財団記録・情報保安管理局より通達
以下のファイルは、2008/12/23に発生した不明な要因によって現在のリビジョンに更新されています。当ファイルの内容には必要な情報の欠落や、曖昧で不適切な表現の使用が多く見られます。
過去のリビジョンへの差戻しが技術的に不可能であり、更新された文章からも情報災害等の脅威は検出されていない為、SCP-1839-JP研究班が何らかの解決策を考案するまで当ファイルの閲覧が暫定的に許可されています。
— RAISA管理官、マリア・ジョーンズ
アイテム番号: SCP-1839-JP
オブジェクトクラス: Euclid
特別収容プロトコル: SCP-1839-JPはクラス3の防霊収容庫に保管されます。選任されたDクラス職員1名が週に1度、収容庫内部に入室して各種設備のメンテナンスを実行します。SCP-1839-JP-1を知覚可能な財団職員1名が、収容庫に隣接する詰所内のモニターを利用した監視業務に割り当てられます。
説明: SCP-1839-JPは宮城県栗原市に所在する広瀬川高校2年1組の教室に配置されていた勉強机一式です。SCP-1839-JPは同教室内に存在する他の勉強机と同一の組成を持ち、後述する異常性の他に特筆すべき点は見当たりません。
SCP-1839-JPの机上には、筒型をした陶器の花瓶が置かれています。花瓶は不明な作用によって机上の接触面に固定されており、SCP-1839-JPから他の場所へ移動させることは不可能です。花瓶に物体を挿入する試みは、花瓶の口を覆っている不可視の反発力に阻まれる結果に終わります。
初期収容時、花瓶には4本の白いイエギク(Chrysanthemum × morifolium Ramat)が挿入されていました。これらはSCP-1839-JPの収容後に行われた検証実験によって予期せず消費された為、現在の花瓶は何も挿入されていない1輪だけが挿入された状態になっています。
イエギク自体に独立した異常性は存在せず、花瓶から容易に取り除くことが可能です。このようにして取り除かれたイエギクは人為的な延命の試みに関わらず、その全てが数十分以内に枯死しました。再びイエギクを花瓶に戻そうとする行為は、前述した不可視の反発力が働く為に1度も成功していません。
SCP-1839-JPを視認した特定の人物は、机上の花瓶を両手に抱えるような姿勢で座っている、10代後半のモンゴロイド系女性の姿を取った実体の存在を報告します(以下、この実体をSCP-1839-JP-1と表記)。財団内外の目撃者から得られた証言内容は、SCP-1839-JP-1が限定的な反ミーム特性を有するタイプ4Gの幻像実体である可能性を示唆しています。しかし、SCP-1839-JP-1を知覚できないDクラス職員に記憶補強薬を投与して行われた実験では、研究班の予想に反して期待される成果は得られませんでした。
SCP-1839-JP-1は有意な生理的反応を示しておらず、こちらからの問い掛けに対しても一切の応答はありません。SCP-1839-JP-1に対して物理的に接触する試みは、当該実体の"あらゆる物体を透過する"特異性により失敗しています。非物質変異無効装置(nPDN)はSCP-1839-JP-1の収容施行に利用される予定でしたが、この特異性によって殆ど効果が見込めないものと判断されました。これまでの観察ではSCP-1839-JP-1に収容違反の兆候が見られないことから、現行の収容施行は既存の防霊収容庫への厳重保管にのみ留められています。
現時点で、SCP-1839-JP-1を知覚可能な人物に共通点は見付かっていません。しかしながら、これらの人物は財団が把握する限りに於いて、その多くが内向的な性格を持ち、周囲との人間関係に大きな悩みを抱えている傾向が見られます。
補遺1: 広瀬川高校2年1組に在籍する生徒及び学校職員へのインタビュー記録 日付2008/7/24
