SCP-1781-JP
評価: +34+x
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SCP-1781-JP-A

アイテム番号: SCP-1781-JP

オブジェクトクラス: Keter

特別収容プロトコル: SCP-1781-JPは、SCP-1781-JP-Aを含め、非異常の地質構造として偽装・隠蔽されます。財団火山学部門と地質学部門は一般の研究機関や個人によるSCP-1781-JPの研究を検閲します。必要に応じて研究成果の差し止め処理と該当者に対する記憶処理を実行してください。

SCP-1781-JPは、SCP-1781-JP-Aをエリア-81MFに指定された上で、日本国政府の認可の下で世界オカルト連合・日本生類総研との共同管理下に置かれます。大衆の猜疑心を最小限度に抑制するためエリア-81MF周辺域は一般公開されますが、山梨県および静岡県の下部団体により指定されたあらかじめ踏査済みの経路のみが登山道として許可されます。

SCP-1781-JPの収容にあたり、2県の管理事務所や浅間大社が現場管理担当に配置されます。これらの団体はSCP-1781-JPの内部動態や周辺環境の観測を行い、変動が検知され次第財団・連合・日創研のいずれかへ可及的速やかに報告します。平常時・非常時を問わず観測記録は3団体間で共有され、対応の要不要や内容が適宜協議されます。


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非異常のPalaeoloxodon naumanniの全身復元骨格

説明: SCP-1781-JPは、一般に富士山として知られる円錐形に近似可能な火山体(以下SCP-1781-JP-A)を背部に持つ、巨大な長鼻目の哺乳類です。SCP-1781-JPは日本国の山梨県から静岡県にかけて身体を埋没させており、その体長は約26kmと推定されます。骨格形態はナウマンゾウ(Palaeoloxodon naumanni)に類似しており、Palaeoloxodon属の最後の末裔であると推測されます。

SCP-1781-JPの表皮をはじめとする肉体の一部は非異常の地質に類似する組成に近く、生体物質から玄武岩質火山砕屑物・表土へ変化しています。このためSCP-1781-JPはある側面においてケイ素型生物様の特徴を持ち、北アメリカプレートおよびフィリピン海プレートと一体化するように大陸地殻~上部マントル中に埋没しています。これらのプレートの沈み込みは、SCP-1781-JP-A内の液相の直接的ないし間接的な供給源であると推定されます。

SCP-1781-JP-A内に貯留された液相は分化の進行した非異常の島弧玄武岩マグマと一致する組成を示します。当該マグマは脊椎動物の循環器系に類似する構造でSCP-1781-JPの全身にも供給されており、血液に相当する体液と推測されます。ボディプランに基づく推測と観察記録から、SCP-1781-JP-Aは体内で生じる莫大な熱を大気中に放散する背部放熱器官であると予想されます。

以下はSCP-1781-JPの生物学的・地質学的詳細です。


SCP-1781-JP詳細



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右外側から見たPalaeoloxodon naumanni

骨格系

地震波トモグラフィーにより可視化されたSCP-1781-JPの骨格形態はゾウ科の長鼻目に類似します。頭蓋骨の最上部にPalaeoloxodon属に特徴的な頭頂-後頭骨稜が存在しますが、当該の稜は大部分の種と比較して発達しません。また他種と比較して前上顎骨が前後に短いこと、茎突舌骨に著明な窩が存在することに基づき、Palaeoloxodon naumanniが最近縁種と推測されます。

既知のゾウ科動物と同様に、SCP-1781-JPは吻が長く発達しており、内部に長軸方向に沿った2列の空洞が見られます。当該の空洞は溶岩洞に類似していますが、観測される周期的な気流は呼吸に対応すると目されます。SCP-1781-JPは吻を介した呼吸を行い、また機序が不明ながらも酸素を利用して生命活動を持続すると推測されます。

