SCP-1784-JP
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異常性活性化時の様子。一見すると紅葉と区別できない

アイテム番号: SCP-1784-JP

オブジェクトクラス: Safe

特別収容プロトコル: SCP-1784-JPを含む森林地帯は財団フロント団体「ひまわりクリーンプロジェクト・フランス支部」が所有し、対人センサー付きのフェンスによって封鎖されています。部外者が侵入した場合、カバーストーリー「自然保護林」を説明して退去させて下さい。

SCP-1784-JP内の樹木には、森林管理の技術を持つ職員により水と肥料の散布・害虫の駆除・雑草の除去等の手入れが定期的に実施されます。

SCP-1784-JPの情報漏洩の可能性は少ないと判断されていますが、念のため諜報局フランス支局による周辺地域やWeb上の監視が継続中です。

説明: SCP-1784-JPはフランス共和国・ロワレ県・██████市の森林地帯の一部にあたる、約700m2のエリアです。異常性が活性化していない状態ではごく一般的な広葉樹林であり、周囲の森林との差異はありません。植生や土壌等のデータは、別紙SCP-1784-JP林学班報告書を参照して下さい。

毎年10月中旬頃になると、SCP-1784-JP内に生えている樹木の葉は、徐々に構成物質を変化させ始めます。確認されている変化例は以下の通りです。

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ルビーに変化したイロハモミジの葉と、イエローダイヤに変化したイチョウの葉。概ね元の形状を保っている

・ルビー(変化率約18%、最も多い変化例)
・ガーネット(〃約15%)
・琥珀(〃約13%)
・シトリン1(〃約9%)
・イエロートルマリン(〃約8%)
・インペリアルトパーズ2(〃約7%)
・ルベライト3 (〃約7%)
・イエローダイヤ(〃約6%)
・イエローサファイア(〃約6%)
・赤珊瑚(〃約5%)
・オレンジサファイア(〃約5%)
・トリフェーン4 (希少な変化例)
・レッドベリル5 (希少な変化例)
・ファイアオパール6 (希少な変化例)

変化の速度には個体差がありますが、11月初旬~中旬頃までには全ての樹木の葉が変化を終えます。変化した葉は光合成等の本来の機能を失っていますが、樹木本体の生存に支障をきたしている様子はありません。変化は枝との結合部にまでは及んでいないため、風などの要因で自然に"落葉"していきます。11月下旬頃に変化していた葉の全てが一瞬で枯葉になり、SCP-1784-JPは自然の森林と同様の状態に戻ります。

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残留した粉末を集めたもの

SCP-1784-JP内の樹木7を外部に持ち出した場合、先端部分から徐々に気体状に変化しやがて消滅します。密閉した容器に気体を集め凝固させたところ、僅かに赤い粉末状の物質が採取されました。分析の結果、主な成分は水銀、硫黄、[削除済]と判明しています。化学式等の詳細は、別紙SCP-1784-JP化学班報告書を参照して下さい。外部からSCP-1784-JP内に移植した樹木は、異常性の影響を受けません。

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遺跡の様子、損傷が激しい

SCP-1784-JPの中心部には、小規模な遺跡が存在します。調査の結果、建築年代は西暦1300年頃、上流階級の住居跡と考えられています。特に異常性はありませんが、映像ログ-1784-JPの内容からSCP-1784-JPの起源と関わる可能性があるため、引き続き調査中です。構造等の詳細は、別紙SCP-1784-JP歴史班報告書を参照して下さい。

財団に発見されるまで、SCP-1784-JPはパリ第10大学の元教授であるマリー・クレメール女史8によって所有・秘匿されていたと見られています。諜報局日本支局所属のエージェント・戸神(職員コードIE-████████)は留学中に生徒であったことからクレメール女史と親しく、自宅に招かれた際SCP-1784-JPに案内され発見に至りました。以下の報告はその際、エージェント・戸神の隠しカメラから諜報局フランス支局に送信された映像を元に編集されました。

