クレジット
タイトル: SCP-1789-JP – パリの小道の不思議な事件
著者: ©ykamikura
作成年: 2018
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アイテム番号: SCP-1789-JP
脅威レベル: 黄 ●
オブジェクトクラス: Extranormal Euclid
特別収容プロトコル: 諜報局フランス支局は毎年7月14日、SCP-1789-JP発生条件を満たすパリ市内の街路を監視下に置きます。ミッション指揮官はどの街路でSCP-1789-JPが発生しても、なるべく5分以内に到着できるようにフィールドエージェントを配置して下さい。
SCP-1789-JP担当フィールドエージェントには、フランス国家警察警官の偽装身分が一時的に付与されます。現場に到着した時点でSCP-1789-JPが発生中であれば、検問等の名目で現場を封鎖し、可能であれば情報収集を行います。SCP-1789-JP消失後であれば、民間の目撃者から聴取を行い、その後Aクラス記憶処理を実施します。
SCP-1789-JPの規模が大きく不特定多数の目撃者が存在する場合は、財団フロントメディアが各種カバーストーリーを状況に合わせて適用します。並行して専用WebクローラDomini canisにネットを巡回させ、情報漏洩の恐れがあるメッセージや画像をブロックし、発信者を特定してA~Cクラス記憶処理を実施します。
SCP-1789-JPから民間人の注目を逸らす目的で、フランス観光開発機構の協力の下、毎年7月14日にパレードやコンサート等の観光イベントが企画されています。これらはSCP-1789-JPの発生条件に該当せず、なおかつ人目に付き易い場所で行われます。詳細は別紙SCP-1789-JP隠蔽イベント10ヶ年計画を参照して下さい。
説明: SCP-1789-JPはパリ市内において、毎年7月14日1に発生する異常現象の総称です。1年に1例のみ発生し、発生する現象は毎回異なりますが、以下の共通点が見られます。
1. 道幅の平均が約5m以下の街路上で発生する。
2. 何らかの実体が出現する。
3. 実体は約1~5分で消失し、一切の痕跡を残さない。
4. 出現する実体は街路の名前2と関連が見られる。
財団が確認出来ている限り、SCP-1789-JPの最古の発生は1947年です。当初は個別かつ単発的な現象と考えられており超常現象記録に登録されていましたが、195█年にフランス支部管轄リストの主任分析官であった██████博士により共通点が指摘され、一連の現象はSCP-1789-JPにナンバリングされました。
当初SCP-1789-JPに関する情報は目撃者の証言が主で正確性に欠けていましたが、1970年代から発達したパリ監視カメラ網により何例かの撮影に成功しています。
SCP-1789-JP映像ログ: 監視カメラによる撮影に成功したケースから抜粋
SCP-1789-JP-Case-██
発生年: 1977
発生地点: 13区、ウジェーヌ・アジェ通り(Rue Eugene Atget)
地点概要: コルヴィサール駅近くの坂道。名前の由来は写真家のウジェーヌ・アジェ3から。
発生した現象: 〈11:24〉カメラのフラッシュに似た音と光が、数回発生。
〈11:25〉通行人の周囲にモノクロの写真が多数出現。通行人の証言によると、どの写真も古いパリの街並みを背景に、通行人の亡くなった家族を撮影したものだった。
〈11:26〉写真、急速に風化するようにして消失。
事後処理: 目撃者にAクラス記憶処理を実施。
SCP-1789-JP-Case-██
発生年: 1981
発生地点: 14区、芸術家通り(Rue des Artistes)
地点概要: 高台の住宅街に続く階段だが、便宜上通りと呼ばれている。