既知のゾウ科長鼻類と異なり、SCP-1781-JPの体骨格は後側胸椎から前側腰椎にかけて神経棘が発達します。陸棲大型哺乳類は一般に背側体幹筋に付着部を提供する神経棘が高く発達しますが、この発達は前側胸椎において認められるものであり、SCP-1781-JPに見られる神経棘の発達と適応的意義が異なります。胴部中央に見られる発達した神経棘は背部構造物(SCP-1781-JP-A)の基盤として寄与します。

神経・血管系

SCP-1781-JPは一般的な哺乳類と類似する機構で生命活動を進行すると見られます。

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SCP-1781-JPに起因する生体磁場を持つ青木ヶ原樹海

例として、中枢神経に沿った地中に電場が存在することから、SCP-1781-JPは神経系や脳の活動が確認されています。当該の電場が青木ヶ原樹海で観測される磁場の形成にも寄与する規模であり1、また脳自体の体積が膨大であることから、知的生命体である可能性も考慮されています2

SCP-1781-JPはSCP-1781-JP-Aの結合組織中に張り巡らされた血管、あるいはSCP-1781-JP-A自体の内部の血流量を制御し、体温調整を行います。外表および内腔に冷涼な空気が接触することにより、血液から大気中への放熱を促進します。SCP-1781-JPは10kmオーダーに達するその巨体ゆえに熱が蓄積しやすく、放熱により恒常性を維持すると見られます。

放熱過程

SCP-1781-JPの放熱過程は静的な放熱と動的な放熱とに二分されると見られます。

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減圧時のマグマの様子の例示としてしばしば用いられる炭酸飲料の発泡(動的過程)

  • 静的放熱 - 冷却された外気の対流と伝導、および自然な放射により進行する、受動的な過程です。観測記録より、SCP-1781-JP-Aの放熱は平常時において静的過程が大部分を占めると目されます。
  • 動的放熱 - 一般的な火山の噴火過程と同様である、能動的な過程です。血液をそのまま上昇させ爆発的に放出する場合と、血液を減圧して液相中の揮発性成分を発泡させる場合とがあります。いずれにせよ、動的過程においてSCP-1781-JPは自発的に火山噴出物を放出して自己を冷却します。

現行の監視体制が確立されて以降、SCP-1781-JP-Aの能動的な噴出活動は火口、噴出物は水蒸気を主体とする気相に限られます。しかし非異常の火山との噴火機序の相似性や、地層や古文書に記録されている過去の噴火履歴に基づき、高温の液相・固相の火山噴出物の放出も可能と見られます。加えて、山頂だけでなく山腹での割れ目噴火が頻発していることから、SCP-1781-JP-Aの広範囲の表層を用いた冷却が可能と推測されます。

個体発生

SCP-1781-JPはその骨格形態に基づき、P. naumanniとの近縁性が示唆されます。本種は第四紀更新世に九州南部から北海道にかけて日本列島に生息した化石長鼻類であり、既知の最古の化石は約34万年前のものとして年代が推定されています。本種はユーラシア大陸から南方経路で列島に進出し、より北方のマンモス動物群との間で勢力争いを繰り広げたのち、最終氷期極大期にあたる約2万4000年前に絶滅したと推定されます。

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SCP-1781-JP-A(新富士火山・古富士火山)とそれ以前の火山体のダイアグラム

SCP-1781-JP-Aである富士山の主要な山体は、約10万年前の古富士山の大規模噴火により形成されました。古富士山以前に当該地域に存在した火山は安山岩質溶岩で構成されていますが、約10万年前に従来の火山体を被覆するように形成された古富士山は、現在の富士山と同様に玄武岩質溶岩で形成されています。この状況証拠より、約10万年前に岩石と結合した異常性を持つP. naumanniが巨大な成層火山である古富士山を形成したと推察されます。

最終氷期を生き延びたSCP-1781-JPは約1万1000年前から噴火様式を現行の様式へ変化させました。更新世において主として火山灰を火山噴出物として生産していましたが、最終氷期以降において溶岩・火山弾・軽石を放出し、現在のSCP-1781-JP-A(新富士火山)を完成させたと見られます。



