュー記録はインタビュー記録1777-JPを参照してください。
インタビュー記録 #1
2018/10/14
[記録開始]
Agt.桜野: 尾野辺さん、お体の具合はいかがでしょうか。
尾野辺氏: 体のほうはなんともないです。
Agt.桜野: それは良かった。ではインタビューを開始します。尾野辺さん、あの場所で何が起こったのかをまず教えて頂けますか?
尾野辺氏: ええ。あれは昨日の朝のことで、仲間の1人が何か変な場所を見つけたって言うもんでしたから、みんなしてそこに向かったわけです。あれは偶然見つけたとしか言いようがないです。本当に何の変哲もないとこで、そうですなぁ、例えるなら、誰も来ないようなところに目に見えないワープゾーンがあるような感じでした。そこに入ると、こう、どっかの別の森に移動しましたね。
Agt.桜野: その森の中はどうなっていましたか?
尾野辺氏: 昨日は晴れてて、すごい天気が良かったでしょう。外の森はすっかり紅く染まってたんですがね、ワープしたらいきなり木が緑になって、しかも霧が掛かったうえ周りが一気に薄暗くなったんです。さっきいったじゃないですか、あれは本当にワープですって。意味わからないし突然でしたもの。
Agt.桜野: その森の状況を憶えている限りでいいので教えてください。
尾野辺氏: 何というか、ひどく静かだったような気がします。焦ったり興奮したりで、それに俺らで結構喋ってたから意識回らなかったんで、よく憶えてないですね。
Agt.桜野: わかりました。それで、警察に通報した際に仰ってた“モザイク”というのは何のことだったのですか?
尾野辺氏: (額に手を当て頭を振り始める) あああ、やめてくれ本当に。クソ怖かったんだ。なんだったんだあれは、俺にもよくわからんって。ああもう、本当にわからないんだって!あれが何かなんて俺には!(以降不明瞭な発言を続ける)
Agt.桜野: 尾野辺さん、尾野辺さん!
尾野辺氏が恐慌状態に陥ったため、インタビューは一時的に中断された。
Agt.桜野: 尾野辺さん、無理のない範囲で結構なのでインタビューに答えて頂きたいです。
尾野辺氏: (数回の深呼吸) ああ、先ほどは失礼しました。モザイクの話でしたね。あれは、その……見ただけで一気に血の気が引いたんです。そんなもんですから、みんなして、なんかヤバいのが来てるぞ!って言って走って戻ったんです、来た道を。
Agt.桜野: 思い出すのは辛いかもしれませんが、そのモザイクの特徴を教えて頂けますか。
尾野辺氏: そうですね……目まぐるしく色が変わってましたね。赤かったり青かったり、目に悪いような感じでほんとわやでしたわ。それにどんどんでかくなってくるもんでしたから……いや、でかくなるというよりは“近くなる”って言った方が伝わりますかね。うまく表現できたもんじゃないです。例えるなら……常に自分の方向を向いているバグった何かがやってくるような、そんな感じ、かなぁ。
Agt.桜野: 記録しておきましょう。では最後に、森を出るまでに何が起きたのかを教えてください。
尾野辺氏: あー、そうですね。全員で逃げたと思ったんですけど、2人いなかったんですよ、森を出たときには。そう、古川と芝って奴らです。どうしたもんですかね。でも、それ以外には特に何も起こってないです。モザイクも追っかけてきてませんでした。しかし……今もあいつらはあの森ん中に居るんでしょうか。迷ってるんだろうなぁ……きっと無事で、あの気持ち悪い化け物に捕まってなけりゃいいんですが。
Agt.桜野: わかりました。これでインタビューを終了します。お疲れさまでした。
尾野辺氏: どうかあいつらを頼みます。もう本当に、何年も一緒に仕事してきた仲なんです。
Agt.桜野: ええ、もちろんです。
[記録終了]
補遺1777-JP.2: 第一次内部探査記録
以下は第一次SCP-1777-JP内部探査の記録です。探査を行ったのは機動部隊を-11 (“深層ウェブクローラ”) の部隊員3名、すなわちパープル、アズール、インジゴであり、以下はその音声記録の転写となります。今回の探査の目的は、行方不明となっている一般人2名を確保することでした。
SCP-1777-JP探査記録 #1
2018/10/15
[記録開始]
を-11-パープル: こちらパープル。全隊員目的地に到着しました。SCP-1777-JPへの侵入を試みます。
司令部: 了解。
機動部隊がポータルへと移動し、SCP-1777-JPへと侵入する。
を-11-パープル: マイクチェックだ。点呼。パープル。
を-11-アズール: アズール。
を-11-インジゴ: インジゴ。
を-11-パープル: 司令部、聞こえましたか?
