SCP-1847-JP
rating: +37+x
blank.png
%E8%81%96%E6%9D%AF.jpg

発見時の様子

アイテム番号: SCP-1847-JP

オブジェクトクラス: Safe

特別収容プロトコル: SCP-1847-JPはサイト-ケイローンの危険物品収容ロッカーに保管されています。持ち出しにはサイト管理官の許可が必要です。仮想液体を飲む実験は、Dクラス職員を被験者とする場合のみ許可します。実験は以下の条件を満たす実験室で実施して下さい。

1. 全体の衝撃耐性レベルが3以上。
2. 実験担当者と被験者が直接接触しない構造。
3. 室内への日光の遮断/導入を切り替え可能。

被験者はいかなる場合でも実験室から退出させないで下さい。被験者の処分は、実験上の必要がない限りは日光の照射によって行って下さい。

説明: SCP-1847-JPは銀と銅の合金製の杯です。十字架やイエス・キリストの肖像などのシンボルが見られることから、キリスト教の儀礼用の聖杯と考えられています。正確な製造年代は不明ですが、加工技術の精度や発見時に収納されていた木箱の炭素年代測定等から、おそらくは9世紀頃と見られています。

SCP-1847-JPに素手で接触した人間は、内部に赤い液体が満たされていると主張します。しかし、保持者以外の人間や機器類には一切検知できないことから、物理的には存在しないものと考えられています。この仮想上の液体を"摂取した"被験者には、以下のような身体及び精神の異常な変化が現れます。

1. 身体能力の増強 実験では約12kNの筋力1、約50km/hでの走行、幅約15mの跳躍等が観測されました。

2. 再生力の増強 負傷すると傷口付近の細胞が異常な速度で分裂し、通常より遥かに短時間で治癒します。四肢の切除等の通常では治癒不能な負傷も、数日程度で完治します。頭部と心臓のみは例外で、どちらかを破壊されると死亡します。

3. 新陳代謝の停止 負傷時以外は全身の細胞活動が停止していますが、腐敗等の不具合は生じません。食事、排泄、呼吸は不要になり、理論上は老化も停止していると考えられます。

4. 暗視能力の付与 照度が0lxの空間でも視覚が機能するようになります。色彩も判別できることから、反響定位など正常な原理によるものではないと考えられています。

5. 光に対する脆弱性 太陽光を浴びると全身が灰状になって死亡します。また、一般的な電灯程度の照明でも、目を開けるのが困難な程眩しく感じます。

6. 吸血衝動 犬歯が伸長すると共に内部が管状になり、液体を吸収できるようになります。被験者はこの犬歯で周囲の人間に衝動的に噛み付き、出血性ショックで死亡するまで吸血し続けます。

7. 感染性 被験者に吸血されて死亡した人間の死体は、約24時間後に被験者と同様の特徴を備えた擬似蘇生体2に変異します。

より詳細な分析は、別紙SCP-1847-JP被験者カルテを参照して下さい。医療等への利用は検討中です。

補遺: SCP-1847-JPの発見場所はギリシャ共和国、サントリーニ島の█████教会です。202█/█/██、同教会から「血を流す聖杯」に関する通報を受けたギリシャ正教会の奇跡認定局は、テッサロニキ協定3に基づき直ちに財団に連絡しました。発見者の司祭は「倉庫の整理中に偶然発見した、来歴は知らない」と述べており、文献調査でもSCP-1847-JPに繋がる情報は発見できませんでした。

渉外部門とギリシャ正教会の交渉の結果、財団へのSCP-1847-JPの譲渡が決定し、関係者には記憶処理が実施されました。文化人類学部門はSCP-1847-JPと東欧の吸血鬼伝承の関係に注目しており、サントリーニ島を中心にフィールド調査を継続中です。

追記(202█/█/██): 文化人類学部門の研究班がサントリーニ島を調査中、未知の遺跡を発見しました。入口の扉に杯をモチーフにしたシンボルが刻まれており、SCP-1847-JPとのデザインの相似が見られました。人目に付き難い場所ではないにも関わらず、現在まで発見されなかった不自然さから、異常な手段で隠蔽されていた可能性が考えられました。このため内部の調査は、異常な遺跡の探索を主任務とする機動部隊ベータ-9("トレジャーハンター")に引き継がれました。