発見経緯: SCP-1781-JP-Aが動物の一部である事実は、20世紀後半から徐々に明らかにされました。1980年代から発展した地震波トモグラフィー技術のような非破壊分析、1990年代~2000年代に実施されたボーリング掘削調査やトレンチ調査などの破壊分析の発達・普及を経て、当時の学術界においてSCP-1781-JPの地下構造が極めて異質である事実が共有されました。

日本地質学会・日本火山学会・日本地盤工学会をはじめとする各学会は世界オカルト連合と財団による監視下にあり、先行研究の整理・照合を経て、巨大不明異常存在の実在が仮定されました。連合と財団はただちに各学会や出版物に隠蔽工作を施し、また2組織による共同管理体制を確立しました。

日本生類創研は2000年代後半に収容体制に参画しました。SCP-1781-JPが長鼻目の哺乳動物として同定された段階で、連合は日本国内で最大の異常生物取扱機関である日創研に接触し、生物学的観点からの助言を求めました。この3組織の協働以降、現行の取り扱いに至ります。

補遺: SCP-1781-JP-Aの過去1万年間における噴火は高頻度であり、第四紀完新世前期には1km3以上に達する莫大な溶岩の流出が複数回発生したと見積もられます。円錐形の山体が噴火により形成された地形であると仮定した場合、山体崩壊を伴うような爆発的な噴火が発生したことが確実視されます。

歴史時代においてもSCP-1781-JP-Aの噴火履歴が地質調査と文献調査から確認されています。8世紀から11世紀にかけて頻繁に割れ目噴火を発生して多数の火山噴出物を放出したほか、18世紀初頭に爆発的な噴火を発生しており、これらの諸噴火活動のうち2例がVEI5相当3と推定されています。

貞観噴火(864年)

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剗の海を図示したSCP-1781-JP-A周辺地形図

主要噴出物: 苦鉄質溶岩

推定噴出量: 約30億トン

噴火様式: ストロンボリ式

説明: SCP-1781-JP-A北西麓において総延長5.7kmに達する2列の割れ目が生じ、火口列から莫大な溶岩が流出した。溶岩流は主に北麓に向かって扇状に拡大し、また支流が西麓にも流下した。この過程で山麓の生物相が広範囲に亘って壊滅した。当時の駿河国の報告によれば、高さ60mに達する火柱が立ち、4~8km四方の森林が焼き尽くされたという。

報告後も溶岩流は継続的に拡大し、その流出期間は噴火開始から約2か月におよんだ。主流は北部に位置する堰止湖(剗の海・本栖湖)に流入した。熱水による二次爆発を誘発しながら土着の湖沼生態系に甚大な被害をもたらし、とくに剗の海に至ってはこの大部分を埋没した。この地形改変により剗の海の残存域が東西に分断され、現在の富士五湖が成立した。

当該の噴火により形成された青木ヶ原溶岩は面積約30km2におよび、SCP-1781-JP-Aに由来する一溶岩流として最大とされる。青木ヶ原溶岩の層厚は最低で5mであり、かつての剗の海付近では25mを超過する。過去4500年間で最大規模の噴火活動とされる。

宝永噴火(1707年)

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宝永噴火における降灰領域

主要噴出物: 火山灰・火山礫

推定噴出量: 約17億トン

噴火様式: プリニー式

説明: 南東山腹の五合目付近で爆発的な噴火が発生し、北西 - 南東方向に配列した3個の火口が形成され、高度20kmを超過する黒い噴煙が立ち上った。噴火直後においては数百度に加熱された降下軽石が、その後は岩滓が卓越した。これらの火山噴出物は周辺の木造建築を焼き尽くし、耕作地帯を壊滅させた。燃焼を免れた家屋も層厚3mに達する火山砕屑物の荷重による倒壊が相次いだ。

