アイテム番号: SCP-1827-JP
オブジェクトクラス: Eparch1
特別収容プロトコル: SCP-1827-JPは財団標準規格のUSBフラッシュメモリに記録した状態で低脅威度物品ロッカーに収容されます。小田北中学校の監視については、特に問題がなければ2024年内に打ち切られる予定です。
説明: SCP-1827-JPは長野県松本市に所在する私立小田北中学校の女子生徒であった、夜野 灯里 (享年14)の出棺時に撮影された映像です。当時夜野氏の葬儀を執り行っていた母親の灯音氏やその他の関係者はSCP-1827-JPのエピソード記憶を保持しておらず、後にセレモニースタッフが現場で拾得したペン型カメラの解析によって初めて異常性が発覚しました。
以下は、ペン型カメラを通して録画されていた映像の抜粋です。当該記録には書き切り型媒体が使用されており、第三者による映像の意図的な加工や改変の可能性は排除されています。
映像記録 - 1827-JP
<抜粋開始>
葬儀会館にて、夜野氏の棺を囲むように灯音氏と何人かのクラスメートと思われる学生服姿の人物が映し出されている。各々が別れ花2の他に、副葬品と思しき物品を携えている。映像のアングルから、撮影者は胸元のポケットにペン型カメラを忍ばせていたと推定される。
灯音氏: タロウ君。今日は灯里の為にわざわざ遠くから来てくれて、本当にありがとう。タロウ君は誰かが辛い思いをしている時、何も言わずに優しく寄り添ってくれる子だって……娘がよく話してたわ。
“タロウ”と呼ばれた黒髪の青年は表情を崩さないまま、別れ花と共に黒のローブを棺に収める。
灯音氏: アヤノちゃんも、ありがとうね。灯里と初めてお友達になってくれた子でしょ? あの子ね。昔から朝が苦手で、寮暮らしをするのは不安だったんだけど。毎朝大きな声で起こしてくれる友達が出来たって、とっても喜んでた。
“アヤノ”と呼ばれた赤髪の少女は静かに涙を流しながら、別れ花と共に黒の三角帽子を棺に収める。
灯音氏: エルちゃん、灯里の友達に「自分よりも寂しがりな女の子が居る」って話は前から聞いていたんだけど……あなたのことだったのね。でもどうか、娘のことであんまり思い詰めないでね。今はもう、あなただって1人じゃないんだから。
“エル”と呼ばれた白髪の少女は終始俯きながら、別れ花と共にハリエニシダ (Ulex europaeus) の長箒を棺に収める。
灯音氏: こんな形で旅立ってしまったけれど……あなた達が傍に居てくれたから、娘は最期まで幸せだったと思います。本当に、ありがとうございました。
灯音氏は両手で顔を覆い、暫く慟哭している。撮影者はその様子を一瞥しながら、表紙に六芒星のデザインが成された革製の書物を懐から取り出して、夜野氏の棺に収めようとする。しかし、付近のセレモニースタッフにそれを制止される。
スタッフ: 申し訳ありません。故人様の副葬品に関して定められた規定では、厚みのある書籍は燃え残りの可能性があるので、そのまま棺に収めることは出来ないんです。
撮影者: そんな、どうしても駄目ですか? この本は灯里さんが生前とても大事にしていたものなので、彼女と一緒に弔って欲しかったのですが。
スタッフ: そうですね。宜しければ、そちらの本から何枚かページを切り取って収めることは可能です。
撮影者: [沈黙] 分かりました。
撮影者は書物を開き、適当なページを次々と破り取っていく。その途中、呪文のような文言が書かれたページに差し当たって、撮影者の手が止まる。映像では、ローマ字で “グリューナ・アルバ・トラステッタ”と書かれているのが読み取れる。撮影者はこの呪文を訝しげに唱えた後、同様に破り取る。
灯音氏: [鼻を啜る音] あなた達は娘の分まで、残りの学校生活を楽しく過ごして下さいね。あの子もきっと、天国でそれを望んでいるだろうから。
“アヤノ”: ああ……ちょっとそれは無理かも。マジでアイツと同じ学校にはもう住みたくないし、向こうで灯里に会わす顔も無くなっちゃうし。
“エル”: うん、私も。
灯音氏: え……?
