アイテム番号: SCP-1829-JP
オブジェクトクラス: Safe
特別収容プロトコル: SCP-1829-JPは施錠できる金属製の箱に入れて保存してください。SCP-1829-JPの実験を行う際は特殊生物災害用全身防護服を着用してください。SCP-1829-JP-1であることが確認された人物は実験対象を除き即時に終了されます。終了時には800℃以上で焼却してください。
20██/██/██追記: 後述事案時に出現した実体が確認された場合、担当研究者へ即時の連絡を行い、収容を行ってください。
説明: SCP-1829-JPは調理済みのハンバーグステーキ群です。1個につき100gあり、数量は現在時点で750個です。全個体が不明な原理での再生能力を示しており腐敗はしません。その全てが、ある特定個人のヒト(Homo sapiens)に由来する筋肉組織・脂肪・骨組織・髪・爪・主要臓器の一部・血管から構成されています。
SCP-1829-JPは屈伸、跳躍を主とした運動能力を示します。また、周囲に存在する人物に対し非常に反抗的な態度を示し、脳組織や発声器官が存在しないにも関わらず日本語を使用することが可能ですが、常に不明瞭な言語で叫んでいる状態であり、意思疎通は困難です。
また、近くに人間がいると全ての個体が跳躍し人間に接触をはかります。その際、接触した人間の肉体に不明なプロセスで同化しながら人体内部に侵入します。接触された人間(以下SCP-1829-JP-1)は24時間以内に筋肉組織・脂肪・骨組織・主要臓器の一部・血管をSCP-1829-JPに置換され死亡します。
SCP-1829-JP-1が死亡した場合、直後に再び生体反応を示します。SCP-1829-JP-1は高次脳機能を欠いていると推測され、生存した人物に遭遇するまで彷徨し、生存した人物を発見次第、接触を試みます。この際、新たに接触された人間は、上述と同様のプロセスを経て死亡し、死亡したSCP-1829-JP-1と同様の性質を持ちます。
また、SCP-1829-JPを積極的に摂食しようとした場合、オブジェクトはそれまでの運動能力がなくなり一般的なハンバーグステーキと同様の状態に置かれます。その状態で摂食すると、対象は特定のプロセスを経てからSCP-1829-JP-1に変化します。プロセスの初期段階として、対象はオブジェクトに脳組織の一部を破壊されます。その破壊によって対象の精神は児童期1にあたる年齢にまで退行すると推測されます。この影響によりオブジェクトへの警戒心は著しく減少し、オブジェクトを積極的に摂食しようとします。2加えて、満腹に対する反応が欠如し、一般的な人間の許容量を遥かに超える量の摂食が可能となっていることが明らかになっています。詳細なプロセスは下記の段階表を参照してください。
ステージ | 備考 |
---|---|
1 | 上記の初期段階に当たります。この段階で摂食を中断させると、23時間後にSCP-1829-JP-1に変化します |
2 | ステージ1で摂食を継続した場合に発生するプロセスです。対象はSCP-1829-JP-1に変化し、顔面の一部が身体に複数発生します。摂食を続けた場合、ステージ3に移行します |
3 | 対象の身体が異常に膨張します。その膨張した部分には複数の人体の部位が発生します。摂食を続けた場合、ステージ4に移行します |
4 | 身体の膨張は終了し縮小が始まります。縮小終了に伴い、対象は行方不明の幕戸██氏に酷似した姿になります。その姿を保持した状態で対象が摂食した個数のみならず、それまで消費されたSCP-1829-JPを吐き出して死亡します。 |
SCP-1829-JPは20██/██/██、東京都██市の個人経営レストランにて「ハンバーグが飛び跳ねて人を襲っている」という通報を受け、警察に扮したエージェントによりオブジェクトの回収が行われました。その後、影響下におかれていた人物の終了処分、及び店内にいた影響下にない人物へ記憶処理を施し、カバーストーリー「ガス爆発事故」が流布されました。
この事案時、店内の人間の95%がオブジェクトの影響下にありました。後続調査においてこのレストランで過去20██/██/██に調理スタッフであった幕戸██氏が行方不明になっていることが確認されました。また、調査によりオブジェクト内に含まれる遺伝子情報は行方不明である同氏と一致している事が確認されています。幕戸██氏はGoI-7834"闇夜教団"3と関係があるとされ、財団による追跡調査が行われていました。
補遺1: 以下のインタビューログは段階表の作成にあたり、ステージ2とステージ4に達した対象にインタビューを行ったものです。
インタビュー記録1829-JP-1
対象: D-168239
インタビュアー: 茂須博士
付記: このインタビューはステージ2に達したD-168239に対して行われました。複数の口腔部が存在しているため、個別ではなく全てD-168239の発言としています。インタビュアーの安全を考慮し、別室でマイクを使用しインタビューを行いました。
<録音開始>
茂須博士: D-168239、今の状態について詳しくお聞きしたいのですが
D-168239: ハンバーグを食わせろ!
茂須博士: D-168239。私は今の状態について聞いています
D-168239: みんなと混ざらないといけないんだ!
茂須博士: みんなとは?
D-168239: 今まで混ざり合った奴らさ
茂須博士: …なるほど
D-168239: 俺にはまだ、俺の部分が多いんだ。このままじゃ、中途半端だ…
茂須博士: 続けてください
D-168239: あのまま食べ続けていたら、俺は俺じゃなくなる。きっと、他の誰かと同じようにハンバーグになっていたと思うんだ
茂須博士: どういうことですか?
D-168239: 中からハンバーグと混ざり合って、全部わからなくなるんだ
茂須博士: それは、SCP-1829-JPに内側から食われるという解釈でいいのですか?