司令部: 問題ない。一般人の捜索を開始してくれ。
を-11-パープル: 了解です。
を-11-アズール: しかし昼だってのに、何だかやたらと暗い森ですね。
を-11-インジゴ: それに酷く霧が掛かってる。大体、視界は10mかそれより少し先くらいまでしか見えない、と言ったところでしょうか。
を-11-パープル: だな。よし、前進するぞ。
機動部隊はおよそ5分間小道を道なりに進む。
を-11-アズール: 何か変じゃないですか?
を-11-パープル: どうした。
を-11-アズール: いや、気のせいかもしれませんが、ちょっと……静かすぎませんかね。風の音こそ聞こえますけど、鳥の鳴き声なんて何も聞こえませんし、なんというか、動物が全くいないような印象があります。
を-11-インジゴ: 言われてみればそうかもしれない。ここに来てから鳥どころか、虫の一匹も見ていませんし。木ばっかりですよ。
を-11-アズール: 失踪者たちの足跡でも残ってりゃいいと思ったんですけど、ダメですね。全然、道にすら足跡残ってませんもん。私たちの足跡は残ってるのに、やっぱり不自然な気がします。
を-11-パープル: 確かに変だな……失踪してからまだ時間は経ってないし、雨だって降っていないのに。誰かが人為的に消したのだろうか。
を-11-インジゴ: そうでないことを祈りましょう。
司令部: チーム、どうした。失踪者たちの痕跡が無いのか?
を-11-パープル: そうですね、今のところは。一本道は見たところ、舗装されてるわけではありませんが、やたら綺麗です。人が通ってないかのようです。
司令部: 了解した。引き続き注意して探査を続けてくれ。
を-11-パープル: わかりました。
を-11-インジゴ: 2人とも見てください!3時の方向!
を-11-パープル: 何だ!失踪──
全隊員が口をつぐむ。
司令部: インジゴ、何か見つけたのか。
を-11-インジゴ: あれは……よく分かりません。何か、異常なものを見ています。
司令部: 異常なもの。それについて、できる限り詳細に伝えて欲しい。
を-11-インジゴ: こう……一言で言えば、モザイクです。なぜか対象物との距離感が掴めません。
司令部: 距離感が掴めない?近づくことはできそうにないか?
を-11-インジゴ: はい。うまく例えられないのですが、何というか、恐らくあれはまだ遠くに居るのだと思います。ですが、感覚的には“遠い”というよりは“小さい”という表現のほうが似合っているように感じます。それに今は、自身らの目線よりもっと上にいるので、近づけないと思います。
を-11-アズール: わ、私もそう思います。あれは……やたらはっきりとした平面図が空間上に現れて、いや、張り付いていて?それがだんだん大きくなっている、というように思えます。ダメです、上手い例えが思いつきません。とにかく異常なことには変わりありません。周りの風景から見ても明らかに浮いてますもん。
を-11-インジゴ: それと、恥ずかしながら……異常にあれを怖く感じます。先程は近づけなさそうと言いましたが、本音を言えば、あれには近づきたくないです。
司令部: 何、怖いだと?
を-11-インジゴ: はい。なんだか、あのモザイクを見てられません。近づかれるんじゃないかって思うと、勝手に涙が出てきて──
を-11-アズール: 私も怖く感じます。相手が未知だから怖いとかじゃなくて、よく分かりませんがただ怖いんです。言葉にできないような、ぼやけた不安のようなものが……。
を-11-パープル: 私も、異常に対象物に恐怖感を感じています。どうもこれは、普通の感覚ではないように思います。司令部、我々の一時退避を許可して頂けませんでしょうか。漠然とですが、どうにも……嫌な予感がします。
司令部: 了解した。チームの一時撤退を許可する。急いで戻ってきてくれ。
を-11-パープル: ありがとうございます。を-11、撤退します。
を-11-インジゴ: しかし、何なんですかねあれは。気味が悪すぎる。
機動部隊が来た道をおよそ2分ほど逆行する。途中の曲がり角を右に曲がったところで、全員がSCP-1777-JP-Aに回り込まれていることに気付く。
を-11-アズール: おかしいですって!さっきまで変なとこに居たのに!
を-11-パープル: クソ、ダメだ。一旦道を戻るぞ、急げ!