発生した現象: 〈15:31〉5人の人型実体が茂みの中から出現。いずれも画材を携帯しており、容貌はそれぞれピカソ、セザンヌ、ゴーギャン、ルオー、マティス4に酷似していた。
〈15:32〉人型実体、壁面に異常な速度で絵を描き始める。
〈15:35〉人型実体、茂みに戻って消失。
〈15:36〉人型実体が描いた絵、絵の具が剥がれ落ちるようにして消失。異常芸術部門の分析によると、どの絵もオリジナルの画家の画風に近かった。
事後処理: 目撃者にAクラス記憶処理を実施。
SCP-1789-JP-Case-██
発生年: 1989
発生地点: 4区、ヴェニス通り(Rue des Venise)
地点概要: 総合文化施設ポンピドゥーセンターの近くにある小さな街路。
発生した現象: 〈12:07〉路面から大量の水が湧き出し、街路全体が冠水した。水は通りの外には一切溢れなかった。
〈12:08〉水の中から浮上するように、ゴンドラ5に乗った船頭の外見をした人型実体が出現。オー・ソレ・ミオ6を歌いながら、街路を遡上し始める。
〈12:10〉水と船頭型の実体、共に路面に染み込むようにして消失。後の調査では、路面は完全に乾いていることが判明、冠水に巻き込まれた通行人の服も同様の状態だった。
事後処理: 目撃者にAクラス記憶処理を実施、及びカバーストーリー「水道管の破裂」を適用。
SCP-1789-JP-Case-██
発生年: 1992
発生地点: 3区、道徳通り(Rue des Vertus)
地点概要: かつては有名な娼婦街だった。
発生した現象: 〈14:37〉マンホールから約50体の人型実体が出現。「ゴミのポイ捨てはやめましょう」「万引きは家族が悲しみます」「恵まれない子供に愛の手を」「中絶反対」「中絶の合法化を」等と書かれたプラカードを掲げていた。
〈14:38〉人型実体群、プラカードに書かれたメッセージを連呼しながら、街路を行進する。目撃者は「内容も発声のタイミングもバラバラで、殆ど聞き取れなかった」と証言している。
〈14:43〉人型実体群、出現したマンホールに駆け戻り、飛び込むようにして消失。後の調査では、マンホールの下は直径60cm程度しかない下水道だったことが判明している。
事後処理: 目撃者にAクラス記憶処理を実施、及びカバーストーリー「人権団体のデモ行進」を適用。
SCP-1789-JP-Case-██
発生年: 2005
発生地点: 16区、ニューヨーク通り(Avenue de New York)
地点概要: 1945年まではトーキョー通り(Rue de Tokyo)という名前だった。
発生した現象: 〈16:37〉通り沿いにある美術館パレ・ド・トーキョーの正面玄関から、日本の江戸時代風の服装7をした人型実体が多数出現。フランス語で会話しながら、街路を歩き始める。
〈16:40〉武士の外見をした実体が、目撃者に無断で写真を撮られたことに憤り、日本刀を鞘から抜く。
〈16:41〉老人の外見をした実体が仲裁を試みるが、武士は聞き入れず目撃者に襲いかかろうとする。
〈16:42〉老人に付き従っていた二人の男性型実体の内一人が、手のひら大の物体を掲げ「礼儀正しくしなさい、この紋章が見えないのですか?」と叫ぶと、武士は動揺した様子で路面に平伏した。
〈16:43〉老人が笑い声を上げると、実体群は大量の桜の花弁に変化し消失。事後調査でパレ・ド・トーキョーの中にいた人々に聴取を行ったが、全員が現象には気付かなかったと証言した。
事後処理: 目撃者にAクラス記憶処理を実施、及びカバーストーリー「ジャポン映画の撮影」を適用。
特記事項: 過去の名称との関連が見られる唯一のケース。本ケースを受け、現象予測の手法が見直された。
SCP-1789-JP-Case-██
発生年: 2013
発生地点: 5区、魚釣りをする猫通り(Rue du Chat qui pêche)
地点概要: パリで最も道幅が狭い街路。名前の由来は「魚釣りをする猫の店」というレストランがあったことから。
