SCP-1809-JP
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アイテム番号: SCP-1809-JP

オブジェクトクラス: Keter

特別収容プロトコル: SCP-1809-JPはロボットによる遠隔操作を用いてエンバーミング処理を行い、標準遺体用コンテナにて収容されます。SCP-1809-JPから半径5m以内への侵入が発生しないようにしてください。SCP-1809-JPを実験等で利用する場合は、サイト管理官の許可を必要とします。

河津氏が投稿した動画は全てインターネット上から削除され、財団記録部門によって収容資料保管庫に保存されます。

説明: SCP-1809-JPは2018年に死亡した拡散性III型現実改変者である‪河津良一‬氏の射殺体です。現実性拡散作用により、SCP-1809-JPの周囲半径5mに存在する人間の所持品は銃火器に変換されます。河津氏は2018年7月18日、茨城県神栖市の自宅にて射殺されました。現在、SCP-1809-JPは通常の腐敗に晒されています。

河津氏は生前、動画投稿サイトYouTube(以下単にYouTubeと記載)において、「GunSmith207」名義で動画を投稿していたことが判明しています。これらの動画内にはしばしば異常現象が記録されており、河津氏の生前の異常性によるものと考えられています。

補遺-1: 既知の投稿動画

以下は、2014年2月1日から2018年2月4日までにYouTubeへ投稿された動画の書き起こし記録です。なお、財団は以下の記録の全てを2018年7月18日のSCP-1809-JP収容から1時間以内に発見しています。この事実から、生前の河津氏が未知の異常性を有していた、あるいは河津氏の死亡が何らかの異常現象を引き起こした可能性が提言されています。

サイト-811C記録部門

記録媒体: 映像
記録状態: 通常
特殊性質: 問題なし

付記: 確認できる範囲でもっとも最初(2014年2月1日)に投稿された動画。これ以前の記録は削除されている。


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映像2:23のキャプチャ。 

河津氏: えー、今日は自宅を哨戒しようと思います。

[発砲音]

河津氏: えー、我が家のリビングです。懐かしいですね。妻1の写真があります。

[写真立ては弾痕のようなもので破損している。写真を映したあと、河津氏は画面を細かく揺らしながらキッチンへ向かう]

河津氏: キッチンです。特になにもありません。

[キッチンの端には猟銃が立てかけられている]

河津氏: あれですか。最近は、銃にハマっております。

河津氏: 窓の外には松の木があります。

[松の木が揺れる。発砲音]

河津氏: 次は2階へ。

[2階に登っている間、河津氏は何度か咳き込む]

河津氏: これは趣味のサボテンです。触ると痛いですね。

[発砲音]

河津氏: 今日は銃の音がうるさいですね。お前、お前らは……。

[河津氏が蹲る。画面は彼の膝を映し続ける]

不明な人物: 良一。

河津氏: 2階は監視する場所です。スポッターを募集しています。

河津氏: この近くに財団のサイトがあるので、記憶処理を避けるために特殊なカーテンをつけています。明後日、3時から記憶処理粉末の大規模な使用が予定されています。皆さん、できる限り窓を閉めて外の空気を吸わないようにしてください。もし野外で鈍色に光る飛行機を見たら、記憶処理の装置であることを真っ先に疑ってください。財団の記憶処理は、今日思っていることを忘れさせます。薬の飲み忘れ、食事の食べ忘れ、デジャブ、皆さんお気をつけて。財団は、私たちのすぐそばにいます。彼らは人体実験を厭わない悪の秘密結社です。決して表に現れては来ませんが、裏では酷いことを知らず知らずのうちにしています。

サイト-811C記録部門

記録媒体: 映像
記録状態: 通常
特殊性質: 問題なし

付記: 2014/5/18に起きた神栖市での複数回の警察への通報と関連する記録。


[人通りの多い広場で河津氏は立っている。カメラは常に本人が持っており、通行人のうち数名がこちらに向いていることがわかる。しばらくすると、河津氏は話し始める]

河津氏: 財団を、知っていますか。

河津氏: 財団は、この世界を支配している。私が、財団を撃たないといけません。

[画面が移動し、遠方の人物に向けられる]

河津氏: アイツらは⋯⋯。

河津氏: やめろ。

河津氏: 警察だと!?