機動部隊が空間内部の方向へと走り出す。
を-11-パープル: 司令部、聞こえますか!例のモザイクに道を塞がれました!全員一度道を戻り、防衛を図ります!
司令部: 了解した。身の安全を第一に考えてくれ。
を-11-インジゴ: これ、道逸れて逃げたほうが良くないですか!?
を-11-アズール: 下手に分かれない方が良いかもしれませんよ!
を-11-パープル: あれがもっと近づいてきたら分散する!
機動部隊は再び小道を道なりに走り進む。およそ1分間走った時点でアズールが後ろを振り向き、叫び声をあげ銃を2回発砲する。
を-11-パープル: おいアズール!
を-11-アズール: やだ、やだ!おかしいですって!なんであんなに近づかれてるんですか!もう嫌!
アズールが更に3回発砲する。
を-11-インジゴ: アズールやめろ!弾が無駄に──
を-11-アズール: 見てくださいって!あんなに!
パープルとインジゴが後ろを振り向き驚愕の声をあげる。その後合計7回の銃声がなり、全隊員の叫び声が響いた。この時点で機動部隊は離散して道を逸れたと思われる。それぞれの隊員が混乱したような発言を繰り返しながら草むらを掻き分けて走る音が聞こえ、時々発砲する音が確認できる。その後何かに激しくぶつかるような音がそれぞれの無線から数度聴こえ、インジゴ、アズールの順に通信が切断された。
を-11-パープル: し、しれ- (荒い呼吸音)
司令部: パープル、何が起こった!
を-11-パープル: (震えた声で) おねが、助けてください……。ここはどこですか、モザイクが- (荒い呼吸音) -変な色のモザイクがやってくるんです。どれくらい近づかれているのかわからないけど、あれは確実にち、近づいて、もうすぐ、俺の目の前──
パープルが突如叫び声をあげ、2回の発砲をする。この時点でパープルとの通信が切断された。この状況においても、通信が切断されているにもかかわらず全隊員のGPS反応がSCP-1777-JPの位置を表示し続けているのは特筆すべきである。
[記録終了]
補遺1777-JP.3: 第二次内部探査記録
以下は第二次SCP-1777-JP内部探査の記録です。探査を行ったのは救出チームゐ-31 (“闇酒場”) の部隊員3名、すなわちシャンディ、キティ、ダイキリであり、以下はその音声と映像記録の転写となります。当探査は第一次探査終了直後に行われ、目的は一般人と前回の探査チームの安否確認並びに回収でした。前回で確認された異常存在はこの時にSCP-1777-JP-Aに指定され、当該オブジェクトが探査中に出現した場合は断りなく撤退することが許可されていました。この探査が行われた時点で、前部隊の全隊員のGPS反応は途絶えていませんでした。
SCP-1777-JP探査記録 #2
2018/10/15
[記録開始]
ゐ-31-シャンディ: こちらシャンディ。
ゐ-31-キティ: キティ。
ゐ-31-ダイキリ: ダイキリ。
ゐ-31-シャンディ: 司令部、聞こえてますか?
司令部: 大丈夫だ。全員問題ない。
ゐ-31-シャンディ: 了解です。総員、SCP-1777-JPに侵入しました。辺りは酷く暗く、霧がかかっています。空間外部の樹木は紅葉していましたが、内部の樹はどれも緑です。時期相応とは思えません。
司令部: よし、事前の打ち合わせ通りだ。まず内部に何か、人間の痕跡がないか探してくれ。
ゐ-31-シャンディ: わかりました。ゐ-31、前進します。
救出チームは3分間道に沿って進む。途中に足跡等の人間の痕跡は見当たらない。
ゐ-31-キティ: 事前情報の通りですね、どうも静かすぎる気がします。
ゐ-31-ダイキリ: 人探しには結構良い条件かもしれないですね。ただ、前の隊員たちがあまり奥に行ってなければ良いんですが。
このとき、不明な人物の呻き声が確認される。全隊員が声の聴こえた方向へと銃を向ける。
ゐ-31-シャンディ: シッ、誰だ。
を-11-パープル: 誰ですか……。別の機動部隊?
ゐ-31-ダイキリ: 救出チームです。前に侵入した機動部隊の隊員ですか?出て来れるなら姿を見せてください。
を-11-パープル: なるほど……。そうだ。深層ウェブクローラのパープルだ。(引きつった笑い声) なんて酷いニックネームだこと。
ゐ-31-シャンディ: 何か姿を現せない理由があるのか?とにかく出てきてくれ。俺たちはお前らを連れ帰るのが目的でここに来ているんだ。とにかく、無事なのかどうかだけでも確認したい。
を-11-パープル: 確認も何も、そっちこそどこにいるんだ?