以下は、SCP-1839-JPの起源を調査する目的で広瀬川高校2年1組の生徒全員を対象に行われたインタビューの抜粋です。ここには記載されていない、他の生徒に対するインタビュー記録の参照を希望する場合は資料SCP-1839-JP.12 広瀬川高校の調査結果一覧を閲覧してください。
- 対象: 小田切 慎哉(当時17歳 男性 バレー部所属)
あの机のことですか。ぶっちゃけ気味が悪いっすよね。実はアレ、僕らが1年生の時から教室に置かれていたんです。
といっても、入学初日からあんなのが置かれてた訳じゃありませんよ? 確か僕の記憶では…夏休みが明けて少し経った頃だと思います。
その日は偶然、僕が一番乗りで教室に着いたんですよ。で、それから入ってすぐに、窓際の方に机が1つ増えていることに気が付いたんですね。「お、遂にこのクラスにも転校生がやって来たか!?」 なんて、朝っぱらからテンション上がりました。結局自分の早とちりで、ぬか喜びでしたけど。
ああ、花瓶もちゃんとありましたよ。はい、そうっすね。その時はまだ、花瓶の中に花なんて1つもありませんでしたね。花自体はそれから1週間後くらいに見るようになったかなぁ。
そういや今まで、一体誰が花を挿していたのか気にしたこと無かったかもです。まぁ、今更それがどうしたって話なんで、どうでもいいんですけどね。
ともかく、「なにあれ」「気持ち悪!」「お前がやったんだろ!」…そんな風に、僕の後から教室に入って来た奴らが机を見るなり興奮して、ある事ない事言いながら盛り上がっていました。
それで少し変だったのは、あそこに居た奴らが全員で馬鹿みたいに大騒ぎしてた割には、誰もその花瓶に触ろうともしなかった事ですかね。
あー…でも確かに、下手な事して花瓶を壊しちゃったら1発で呪われそうだし、ああいうのに触んないのは割と普通かもですね。でも皆して、あの机の周りをぐるっと囲んで、あーでもないこーでもないとただ言い合うだけなんですよ。
はい、大体10分ぐらいっすかね。それで揃いも揃って、花瓶をチラチラ横目に覗きながら…ですからね。 端から見たら、寄って集って誰かさんに延々悪口を浴びせているようにしか見えないという。その場の妙なハイテンションと、目の前に広がる絵面が合っていないのも僕が不気味に感じたポイントでした。
そうです、そうです。わざとかって言うくらい1人も花瓶に目を合わせようとしないんです。…かくいう僕もその1人だった訳なんですが、はい。すみません、正直自分でも何でそうしたのか理由は思い出せません。
それにあの机、もうここには…ありませんしね。
- 対象: 網田 彩(当時17歳 女性 陸上部所属)
ええっと。あの机を使っていた人なんて、このクラスには最初から居ませんでしたよ?
嘘じゃないです。その質問、他の子達に訊いても私と同じ答えが返ってくるだけですよ。
違和感、ですか。正直、ちょっとこれはおかしいな、とは思っていました。だけど、担任の先生もクラスメートの皆も、あの机に関しては何時だって見て見ぬ振りでしたよ。
何と言うか、机の方を見ちゃうと花瓶が置かれてるせいか、あんまりアレに関わりたくない気分になるんですよね。自分から率先して、アレをどうにかしようという気には到底なれませんでした。
でも、何人かは…あ、これ言っていいのかな。ええと、その…クラスの男子が花瓶に挿された白い花を掴んで窓の外に投げたりしていました。めっちゃ罰当たりですけど。
そうなんですよ、ここの男子は本当にガキなんで。あいつら、それをやらかした時はあまり気にせず楽しそうに笑ってたんですけど。でも…次の日の朝にはもう新しい花が挿されていて、それで流石の男子もビビったのかな。花瓶に悪戯したのはそれっきりです。
うーん…改めて さんに訊かれてみると、本当に不思議な話ですね。クラス全員が狐、実際には机ですけど…とにかく何かに化かされていたような気分です。
それで今になって、もっと不思議に思うのは…あの机が無くなってから、何だか時々寂しいなって思ってしまう自分がいるんですよねぇ。
すっごいモヤモヤしてます。ただ教室に置かれてた無人の机が2つ無くなっただけで、私達のクラスからは誰も居なくなってはいないんですけど。
あれ…居なくなってないですよね?