警察官: 河津さん。近所の方からご連絡がありましてお伺いさせていただきました。

警察官: あ、あの。銃声のようなものが聞こえたというご報告がありまして、何かお心当たりなどはないでしょうか。

河津氏: 待て。それをこちらに向けるな。

警察官: 銃ですか? 市民の皆様にこれを向けることはないのでご安心ください。

河津氏: 違う!その棒状の記憶処理装置だ。知っている、それは人から記憶を奪う。

警察官: [沈黙]これは警棒です。河津さん、落ち着いて。

河津氏: くそっ。110番します。これは財団の陰謀なのです。財団は異常なるもの、それらを管理することを命じられました。あるときから、昔は各々の人々が銃を持っていたのですが、条約によってそれらの団体が統合され、財団のみが正義で異常世界を司る王になったのです。日本政府でさえ、つまり警察でさえ、財団に服従しています。しかし、我々はそれに屈してはいけません。銃とは、もっと自由にならないといけないのです。わかりましたか?

サイト-811C記録部門

記録媒体: 映像
記録状態: 通常
特殊性質: 問題なし

付記: 2014/9/20に起きたつくば市での複数回の警察への通報と関連する記録。


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映像50:51のキャプチャ。 

[フリー素材の音楽が背景音として流れる。数分後、河津氏は画面左から現れて銃を構える]

河津氏: 先日、東京で働いてる息子が私に言ったんです。財団なんて、私を監視する人は存在しないって。でもいますよね?これを見ている方には、わかると思うんですが。見てください。

河津氏: 気づいてくれ。

[河津氏はハンドガンを構える]

河津氏: 私はどこを撃てばいいんだ……。

警備員: 爺さん、ここで撮影するのには許可が必要なんだ。ちょっと事務所の方に来てくれるか。

河津氏: 何だ。お前ら、財団の機動部隊げ-11、公園の管理者だな!?

警備員: 警察呼ぶよ?あのね、公園は皆の場所なんだ。動画撮るのやめて?

河津氏: 誰が決めた?もしかしてそれは財団が決めたルールなんじゃないでしょうか?

警備員: 財団?アンタこれ以上意味不明なこと……。

河津氏: 財団は、確保・収容・保護を守るため私たちに色々なことを強いてきます。「銃を撃つな」「銃を公共の場で見せるな」それは果たして本来の在り方に叶うものなのでしょうか?財団によって歪められた考え方では、決して本当のところには辿り着きません。財団エージェントはこうやって色々なところにやってきて、私たちの活動を邪魔します。しかし、それに屈してはいけません。監視カメラに映らないように行動することが大事です。

サイト-811C記録部門

記録媒体: 映像
記録状態: 通常
特殊性質: 問題なし

付記: 2014/10/12にYouTubeに投稿された動画。23分間無言で山の中(茨城県の山中であると思われる)を歩き続け、その後罠にかかったイノシシを発見する。


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映像 23:32の画面キャプチャ。

河津氏: 今から、コイツを殺す!

[河津氏は猟銃を取り出して装填の準備を行う。音声から画面外で準備が行われている様子が伺える。2分後、画面内に河津氏が再び姿を表す]

河津氏: いいか。若者ども。俺たちは命をいただいているんだぞ。

河津氏: だから殺さないといけない。この猟銃は、お前の……!

[発砲された銃弾は、イノシシの頭部に命中する。イノシシは金切り声を上げ、ともに河津氏も慟哭する]

河津氏: うお、うお、うお。

河津氏: これが、世界です。

河津氏: 弁当の中には財団記憶処理が含まれています。こうして、自然の中の肉を食べないと財団の支配下に置かれてしまうのです。私たちの食べ物には財団がこの世界を支配するための色々なものが混ざっています。記憶処理は、粉末、錠剤、液体、さまざまなタイプがあります。しかし、結局、私のように、自分の猟銃で自然の肉を得ることが大事です。屈しないでください。

サイト-811C記録部門

記録媒体: 映像
記録状態: 通常
特殊性質: 問題なし

付記:「私のアンチについて」という題で2015/2/4に投稿された。


河津氏: これは酷い。

[ブロック塀が落書きされている]

河津氏: これは財団の証拠と言える。

[複数人の男性が携帯電話のカメラを河津氏に向けている。男性の1人が河津氏に話しかける]

男性: 何が財団なんですか。

河津氏: 財団は記録を残す。この家が対象なんですよ、とわかりやすく示すためにこの落書きを残したのだ。

男性: いや、それ朝に子供たちが……[笑い声]

[群衆から笑い声が出る]

河津氏: 私は見た。財団エージェントがお前らに記憶処理をするのを。忘れさせられているだけなのだ。銃を持て!