ゐ-31-シャンディ: 何?わから──
を-11-パープル: いや、待て。(沈黙) そうか、そうだよな。やっぱりそうだったか。(笑い声)
ゐ-31-キティ: パープルさん。どこにいるんですか?
を-11-パープル: わからない。でも恐らく、すぐ近くにいるんだ。目と鼻の先に。だからこうやって会話できているんだろう。
ゐ-31-シャンディ: どういうことだ。
を-11-パープル: そうだな。絶対に道を外れるな。その行為は、文字通り道を見失うことになる。道を見失うんだ。道を- (不明瞭な発言)
ゐ-31-シャンディ: ああ……オーケー。つまりお互いに姿を確認できていないわけだな。道を逸れるのがそうなる条件か。
を-11-パープル: ああ、ああ、恐らく。そして、あのモザイクが来たら、絶対に、絶対に見てはいけないんだ。奴がいようがいまいが、道だけを見て進むんだ。それができないようならすぐにでも撤退するべきだ。道を逸れれば、あの狂ったモザイクと鬼ごっこを続ける羽目になるだろうよ。それで、俺はもう……そっちには戻れないだろう。声は聞こえるのに、姿も見えなければ小道もない。周りは全部霧臭い森ばかり。
ゐ-31-シャンディ: ふむ……どうしたものか。司令部、前の部隊の隊員の生存を確認しましたが、接触ができません。すぐ近くから声は聞こえますが姿が見えないといった状況です。
を-11-パープル: そう、それでいいんだ。もうこれ以上何も考えたくない。幸運を祈る。
1発の銃声が鳴る。
ゐ-31-キティ: えっ、嘘……。
ゐ-31-ダイキリ: これは……パープル!生きているのか!おい!
パープルの反応はなく、沈黙が続く。
ゐ-31-シャンディ: すみません、司令部。発見した隊員はパープル、たった今自害したものと思われます。姿が見えないので確認ができません。
司令部: 問題ない。会話は聞こえていた。パープルの発言が正しいとすれば、道なりに進むべきなのだろう。気をつけてくれ。ひとまず、他の隊員と民間人の捜索は継続するように。
ゐ-31-シャンディ: 了解です。
救出チームが道に沿っておよそ30秒間歩く。

図 2.1: SCP-1777-JP-Aの出現 (赤円内) 。
ゐ-31-ダイキリ: 左です、現れました!SCP-1777-JP-Aです!
全隊員が左を振り向き足を止める。
ゐ-31-シャンディ: なに……まずいな。あれはどうなってるんだ?空間にモザイクがポツンと浮いているように見える。それと前隊の音声通り、距離感が全然掴めない。どうだ、そう見えないか?
ゐ-31-キティ: はい。その、今携帯の距離計使ってるんですけど、上手く数値が出ないです。
ゐ-31-ダイキリ: ちょっと待ってください。……こっちもダメですね。音波は届いていると思いますし、故障してるわけではないんですけど。
ゐ-31-キティ: 私のはレーザー距離計なので、あれはどうもレーザーを透過してるみたいです。なんか怖いですね。どうしましょう、前進しますか?
ゐ-31-シャンディ: いや……そうだな。少し待ってくれ。司令部、SCP-1777-JP-Aの出現を確認しました。これ以上の探索は危険と判断しました。撤退します。
司令部: 了解した。気をつけてくれ。
救出チームが走って元の道を戻る。およそ1分間走った時点で全員が足を止めた。
ゐ-31-シャンディ: おいおいおいどうなってるんだ。回り込まれたのか?
ゐ-31-ダイキリ: ダメですね。道がくねってて、逃げようにもどこかで回り込まれるようになってるんですよ、この森は!
ゐ-31-シャンディ: クソが!前進を続けろ!なんとしても脱出するぞ!
ゐ-31-キティ: わかりました!
その後救出チームは前進を続けるも、SCP-1777-JPの入り口まで残りおよそ25mの地点で完全にSCP-1777-JP-Aに回り込まれる。この時点でダイキリが叫び声を上げ、道を逸れて走り去った。
ゐ-31-シャンディ: ダメです、ダイキリがロストしました!私も……いえ、モザイクを避けての脱出は出来そうにありません!キティと私も、いったん内部に逃げることにします!