火山灰は偏西風の影響を受けて東方に拡大し、組成を珪長質から苦鉄質へ変化させながら関東地方南部の広範囲に降灰をもたらした。約30cm以上の降灰が生じた地域では耕作不能となり、薪炭材や家畜飼料の供給も断たれ物資の深刻な枯渇に見舞われた。当時の江戸でも数cm以上の降灰が生じ、呼吸器系疾患を発症する住民が普遍的に実在したことが文献記録に記載されている。

一連の噴火は16日間に亘って1.8km3の火山灰を噴出し、二次的な土石流の多発、農作物収量の長期的減少など、世紀を跨ぐ被害を残した。同等規模のプリニー式噴火が発生した場合、約1万4000人の直接的な死傷可能性、総延長1万km前後におよぶ道路網の寸断、総延長約1800kmにおよぶ鉄道網の混乱、約2500km2におよぶ農作物被害、約7km2におよぶ森林植生の壊滅などが想定される。

SCP-1781-JP-Aは財団による収容以降も地熱を示し、また噴気活動を断続的に発生しています。過去のVEI5相当噴火をモデルケースとした災害対策の立案・実行が3団体間で進行中です。



追記: 財団火山学部門・環境科学部門・動物行動学部門などの諸部門は、現地踏査および情報収集を経て、SCP-1781-JPの噴火活動の前兆にあたる可能性のある事象を報告しました。以下は当該事象の一覧であり、静岡県を中心とする東海地方から関東地方南部にかけて集中することが示唆されます。

2047/11/23

関東以南にあたる日本列島の太平洋側にて、大規模な蜂群崩壊症候群が発生する。1週間をかけて各地の養蜂場から約5割のミツバチ(Apis spp.)が消失し、養蜂業に深刻な打撃を与えた4

2048/01/16

山梨大学山岳部により、山中湖における水塊の変質が報告される。通報を傍受した財団が後日調査した結果、表層水が淡褐色を帯び、深部水塊に汚濁が確認された。財団による調査当日には、ワカサギ(Hypomesus nipponensis)やヒメマス(Oncorhynchus nerka)の遺骸が水面に浮上している様子が確認された。

2048/09/01

静岡県小山町にて、地盤の隆起、およびそれに伴う地割れが国土交通省に通報される。同省と財団による広域調査により、SCP-1781-JP-Aの外輪部において最大██cmの隆起が見られ、特に著明な地域でアスファルトやコンクリートの破断が確認された。

2049/08/05

静岡県内の動物園にて、飼育下のアフリカゾウ(Loxodonta africana)が檻に体当たりし自傷する事故が発生する。これ以降同園内で他種の動物が異常行動を示す例が多発し、県内外の他の園でも見られるようになる。

2049/08/06

アフリカゾウの暴走に1日遅れ、近隣地域で飼育されているイエイヌ(Canis lupus familiaris)やイエネコ(Felis silvestris catus)をはじめとする愛玩動物が異常行動を示す。遠吠えの通報に端を発し、脱走や徘徊、警戒行動などがこの時期から急増する。

2049/08/15

県内外の野鳥愛好家団体から、観察可能な鳥類種の急減が報告される。あらかじめデータロガーを装着した個体を追跡した結果、渡り鳥あるいは留鳥かを問わず、多数の鳥類種が群れをなして東北地方以北またはユーラシア大陸東岸へ移動していることが明らかにされた。

2049/08/30

SCP-1781-JP-A山頂で有感地震が観測される。揺れは約20秒に亘って継続し、最大震度3を記録した。

2049/09/06

81管区の収容下にある異常生物群に平常から逸脱した挙動が認められる。

  • 動物系アノマリーに関し1週間で7件の収容違反が発生。
  • SCP-1437-JPの変形体5が比較的活発な流動を開始。警戒レベル引き上げ。
  • SCP-798-JPの未凍結試料6の活性化頻度が増大。全試料の緊急凍結を実行。