SCP-1847-JP探査ログ

%E3%83%89%E3%82%A2.jpg

指揮者: ヤニス・コリアス博士(文化人類学部門所属、上級研究員)
現場担当者: 機動部隊ベータ-9からマリオス・デュカキス隊長、アデル・メルクーリ副隊長、ディミトリス・アルモッソ隊員、ケビン・ヒロオカ隊員


※以下、書き起こし

〈前略〉

[ベータ-9の隊員たちが扉をレーザーカッターで開放する]

デュカキス隊長: 中は真っ暗だな。何の施設だろう。

コリアス博士: ぱっと浮かぶのはカタコンベかな。

アルモッソ隊員: なるほど、吸血鬼の住処には相応しいな。

ヒロオカ隊員: や、やめて下さいよ。

メルクーリ副隊長: 居てもおかしくないわ。慎重に進みましょう。

[ベータ-9の隊員たちが遺跡内部に侵入する。螺旋階段が地下に向かって伸びている]

デュカキス隊長: ミノア文明の遺跡ではなさそうだな。

コリアス博士: ああ、そこまで古くないな。

[ベータ-9の隊員たちが階段を降りる。地下約30m地点で階段は終わり、その先は通路になっている]

デュカキス隊長: おい、壁を見てみろ。

[ベータ-9の隊員たちが通路の壁を照らす。キリストの生涯を描いたモザイク画が確認できる]

アルモッソ隊員: 吸血鬼の住処にイコンかよ。

コリアス博士: 伝承上の吸血鬼は、聖なるシンボルを恐れない場合も多いがね4

ヒロオカ隊員: あの聖杯の被験者もそうだったなぁ。

[通路を約30m進んだ地点で、閉鎖された扉を発見。マルチスキャナーによるチェックの結果、罠は設置されていないと判断]

デュカキス隊長: カッターで開けても?

コリアス博士: 許可する。

[デュカキス隊長がレーザーカッターを起動し、扉の切断を試みる]

不明な女性の音声: 立ち去れ、恩知らずの人間ども!

[デュカキス隊長の右手が透明な結晶状の物質に変化し始める]

メルクーリ副隊長: 隊長!

不明な男性の音声: ベルナ、お客様に失礼だぞ。

不明な女性の音声: 扉を破壊して入って来る者は、客ではありません。侵入者です。

不明な男性の音声: 少しせっかちなだけさ。さあ、お入りなさい。

[デュカキス隊長の右手が元に戻り、扉が開き始める]

デュカキス隊長: アデルは俺に附け、残りは扉前で待機。

メルクーリ副隊長、アルモッソ隊員、ヒロオカ隊員: 了解。

[デュカキス隊長とメルクーリ副隊長が部屋に進入する。内部はキリスト教の礼拝堂に近い構造で、壁にはイエスと十二使徒のフレスコ画が描かれている。松明たいまつや燭台等の照明器具が確認できるが、点灯はされていない。祭壇前にキリスト教の修道士の服装をした老年男性(以降、PoI-1847-JP-A)と、修道女の服装をした若年女性(以降、PoI-1847-JP-B)が立っている]

%E3%82%A2%E3%83%AC%E3%82%AF%E3%82%B5%E3%83%B3%E3%83%89%E3%83%AB.jpg

PoI-1847-JP-A(アレクサンドル)

%E3%83%99%E3%83%AB%E3%83%8A%E3%83%87%E3%83%83%E3%83%892.jpg

PoI-1847-JP-B(ベルナデッド)

PoI-1847-JP-A: 夜の兄弟団5サントリーニ島支部へようこそ。私は支部長のアレクサンドル、こちらは団員で義理の娘でもあるベルナデッド。先程は失礼した。

デュカキス隊長: いえ、こちらこそ。ギリシャ陸軍のデュカキス大尉とメルクーリ中尉です。

PoI-1847-JP-B: [顔の前に手をかざして]眩しい、明かりを消せ!

デュカキス隊長: そ、それはちょっと。

[PoI-1847-JP-Aが指を鳴らすと、松明と燭台が一斉に点灯する]

PoI-1847-JP-A: 無理を言ってすまんが、これで我慢してくれんかね?

メルクーリ副隊長: 隊長?

デュカキス隊長: 言う通りにしよう。

[デュカキス隊長とメルクーリ副隊長がライトを消灯する]

PoI-1847-JP-A: いやあ、それは本当に眩しいね。そうそう、聖杯を取り戻してくれて感謝するよ。全て回収したつもりだったが。

デュカキス隊長: 何のことでしょうか?