ゐ-31-キティ: いや!私もうダメです!あっ。
キティが地面に座り込む。

図 2.2: この時点での映像。画面全体にSCP-1777-JP-Aが映り込んでいる。
ゐ-31-シャンディ: キティ、立て!
ゐ-31-キティ: 無理です!腰が抜けてしまって……。
ゐ-31-シャンディ: ああクソ……すまない。
シャンディのみがSCP-1777-JP深部へと進行し、キティは取り残される。その後、シャンディの叫び声と助けを求める声が聞こえ、続いて2発の銃声が鳴った。
ゐ-31-キティ: 待って! (叫び声) やだ、置いてかないで!あああ、怖い!怖いんです!お願いだから助けて!誰か!
キティの喚き声が続くが、突然途絶え、沈黙が訪れる。
司令部: チーム、応答せよ!生存者はいないのか?
沈黙。
ゐ-31-キティ: し、司令部。キティです。生きてます。他の2人はどうなったのかわかりません。遠くから銃の音がたまに聞こえます。恐らく、2人とも道を外れてしまったのだと思います。
司令部: キティ、無事なのか?
ゐ-31-キティ: 多分、無事です。
司令部: SCP-1777-JP-Aはどうした。
ゐ-31-キティ: 消えました。
司令部: 消えた?
ゐ-31-キティ: はい。目の前全部がモザイクだったのに、いきなり。本当にいきなり、パッと。
沈黙。
ゐ-31-キティ: とにかく、一旦帰還します。
司令部: 了解した。気を抜かないよう。
これ以降、シャンディとダイキリとの通信には成功していない。一方で前回の状況と同様、両名のGPS反応はSCP-1777-JPの位置を示し続けている。キティはSCP-1777-JPより生還し、ポータルを出た直後に意識を失い倒れた。その後の検査で、キティは身体に目立つ負傷は負っていないことが確認された。ここまで行われた探査の結果を鑑みて、万全の対策が行われていない限りは内部探査は危険あるいは無意味であると判断され、一時的に中止されることが決定した。
[記録終了]
補遺1777-JP.4: キティへのインタビュー記録
以下は救出チームゐ-31隊員のキティが意識を取り戻した際、自身の精神状況に関して異常を訴えたために行われたインタビューの音声転写です。インタビュアーは当時のSCP-1777-JP研究チーム主任の凍田博士でした。
インタビュー記録 #5
2018/10/16
[記録開始]
前略。
凍田博士: それで、異常というのは具体的にどういうものなのでしょうか。
キティ: その、感覚的にははっきりわかるんですが、上手く言葉で伝えられるかどうか……あのモザイクが目の前で突然消えたと報告しましたよね、私。
凍田博士: 確かにそう言っていました。
キティ: あの時はそう思ったのです。視界が全部モザイク一色になって、怖くて怖くて死んでしまいそうでしたが、後になって気づいたのです。(沈黙) どう言えばいいのでしょう……奴は、もしかしたら私の中に入り込んでいます。
凍田博士: 中に?
キティ: そう、としか言えないような気がします。あの森から帰還したときこそ、あのモザイクが恐ろしすぎたことや、シャンディたちがいなくなったままだったことが、怖かったり悲しかったりで混乱しているからだと思ったんです。でも、きっと違います。当時の状況を何度も何度も思い出しました。森の中に潜むモザイクの情景です。奴は私のことを追いかけ続け、そして私は奴にどれだけ近づかれているのか皆目見当つかない。そんな情景です。ですが……(沈黙)
凍田博士: 無理せず続けてください。
キティ: ありがとうございます。そう、そして、私は両親の顔を思い出さずには居られませんでした。やっぱり、どうしても母親に甘えて、父親と話したくなったのです。それだけじゃないです。小さい頃に何度も何度も遊びに行った遊園地や、実家近くの公園で友達と遊んだ記憶を思い出しました。恋しくて仕方なかったんです。ですが、そうしているうちに私は異常に気が付きました。アイツです。あのモザイクが、居るんです。どこにでも。探査のときの記憶だけじゃないんです。
凍田博士: 具体的に言えますか?
キティ: 両親と遊園地で乗った観覧車の記憶には、私の横の席にモザイクがいます。公園の思い出について言えば、ブランコにあのモザイクがいるんです。やっぱり距離感がわからないので正確ではないかもしれません。ただ、これだけは言えます。“どの記憶の中にもあのモザイクがいる”んです。
凍田博士: 本当にどの記憶にもなのですか?