2049/09/27

SCP-1781-JP-A山頂火口部から温度約71℃の噴気を確認。放出された気体は水蒸気が大部分を占めたが、二酸化炭素や硫化水素の含有が認められた。


上述の諸現象に示唆される潜在的な活発化が懸念されることから、事態を重く見た世界オカルト連合と日本生類創研はSCP-1781-JPの終了計画を提案しました。財団側は当該提案が財団の基本理念を逸脱するものであること、SCP-1781-JPの希少性および研究上の価値、および終了後の社会および地盤におよぼされる影響の不確定性などを論拠として抗議しましたが、連合と日創研側の主張が採択されました。

SCP-1781-JP終了計画「オペレーション・ハインリッヒ」に関する補足資料を以下に掲載します。

オペレーション・ハインリッヒ

目的

本計画は、SCP-1781-JPの現況を鑑みて、激甚な自然災害をもたらしうる地質学的不確定事象を最大限排除するために実施する。本計画では、生物的過程を終了し、通常の火山体に近似可能な状態に至らしめることを目的とする。本計画を経たSCP-1781-JPは今後の動態予測が劇的に向上するほか、動物の偶発的行動による噴火誘発を阻害し噴火自体の抑制に至ることが期待される。

本計画は、火山体の地形・噴火史と化石長鼻目の研究議論に貢献したHeinrich Edmund Naumannに捧ぐ。

背景と経緯

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宝永火口を示すSCP-1781-JP背部放熱器官

SCP-1781-JPは約10万年前に大規模な噴火を起こし、表面的には活動を停止しながらも実際には継続していると見られる。これはSCP-1781-JPが現存する唯一のP. naumanniあるいはその類縁種の末裔であり、かつ、深部に熱を帯びる活火山であることを意味する。化石種の特徴を色濃く残しつつ珪素生物と炭素生物の両方の特性を兼ね備えるSCP-1781-JPは大変な研究上の価値を秘めるが、他方、日本国の中枢を脅かす甚大な災害に繋がることが懸念される。

SCP-1781-JPの噴火活動は地質学的時間スケールでは喫緊の問題と言える。地下10〜20kmを震源とする低周波地震が群発していることが1980年代以降知られているが、近年に入り、著明な地殻変動や水質汚濁がSCP-1781-JP周辺地域で相次いで報告されている。加えて科学的根拠を欠くものの、地震・火山災害との関連が囁かれる動物種の行動変化の報告が風説の枠を超越して社会問題化するほどに頻発している。これらの事象は具体的噴火時期の推定に寄与しないものの、噴火可能性の暗示として強固である。

非異常の火山とSCP-1781-JPとの最大の差異として、後者が意思と不随意性を持つ動物であることが挙げられる。通常の火山も噴火予測の不確実性が大きいものの、その挙動は生物体と比較して単純な物理化学的特性に束縛される。動物であるSCP-1781-JPは意思決定・動作が複雑であり、また意識に反する挙動を取る場合があるため、将来予測が非常に困難を極める。

そこで世界オカルト連合と日本生類創研はSCP-1781-JPの終了を目的とし、本計画を立案した。2団体間での立案後、異常存在の確保・収容・保護を基本方針とする財団からは、オブジェクトの学術上の価値、および潜在的知的生命体の取り扱いに係る倫理的懸念から強い反発を受けた。3団体での討議を重ね、最終的に本書に記す形で合意形成に至った。本書は最終的な合議に基づき、作戦実施に先立って作成を行ったものである。

材料と手法

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溶岩洞窟に類似するSCP-1781-JPの鼻腔。踏査用設備敷設済み。

SCP-1781-JPの放熱器官は放熱過程で火山ガスを放出する。当該気相は水蒸気を主体とするが、他に二酸化炭素や硫化水素といった酸化的揮発性成分を含有する。代謝によりこれらの気相成分が排出されているとすれば、火山ガスはSCP-1781-JPにとって不要な物質あるいは有害物質である見込みがある。特に硫化水素は哺乳類にとって強い毒性を持つ神経系ガスとして作用し、モルモット(Cavia porcellus)を濃度700ppmの硫化水素に晒せば中枢神経麻痺により即死することが知られる。

