アイテム番号: SCP-1793-JP
オブジェクトクラス: Euclid
特別収容プロトコル: SCP-1793-JP外縁部より1kmの範囲内は現在エリア-81UF特別監視領域と定められています。エリア-81UF内には常時30名規模の機動部隊を最低6部隊駐留させ、SCP-1793-JP領域への侵入ないし脱走に備えてください。
SCP-1793-JP領域内部には、原則として職員の進入は禁じられています。Dクラス職員を用いた探査あるいは実験目的の限定的進入に於いては、研究チーム総員の同意とセキュリティクリアランスレベル3以上の職員3名の承認の下で実行してください。
機動部隊はSCP-1793-JP-1変異後の追跡と確保も兼任するものとしてください。
SCP-1793-JP領域の記述は常に地図等の公である文書からは削除し、軌道上からの撮影、航空撮影等の画像についても通常の情報管理手順に基づいて修正してください。
現在、SCP-1793-JP領域は交通網の遮断と関係者への記憶処理による一般社会からの隔離が実行されています。そのためSCP-1793-JPエリア内部の物流は、財団による補給物資の供給で賄われています。SCP-1793-JP-1の代表者によって11日間毎に補給物資の要請リストが更新されるため、それに基づいた適切な補給が円滑に行われるようにしてください。
SCP-1793-JP-1への直接の連絡は代表者に対してのみ行ってください。
代表者はSCP-1793-JP領域内部に於いても社会的地位が高く、消失のリスクが少ない個体を選出し、財団の存在とSCP-1793-JPの異常性と特別収容プロトコルについて説明を行った上で、収容体制維持のため協力させてください。
SCP-1793-JP-1が代表者を除いて財団の存在を認識していない点に留意し、補給の際は偽装と分散を確実に行ってください。
説明: SCP-1793-JPは元々██県[編集済]市[編集済]町として指定された地域です。1990年代に行われてきた調査の記録に於いて本異常性の存在が確認されていなかったため、本異常性の発現は2000年2月3日から、異常性の最初の発見に至った2000年11月19日の間に起こったものと思われます。
SCP-1793-JP領域内部に72時間連続して人間が居住した場合に、その人間はSCP-1793-JP-1へと変異します。SCP-1793-JP-1は外観上通常の人類と差異はなく、各種検査に於いても構造的な異常は認められませんでした。
しかしながら心理的な共通点としてSCP-1793-JP領域への高い帰属意識が見られ、個体差はあるものの押し並べて高水準の協調性を示します。一方で、直感的な判断を優先する傾向をも持ち合わせており、直情的でもあると診断されています。
Dクラス職員をSCP-1793-JP-1に変異させる実験に於いてもこの傾向は観察されたため、これらの心理的な構造は固有の異常性によるものであると認められています。
SCP-1793-JP-1同士が何らかの理由で、排除の心理が働くほどの深刻な対立関係に陥った場合、もしくは社会的な競争関係に陥った場合、顕著な異常性が発現します。
対立・競争関係に陥ってより72時間以内に、互いのSCP-1793-JPの首筋から背面上部にかけてより、別個体であるニホンオオカミ(学:Canis lupus hodophilax)の実体が出現します。これらのニホンオオカミはSCP-1793-JP-1にのみ知覚されず、接触しても透過します。
対立・競争関係に陥った個体同士から出現したニホンオオカミは迷うことなく互いに接近し、互いが目視範囲に入ると戦闘に及びます。戦闘は一方のニホンオオカミが絶命するまで継続され、敗北した個体は消滅しますが勝利した個体は出現元であるSCP-1793-JP-1のもとへ戻り、同個体の背面から入り込むようにして消失します。
ニホンオオカミが出現している間も、出現元であるSCP-1793-JP-1は問題なく活動していますが、敗北したニホンオオカミが消滅した場合、その出現元であるSCP-1793-JP-1は他の個体によって知覚されなくなり、接触しても透過するようになります。
敗北したニホンオオカミの出現元であるSCP-1793-JP-1個体は、その後72時間かけて少しずつニホンオオカミへと変異します。この変異が完遂されると、SCP-1793-JP-1個体はSCP-1793-JP領域から離脱します。変異後の個体に対する追跡にはこれまで成功しておらず、確保も失敗しています。
SCP-1793-JP-1はこれらの現象について不明瞭にしか認識しておらず、行方不明となった個体についての記憶や記録も、敗北時点で消失します。
補遺: SCP-1793-JP-1へのインタビュー記録
日付: 2000/11/25
対象: SCP-1793-JP-1代表者
インタビュアー: 神山博士
付記: 対象は特別収容プロトコルに於いて定められた代表者であり、SCP-1793-JPの異常性について既に説明されている。本人の希望により精神安定剤は投与されず、収容への協力についても既に承諾していた。
<記録開始>
神山博士: おはようございます██さん(対象の氏名)。昨夜はどうでしたか?