キティ: はい。こうして話すために思い出している記憶にもモザイクがいます。奴は何もせず、ただ記憶の中で佇んでるだけで。私は、気持ち悪くて仕方ないんです。ずっと、ずっと吐きそうなんです。本当はもう過去なんて思い出したくないんです。いえ、思い出せなくなりそうなんです。
凍田博士: 記憶影響、なのでしょうか。
キティ: 私もそう疑いました。一刻も早く記憶処理を受けないといけないって。でも……。
凍田博士: でも?
キティ: そのとき、記憶処理を受ける自分を思い浮かべました。未だに記憶処理の後の副作用には慣れなくて、どうしても苦手だからです。でも、記憶処理を受けている自分の目の前には……あのモザイクがいました。
凍田博士: つまり、未来を想像してもSCP-1777-JP-Aが現れるということですか?
キティ: はい、まさにその通りです。信じたくありませんでしたが、未来についていろいろ想像してみました。それでもやっぱりアイツは現れるんです、絶対に!何故なんですか。もう、私はどうしたらいいんですか……。私は、私は、今しか見ることができなくなってしまいそうです。全ての思考を放棄するしか、あの気持ち悪いモザイクから逃げることはできないんです。そうしたいけど、そんなこと、絶対嫌なんですよ……。
凍田博士: わかりました。まずはあなたに起きている異常について詳しく調査しましょう。記憶処理も──
凍田博士が発言を止め、キティを凝視し始める。
キティ: どうかしました?
沈黙が続く。
キティ: あの──
凍田博士: 今……何か、違和感のようなものを感じてはいませんか?
キティ: えっと、特には。
凍田博士: わかりました。すみません、インタビューを中断します。
凍田博士は立ち上がり、急ぎ足で退室した。キティは当惑した表情を示している。
[記録終了]
当インタビュー終了後より、キティへの不必要な接触は凍田博士により禁止されました。また、キティは凍田博士の研究室で同博士により療養が行われることが決定しました。理由と詳細は補遺1777-JP.5を参照してください。
補遺1777-JP.5: 研究報告と収容に関する提案
キティへのインタビューの後、凍田博士はSCP-1777-JP-Aに関する研究を名目に自身の研究室への他職員の進入を禁止しました。2018/10/28、凍田博士は以下のSCP-1777-JP及びSCP-1777-JP-Aの研究報告に関する文書を提出しました。
まず先に、キティへのインタビューの際に起こったことを述べます。彼女へのインタビュー途中、何となく彼女の顔にモザイクのようなものが掛かっているように見えたのです。それは見ているうちにだんだんと大きくなって、彼女に違和感がないか聞いた時点で彼女の鼻周りは不気味な色のモザイクに覆われていました。
そして私は身の危険を感じ、急いで部屋を退室しました。しかし部屋を出た後もモザイクは私を追いかけてきて、目の前が全くのモザイクになったころ、突然消えたのです。つまり、キティの証言に似たことが私にも起きたのでした。そしてすぐに異常に気が付きました。過去の記憶、未来の想像、その全てにSCP-1777-JP-Aが現れていたのです。
これらのことから導かれるのは、彼女がSCP-1777-JP-Aの"キャリア"となっていて、私は彼女を媒介にSCP-1777-JP-Aに寄生されてしまったということです。
探査記録の内容や今回の件を照らし合わせて、SCP-1777-JP-Aの出現条件は「キャリアをある程度観測し続ける」ことなのだと私は結論付けました。元々SCP-1777-JPはSCP-1777-JP-Aのキャリアあるいは生息地とも言うべき場所であって、その中に長時間入っていた人物の目の前にSCP-1777-JP-Aが現れたのは、SCP-1777-JPを長時間見続けていたからなのでしょう。私も、インタビューに際してキティを長時間見続け、結果としてSCP-1777-JP-Aは現れました。そしてその挙動を見るに、SCP-1777-JP-Aは物理的障害に関わらず観測者を追跡し続けるようでした。
ただ、生還したSCP-1777-JPの発見者たちがSCP-1777-JP-Aのキャリアとなっていないことから、SCP-1777-JP-AはSCP-1777-JPから自発的に抜け出ることはできず、キャリアに寄生することでのみ抜け出ることができるのだと思われます。これについてはDクラス職員を用いた検証を行う必要があるでしょう。
