
収容時のSCP-1805-JP
アイテム番号: SCP-1805-JP
オブジェクトクラス: Euclid
特別収容プロトコル: SCP-1805-JPは臨時サイト-81-005の居間に設置されます。臨時サイト-81-005は蔵馬研究員の自宅として管理されており、財団の監視下に置かれます。
SCP-1805-JPの異常性発現を観測するため、SCP-1805-JPの引き出しは全て解放した状態が維持されます。異常性の発現が観測された場合は、その日日本国内で納骨が行われた女性の特定を行い、SCP-1805-JP担当職員へ名簿を提出してください。
説明: SCP-1805-JPは複数の特異性を有する百味箪笥です。全部で100本の引き出しが存在しますが、その内11本は開放することができず、SCP-1805-JPの持つ異常な耐久性により内容物を確認できていません。SCP-1805-JPを揺り動かした場合、内部より軽い物体が衝突し合う様な音と評価される物音の発生が確認されています。SCP-1805-JPは"嫁入り道具"として長年に渡り継承されており、SCP-1805-JPの主たる異常性の対象となるのはSCP-1805-JPを継承した女性と、継承する予定である女性に限られます(以下、SCP-1805-JPの主たる異常性の対象となる女性を対象女性と呼称)。この継承は阻止することが可能です。
対象女性が16歳の誕生日を迎えた場合、異性との交際を望む精神影響を経験します。この精神影響は対象女性の意思へ強く影響し、性格や言動を改変します。この精神影響は対象女性が若年で結婚、或いは妊娠することを扶助します。
異性と婚姻関係を結んだ対象女性は性的欲求の異常な高揚を経験します。この精神影響は対象女性が妊娠するまで継続し、結果的に配偶者との実子を妊娠します。この際に対象女性は必ず女性の胎児を妊娠することが判明しており、次世代の対象女性を出産します。
対象女性は次世代の対象女性へSCP-1805-JPを継承させようとする精神影響を経験します。これに付随し、対象女性はSCP-1805-JPを保護するように振舞います。SCP-1805-JPが比較的大型の家財道具であるにも関わらず長年継承が行われている背景にはこの精神影響が強く関係していると思われます。
幼少期の対象女性は、SCP-1805-JP-Aに指定される非実体群の目撃を主張します。非実体群は一部例外を除き対象実子にのみ視認可能であり、いずれも和装の若年女性であると報告されています。この非実体群は対象女性に友好的に接し、対象女性の保護者として振舞います。SCP-1805-JP-Aの視認に関する例外として、対象女性やSCP-1805-JPに対し何らかの危害が加えられる場合、SCP-1805-JP-A群は実体化し、これを阻止します。この状態のSCP-1805-JP-Aは薙刀や長弓を所持し、敵対的かつ暴力的な振る舞いをする他、異常な耐久性を所持しているため、SCP-1805-JP-Aを制圧する試みは成功していません。
対象女性は、SCP-1805-JPを継承し、対象女性として次世代の対象女性を出産するまでの間は重篤な病を患わず、健康を維持し続けます。また、対象女性は端正と評価される容姿である傾向にあります。この要素は対象女性が男性と恋愛関係に至る要素として、SCP-1805-JPの継承を扶助しています。また、財団が確認した限り、対象女性が男性機能の後退した男性や男性不妊症の男性と恋愛関係に至った例は存在しません。これらの現象にSCP-1805-JPが関係していると推測されていますが、確証は得られていません。
対象実子を出産した対象女性が死亡した場合、納骨後の対象女性の遺骨は不明な原理によって消滅します。この消滅と同時に、SCP-1805-JPの引き出しの1つが解放不能になります。遺骨の消滅に関して財団が入手した情報は補遺を参照してください。
補遺.1: 発見