SCP-1793-JP-1: ええ、まあ、そりゃ驚きましたけど、今でも最善だと思っています。
神山博士: それは何よりです。では早速始めたいと思いますが、まず、年齢と職業は?
SCP-1793-JP-1: 47歳で、一応████運送会社の社長をやらせてもらっとります。
神山博士: 出身は? [編集済]町では無いのでしたら、来た経緯もお願いします。
SCP-1793-JP-1: えー、北海道は野幌です。父の勤めていた会社が倒産して、再就職先が██県[編集済]市内だったもんですから、そこで育ちまして、[編集済]町には21歳のころ婿入りして来たんです。
神山博士: いつから、こうした異常が起き始めたのか、心当たりはありますか?
SCP-1793-JP-1: いえ、まあ、今年の9月頃から、なんだか前と違うような気がするな、と思い始めた程度です。皆の性格に、どことなく違和感があるような、と感じまして。
神山博士: 改めて訊ねますが、行方不明になった住民についても全く憶えが無いんですね?
SCP-1793-JP-1: はい、そんな人がいたっていう記憶も無いですし、色んな名簿をあたっても記載は無かったです。
神山博士: 名簿から名前が消えて、余白が詰められる瞬間を撮影した映像は、昨夜お見せしましたよね? 異常性について今はどう思われますか?
SCP-1793-JP-1: まあ、なんというか、恐ろしいような心地もしますが、あの、奇妙なことですが、安堵のようなものの方が今は大きいんですね。自分でもどうしてなのかは分からないのですが。
神山博士: ニホンオオカミについて、何か思い当たることは?
SCP-1793-JP-1: [7秒沈黙][その間考え込む素振りを見せる]
神山博士: ██さん? どうしました?
SCP-1793-JP-1: いや、あの、それなんですがね、なんだか凄くしっくり来るんですよ。まるでずっと長い間そうしてきたような、日常っぽさを感じるんです。
神山博士: どういうことでしょうか?
SCP-1793-JP-1: 前世、てのに近い感覚なんですかね? ずっと前からこうやって社会を運営していたような気がするんですよ。だから安心感があったんですかね。自分たちの行いがすごくしっくりくるんです。
神山博士: その感覚が、ニホンオオカミと関連している、と?
SCP-1793-JP-1: 自分でも奇妙な感覚ですよ。ニホンオオカミって絶滅した種なんですってね。でも、なんだかそうじゃない気がするんです。絶滅したんじゃなくて、ただこのやり方を誰かがやめただけなんだ、と思いましたね。
神山博士: 詳しく説明できますか?
SCP-1793-JP-1: いや、なんだか難しいな。 [頭を搔く] 大昔から、日本じゃずっとこのやり方でやって来てたのに、ある日突然誰かがそれをやめたんですな。色々事情があったんでしょう。それと同時にニホンオオカミも姿を消しちまったってわけで、このやり方があってこそのオオカミだったんですよ。
神山博士: 突然やめた?
SCP-1793-JP-1: はい。私の直感でしかないんで、頼りにゃなりませんが。
神山博士 わかりました。では何故、[編集済]町でまた起こっているのでしょう?
SCP-1793-JP-1: またやってみてもいいかもなあ、なんて、その誰かがふと思ったんでしょう。
神山博士: 誰か、とは誰でしょう?
SCP-1793-JP-1: そんなの知りませんよ、わたしゃ神様じゃないんですから。
<記録終了>
終了報告書: SCP-1793-JPのような、協調性と弱肉強食の理念が同居した社会に於いて人間性がまがりなりにも保持されているという点には、人間の持つ特性とSCP-1793-JP社会の共通項が関係していると考えられます。ニホンオオカミという種との関連性は不明ですが、異常性発現からそれほど時間が経過していないにも関わらず、対象がそれより以前の歴史的な経緯にも言及している点が気になります。
インタビュー記録に基づいた補助調査が、現在専任調査チームの下で進行しています。
補助調査は主にSCP-1793-JPに類する記述の確認と、ニホンオオカミの生態や分布等の再調査という点が、現在時点で重視されています。