“タロウ”は灯音氏に微笑み掛けている。
“タロウ”: 僕ら、何度も話し合って決めたんです。僕らにとって、灯里の居ない学び舎で過ごす日々に少しの価値もありません。だからこそ、僕らの卒業は今日なんじゃないかって。[沈黙] そして……先生、それはアンタにとっても同じでしょう?
“タロウ”は撮影者を睨み付けている。
撮影者: は? あ、いや……済まない。私は君達のことを全く知らないんだ。ここいらで見掛けない顔だが、ウチの学校の生徒じゃないよな?
“アヤノ”: [舌打ち] 先生はあたしを知らないかもしれないけど、あたしの方は知ってるよ。灯里とあたしが遊んでる時、いつも物陰から気持ちの悪い顔でこっちを見つめてた!
撮影者: いや、それは何の話だ。 [咳払い] 本当に訳が分からない、葬儀の場で可笑しな言い掛かりを付けるのは止めなさい。
“エル”: 私も……何度も見たから、忘れない。
“エル”は震えながら撮影者を指差す、そのブレザーの袖から覗く肌は白い体毛に覆われている。撮影者はそれに気付き、小さく声を上げる。勢い余って振り向くと、“アヤノ”の両手も白い羽毛をまとう鳥類の翼に置換されている。彼は後退りするが、背面で何者かに衝突して映像が大きく揺れる。
“タロウ”: 先生、今までお世話になりました。僕達、今日で卒業します。
映像の“タロウ”には黒色の体毛があり、顔面はネコ科 (Felidae) の特徴と合致する耳介と鼻口部に変化している。撮影者は恐慌状態となり、葬儀場から退出しようと駆け出していく。その振動でペン型カメラが胸元から落下し床に落ちた為、その場に居合わせた人物の足元のみを映し出す。辺りに白い羽毛が舞っている。
“タロウ”: [不明な動物の鳴き声] グリューナ・アルバ・トラステッタ。
“アヤノ”: [不明な動物の唸り声] グリューナ・アルバ・トラステッタ。
“エル”: [不明な動物の吠え声] グリューナ・アルバ・トラステッタ。
撮影者: [不明な動物の咀嚼音] グリュ……。
灯音氏: ごめんねぇ、灯里……ずっと1人で苦しんでいたのに、全然気付いてあげられなくて。何も知らなかったお母さんを許してね、許して。
“タロウ”: 灯里、さよなら。
[撮影者の叫び声]
<抜粋終了>
補遺: 回収されたペン型カメラからはSCP-1827-JP以外の映像データも複数発見されています。その内容に特筆すべき異常は見付からなかったものの、夜野氏がアジア系男性に性的暴行を受ける様子や、同男性に頸部を絞められて絶命するまでの姿が収められていました。倫理委員会の差し止めによって、当該記録の転写は行われません。
その後、ペン型カメラに残されていた指紋や映像内で確認できる身体的特徴から、件のアジア系男性は小田北中学校で国語教師を勤める吉原 亮太 (32歳)と特定されました。吉原氏は過去に担任教師として、夜野氏の在籍するクラスを受け持っていました。
以上の調査を受け、吉原氏の住居を対象とする家宅捜索を行った結果、夜野氏を盗撮したものと思われる写真や動画が大量に発見されました。これらの押収された証拠品は、吉原氏が夜野氏に対して歪んだ恋愛感情を抱いていたことを示唆するものです。
捜査は継続中ですが、吉原氏が夜野氏の葬儀に出席した後の足取りは依然として掴めていません。長野県警は財団との重犯罪者引き渡し協力協定に基づき、失踪中の吉原氏を逮捕・監禁及び強制性行と殺人の容疑者として全国に指名手配しています。