また何より、探査記録においてSCP-1777-JP-Aは映像に映り込んでいました。これが示すのは、生物だけに限らず機械ですらも観測者/キャリアになり得るということです。そして事実として、第二回探査に使用された撮影機器がSCP-1777-JP-Aのキャリアとなっていることを確認しました。念のため、撮影機器の保管を担当していた職員への検査を行いましたが、幸運にも該当職員はキャリアではありませんでした。
加えて、インタビュー後に行ったキティへの記憶処理は一切の効果を示しませんでした。それどころか、以前にも増して彼女は記憶と想像に現れるモザイクに恐怖するようになり、先日私が見ていない隙に、箸で思い切り目を突き脳を傷つけ自殺してしまいました。それでも、彼女の遺体を見続けているとSCP-1777-JP-Aは出現するのです。これはキャリアとなった人物が、生死に関係せずキャリアであり続けることを示しています。
以上のことから、キャリアとなった撮影機器とキティの遺体、そして私自身は収容されるべきであるという判断に至りました。ですがSCP-1777-JP-Aの異常性を考慮するに、安全かつ恒久的な収容の確立は困難であり、むやみに新たなキャリアの数を増加させてしまう危険性が非常に高いと考えられます。そのため、全てのキャリアをSCP-1777-JPへと送り込むことにより封じ込めを行うことを提案します。
既に犠牲になる覚悟は出来ています。そして、これ以上の犠牲は出すべきではないでしょう。
SCP-1777-JP研究チーム主任 凍田博士
以上の提案は承認され、2018/11/02、全てのSCP-1777-JP-Aに曝露したと思われる物品と人物はSCP-1777-JPへと送られ封じ込めが行われました。以降、調査目的以外でのSCP-1777-JP内部への侵入は禁止されています。現在、Dクラス職員及びドローンによるSCP-1777-JP内部の探査が実行されていますが、既に判明している情報と補遺1777-JP.7に示される以上の情報の取得には成功していません。研究のためのSCP-1777-JP-Aキャリアの安定した収容を確立する方法が現在模索中です。 補遺1777-JP.6を参照してください。
補遺1777-JP.6: 内部調査の凍結
現在のところ全ての探査において、Dクラス職員がSCP-1777-JP-Aと遭遇するに従い恐慌状態に陥り、SCP-1777-JP内部の道を逸れて帰還不可能となっています。また、Dクラス職員では困難と思われるSCP-1777-JPの深部の探査に用いられるドローンは、深部へと進むほどに不明な原因により徐々に操作困難となり、最終的に故障するため回収に至っていません5。これらの事実から、Dクラス職員と機材の浪費が懸念されました。
また、SCP-1777-JP-Aのキャリアを安定に収容する方法が考案されておらず、一方でSCP-1777-JP-Aに感染する存在が未確定であるため、キャリアの護送時に野生の生物等の財団による把握が困難なSCP-1777-JP-Aのキャリアが生じる可能性が指摘されました。仮にそのようなキャリアが発生した場合、収容と対処は困難を極めることが予想され、このために、内部探査の実行とキャリアの獲得の試みは危険であるとされました。加えて、SCP-1777-JP-Aの研究から得られるである情報と収容違反のリスクを鑑みて、キャリアを無理に獲得し研究を行う必要性が薄く、SCP-1777-JPを安定して収容することが優先されるべきだと判断されました。
以上の理由により、SCP-1777-JPの内部調査は凍結されました。
補遺1777-JP.7: 追加探査記録
以下はSCP-1777-JPへのキャリアの封じ込めの際に凍田博士の申請によって行われた、同博士によるSCP-1777-JP内部探査音声の転写です。これが現在のところSCP-1777-JPの最奥へと到達したと思われる唯一の内部探査記録ですが、探査が博士単独で行われたこと、並びに博士の主観的な発言が多いことから、全体的な内容が信頼性に欠けていることに留意してください。
SCP-1777-JP追加探査記録
2018/11/02
[記録開始]
凍田博士: 先日もお伝えしましたが、提案の承認と内部探査の申請を許可していただいたこと、心より感謝します。撮影機器と遺体の処理は完了しました。これより、内部探査を始めます。
約5分間の沈黙。風の音と凍田博士が歩く音のみが聴こえる。その後凍田博士が立ち止まる。
凍田博士: SCP-1777-JP-Aの出現を確認しました。気にせず進行します。
凍田博士が進行を再び開始する。このとき、呼吸が次第に荒々しくなっていることが確認できる。
凍田博士: その、すみません。どうしても怖いのです。(咳き込む) 進みます。
その後約3分間、凍田博士は前進を継続した。途中、小さい声で何かを呟いていることが確認できるも、その内容は不明。