サイト-8181勤務の蔵馬研究員が結婚した際に、配偶者である蔵馬俊子氏がSCP-1805-JPを新居へ持ち込んだことが発見経緯となりました。蔵馬研究員が開放不能の引き出しをバールを用いて開放しようと試みた所、SCP-1805-JP-Aが実体化し、蔵馬研究員を攻撃しました。蔵馬研究員は複数の刺し傷を負ったものの一命をとり止め、財団へ異常性を報告しました。蔵馬俊子氏およびSCP-1805-JPの収容は、SCP-1805-JP-Aにより妨害され困難であったため、福島県の蔵馬研究員の自宅とその敷地を臨時サイトー81-005へと改築することで行われました。
補遺.2: 証言
蔵馬俊子氏の高祖母にあたる三島わか氏は、蔵馬俊子氏を除く対象女性として唯一存命しています。財団は三島わか氏へインタビューを行うことに成功し、SCP-1805-JPとSCP-1805-JP-Aに関する情報を入手しました。ただし、三島わか氏は高齢により認知症を発症しており、得られた証言に誤謬が含まれる可能性があります。以下はインタビュー記録の転写ですが、可読性のため一部単語を高祖母、曾祖母、祖母へ修正しています。
インタビュー記録『三島わか』 #1
2001/7/30
[開始]
エージェント・時任(以下、時任): 三島さん、あのタンスについて知っていることはありませんか?どこから持ち込まれたか、または開かない引き出しには何が入っているかなど、知っていることであればなんでも良いです。
三島氏: あれは私の高祖母が亡くなった時に、高祖母の知り合いの人が曾祖母へ贈ったもの、と曾祖母から聞いています。それから代々長女の嫁入りの際に受け継がれています。中身はわからないですね。
時任: 知り合いの方から贈られたものですか。その知り合いの方がどんな方か聞いていますか?
三島氏: [唸り声]。聞いたのはまだ小さい頃だったからね。山形の遊佐で工務店を開いている方だったはず、たしか木更津工務店だったか、木佐貫工務店だったか……。あっ、如月工務店かも、そうそう如月工務店だわ。わざわざ山形から京都の曾祖母の家に運んでくれたのよ、思い出せて良かったわ。
時任: 如月工務店ですか。しかしあの大きな百味箪笥を山形からわざわざ京都へですか、随分親交があったようですね。
三島氏: 高祖母は京都ではちょっと名前の売れた人だったようですから、知り合いは多かったみたいです。その中でも特に仲の良い方だったようですね。祖母の墓参りの時に聞きました。
時任: 祖母の墓参り?聞いたというのは誰からでしょう?
三島氏: 高祖母本人です。
時任: あの。それはどういう。
三島氏: 高祖母は家の長女が死んだ年に帰ってくるんですよ。納骨した次の日の誰もいないような時間に墓参りだけをしにね。
時任: それは比喩的な表現ですか?それとも――
三島氏: いえ、実際に帰ってくるんです。あの時間に墓参りをする理由は答えてくれなかったけど。
時任 [数秒沈黙]、わかりました。ほかに高祖母様は何か言っていませんでしたか?
三島氏: あとは他愛もない世間話です。娘に彼氏がいるだろうとか、そんな話です。
[終了]
GoI-8114"如月工務店"との関連性が示唆された三島わか氏の高祖母について調査を行ったところ、PoI-11-021"橋詰章子"が該当しました。PoI-11-021はGoI-8110"石榴倶楽部"の重要参考人として財団の所有する情報資料にアーカイブされている故人であり、1881年に死亡が確認されています。PoI-11-021は京都の遊郭経営で財を成した富豪であり、石榴倶楽部発足から1868年まで初代"橋詰"として活動していました。PoI-11-021の経営していた遊郭の一部は如月工務店が建築したものであることが確認されており、三島わか氏の如月工務店に関する供述は信頼できると結論付けられています。PoI-11-021が経営していた遊郭については別途報告を参照してください。
