クレジット
タイトル: SCP-1807-JP – 月影古譚
著者: ©ykamikura
作成年: 2023
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アイテム番号: SCP-1807-JP
オブジェクトクラス: Safe Keter
特別収容プロトコル: SCP-1807-JPは衛星軌道上サイト-AS3によって監視します。
諜報局学術機関部がアフリカ考古学関連を中心にSCP-1807-JPに関する情報漏洩を警戒します。確認された場合、直ちに情報の改ざん、関係者への記憶処理を実施します。
SCP-1807-JPに対する実験の許可は、サイト-AS3の管理官に一任します。
[オブジェクトクラス変更に伴う追加項目] SCP-1807-JPに対する実験、および人間の接近は禁止されています。
SCP-1807-JP-1の出現を確認した場合、SCP-1807-JP に装着された作業用アームでSCP-1807-JP-1を固定し、地球への落下を防止します。
SCP-1807-JP-1の落下防止に失敗した場合、直ちにO5評議会に管轄が移されます。あらゆる対空兵器によってSCP-1807-JP-1の破壊を試みると同時に、気象衛星のデータを元にSCP-1807-JP-1の落下地点を予測します。人口密集地への落下が予測される場合、カバーストーリー「隕石の落下」を流布し、可能な限り住民を避難させます。
説明: SCP-1807-JPは高度約2,000kmに浮遊する、サイズ約400m2の灰色の網状物体です。常に月と地球の間を遮るような軌道を描きながら地球を周回しており、従って公転周期は月とほぼ等しく約27日7時間になります。現在までに確認されている異常性は以下の通りです。
- 軌道に干渉できない 故に軌道上から引き離して回収することも不可能です。
- 異常な耐久性 分析のためのサンプル入手も成功していませんが、外見的には染色された動物の体毛が原料と推測されています。
- 反ミーム性 事前知識がない人間はSCP-1807-JPを認識できません。
- SCP-1807-JP-1との関連性 詳細は追記#1を参照。
SCP-1807-JPの情報源となったのは、GoI"マーシャル・カーター&ダーク株式会社(MC&D)"がアルジェリア民主人民共和国アルジェ市に所有していた拠点1から押収された営業企画書でした。内容はSCP-1807-JPを用いた「画期的な若返りサービス」に関するものであり、参考資料として以下の文書が添付されていました。解散済GoI"神秘庁アフリカ部局(BAAO)2"の構成員による記録の一部と推測されます。
資料SCP-1807-JP#1(原本はサイト-キビアンの歴史資料室に保管)
1871年09月10日、第4秘術連隊3アルジェ駐屯地にて。
アブデルカーデル4の砦跡の探索時に立ち寄ったベルベル人の集落にて、老いた語り部から特 異 点シンギュラリティ5に繋がる可能性のある伝承を聞いた。
無知な本国の役人どもが耳にしたら「ネズミども6の迷信だ」と一笑に付すであろう。だが、我々BAAOは知っている。人類の揺籃地たるアフリカに、いかに多くの神秘が眠っているかを。記憶が確かな内に記しておきたい。
サハラがまだ緑溢れる楽園だった往古、タッシリ・ナジェール7の麓に、七本の運河が流れ、七つの宮殿が建つ、壮麗な都市国家が存在したと言うのだ。真の国名は忘れられて久しいが、通称タッシリ王国と呼ばれているらしい。
治めていたのは、美しい女王だったという。もっとも、シバの女王のような才媛ではなかったらしいが。富と権力に飽かせてわがまま放題。やれ虹で橋を架けよ、それ雲上に庭園を造れ……挙句の果てには、容色の衰えを恐れて、永遠の若さを求めたそうだ。
女王は密林に棲む蛇を捕らえ、若返りのすべを教えろと迫った。蛇は脱皮する度に若返るという思想は、古代においては珍しくない。しかし、この伝承が独特なのはここからだ。誰もが知るように、人間は蛇のように脱皮は出来ない。だが、若返りは可能だと蛇は言った。蛇たちに脱皮を教えた存在、即ち月の力を利用すれば、と。
満月は徐々に影に覆われ、半月から三日月へとやせ細り、やがて新月となって消えていく。しかし、3日後には必ず、自身を覆っていた影の衣を脱ぎ始め、再びその輝かしい姿を現す。そう、蛇が脱皮して若返るように。その衣をまとえば、人間も若返ることができると、蛇は女王に教えたのだ。いやはや、月と蛇をかように結び付けるとは。古代人の想像力には恐れ入る。
女王は国中の乙女たちの髪を刈らせ、それを材料に巨大な網を編ませた。満月の前夜、網は剛力の戦士の手で投げ放たれた。網は雲を突き抜け、星海にまで達し、月が脱ぎ捨てた衣を見事に絡め取った。女王はすかさず、乙女たちに網に呼び掛けるよう命じた。網はかつての持ち主の呼び掛けに応え、衣と共に地上へ舞い戻った。
こうして、女王は衣を手に入れた。まさしく月影のような、真っ黒な衣を。女王は大いに喜び、早速[以下、破損により内容不明]
研究主任記: SCP-1807-JPがこの伝承中に登場する網だとすれば、現在も空に浮遊している事実とは矛盾する。女王の企みは頓挫していた、SCP-1807-JPは複数制作されていた、SCP-1807-JPは伝承を元に何者かが再現した物──真っ先に思い浮かぶのはMC&Dか──である等、いくつかの理屈は捻り出せるが、そもそもタッシリ王国の実在が確認されていない以上、全ては推測の域を出ない。
追記#1・インシデント1807-JPに関して: 202█/█/██、サイズ約100m2の黒い布状の物体(以下SCP-1807-JP-1)が月の方角からSCP-1807-JPに接近し、絡み付く様子が観測されました。サイト-AS3の探査機がSCP-1807-JP-1の回収に向かいましたが、現場到着前にSCP-1807-JP-1は慣性力によってSCP-1807-JPから剥離し、地球に向かって落下し始めました。
SCP-1807-JP-1の追跡は、落下中にSCP-1807-JP-1がサイクロンに巻き込まれた影響で難航しました。翌日未明、SCPSスワンソンがインド洋を航行中の船に覆い被さっているSCP-1807-JP-1を発見しましたが、夜明けと同時にSCP-1807-JP-1は急速に風化するような過程を経て消滅しました。船内の調査の結果、船はイギリスの船舶会社███████社所有の貨物船██████号と判明しましたが、船員は既に全員が死亡していました。船員の遺体には急激に老化が進行した痕跡が見られ、これが死因と考えられています。
以上のインシデントにはカバーストーリー「海難事故による沈没」を流布し、██████号と乗組員の遺体はインド洋サイト-IO2へ移送しました。同様のインシデントが再発生した場合に備えて、オブジェクトクラスの変更、および特別収容プロトコルの改訂を実施しました。