発生した現象: 当街路を監視中のエージェント・Neremsaが現象を目撃。以下、エージェント・Neremsaのボディカメラの記録を元に編集。
***
エージェント・Neremsa: Neremsaより調査本部へ。魚釣りをする猫通りに到着。特に何か起きている様子はない。〈21:53:09〉
Grym博士(5区ミッション指揮官): 了解。監視を続けてくれ。〈21:53:19〉
エージェント・Neremsa: [驚く様子] 〈21:53:23〉
エージェント・Neremsaのボディカメラの視点が、約30cm/sの速度で上昇し始める。〈21:53:24〉
Grym博士: どうした?〈21:53:25〉
エージェント・Neremsa: 背中に何か引っ掛かって、釣り上げられて。〈21:53:28〉
エージェント・Neremsa、屋根の高さまで上昇。屋根上に釣竿を持つ猫の外見をした実体を確認。〈21:53:31〉
猫の外見をした実体: おや、すまんすまん。降ろすから、じっとしてな。〈21:53:33〉
エージェント・Neremsa、路面に降下。〈21:53:38〉
エージェント・Neremsa: ビンゴだ。幸い、周囲に民間人はいない。接触許可を。〈21:53:38〉
Grym博士: 許可する。ただし、いつでも逃げられる状態でな。〈21:53:46〉
エージェント・Neremsa: 了解。ここから話しかけてみる。あー、ムッシュ・キジトラ、ここで何をしているんだい?〈21:53:51〉
猫の外見をした実体: もちろん魚釣りさ、ムッシュ・ダークスーツ。普段はシャンゼリゼ通りの方でやってるんだが、ほれ、今日はお祭りだろう? やれパレードだそれ花火だで騒がしくてね。〈21:53:59〉
エージェント・Neremsa: ここでは魚は釣れないのでは?〈21:54:12〉
猫の外見をした実体: あんたは魚を釣るためだけに、糸を垂れるのかい? パリっ子なら、もっと詩人にならなきゃいかんよ。こう、じっと川のせせらぎに耳を澄ませて、川面に過ぎ行く時代の流れを重ねてだな。ボードレールを読んだことは?〈21:54:27〉
エージェント・Neremsa: すまない、あいにく詩には疎くて。ところで、聞きたいことがあるんだが。〈21:54:39〉
猫の外見をした実体: 私で答えられることなら。〈21:54:45〉
エージェント・Neremsa: 君たちは何者なんだ? なぜ、道の名前と関係がある?〈21:54:49〉
猫の外見をした実体: コトダマさ。〈21:54:54〉
エージェント・Neremsa: 日本の思想だったか? 言葉には魔力が宿るという。〈21:54:59〉
猫の外見をした実体: [頷く]パリの通りの名前は、歴史の刻印だ。アンリ4世通り然り、リシュリュー通り然り、ド・ゴール通り然り。いいや、あんな有名どころだけじゃない。こんな細い通りの名前にだって、歴史が込められている。奇跡の1つや2つ、起きても不思議はないと思うがね。〈21:55:03〉
エージェント・Neremsa: [ハンドサインで麻酔銃の使用を打診] 〈21:55:17〉
Grym博士: やめとけ。どうせ、もうすぐ消えてしまうよ。〈21:55:18〉
猫の外見をした実体: おおパリ、汝、大いなる詩の都よ。5000の通りが汝の詩篇。王の行軍が、革命の足音が、カエサル以来の歴史がその名を刻んだ。うん、久々に書けそうだ。インスピレーションをありがとうよ。では。〈21:55:23〉
猫の外見をした実体、隣接する建造物に飛び移り、フレームアウト。〈21:55:35〉エージェント・Neremsa、直ちに付近を捜索するが、実体は再発見できず。
***
事後処理: 民間の目撃者がいなかったため実施せず。
特記事項: 財団職員が現象を直接確認できた初のケース。
ATTENTION : Accréditation Niveau 4-1789-JP Requise