三島わか氏の曾祖母の自宅は現存しており、財団による調査が行われました。その結果、敷地内の蔵よりこの住宅の見取り図が発見され、如月工務店の署名が発見されました。見取り図にはSCP-1805-JPの設置場所が特筆されており、SCP-1805-JPについて言及する一文も発見されています。以下はその転写です。
親愛なる友、章子へ
汝の発註泣く泣く承る 其の一代で築きし全て 百世に渡り守護する穏秘を授く
其の代償、御首にて頂戴仕る
如月
この文書の発見により、PoI-11-021は如月工務店と何らかの契約を交わし、SCP-1805-JPの製造を依頼した可能性が示唆されました。また、実体化したSCP-1805-JP-Aの中に、生前のPoI-11-021に類似した外見的特徴を持つ実体が存在しており、関連性が指摘されています。
補遺.3: インシデント
臨時サイト-81-005で財団監視下に置かれていた蔵馬俊子氏が自殺しました。頸動脈を刃物で切り付けたと思われる失血死であり、財団監視下にあったにも関わらず、どのようにして刃物を持ち込んだかは明らかになっていません。蔵馬俊子氏の死は対象女性の消滅を意味し、対象実子が発生しないことからオブジェクトの異常性の一部が無力化された可能性が存在します。俊子氏は自殺の直前にSCP-1805-JPに関する証言をしており、その中で自身の終了を希望していましたが、財団エージェントにより拒否されていました。以下はその転写です。
証言記録『蔵馬俊子』 #7
2001/8/22
重要度の低い会話のため中略
蔵馬氏: 今の自分の考えていることが、本当に自分のものか分からないんです。私は小さい頃パティシエになりたかったんです。だけど義和さんに出会ってから急におかしくなってしまったようで、それまでは沢山パティシエの勉強をしていたのに突然義和さんのことで頭が一杯になってしまったのです。
時任: 人間の考えなど脳内物質のバランス次第で簡単に変わってしまうものです。あなたぐらいの年代であればさほど不思議な話でもないと思いますよ。
蔵馬氏: 昔ね、祖父から聞いたことがあるんですよ。祖母は昔、陸上の東京オリンピックの代表候補として期待されていた時期があったらしいのです。祖母は顔が凄い可愛かったらしくて、男子から凄いモテたんだけど、陸上一筋な人で男達を相手にしなかったんですって。でもある日、いままで見向きもしなかった祖父に対して仲良く接してきて、そのまま陸上も辞めてしまったんです。
時任: なるほど。俊子さんに起きている気持ちの変化が、祖母君にも起きていたと思う訳ですね。
蔵馬氏: 祖母だけではありません。それを聞いた父も、母が昔、ピアノの一流奏者だった話をし始めて、やっぱり母もピアノを辞めてしまっているんです。それでいろんな親戚に聞いて回ったら曾祖母もそうだったって聞いて。
時任: 確かに気になる一致ですね。しかし――
蔵馬氏: 私にとってパティシエは何にも代えがたい夢だった。きっと祖母の陸上も、母のピアノもそうだったに違いない。それでも私たちは男を選んでしまった。もちろん義和さんを愛している気持ちに偽りはありません。でもこれじゃあ義和さんへの感情だって本当の物か分からないじゃないですか。
時任: 確かに俊子さんがそう予想するのは無理もないですが、まだ確信はできないですね。何か他にも心当たりはないのですか?
蔵馬氏: 心当たりはあの薬箪笥です。私が結婚した時、父が母に"おまえ、散々自分の時は邪魔だから要らないっていった箪笥を、要らないって言う娘に無理矢理渡すのか"って言っていました。きっと自分もこのまま行けば母のように自分の子にあの薬箪笥を押し付けるようになってしまうのです。あんなデカくて邪魔なもの、常識で考えれば必要ないのに……。あの箪笥はきっとそうやって人を操って、今日まで受け継がれてきたものに違いありません。
時任: 確かにあの箪笥には不思議な部分が多くあります。しかしその考え方はちょっと飛躍していませんか?少し落ち着いて考えてみましょう。
蔵馬氏: それだけじゃないんですよ。そうだ、前に私が話した"箪笥の居間に現れるお姉さん達"の話、覚えてますか?