本作戦では日本生類創研との協力関係にある民間化学会社が最大限の製造ラインを確保し、高純度の圧縮硫化水素ガスを量産する。生産されたガスは世界オカルト連合と財団が日程を調整し、輸送業者および圧送業者を手配する。作戦決行当日には、あらかじめ確保した溶岩洞窟に類似するSCP-1781-JPの鼻腔を通し、用意したガスを呼吸器系に注入し、SCP-1781-JPの脳神経細胞の活動を阻害する。無人探査装置による鼻腔内部の調査により、鼻腔が通常の長鼻目哺乳類と同様に近位に伸びることは確認済みである。

予察

作戦後代謝が停止しても地熱は残留するため、死後の背部放熱器官は当面の間通常の火山としての振る舞いを示すと予想される。活火山の性質が残りうること自体は、本作戦において織り込み済みであり、野生動物としてのSCP-1781-JPを生存させた状態よりも安全と言える。

本作戦の策定において他に懸念された事項として、SCP-1781-JP終了後の大衆への心理的影響と地形・地質への物理化学的影響の2観点が挙げられる。以下、これらの視座に関し本作戦の正当性を記載する。

心理的影響

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富嶽三十六景より版画「山下白雨」

SCP-1781-JPの背部放熱器官は、古来からその風貌が絵・写真・工芸・和歌・物語などの芸術作品で表現されてきた。日本の象徴的な存在として信仰対象にもなっており、活火山であり頻発的に噴火が発生することから山体自体を怒れる神とする信仰が存在する。このように富士山が深く日本文化に根ざしていることから、その風貌に変化があった際、日本国民を中心に心理的な負の影響をもたらすことが懸念された。

下位の項目で詳述するとおり、本作戦の前後でSCP-1781-JPが一般大衆から見て著明な変化を経験する蓋然性は低い。また作戦実施に伴ってやむを得ず発生する地形改変については、非異常の火山活動と比較して微小な変化と見積もられる。記憶処理プロトコルを適用せずとも従来のカバーストーリーおよび偽装工作で十分な隠蔽が可能であり、大衆への心理的影響も考慮に値しない範囲内に収束すると見られる。

物理化学的影響

SCP-1781-JPの遺骸が周辺の地形地質に影響をおよぼす場合、誘因として腐敗による遺骸の脆弱化、素因として周囲の岩石に対する遺骸の頑健性の不足が考えられる。

遺骸の腐敗
動物が死亡した場合、生物体を構成する有機化合物は微生物の作用により腐敗する例が普通である。しかし、SCP-1781-JPが死亡した場合、恒常性を喪失した肉体は徐々に圧密・変成作用を受けて堆積物へ変化すると目される。

圧密作用は一般的な動物の体化石形成と共通する過程であり、堆積物に埋没した遺骸が保存の良好な体化石として産する場合を鑑みれば、SCP-1781-JPの遺骸が顕著な腐敗を受けないことが予想できる。またSCP-1781-JPが存在する地下深部が高温であること、また肉体自体に1200℃以上の高温部が多いことから、有機物の一般的な腐敗に寄与する微生物は生存不能であると目される。

頑健性の不足
SCP-1781-JPが恒常性の維持の一環として周囲の岩石の荷重に耐久していると仮定し、死後筋力による支持を失ったSCP-1781-JPが変形し地盤沈下に至る可能性も考慮された。しかし、昼夜を問わずSCP-1781-JPが安定して所在すること、また噴火活動を除いて能動的な活動が見られないことから、不活発な状態においても十分に安定することが示唆される。既に内骨格が自重や圧密に耐え、また周囲の岩石が外骨格として補強しているため、大幅な地殻変動を誘発するおそれは小さい。