D-168239: あぁ。そうだよ。いや、違う。中で混ざり合うんだ。どろどろのスープみたいに
茂須博士: 混ざると分からなくなる、というのはどういうことでしょうか?
D-168239: 体だけじゃない、心とかそういうもんも混ざり合うんだ。やったことのない料理の思い出とか、やったことのない悪い事の思い出とか、知らない家族の晩御飯の思い出とかもある
茂須博士: D-168239、としての記憶以外にですか?
D-168239: そうなんだよ……。今はまだ少ししかないけど、帰りたいと思えてしまうんだ
茂須博士: D-168239?
D-168239: まだマトモだったころにさ。そうだ、家族みんなが笑っていたあの夜に。みんなが人間に戻りたいって、泣いてるんだよ。おかしいよな、もう自分がだれか分からないのに
茂須博士: 分かりました、ありがとうございます。これでインタビューを終了します
<録音終了>
終了報告書: インタビュー後、D-168239は終了処分されました。
インタビュー記録1829-JP-2
対象: D-153246
インタビュアー: 茂須博士
付記: このインタビューはステージ4に達したD-153246に対して行われました。インタビュアーの安全を考慮し、別室でマイクを使用しインタビューを行っています。
<録音開始>
D-153246: 先生、怖いよう
茂須博士: D-153246、こちらはまだ発言を許可していません
D-153246: なんかね、おかしいの。どんどん僕が混ざって、無くなるよう
茂須博士: 意思疎通、できるようですね。では、D-153246。今の状態について詳しくお聞きします
D-153246: 怖いお兄ちゃんとみんな、どんどん混ざっていくの! 早く破れって
茂須博士: 何を破れと言っているのか、わかりますか?
D-153246: 殻だって。
茂須博士: はい?
D-153246: 人の体を殻にして、空を飛びたいんだって。夜の空を、きっと思い出せるだろう? って。中が混ざったら、みんなと一緒にお外に出るんだって。怖いお兄ちゃんが言ってるの
茂須博士: 空を飛ぶとは?
D-153246: 怖いお兄ちゃんがそう言ってるの
茂須博士: そのお兄ちゃんは誰ですか?
D-153246: わからない
茂須博士: どういうことですか?
D-153246: 怖いお兄ちゃんの願いは夜の空を飛ぶことなんだって。それを叶えるのは、僕たちの総意だよ
茂須博士: 僕たちというのは?
D-153246: みんなだよ。僕たちは混ざり合って、もうわからないんだよ。でも、怖いお兄ちゃんのために頑張らなきゃいけない。噛まれると痛いし、焼かれると痛いよ。どんどん混ざっていくの。僕がなくなるのが怖いの。でも飛べるじゃないか、あのずっと続く夜の中を。混ざり合って、ハンバーグになって、それは殻
茂須博士: D-153246、どういうことですか?
D-153246: 僕はそんな名前じゃないよう。僕は…██4だよう。僕たちはハンバーグだよ。いやだよう、僕は██だよう。違うよ、僕たちはハンバーグだよ。違うってば、僕は…
茂須博士: D-153246?
D-153246: そうだね! 殻は空、僕たちは夜の一族だ! [SCP-1829-JPを排出し始める]
<録音終了>
終了報告書: このインタビューの最中、D-153246は口からSCP-1829-JPを大量に排出し生命活動を停止しました。生命活動を停止する前、対象は「また飛べなかった」と発言していたことが確認されています。
補遺2: 20██/██/██、SCP-1829-JP実験においてD-178240がステージ4へ移行、幕戸██氏と同一の容姿になった後、生命活動を停止しない事例が発生しました。以下はその際撮影された映像記録です。
映像記録1829-JP
«再生開始»
00:00: ステージ4における縮小が終了。幕戸██氏に酷似した実体へ変化。これまでに見られた生命活動の停止は確認されず、担当研究者である茂須博士に連絡が送られる。この際、D-178240は笑みを浮かべ、何らかの言葉を呟いていることが確認される。後の解析により以下が確認されています
"やっと混ざり切った。僕が初めで僕たちは1つだ、さあ、夜へ、夜へ、永遠の夜へ飛び立つ時だ。星月宮の導きだ。僕はきっと人々を救えるんだ"
00:09: D-178240の全身が細かく蠕動し、不明な破裂音が発生する
00:10: D-178240が正中線を中心に断裂、死亡したものと推測される。同時にD-178240と同サイズのモンフェリエ型霊素生命体が出現。霊素生命体は全長約170cm程であり、鱗翅目(Lepidoptera)の特徴を備えていることが確認される
00:11: 霊素生命体が収容室を透過、収容サイト外へ脱出。以降は収容室内外の映像を使用したものである
00:16: サイト外の霊素視認機能を持つカメラによる撮影。都市部から逃走するように飛翔することが確認される。街灯を避ける等の要素から負の走光性を持つと推測される
00:25: 山間部に設置された民間の撮影機器によるもの。不鮮明な状態ではあるが上空へ飛翔する霊素生命体が確認される。以降、周囲の撮影機器では観測されない
«再生終了»
この事案を受け、逃走した霊素生命体は現在も調査・追跡が行われています。現在確認された目撃事案には日本国外での例もあり、各国財団施設の協力による収容体勢の再見直しが検討されています。逃走以後の目撃事案が全て夜間におけるものであることは留意してください。
上記事案以降、ステージ4に移行した被験者の変化する容姿及びSCP-1829-JPの遺伝子情報が幕戸 ██氏ではなく、新谷 ██氏5に変化していることが確認されています。インタビューを行ったところ、上記のインタビューと同様の回答のみが得られ、新たな事実は確認できません。