時任: ええ、確か小さい頃にだけ見えたっていう人達ですよね。遊んでもらったり、時には家に押し入った強盗から守ってもらったこともあるとか。
蔵馬氏: あのお姉さん達が"早くいい旦那さんを見つけて、子どもを作りなさい"って口酸っぱく言ってたのを覚えています。この現状はまるであの人たちが望んでいることなんじゃないかって思うんですよ。
時任: うーん。その方々は俊子さん以外の方も見えていたんでしょうか?たとえば三島さんとか。
蔵馬氏: 三島のおばあちゃんも今はああですけど、昔はよくあのお姉さんたちについて話してくれたものです。空襲で燃える家からあのお姉さん達が助けてくれた。とか、家の残骸からあの箪笥だけが焼け残っていた。とか、だからお釈迦様のご加護がある有難い箪笥だ。とかね。だからか分からないですけど、三島のおばあちゃんはあのお姉さん達が"はやく子どもを作れ"って言ってくるのもお釈迦さまからのお告げだと思ってたみたいですね。
時任: その話は初耳ですね。確かに俊子さんの話を聞く限り、俊子さんの言い分はわかるような気がしますね。
蔵馬氏: あの箪笥の思い通りに生きていくなんて嫌、産れや血筋で運命づけられるのも嫌。今こうしている間にも、頭の中は"どうすれば義和さんを喜ばせれるか"ってことで一杯になってくるんです。自分でもどこで知ったか解らないような卑猥なプレイが頭に流れ込んでくる。これがずっと続いたら私の思考はきっと塗り替えられてしまいます。もちろん義和さんを愛している気持ちが偽物なんて思いたくない、でもこんなの悍まし過ぎる。
時任: どうか落ち着いてください。私ごときには俊子さんの苦しみは計り知れないかもしれません。しかし、我々は全力を尽くし俊子さんの治療を行います。どうか希望を捨てないで下さい。
蔵馬氏: 私だけの問題じゃないんです。私がこのままあの箪笥に操られて義和さんの子供を産んだら、きっと子供も私と同じ生き方をあの箪笥に強いられる。自分の子供にこんな思いはさせたくない。私が自由に生きたいと願っているように、子供もきっと自由を願い、叶わない人生を送るハメになるは間違いありません。あの箪笥の思い通りになるぐらいならいっそ死んでしまえば―ー
時任: その思考は理解できます。しかし死を選ぶ理由にはなっていません。 俊子さんは今"自由に生きたい"と言いましたね。貴方の本心は自殺をしたい訳ではないはずです。パティシエという夢を叶えるために生きていく、もしできれば義和さんとの関係を維持して生きていく。それが俊子さんの本心が願う自由ではないですか?で、あれば諦めるべきではないです。
蔵馬氏: そうね。そうかもしれないわね。もうちょっと考えてみるわ。
[終了]
蔵馬俊子氏の遺体は通常の方法で火葬され、福島県の蔵馬家の墓に納骨されました。この墓を監視したところ、三島わか氏の証言通り、PoI-11-021と思われるSCP-1805-JP-Aが出現しました。この実体の確保には成功していません。この出現の直後に、SCP-1805-JPの引き出しの内の1つか閉まり、開放不能になりました。
蔵馬俊子氏の自殺から14日後に三島わか氏が老衰により死亡しました。三島わか氏も通常通り火葬され、京都府の三島家の墓に納骨されました。再びPoI-11-021と思われるSCP-1805-JP-Aが出現すると予想されたため、機動部隊を派遣し、監視を行っていた所、PoI-11-021と思われるSCP-1805-JP-Aを含める9体のSCP-1805-JP-Aが出現し、機動部隊と交戦状態となりました。この交戦で確保に成功した実体は存在しません。PoI-11-021と思われるSCP-1805-JP-Aは交戦に参加せず、墓の中台部分に頭部を挿入する様子が機動部隊隊員により確認されています。交戦後の調査により、三島わか氏の遺骨が消失していることが判明しました。その後行われた調査により、PoI-11-021の長女以降、全ての長女の遺骨が消失していることが判明しました。また、この交戦の直後に、SCP-1805-JPの引き出しの内の1つが閉まり、開放不能になりました。
上記交戦の際に蔵馬俊子氏に外見的特徴が酷似した実体の出現が報告されていますが、詳細な情報の入手には成功していません。
補遺.4: 異常性の再発現
蔵馬俊子氏が自殺したことにより、SCP-1805-JPの対象女性と対象実子が存在しなくなったとして、特別収容プロトコルが改訂され、SCP-1805-JPはAnomalousアイテムとして収容されていました。しかし、2018/5/21にSCP-1805-JPの引き出しの内1つが閉まり、開放不能となりました。SCP-1805-JPの異常性を、従来とは異なる条件下の人物が継承した可能性が発生したため、財団により対象女性の捜索が行われました。
PoI-11-021の血縁者が異常性を継承している可能性が強いとして調査が行われましたが、PoI-11-021には12人の女性の子供が存在し、その全てが1868年の京都府仕法戸籍以前の子供であり、追跡は困難です。SCP-1805-JPの異常性の継承先は現在も判明していません。