- 対象: 深雪 恭子(当時17歳 女性 無所属)
すみません、最初に言っておきます。私は、今から さんに何を訊かれるのか大体分かっています。勿論、それを隠すつもりもないです。
はい、間違いありません。私があの花瓶に花を供えていました。
…理由ですか。 あの子が前に、通学路にある花屋さんの前を通り過ぎた時、その店先で少し立ち止まって「白い花は、何にも染まってないから好きなんだ」と、独り言を呟いていたのを思い出して。じゃあ供えるなら、白い菊の花がいいのかなって思ったんです。
そんな、私はあの子の友達なんかじゃ無いですよ。たまたま花屋さんの前で彼女の近くを通り掛かっただけで、あの子の名前だって知らないんですから。
そもそも、私には仲の良い友達なんて1人も居ませんし…いやあの、そんなに謝らなくても大丈夫ですよ。私は全然気にしてませんから。
あの…私、その…自分で言うのもなんですけど、ずっとクラスの皆に無視されていたんです。
はい。1年生の夏休みが終わった後くらいから、クラスの中で私だけが存在してないような扱いを受けるようになって…私が花瓶に花を供えたのが、そんなに気に食わなかったんでしょうか?
そう思いますよね。でも私は担任の吉原先生にも無視されていたので、本当にどうしようもありませんでした。それに、親にだってこんなの辛すぎて言えませんよ。分かりますよね?
…幼い頃から人付き合いがどうも苦手で、この高校に通い始めてからも他のクラスメートとは深く関わらないようにしていました。だから、今まで過ごした学校生活の中で誰かに好かれるようなことは無かったけれど、逆に言えばそこまで嫌われるようなこともしていないんです。
いえ、昔から1人には慣れていますし、むしろそっちの方が気が楽ですよ。でも、それでも私だってあのクラスの一員だったのは変わらない訳で。構って欲しかったんじゃなくて、ただそこに居ることだけを許して欲しかった。
私にはもう、分からないんです。無関心…それすら許されないのなら、私みたいな人間はどうやって社会で生きていけばいいんでしょう。…すみません。そんなの、ここで さんに言ってもしょうがないって自分でも分かってます。
…あの、ちょっと話を戻してもいいですか。最初の質問なんですが、よく考えたら全然答えになっていませんでしたね。何でか、私が白い菊の花を選んだ理由を答えちゃっていました。 さんが本当に訊きたいのは、そもそも何故…私は花瓶に花を供えていたのか、ですよね。
答えは単純です。あの子も多分、私と同じ扱いを受けていると思ったんです。わざわざ花を買って供える理由なんて、それだけで充分でした。あの子は生きているのか、死んでいるのか。そもそも本当に存在するのか、もしくは私の幻覚なのか。…そんなの、心底どうだって良かったんですよ。
ただ、花瓶に花を供えた時の…あの子が私に向けた微笑みと「ありがとう」の言葉だけが、空っぽな日々に取り残された私にとって、唯一の救いだったんです。
- 対象: 吉原 万智(38歳 女性 広瀬川高校2年1組の担任教師)
誰ですか、深雪 恭子って。
そんな子、私の受け持つクラスには居ませんが。
いやあの さんって、今日は例の机の由来について訊きに来たんですよね。
もしかして、ふざけてるんですか?
冗談抜きで知りませんから。
分かりました、一旦この話は置いておきましょう。取り敢えずは机について話せばいいんですね?