男性: そういえば、近くにある財団のサイトってどこにあるんですか?昔動画で言ってましたよね。

河津氏: あれだ。

[河津氏は変電所を指差す]

男性: いや、あれはただの変電所じゃないですか?

[群衆から笑い声が出る]

河津氏: 財団は隠れている。変電所に偽装しているのだ。

男性: [笑い声]

[変電所から鈍色の飛行機が飛び立つ。赤色の粉末が散布されて男性たちに降りかかる。河津氏は部屋の中にゆっくりと戻っていき、元の場所を動画に映し続ける。男性たちが次々と昏倒して倒れていく]

河津氏: 起きたら記憶を失っているだろう。

[5分後、男性の1人が目を覚ます]

男性: あ、あの……これは?

河津氏: 特別収容プロトコルだ……。

補遺-2: 団体の反応

SCP-1809-JPを回収した財団は、インターネット上に生前の河津氏に対する言及があることを確認しました。いくつかの言及は要注意団体「懐中銃教会」構成員によるもので、教義の異なる複数の会派が河津氏に注目していたことが明らかになっています。

以下に収集された記録を時系列順に記します。

サイト-811C記録部門

記録媒体: ウェブサイト
記録状態: 通常
特殊性質: 問題なし

付記: 「シューティングゲーム振興教会」のウェブサイトで2018/6/9に更新されたページの内容。確認された中で最も古い、懐中銃教会関連団体による河津氏への言及である。


シューティングゲーム振興教会

2018/6/9

弊団体は、2018年7月18日にGunSmith207こと河津良一氏を殺しにあがることを宣言いたします。他団体様にはご迷惑をおかけいたしますが、是非ともよろしくお願いします。彼は「本物」です。我々偽物の神を愛好する愚人にとっては、及びもつきません。

サイト-811C記録部門

記録媒体: ウェブサイト
記録状態: 通常
特殊性質: 問題なし

付記:2018年6月18日、河津氏の投稿動画「2014年も有難う御座いました。来年も宜しくお願い致します。」に付けられたコメント。


Katarina1821・1年前

我々はみな正しき弾道を逸れゆくように定められた落とし子であるからして、頭蓋からの血による洗礼のみがそれを贖う。
貴方は知っているのか?
三位一体は既に満たされていて、「財団」こそがそうであるのか?
私は貴方を撃つべきか?それとも貴方が?

サイト-811C記録部門

記録媒体: 画像
記録状態: 通常
特殊性質: 問題なし

付記: 画像投稿型SNS「Instagram」への投稿のスクリーンショット。投稿者は懐中銃教会の派閥のひとつである「魔法少女部隊」の人物と考えられる。


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「いいね!」23件

Mizu_214 てか財団ってなに? (どうでもいいけど笑

#懐中銃教会#懐中銃#茨城のガンスミス#財団おじいちゃん#魔法少女#茨城県神栖の社#絶対正義#笑笑#私たちは撃つべきものがわかる

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サイト-811C記録部門

記録媒体: 文章
記録状態: 通常
特殊性質: 問題なし

付記: 匿名ブログサービス「はてな匿名ダイアリー」に投稿された文章。内容から懐中銃教徒によるものと見られるが、投稿者の詳細な情報の特定には失敗している。


2018-6-21

  • 例の老人について、独り言

界隈を騒がしてる例の老人について、感じたことを少し。別になにか主張があるわけでもないし、多くの仲間には余計なお世話だろうからここに書くに留める。

俺たちが、俺たちの世界が何処からやって来たかなんてのは、そして何処へ行き着くかなんてのはどうしようもなく不可知で、でもそれに目を瞑ることが出来なかったから俺は銃を握った。撃鉄の落ちる音だとか、銃口の奥の瞳だとか、そんなのはすべて後付けだ。

聖典に記された標的なんて、俺に見つけられる筈もなかった。それでも、来し方も行く末も見えなくなった暗闇の世界で、せめて俺自身を燃やし続け、盲のままで進み続けることを望んだ。それが俺の信仰だった。