PoI-1847-JP-B: とぼけるな。聖杯の知識が無ければ、あの入口は見えんはずだ。さあ、返して貰おうか。

PoI-1847-JP-A: 彼らが持っているなら、問題はあるまい。

PoI-1847-JP-B: 支部長?

PoI-1847-JP-A: 君たちは王立財団6の人間だろう? いや、今はSCP財団だったかな。

デュカキス隊長: あー、我々をご存知で?

メルクーリ副隊長: 隊長、情報漏洩では。

デュカキス隊長: バレてるなら、誤魔化しても仕方ないさ。

PoI-1847-JP-A: 何となく分かったよ。君たちは我々の、そう、子供のようなものだからな。

デュカキス隊長: 子供?

PoI-1847-JP-A: 少し長い話になるが、いいかね?

デュカキス隊長: 是非。

[一同が着席する]

デュカキス隊長: 先にお聞きしてよろしいですか? お二人は、あー、その、吸血鬼なのですか?

PoI-1847-JP-A: [笑う]安心したまえ、血は吸わないよ。

PoI-1847-JP-B: 何たる侮辱だ! 誰がお前たちを、その吸血鬼から守ってやったと思っている?

デュカキス隊長: え?

PoI-1847-JP-A: [PoI-1847-JP-Bを制して]仕方ないさ、彼らにとっては遠い昔だ。何から話したものか[沈黙]。そうだな、中世の夜を想像してくれ。それも月の光すら届かない、深い森の夜を。[部屋の松明と燭台を見渡して]灯りと言えば、こんな物しかない。我々には十分だが、君たちには頼りなかろう。

デュカキス隊長: まあ、手元を照らすのが精々ですな。風が吹いたら消えちまうし。

PoI-1847-JP-A: そうだろう。灯りなき中世の夜は吸血鬼ヴァンパイアの天下だった。これは英国の呼び方かな。我々は奴らをニュクス7の眷属と呼んでいた。

[壁のフレスコ画の絵柄が"暗闇で様々な怪物が人々を襲っている場面"に変化]

PoI-1847-JP-A: 魔鳥ストリゴイイ8、夜の訪問者ヴリコラカス9、邪眼のネラプシ10、いずれ劣らぬ怪物どもだが、何より恐ろしいのは闇を見通す目だ。眷属どもは新月の晩でさえ、昼と変わりなく出歩けるのだ。奴らは毎夜のように村々を襲い、人々の血を啜った。ただでさえ強者である眷属に、ろくな灯りも持たない人々が抗えようか? 長い間、人々は奴らの獲物でしかなかった。

[壁のフレスコ画の絵柄が"キリスト教の修道士の服装をした男性がSCP-1847-JPを掲げている場面"に変化]

PoI-1847-JP-A: 受難の時代を終わらせたのは、1人の修道士だ。彼は眷属に血を吸われ、自らも眷属と化しながら、信仰の力で吸血衝動に耐えた。そして、自分自身を実験体として、夜の聖杯を作り出したのだ。飲んだ者に眷属の力を注ぎ、サムソンの如き剛力を、永遠に老いぬ肉体を、闇を見通す目を与える聖杯を。眷属には眷属の力で対抗しようと言う訳だ。修道士は同志たちに夜の聖杯を与え、夜の兄弟団の始祖となった。

コリアス博士: 待ちたまえ、あれを飲んだら吸血衝動に襲われるはずでは?

デュカキス隊長: [博士の発言を繰り返し]と、指揮官が言っていますが。

メルクーリ副隊長: [ため息]

PoI-1847-JP-B: やはり試したか、愚かな。

PoI-1847-JP-A: ああ、それは気の毒に。飲むだけではそうなってしまう。事前に呪いを中和する儀礼を行い、何より覚悟を決めて飲まなければならないのだ。眷属と同様、二度と陽光を拝めぬ体になっても構わない、とな。

[壁のフレスコ画の絵柄が"キリスト教の修道士の服装をした人々が怪物と戦う場面"に変化]

PoI-1847-JP-A: 昼は霊廟で眠り、夜は眷属と戦う。人々を眷属から守るために、眷属のように生きる。それが我ら夜の兄弟団だ。団員は増え、各地に支部が作られた。戦争に巻き込まれる等、幾度も危機に見舞われたが、その度に団結で乗り越えた。長い奮闘の甲斐あって、眷属の被害は徐々に減っていった。

[壁のフレスコ画の絵柄が"近代的な都市の前で修道士と怪物が両目を覆う場面"に変化]

PoI-1847-JP-A: やがて、兄弟団の使命が終わる時が来た。何が決定打になったか、分かるかね?