凍田博士: (荒い呼吸) すみません。いったん止まります。モザイクに視界が塞がれていて……。
嘔吐をするような音が聞こえる。
凍田博士: すす、進みます。もう大丈夫です。
凍田博士が約3分間無言で前進する。
凍田博士: 先ほどから、特に視界に変化はありません。-Aは今のところ一度現れて、恐らく私の中に入り込みました。過去の記憶を辿ると、モザイクの数が更に増えていましたので。
沈黙。
凍田博士: やはり、SCP-1777-JP-Aは1体だけがキャリアに寄生する、ということではないようです。複数いるのか、増殖しているのかはよくわかりません。
沈黙。
凍田博士: 現れました。ここに来て2体目です。すごい勢いで色を変えながら、徐々に近づいてきています。
凍田博士の息が再び荒くなり始める。
凍田博士: 本音を言えば、怖くて怖くて、足を進めるのもやっとなのです。(掠れた笑い声) なんで、どうして、ここまで恐ろしいのでしょうか。もう私は生きていないも同然ですから、恐怖なんてものは気にせず探査ができると考えたのですが、どうも、そううまくはいかないようです。ほん、本当は、逃げ出したくて仕方ないのです。
沈黙。
凍田博士: いえ、その……すみません、余計なことでした。そう、ここに来てから、15分くらいが経過したのでしょうか。まだ、道や景観に変化はありません。ただただモザイクが襲い来るのみです。……すみません、また止まります。視界がモザイクに、なりました。
何かが倒れる音が鳴り、凍田博士の呼吸音のみが聴こえるようになる。その後約13分間応答なし。
凍田博士: あ、ああ。申し訳ありません。意識を失っていたようです。進みます、前進します。諦めるわけにはいきませんから。
その後約40分の間凍田博士は前進を続け、繰り返すSCP-1777-JP-Aの接近に際して数回の休憩を行った。途中で数度の転倒をしており、叫び声や助けを求める旨の発言をすることもあった。また、1時間近く内部探査を行っているにもかかわらず、特に周囲の景観などに変化は見られず道の分岐等もないと報告していた。
凍田博士: (呟くように) これが最後の務めだ。諦めるな。
凍田博士は無言で前進を続ける。
凍田博士: そういえば、徐々に風の音が聞こえなくなってきました。微妙な変化ですが、明らかにさっきと違うと感じます。いえ……音だけではないです。風そのものが吹かなくなっているように思います。
約1分間の沈黙。
凍田博士: 完全に、風の音が止みました。それと、少しずつ景観にも異常が見られます。SCP-1777-JP-Aとは違う、動かないモザイクが点々と現れています。気のせいではない、と思います。怖いからとかそういうのではなくて- (不明瞭な発言)
凍田博士の呼吸音が更に激しくなる。
凍田博士: まわ、景観がかなり狂っています。森の……その、ほとんどはモザイクに覆われています。音も、私の声ばかりで全くの- (荒々しい呼吸音) -すみません。休憩しま、したいです。少しでいいので目をつぶらせてください。体の震えが……止まらないんです。
約5分間、凍田博士の呼吸音と「怖い」と呟く声のみが聴こえる。
凍田博士: (咳き込む) 少し楽になりました。進みます。
約3分間、凍田博士は無言で前進を続ける。休憩を取ったにもかかわらず呼吸音は依然荒く聞こえており、過呼吸のような状態になっているものと推測される。
凍田博士: 既に……森はモザイクに覆い尽くされました。どこをどう見てもモザイクです。ただ唯一、道だけはモザイクに覆われていません。これだけが、この道だけが今の希望です……。でも、地獄を見ているような気分でもあるのです。過去も未来も現在も、全てモザイクに埋め尽くされているんです。そして訳も分からず怖い。いや……ただただ、この先に何が待つのかを調べる、そのことだけを思って、もう気力も何もないけど- (沈黙) -す、進みます。進まないと。
約7分間、無言で凍田博士は数度転倒しながら進み続ける。途中で繰り返しえずいているような声が聞こえ、呼吸音はかなり乱れていることがわかる。突如、凍田博士が驚愕したような声をあげて足を止める。
凍田博士: 道が、道が途切れました。完全に、これ以上先がありません。
沈黙。
凍田博士: そうか。そうですか。結局、どれだけ諦めずに進んだって、先はもうない。ああ、終わり。終わり!終わりだ!(叫び声) もう、ここから一歩進むだけで、全て終わる。(不明瞭な発言)
沈黙。
凍田博士: それでも私は頑張った。
沈黙。
凍田博士: ありがとうございました。
沈黙。
凍田博士: 進みます。
通信途絶。
[記録終了]