だが、標的は不意に現れた。彼は妄想狂の老人で、しかし彼が織りなす全てが、どうしようもなく彼が本物であることを伝えていた。彼を熱心に否定していたとある友人も、今朝の動画を見てとうとう諦めがついたそうだ。財団のシンボルだというあのマーク、円環を貫いて中心に導かれる3本の弾道。調和した三位一体と、その収束の帰結としての着弾を明瞭に暗示したあれを見れば、銃口の導きを否定できる筈もない。いまやもう、皆が彼に狂っている。

しかし俺たちの中で、本物の標的を、ほんとうに待ち望んでいた者が一体どれだけ居ただろう? それを撃ち抜くことが真実、世界そのものを撃ち抜くことに繋がらざるを得ない、そんな身も蓋もない程の本物を。

教会はもう、これまでの姿ではいられない。いまや、かのジョン・ウィルクス・ブースの如き熱情が、すべての教徒を満たしている。あの老人の妄想は俺には理解できないし、誰が彼を撃つか、あるいは撃たないかすら最早問題じゃない。ただ、どうあっても俺たちはもう目を瞑ることが出来ない。ここが、本物の標的を産み落とす世界だったということに。

サイト-811C記録部門

記録媒体: 文章
記録状態: 通常
特殊性質: 問題なし

付記: 河津氏死亡の2日前である2018年7月18日に、SNS「Twitter」に投稿されたツリー。Sagiri_253はシューティングゲーム振興教会、Katarina1821は魔弾の射手に所属している人物であることがわかっている。


Katarina1821: いい加減にしろ。彼が本物だとしても、三位一体は標的だけでは満たせない。無駄撃ちで彼を無為にしないでくれ。

Sagiri_253: 私たちは本物にならないといけない。じぃ2を倒して先に進む。

Katarina1821: 本物の標的を殺して、それで世界が変わると確信できるのか?リンカーンが本物だったかさえ、我々には分かりやしないのに。

Sagiri_253: いずれわかる。何でお前はそんなに臆病なんだ。

Katarina1821: もし彼が最後の標的であったなら、君の失敗が全てを終わらせることになる。二度と熱を取り戻せない、永遠の落下を続けるハメになるんだぞ。

Sagiri_253: 本物を撃って本物になる。ならないと、いけない。

Katarina1821: 照準を定める前に、まず彼のことをもっとよく知るべきだ。ほんの少し前まで、彼は愛する妻とただ平穏に暮らしていた。彼がああなったのは妻が病に臥せ、生活が崩れ始めてからだ。家事など出来ず、金がないからヘルパーも呼べない。

Sagiri_253: 彼の力が、急ごしらえの紛い物だって言いたいのか?

Katarina1821: 違う。君の言う通り、君と違って、彼は本物だ。しかし彼は同時に、妻に先立たれて生活もままならず、他者との関わりも無く、常に怯えた孤独な老人だということを、君が知るべきなんだ。

Sagiri_253: だが、彼は「その場所」にいるんだぞ。いくらでも、なんでも、自由に手に入れられるはずじゃないか。なぜそうしない?

Katarina1821: 引き金をいつも探している。ただそれだけなんだろうな。

補遺-3: 河津氏の手記

河津氏の自宅からは複数の手記が発見されています。以下は、その抜粋です。

財団は色々なところに潜んでいます。財団レーザーは人の目を焼き、失明させます。失明すれば銃を使えなくなるので、人々はスコープ越しに標的を見るのに失敗します。財団は手が震えるような毒を食べ物に混ぜます。銃がしっかりと持てなくなり、獲物に弾が届かなくなります。

私は茨城県潮来市で生まれました。父は市議会議員でしたが、母は専業主婦でした。最初に就職に失敗しましたが、山田さんに手伝ってもらってコネで近所の公民館の職員にさせてもらえました。あるとき、公民館に男の財団の職員がきました。

財団職員の人は、「あなたはこれから解雇だから手続きをしてください」と言って私を市役所に連れて行きました。市役所では「あなたはどこにも就職できないのでここに行ってください」と言われました。そこでは、箸の袋を作る仕事をやりました。100円をもらって、数時間で解放してもらえました。

財団職員は薄給で私たちを働かせています。

父は昔ながらの寡黙な男でした。仕事で成果を示すことが己れの価値であると信じていたのです。私にもそうあるよう教えましたが、私はそうなることができませんでした。私の大きな恥の1つです。