デュカキス隊長: 電灯の普及ですか?

PoI-1847-JP-A: 正解だ。[デュカキス隊長のライトを見て]その光は、あまりに眩しすぎたのだ。眷属にとっても、我々にとっても。電灯に照らされる都市では、眷属も我々も目が眩んで何もできなかった。人々は最早、夜に怯える必要はなくなったのだ。友好関係にあったいくつかの組織に知識を伝授し、我々は身を引いた。

デュカキス隊長: その一つが王立財団という訳か。なるほど、それで我々を子供だと。

PoI-1847-JP-B: 親の苦労を何一つ知らなかったようだがな。

コリアス博士: 全くだ、我々は何も知らなかった! 恥ずべきことだ。

アルモッソ隊員: [小声で]こいつの話が本当なら、だがな。

〈後略〉

管理官付記: PoI-1847-JP-A、及び-Bに関しては、情報収集のために友好関係を保つべきであること、ほぼ自己収容状態にあることから、現時点では収容の試行は見送る。代案として、サイト-ケイローンとの定期連絡を保ち、遺跡出入り口を遠隔監視するものとする。なお、情報漏洩に関しては、状況を考慮し不問とする。


 
追記(202█/█/██): 以下はPoI-1847-JP-Aへのインタビューや提供資料から得られた、夜の兄弟団やニュクスの眷属に関する情報の概要です。完全版はSCP-1847-JP研究室のサーバーに保存されたファイルを参照して下さい。信憑性に関しては、文化人類学部門と諜報局ギリシャ正教会担当室が調査中です。
 
%E5%88%9D%E4%BB%A3.jpg

始祖を描いたイコン

夜の兄弟団の始祖に関しては、本名や出自などの正確な記録は失われています。多くの団員が信じている説は、彼が聖キュリロスと聖メトディオス11の弟子であったというものです。始祖は最終的にSCP-1847-JPを12個作成し、各支部の支部長に授けました。その後、始祖は吸血衝動を抑制出来なくなったため、自ら命を絶ったと伝えられています。

当初、夜の兄弟団は東ローマ帝国の正教会に所属する修道院という扱いで、"夜の修道院"と呼ばれていました。しかし、次第に彼らは正教会の聖職者たちから危険視されるようになり、皇帝からは戦争への協力を強制されるようになります。このため、彼らの間に独立の機運が高まりました。1453年のオスマン帝国によるコンスタンティノープル陥落を機に彼らは独立し、表社会から姿を隠すようになりました12。そして、夜の兄弟団に改名し、組織から宗教色を薄れさせ、より眷属との戦いに特化しました。

その後、夜の兄弟団の活動の主体は、東欧各地の支部に移りました。特に数種類の眷属の勢力圏が重なっていたルーマニア、土壌が石灰質で死体が腐敗し難く、眷属が発生し易かったサントリーニ島周辺が激戦区でした。夜の兄弟団と眷属の実態は、照明に乏しい当時の夜間では一般人には殆ど目撃されませんでしたが、僅かに伝わった情報が東欧の吸血鬼伝承に影響しました。例として吸血鬼ハンターの伝承13は、夜の兄弟団がモデルになっている可能性があります。

近代になり国家が大規模化すると、夜の兄弟団も表社会と完全に無縁ではいられなくなり、"昼の代理"と呼ばれる一般人からなる協力団体を設立しました。財団の前身となった王立財団もその一つです。彼らは昼間に出歩けない団員の代わりに、世俗権力との連携や情報操作などを代行しました。なお、他の昼の代理系団体に関しては、要注意団体の前身になっている可能性が示唆されています。

夜の兄弟団の活動停止後、殆どの団員は長い生に疲れて自死を選びました。各支部で使用されていたSCP-1847-JPはPoI-1847-JP-Aが全て回収し「厳重に保管している」と主張している一方、財団が回収したSCP-1847-JPに関しては「13個目があったとは知らなかった」と述べるに留まっています。


 
秘匿回線-ALEXANDRE(管理者専用)

 

特に指定がない限り、このサイトのすべてのコンテンツはクリエイティブ・コモンズ 表示 - 継承3.0ライセンス の元で利用可能です。