映像ログ-1784-JP: 日付201█/██/█、会話部分はフランス語

<受信開始>

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マリー・クレメール女史、2016年撮影

※クレメール女史がSCP-1784-JP内に立っている。〈14:53:09〉

クレメール女史: 大丈夫よ、危険はないわ。〈14:53:11〉

※カメラがズームしサトウカエデの葉を映し出す。〈14:53:15〉

エージェント・戸神: ルビーなのか? それじゃあ、あっちのイチョウはトパーズか何かか?〈14:53:17〉

※薄い氷が割れるような音、断続的に発生。変化した葉が風で擦れ合う音と、後に判明。〈14:53:24〉

クレメール女史: 赤や黄色の宝石ばかりで、一見すると紅葉と見分けが付かないでしょ? ほら、足元も見てご覧なさい。〈14:53:25〉

※カメラが地面に向く。変化した落ち葉が、一面に折り重なっている。〈14:53:33〉

エージェント・戸神: すごい、一体いくらになるんだろう。〈14:53:36〉

クレメール女史: 売るのは無理よ。外に持ち出すと、こうなってしまうから。〈14:53:42〉

※クレメール女史の持つセイヨウナナカマドの葉が消滅。〈14:53:49〉

エージェント・戸神: い、いや、例えばの話ですよ。この森のことは、昔からご存知なのですね?〈14:53:50〉

クレメール女史: ええ、生まれた時からね。説明するには、もう少し奥に行かなくちゃいけないわ。〈14:53:59〉

エージェント・戸神: お手をどうぞ、教授。〈14:54:08〉

クレメール女史: ありがとう。〈14:54:11〉

[中略]

※エージェント・戸神とクレメール女史が遺跡の前に立っている。〈15:24:41〉

クレメール女史: ここが森の中心よ。〈15:24:41〉

エージェント・戸神: あの遺跡は?〈15:24:45〉

クレメール女史: 私の先祖が住んでいた、屋敷の跡らしいわ。父の話では、この森一帯の領主だったのだそうよ。森がもたらす恵みで栄えたけれど、栄え過ぎて傲慢になった。森を独り占めし、領民を虐げ、教会を蔑ろにした。神様はこれに怒り、先祖に天罰を下した。まあ、よくあるおとぎ話ね。〈15:25:21〉

エージェント・戸神: そのお話、資料は残っているんでしょうか?〈15:25:33〉

クレメール女史: この遺跡以外は、何も。だから、全ては父の作り話かもしない……と言いたいところなんだけど、確かに残っていたの。天罰の跡だけはね。〈15:25:38〉

エージェント・戸神: 天罰の跡?〈15:25:53〉

クレメール女史: 私が子供の頃は、ここは普通の森だった。秋が来ないという点以外はね。〈15:25:55〉

エージェント・戸神: 秋が来ない?〈15:26:02〉

クレメール女史: 外では木々が紅葉しても、この森の木々は青々としたままだったの。林檎も栗も実らないし、トリュフも生えない。そして冬が来ると、木々は1日で落葉してしまうの。神様が先祖に下した天罰とは、収入源である森から秋の恵みを奪うことだった。こんな話、信じられない?〈15:26:04〉

エージェント・戸神: 信じますよ、こんな光景の中でなら。〈15:26:30〉

クレメール女史: [笑って]それもそうね。敬虔で頑迷なクリスチャンだった父は、この森をひどく恥じていた。厳重な鉄条網で囲んで、私に家から離れることを禁じて、あらゆる手段で先祖の罪を隠そうとしたわ。〈15:26:30〉

クレメール女史: パリに憧れていた私は、反発しつつも共感した。この森を見ていると、確かに恥ずかしくなったし、申し訳ない気持ちにもなったわ。この森がある限り、自分はどこへも行けないんだって。あの気持ちこそが、真の天罰だったのかもね。〈15:26:48〉

エージェント・戸神: その森が、どうしてこんな風に?〈15:27:05〉

クレメール女史: 私が14歳になった年の、ちょうど今ぐらいの時期だったかしら。私はある男性を、ここに案内したの。多分、父の知人だったと思うんだけど、それにしても変ね。部外者に教えるのは、タブーのはずなのに。なぜか父は、私たちを止めなかった。まるで、自宅の庭を見せているみたいだったわ。〈15:27:09〉

エージェント・戸神: どんな人物でしたか?〈15:27:36〉

※クレメール女史、エージェント・戸神に写真を手渡す(画像参照)。〈15:27:41〉

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クレメール女史から提供された写真、諜報局データベースに照会したが該当人物なし

クレメール女史: 父は″伯爵″と呼んでいたわ。不思議な人だった。30代ぐらいに見えたけど、老賢者のように物知りだった。エジプトの神話、ヴェルサイユ宮殿の秘め事、モーツァルトの未発表曲、世間知らずな私のために、色々なことを話してくれた。そして、この森に秋が来なくなった、本当の理由も見抜いたの。〈15:27:43〉

エージェント・戸神: 本当の理由?〈15:28:02〉

クレメール女史: 森を一目見るなり、あの人はこう言ったわ。「マドモアゼル、君のご先祖は悪い人じゃない。エリクシール9の錬成に失敗しただけだよ」って。〈15:28:06〉