オペレーション・ハインリッヒは2049/10/04 08:00 (JST)に決行が予定されています。



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西日本太平洋沖地震震源域

インシデント: 2049/10/03 11:19 (JST)、和歌山県沖約50km地点を震源とするMw9.█の超巨大地震が発生しました。岩盤の破壊域は宮崎県沖から静岡県沖までの太平洋側に広く分布し、南海トラフ巨大地震と判断されました。地震発生直後に発令された緊急地震速報、ならびにその直後に直撃した強い揺れを受け、オペレーション・ハインリッヒは資機材輸送段階で中断されました。

日本国政府は当該地震の名称を「西日本太平洋沖地震」と定め、地震およびそれに連動した巨大津波への緊急対応に追われ、財団への作戦協力を打ち切りました。また協力企業の多くも物資および電力の枯渇に見舞われBCPを発動し、目下の復旧を最優先課題とする方針に切り替えました。設備に生じた被害や作業員の安全確保などの観点から被災下での作戦遂行は非現実的と判断され、オペレーション・ハインリッヒは無期限の延期が決定されました。

宝永地震の事例では、SCP-1781-JP-Aの噴火の直前に南海トラフ沿いを震源域とした推定Mw8.7-9.3の巨大地震が発生したことが知られており、当該の地震がSCP-1781-JPのマグマだまりを刺激して宝永噴火を誘発した可能性が考えられています。西日本太平洋沖地震による同様の影響が危惧されることから、財団と世界オカルト連合は再準備が整うまでの間監視措置を継続する予定です。
























追加調査報告: 2059/11/21に実施された大規模な遠隔式地殻深部探査を経て、SCP-1781-JPの周辺地質構造が従来よりも下位まで可視化されました。本探査は日本国の復興に伴いオペレーション・ハインリッヒの再開が実現可能性を帯びたこと、また、SCP-1781-JP-Aの危惧された噴火活動が想定に反して10年間発生しなかったことを受け、財団および世界オカルト連合が現状把握を目的として実施したものです。
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VEI5の例としてセント・ヘレンズ山(~1km3)、VEI7の例としてタンボラ山(>100km3)の火山噴出物量を図示したVEI比較図

探査の結果、SCP-1781-JPの腹側以深に巨大なマグマだまりの形成が確認されました。当該のマグマは苦鉄質の下部地殻が溶融・分別して形成された珪長質マグマであると見られ、またその体積はSCP-1781-JP-Aの体積を遥かに超過する規模でした。当該のマグマが噴火活動により噴出した場合、カルデラ形成に帰結しうるVEI7相当の超巨大噴火が発生すると見込まれます。

補遺: 本調査結果を受け、SCP-1781-JPは従来マグマの噴出を地中で抑制する役割を果たしていたことが財団火山学部門・動物学部門により提唱されました。根拠は以下の通りです。

  • 地下深部に存在するマグマが珪長質であるにも拘らずSCP-1781-JP-Aを通して噴出したマグマの大半が苦鉄質である。地中で進行した結晶分化作用が恒温動物であるSCP-1781-JPの体温によりリセットされたと見られる。この結果、マグマの粘性が低下し、非爆発的噴火に近づく傾向にある。
  • 歴史時代に記録されたSCP-1781-JP-Aの噴火活動が最大でもVEI5相当である。有史以前に遡ってもVEI7相当の巨大噴火の痕跡が確認されず、10-1~-2倍程度に噴出量が低減されている可能性がある。
  • 2040年代後半に報告された動物の異常行動のうち、発生範囲がSCP-1781-JP周辺域よりもむしろ西日本太平洋沖地震の被災域との一致度が高いものが複数存在する。

今後は生体試料の保存に関心を持つ日本生類創研との間で先制して合意形成を行い、オペレーション・ハインリッヒの白紙化を世界オカルト連合へ提案し合議する予定です。

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