実家の食卓は無言が支配しており、私はそれがとても嫌でした。父がたまに何かを持ってくるよう母に言います。父の命令で右往左往して動く母は大変そうでした。私は父が母に負担を押し付けているのを知っていましたが、結局、何をすることもできませんでした。

私は父を嫌いだと思っていたのにもかかわらず、父に助けてもらって就職までしてしまったのです。

財団のエージェントはあちこちに潜んでいます。日本政府、交番の駐在員、コープの店員、市役所、学校の教師など本当に色々なところに本当にいます。

エージェントたちは上の人間の命令で簡単に人を殺します。財団の意に沿わないような出来事は財団記憶処理で人々の間でなかったことにします。私も朝食に食べたものを思い出せません。

それはまるで父と子のような関係です。息子が父の言うことに従うように、エージェントたちは上の人間の言うことに従うことしかできない、傀儡なのです。

2010年10月12日
朝: 白飯 梅干し トマトスープ 菜葉の漬物

昼: 白飯 野菜チップス

夜: 白飯 レバニラ 札幌ビール

2010年10月13日
朝: 白飯 梅干し 明太子 レバニラ

昼: 白飯 白湯

夜: ビール

昔から銃が好きだった。今の時代では、戦争映画を見て前線で戦う兵士をかっこいいと言えばただちに不謹慎になってしまうだろう。しかしそれは偽らざる本音だった。私は時々、あの嫌な父の頭をぶっ放すことができたらと空想していた。だが父は病気で死んで私は依るべきところを失った。誰の頭を撃てば上手くいくのかがわからず、架空の敵を作り出した。財団はそのためのものだった。こうしてたまに、正気がやってくる。その度に心底最悪な秘密結社が存在しないことに気づき、憂鬱になる。

胃の中から薬の嫌な臭いがする。正気の間はずっとそうだ。昼寝をすると財団が存在する。どこかに向かって撃って財団に当たらないかな、そう思う。

私が狙われている。私が撃たねばならないのに。私が撃つものはどこにもない。
父が生き返れば、すべて上手くいくのに。

補遺-4: 河津氏の死

サイト-811C記録部門

記録媒体: 映像
記録状態: 異常
特殊性質: 認識災害性

付記: 生配信のアーカイブとして発見された。近隣の警察署はこの動画を認知しており、下記で河津氏と会話を行っていた“魔弾の射手”構成員の「三番目のカタリナ」ことアームズ・バードフィールド、“シューティングゲーム振興教会”構成員の狭霧聡太、“魔法少女部隊”構成員の花柳水を確保した。この事件はいくつかのメディアによって報告されたものの、社会への影響はごくわずかに留まっている。


[河津氏の自宅の映像。河津氏は縁側に座っている。河津氏の脇には薬袋が4つ、ペットボトル入りの緑茶が置かれている。カタリナが塀を越えて家に入ってくると、会話がスタートする]

カタリナ: 初めまして。河津良一、真なる標的を捉えながら、未だそれを解さぬ高潔な異教徒。

河津氏: ……財団か。

カタリナ: 財団じゃあない。でもまあ、似たようなものかもね。僕は、貴方の財団のファンなんだ。

河津氏: 何?

カタリナ: 貴方は不完全な世界に苦しめられている。僕達もまた。しかし貴方の財団、世界のすべてを支配し、世界を正常な道筋に力強く留め置く存在は、きっと僕と貴方の悲劇すら封じ込められる。そんな完全な世界へと変えられる。貴方は、貴方が望んでやまない標的を作り出すことが出来るんだ。

河津氏: ……知っている。

カタリナ: 何だって?それじゃあどうして……

河津氏: なんの意味があるんだ? 俺の望み通り、俺の標的を作って、それを撃つ? そんなこと、俺は望めない。そして、財団はそれを許さない。財団は俺がそうするのを防ぎ、俺を監視し、閉じ込めるんだ。

カタリナ: ああ……、貴方の財団はそれ程までに、貴方という異常を支配しているんだね。うん……だからこそ、それは実現しなければならない。ごめんね、河津さん。残弾も少ない。ここで決めなくちゃ。

[カタリナは懐からS&W M29を取り出す。しかしカタリナが銃を構えるより前に、河津氏の背後、居間の中から青年が現れる。青年は河津氏の猟銃を構えている]

