尋問対象: SCP-1840-J
尋問担当者: Dr.リヒター.
TIME/DATE: 9:07 24/09/███
SCP-1840-J: Dr.リヒターですね? 間違いない! もし違ってたら仰天しますよ! 行動の人、Dr.リヒター! 謎に包まれた男、Dr.リヒター! できることなら、その栄光に彩られた輝かしい日々のお話を、わたくしめにぜひお聞かせいただきたいものです!
Dr.リヒター: おはよう。ところで気のせいかな、何だかお前が物を売りつけようとしてくる予感がするんだが。
SCP-1840-J: さすが、勘が鋭くていらっしゃる! まずはちょっと、心の中で思い浮かべていただきたいことがあるんです。想像してください。砂漠です。どこまでも続く、広大な砂漠。果てしない砂の山。生きるものの気配すらない。ところが見回すと、砂丘を登る小さな黒い点がひとつ。ラクダの子どもです。迷子になったんでしょう。あてもなく、ただやみくもによろよろと歩いています。目に吹きつける熱い砂。助けを求める哀れな鳴き声。ぐらりとよろめいた。何とか踏ん張って、またふらつきながら歩き出す。
ふと見上げると、青い空に円を描く小さな黒い点がひとつ。またひとつ。またひとつ。ハゲワシです。餌を狙っているんです。円が降りてくる。低く……低く……。やがてついに、ラクダは砂の中に倒れ込む。胸が苦しそうに動く。ぼんやりと開いたままの目が、だんだんかすんで……疲れ果てた体の上に、最初のハゲワシが舞い降りる。そして残忍なくちばしが……
と、そのとき。哀れなラクダが弱々しく鳴いて……目の前のハゲワシの頭を食いちぎった! 荒れ狂うラクダ! 撒き散らされる死! 愚かな屍肉漁りどもは、血みどろの肉と散乱する羽根に早変わり! 実は、こいつは単なる子ラクダなんかじゃなかったんです。アクストリア・モックキャメルというやつでしてね、弱ったラクダの子どもの振りをしてハゲワシをおびき寄せるという性質があるんですよ。
Dr.リヒター: そうか。で、なぜ私がそれを買うと?
SCP-1840-J: 買っていただきたいわけじゃありません。引き取っていただきたいんですよ。わたくしの手には負えないものでして。もう数え切れないくらい殺そうとしたんですがね、不細工な四つんばい野郎のくせに蛇みたいに動くんです。どうです、お考えになってみては。ラクダと称して売りつけるなんてことも、まあ普通ならできるんですが、さすがにこう危険となりますとね。
Dr.リヒター: 前から言っているが、そういう話はDr.シーワードに頼む。さあ、最後に売ったものについて聞かせてくれないか。
SCP-1840-J: いいですとも。最後のはちょうど一週間前でしたね。今までで一番いいお取り引きをさせていただきました。まあ最初のを除けばですが、でも同じくらいよかったですね。一度に四つもお買い上げいただいたんですよ。先方からお電話をいただきましてね、これがまた泣ける話なんです。Dクラスの女性の方が、担当の研究者の方と恋に落ちまして。感動ですよ。真実の愛の物語です。こんなことが実際にあるんですねえ。個人的には、自分を血に飢えたシーサーペントのところに送り込もうとするような相手に心を許すなんて……まあ、わたくしのことはいいですね。ともかく彼女は、愛する彼と一緒にここから逃げ出したいと思っていたんです。計画は全部できていました。でも他に必要なものがあったんですね。武器。爆薬。逃走用の乗り物。騒ぎを起こす手段。そう、そこでわたくしの出番ですよ。全部わたくしがご用意したんです。
Dr.リヒター: Dクラスが財団の施設から脱走を企んだということか? お前、それは……おい、彼女に一体何を売った? 彼女は今どこにいる?
SCP-1840-J: いやあ、感激しましたね。わたくしもね、そんな方からお金をいただくほど野暮じゃありません。人の恋路を邪魔するなんて、ねえ。なので、一番おっかないのをお譲りしましたよ。本当、手放せて助かりました。まずは「武器がほしい」とおっしゃいましたので、わたくし「旧ソ連製のサイクリック・チャージ・プロジェクターがあります」とお答えしました。次に「爆発物」。物質崩壊ガントレット! 「逃走手段」。ウェインライト・テレポートアレイ! 騒ぎを起こすのは……。
エージェント・ネス: あれ、ドクター? このラクダは収容とかしなくてもいいんですか?
Dr.リヒター: ま……ま、まさか……。
SCP-1840-J: せっかくの機会だったもので。雌のは特に危険なんです。繁殖開始間近だったやつですよ。大声を上げないように。でないと興奮させちゃいますからね。
エージェント・ネス: 何だおい、こんなに大量の……うわあああああ! ぐあああああーーーーーっ! 腕が! こいつ、俺の腕を! ああああああ、あああ……。
[爆発音と銃声が聞こえ、しばらくして静かになる。ドアが開く]
D-27893: さあ、一緒に来て! 何もかも一緒に乗り越えるの! 私たちならできるから!
Dr.リヒター: いや……それは……いや、わかった! 今いくぞ! 今いくぞ、ソフィー!
[D-27893が外に向かって発砲する]
D-27893: エリック、これを使って! ねえ、もし失敗したら私、あなたのそばで笑って死ぬからね! あなたと離れて生きるくらいなら!
Dr.リヒター: ガントレットか! 物質崩壊ガントレット! おい、ピザ野郎とか言ってくれたな、アラン? 見せてやる! ピザ野郎が何をするか見せてやる!
[警報音。建物が倒壊する音。叫び声]
D-27893: 見て、あいつらみんな逃げていく! エリック、柱を撃って! 機動部隊のやつらを閉じ込めるの!
Dr.リヒター: ファイルの整理をやり直せとか言ってくれたな! お前のファイルなんてめちゃくちゃじゃないか! こんな風に!
[警報音。建物が倒壊する音]
Dr.リヒター: 何ヶ月も! ファイルの整理をやり直してた! 今は違う! 新しい人生だ! 最高に危ない女がいて、最高に危ない武器がある人生だ!
D-27893: テレポーターの準備ができた! つかまって!
[キス。テレポーター作動。静寂が戻る]
SCP-1840-J: もしもし? いらっしゃいますか? [しばらくの沈黙]よろしければ、自動追尾式トマホークなんかいかがでしょう。ネイティブアメリカンのやつですよ。もちろん本物。投げると勝手に的に飛んでいってくれるんです。パーティーの余興に最適! 人の頭の上に乗ってるリンゴを落としたりとかできます。最高の結婚祝いだと思いましてね、いや、本当に! お代はこの際わたくしが持ちます。神業の斧投げで、新しい人生の伴侶にアピールしちゃってください! えー、ドクター? ドクター? [しばらくの沈黙]ああ、くそ!
[通話終了]