エージェント・戸神: エ、エリクシールですか。〈15:28:11〉

クレメール女史: それから「何とかしよう」と言って、スーツケースから化学の実験道具みたいな物を取り出してね。フラスコに赤い液体を注いだり、呪文のようなものを唱えたり……そうこうする内に、ぼんって煙がフラスコから吹き出して、辺りを包み込んで。気が付くと、森はこうなっていたの。〈15:28:14〉

クレメール女史: 呆然とする私に、あの人はウインクして言ったわ。「ほら、秋が来たよ」って。〈15:28:30〉

エージェント・戸神: 一体、何者だったんでしょう?〈15:28:46〉

クレメール女史: 詳しく訊く機会はなかったわ。その後、すぐお帰りになってしまって。〈15:28:50〉

エージェント・戸神: この森のこと、他に知っている人は?〈15:28:55〉

クレメール女史: 私だけよ。父にも話していない。父は足を悪くしていてね。ここまでは来られなくなっていたから、亡くなるまで何も知らなかった。教えてあげれば、喜んだかもしれないのにね。これで先祖の罪は消えた、自由になれるって。〈15:28:59〉

エージェント・戸神: その、なぜ黙っていたのですか?〈15:29:21〉

クレメール女史: 多分、独り占めしておきたかったのね。あの秋の日の思い出を。それにしたって、親を欺いてまですることかしら。ごめんなさい、殿方には分かりづらい感情かもね。〈15:29:24〉

エージェント・戸神: それでも、理解の努力はすべきだと思います。女性と対等のパートナーでいたいなら。〈15:29:37〉

クレメール女史: ええ、あなたの恋人には、是非そうしてあげて。それから間もなく父が亡くなり、私は念願だったパリのリセ10に進学、後にナンテール11の教授に就任したという訳よ。ぬけぬけとね。〈15:29:43〉

エージェント・戸神: そして、僕の素晴らしい師になられた。僕はあなたを通して、フランスを知りました。〈15:29:57〉

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ログ中のクレメール女史、エージェント・戸神は「落ち着いた様子だった」とコメントしている

クレメール女史: 優しいのね、本当に。でも、結局、この森に戻ってしまった。せっかく伯爵に解放してもらったのに。天罰が解けた代わりに、別の呪いが掛かってしまったのかしら。〈15:30:08〉

※クレメール女史、遺跡の台座に腰掛ける。〈15:30:17〉

クレメール女史: 戸神君、いえ、ムッシュ・戸神、お願いがあるの。この森を受け継いでくれないかしら。どう扱おうと構わないから。〈15:30:19〉

エージェント・戸神: 喜んで。ですが、1つだけ伺ってもよろしいでしょうか。〈15:30:28〉

クレメール女史: なぜ自分に、でしょう? あなたが、どことなくあの人に似ているから、ということにしておいて。〈15:30:31〉

クレメール女史: 私が春の新芽だった頃、あの人は秋の老木だった。燃え盛る夏の最中にいるあなたを、私は秋に朽ちゆきながら眺めている。つくづく私たちは、同じ季節を生きられない運命なのね。それでもいい。それなら私も、ここで秋になって、宝石になって、誰かの思い出になって。〈15:30:39〉

※クレメール女史、意識が朦朧とし始めている様子。〈15:30:55〉

エージェント・戸神: 教授、大丈夫ですか!?〈15:30:56〉

クレメール女史: ああ伯爵、やっとお会いできた。今年も、秋が。〈15:30:59〉

※クレメール女史、意識不明に陥る。〈15:31:01〉

[後略]


クレメール女史は最寄りの病院に搬送されましたが、その後死亡が確認されました。死因は持病の心臓疾患による急性心不全と診断され、財団医師による再診断でも異常な要因は発見されませんでした。

女史の自宅を捜索したところ、エージェント・戸神にSCP-1784-JPを含む土地を譲渡したい旨を記した書類が発見されました。女史の顧問弁護士に連絡を取ったところ、間違いなく本人が作成したものであると判明しました。女史には親族が存在しなかったため譲渡は問題なく完了し、その後寄付という名目でエージェント・戸神からひまわりクリーンプロジェクト・フランス支部へ権利が移されました。

201█/██/█追記: パリ第10大学に残されたクレメール女史の研究資料から、サンジェルマン伯爵12に関するものが多く発見されています。女史が証言した人物との関係について、諜報局フランス支局と歴史部門が協同で調査中です。

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