カタリナ: サギリか。本物の銃なんて、初めて持つんじゃないのか? 何しに来たんだ。

サギリ: う、うるさい。お、お前と話して、考えたんだ。 紛い物の僕は、彼をどうすればいいのか、って。じ…おじいさん。僕をコレでう、撃ってください。それが答えなんだ。あなたの手が! 僕を、本物にしてくれるんだ、きっと。

[サギリは河津氏に猟銃を押し付ける。河津氏は困惑しているように見え、反応は鈍い]

カタリナ: サギリ、それは違うよ。そんな風にしたって、お前は彼の標的じゃないだろう。落ち着いて。これからの世界の話をするんだ。

[女性の声]

花柳氏: 待った! 初めまして、魔法少女部隊の花柳水です。カタリナさん、私達を止めといて一人だけ抜け駆けとはズルいですねえ。サギリさん? 悩むのは分かりますが、いちばん大事なことを人任せにしちゃいけませんよ。……それで、河津さん!財団も、お父さまも、どうだっていい筈でしょう? 奥さまとの幸せで、平和だった暮らしを思い出して。貴方はそれを再び手に入れられるんです。病んだ世界に撃ち込む弾丸が、愛でなかったらいったいなんだっていうんでしょう!

カタリナ: 待て、小僧。どいつもこいつも、これはそう簡単な問題じゃないんだ。

花柳氏: 小僧じゃないんだけど。[沈黙] ほら、河津さん、口にこのGLOCK 18C突っ込んで! 自分の引き金は自分で引くんです!

サギリ: お、おじいさん、本物の世界を見せてくれ! それでぼ、僕を……。

[発砲音。河津氏は猟銃を中空に向けており、銃口からは煙が立っている]

河津氏: ……俺は、俺がどこを撃つべきなのかが知りたかった。どうやらお前らはそれを知ってるらしい。なあ、1人ずつ教えてくれ。まずお嬢ちゃん、君は俺にどうして欲しいんだ?

花柳氏: ああ、調子狂うなあ。……私は、貴方が銃を撃つ姿が好きなの。手も体も震えたままなのに、標的を正確に撃ち抜く! それは、私には無理なことだから。

[花柳氏は両手袋を外す。右手の全指及び左手の親指、人差し指、中指が欠損しているのが確認出来る]

花柳氏: 貴方が自分を撃ち抜けば、きっと世界は愛で満ちる。そうに決まってる。だって、貴方は私に出来ないことが出来るんだから。

[河津氏は無言で頷き、視線をサギリの方へ向ける]

サギリ: ぼ、僕は……、自由になりたい。貴方が僕をう、撃ち抜けば、きっと僕の、僕は解放されて自由になる。

河津氏: そうか。

[河津氏は視線をカタリナへ向ける]

カタリナ: 僕の祖国は銃社会だ。それはひとつの自由だが……多くの悲劇を産んだ。僕の妹は銃に殺された。僕が思うに、世界は、ヒトは過ぎた力を持つべきじゃない。監視し、管理し、守護する者が必要だ。貴方の財団が、そうなんだ。……僕が貴方を撃ち抜く。貴方は財団から解き放たれる。

河津氏: [長い沈黙] 分かった。

[河津氏は立ち上がり、カメラを持ち上げる。映像が途切れ、以降ノイズ混じりの音声のみが記録される]

河津氏: 離れて [ノイズ] 合わさる。財団が [ノイズ] いる。

[発砲音]

カタリナ: 大事なのは [ノイズ] 意志だ。財団は [ノイズ]

花柳氏: どうしても財団 [ノイズ] ても、世界は愛が [ノイズ] ないの?

サギリ: 解放を [ノイズ] んだ! 支配され [ノイズ] 許せない。

河津氏: 照準越しにこちらを見つめています。中心にて合一し、囲い込みます。

[発砲音]

河津氏: 財団が世界を [ノイズ]

[発砲音]

[映像が復旧する。カメラは地面に倒れ、同じく地面に伏せている河津氏の上半身を至近距離で映している。河津氏の頭部から血液とともに財団のサイトと思わしき物体が拡大しながら現れ広がっていく]


補足: 記録当時、偶然にも河津氏宅の隣家に居住していたエージェント・苅田は河津氏宅の庭におけるこの騒ぎに気付き、所持していた拳銃により河津氏を狙撃・殺害しました。エージェント・苅田はこの行動の理由を説明できませんでした。

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