[以降、SCP-1839-JPの話題に移行する。]
追記: 調査の結果、深雪氏はクラスメートによって無視等の虐め行為を受けていた訳ではなく、同氏に関わる広瀬川高校の生徒と教師の全員がSCP-1839-JPに関連する異常性によって、その存在を認知できていなかった所為であると断定されました。
上記のインタビュー後、SCP-1839-JPの持つ異常性の更なる理解の為、深雪氏とSCP-1839-JP-1の対面実験が実施されました。結果として、同氏は証言通りにSCP-1839-JP-1との対話を含む意思の疎通と花瓶へのイエギクの挿入が可能であると証明されました(以下、この性質を発揮する人物をSCP-1839-JP-Aと呼称。深雪氏はSCP-1839-JP-A1に指定された)。
SCP-1839-JP-A1は対面したSCP-1839-JP-1が「普段よりも饒舌である」旨の発言を行っており、これを受けて本実験の終了後にはSCP-1839-JP-1の発話した内容の聴き取り調査が予定されていました。実験中、SCP-1839-JP-A1はSCP-1839-JP-1を前にして何度も頷き、小さく笑いながら涙を流していたことが同伴した職員によって確認されています。
現在まで、SCP-1839-JP-A1は行方不明となっています。当時の監視カメラにはSCP-1839-JP収容庫を退出した直後、瞬間的に消失するSCP-1839-JP-A1の姿が映し出されていました。サイト内の機動部隊を動員した懸命な捜索活動にも関わらず、その足取りは未だに掴めていません。
補遺2: SCP-1839-JP-A関連職員に対するインタビュー記録 日付2008/09/11
SCP-1839-JPの正確な異常性を把握する目的で、財団に所属するSCP-1839-JP-A2によって複数の財団職員を対象としたインタビューが計画されました。SCP-1839-JP-Aの性質上、以下に記録された全てのインタビューは財団の正式な認可を得られないままに独断で実行されています。
- 対象: エージェント・古河(34歳 男性 SCP-1839-JPの初期収容を担当)
N/A
- 対象: 古見研究員(34歳 男性 SCP-1839-JP研究班所属)
N/A
- 対象: 陶片研究員補佐(27歳 女性 SCP-1839-JP研究班所属)
N/A
- 対象: 居抜博士(58歳 男性 SCP-1839-JPの収容責任者)
N/A
- 対象: D-38584(23歳 男性 SCP-1839-JP収容房のメンテナンス担当職員)
N/A
- 対象: 喜多原研究員(24歳 男性 サイト-8123所属 友人?)
N/A
- 対象: 大葉 代悟(41歳 男性 サイト-8123所属 警備員)
N/A
- 対象: 依田 希美(25歳 女性 サイト-8123所属 カフェテリア店員)
N/A
- 対象: 秋野 五十鈴(23歳 女性 サイト-8123所属)
N/A
- 対象: 秋野 五十鈴(23歳 女性 サイト-8123所属)
N/A
- 対象: 秋野 五十鈴(23歳 女性 サイト-8123所属)
N/A
- 対象: 秋野 五十鈴(23歳 女性 サイト-8123所属)
N/A
[以降、全てのインタビューの試みが同様の結果で終わる為、省略]
結論: SCP-1839-JP-Aは本質的に孤独であり、表面上の人付き合いは十二分にこなす事が出来ていても、他人に自身の心を許すことは有り得ません。SCP-1839-JP-Aは何らかのコミュニティに属していながら、そこに存在しないも同然です。SCP-1839-JP-Aが消失した後も、当該コミュニティには人員の喪失に起因する観測可能な変化は現れません。
影響を受けたコミュニティの全人員は、SCP-1839-JP-Aに係る視覚的、口語的、触覚的、その他あらゆるSCP-1839-JP-A個体の識別に繋がる1次、2次情報を獲得することが出来ません。既知の対抗ミームエージェントや記憶補強薬はこの特異性に有効な反応を示しませんでした。唯一残された手段であるSCP-1839-JP-Aの3次情報化は、情報確度と伝達性が大きく反比例する為に殆ど成功していません。
SCP-1839-JP-Aはコミュニティの誰にとっても「居ても居なくても同じ」という限りなく"無"に近い状態であり、それ自体がSCP-1839-JP-Aの根底に根付く無自覚の願望から生じた結果であると考えられます。
SCP-1839-JP-Aを収容する方法は見付かっていません。結局のところ、孤立するSCP-1839-JP-Aにはその必要すらありませんでした。今となっては花瓶に花が挿されていても、モニター越しにSCP-1839-JP-1の存在を明確に認識できます。そして時折、こちらに顔を向けながら、優し気な微笑みを浮かべています。
補遺3: SCP-1839-JP-1に対するインタビュー記録 日付2008/12/23