SCP-1857-JP
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5/1857-JP LEVEL 5/1857-JP

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Item #: SCP-1857-JP

Object Class: Apollyon

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SCP-1857-JP-1内の様子

特別収容プロトコル: SCP-1857-JPの位置する愛知県豊田市の山林地域一帯は調査及び緊急事態を除いて完全に無人に保たれ、一般人の立ち入りを禁じます。担当職員は日に一度、SCP-1857-JP-1の異常性・内部環境の調査を目的とした立入が許可されており、人間の長期間の生存に害となる要素が発見された場合は即座に財団上層部に報告されます。エージェント・染井は人間のSCP-1857-JP-1内における長期生存実験の為、SCP-1857-JP-1内に用意された簡易的居住スペースを拠点とした半径500m圏内に拘留されます。

SCP-1857-JPを損傷・燃焼・破壊する試みはSCP-1857-JPが吸収する莫大な熱エネルギーにより即時修復される事、またこの為に吸収されるエネルギーの総量が一時的に増大した事から同様の試みはO5評議会の決議によって禁じられています。現在、世界各国の火力・原子力発電所、財団の所有する1012の発電施設を完全稼働状態に保持する事で事態の遅延化を図っていますが、これにより得られる猶予は3時間程度であると推測されており、本質的に無意味な試みであると言わざるを得ません。

SCP-1857-JP及びSCP-1857-JP-1の大規模な情報流布への対策として使用されてきた視界遮断用高壁の敷設は、これらが急速な成長・拡大を続けている事から効果の薄い施策であるとの判断が為され、2021年2月時点における対抗策はカバーストーリー「空気の対流による局所的異常気候」のみに留め置かれます。

説明: SCP-1857-JPは愛知県豊田市の山林地域に存在する桜の木(エドヒガン 学名:Cerasus spachiana)です。2021年2月現在の時点で樹高は121m、主幹の幹周は35m、推定重量は296000tです。

SCP-1857-JPは2021年2月現在、周辺1.6km圏外の環境からあらゆる熱エネルギーを遠隔吸収する異常性を有しています。この熱エネルギーの吸収は太陽放射による熱や大気熱に留まらず、地熱や生物の発生させる熱エネルギー、化石燃料等の燃焼により発生するものも含め地球上のあらゆる熱エネルギーに及びます。吸収されたエネルギーはSCP-1857-JP内に移動し、成長の為の代謝機能に使用されます。この代謝能力によってSCP-1857-JPの樹高は1週間に50cm程度のペースで成長し続けており、枝部分に確認できる花は散華すると同時に新たな蕾を生成する事から、発見以降SCP-1857-JPは時季に関わらず満開状態を保持し続けています。なお移動した莫大な熱エネルギーが何故SCP-1857-JP内で安定状態のまま存在し得ているのかについては不明です。

SCP-1857-JPの位置する地点を中心とした直径1.6kmの空間はSCP-1857-JP-1に指定されています。SCP-1857-JP-1はSCP-1857-JPの成長と共にその範囲が拡大している事からSCP-1857-JPの成長と相関関係にある事が判明しています。SCP-1857-JP-1内は周囲の気候に関わらず常に一定の気温に保たれており、これは日本の3月後半〜4月前半の平均気温と完全に一致しています。SCP-1857-JP-1内にはエドヒガンやソメイヨシノといったサクラの木が存在している他、その区域に元来分布していた樹木や非異常性の在来生物が生息しています。SCP-1857-JP-1内に存在する樹木は種類問わず常に葉や花が確認できます。これはSCP-1857-JP-1内の気候だけでなく、SCP-1857-JPが吸収した莫大な熱エネルギーが空間内の植物に作用し代謝能力が異常に引き上げられている為であると推測されていますが詳細は不明です。

現在、SCP-1857-JPによって吸収されている熱エネルギーの総量は約152PWとされ、この総量はSCP-1857-JPの成長と共に増大し続けています。今後同様のペースで吸収量が増大した場合、12年後にはSCP-1857-JPの熱エネルギー吸収量が大気中に入るエネルギーの総量1を超え地上の凡ゆる熱エネルギーが消失、地球は全球凍結状態となる事が確定しています。また、この状態に陥った場合、SCP-1857-JPが吸収する主な熱エネルギーは太陽放射と地熱となり、この影響範囲は最終的に地球の内核にまで達すると推測されています。

発見経緯: SCP-1857-JPは1933年当時、日本の異常存在を管理していた蒐集院によって発見されました。当時の資料によれば、発見地域2周辺の住民の「春でもないのに桜が咲いている」という報告を下に蒐集院がSCP-1857-JPを発見。この時のSCP-1857-JPの樹高は3m前後であり、当時は「季節に関わりなく咲き続ける桜」として管理されていました。第二次大戦後は財団に管理権限が委譲され、暫く蒐集院と同様の方法で収容されていましたが、SCP-1857-JPの成長速度が通常の桜の域を明確に逸脱している事、表面温度が常に24度前後に保たれている事を担当職員が報告し調査が開始されました。この結果、SCP-1857-JPの内部には超高密度の熱エネルギーが凝縮されている事が発覚。また、発見された1933年以降、地球の平均気温が地学的に想定外の低下を見せている事に関連しているのではないかと判断した担当職員は、火器を用いたSCP-1857-JPの焼却実験を上層部認可の下行い、それにより即時の再生能力が発覚したと同時に実験時間と全く同時刻、世界各地で急激な気温低下や常温環境での生命体の凍結などが報告された事から熱エネルギーを遠隔吸収する異常性が判明しました。

補遺1: 2023年11月15日、O5評議会は人類存続の為の最終手段として以下のプロトコルを策定しました。

監督評議会決定事項

プロトコル・ギムレー


当プロトコルはSCP-1857-JP-1内に人間が超長期間生存するに足る居住区を作成し、選別された100人の人間を収容する事で人類を存続させる事を目的とするものである。

SCP-1857-JP-1内部は人類の生存に適した気温・湿度・大気成分が保たれており、空間内に存在する湖によって水の循環や雲や雨などの気象現象も発生している事、均衡の取れた動植物の生態系が確立している事などから、人類が長期間に渡って生存するに足る環境が整っているとの判断が為され、当プロトコルは策定された。

SCP-1857-JP内部に収容する人間の内50人は、

・持病やDNAの欠陥等がない健康体である事。
・知能指数検査によって一定水準以上のIQを有すると認められる事。
・精神診断によって疾患や異常な思想等が認められず、長期の閉鎖空間内での生活に耐えうる精神性を有する事。

の3点を選考材料として各国から無作為に選出された人物とする。

またそれ以外の50人はSCP-1857-JPの担当職員5人を始め、財団に所属する植物学や物理学・地学の権威、桜に関連するアノマリーに関わっていた職員によって構成される。

居住区内には原子炉による発電装置を始め、水の濾過装置や医療機器、研究施設、製鉄所等の人類文明継続に必要と判断された設備を搭載し、収容される人間は全てにおいてその使用法、修繕法を会得しなければならないものとする。

また、収容される人員の精神面でのケアの為、SCP-1857-JP-1内部の素材で代替可能な娯楽用品を多量に用意し、軽微な記憶処理材は用意できる範囲で補填していくものとする。万が一人員が極度の精神状態に陥った場合に際して、記憶処理施設を各施設とともに敷設する。

我等の使命は数える程にまで減ってしまった。

人類にこれ以上の繁栄はもはや約束される事は無く、残るは衰退の道に他ならないだろう。

しかし、如何に多くが滅ぼうと、人類は守られなければならない。

たとえ、この事態の元凶に縋ろうとも。

確保・収容・保護
O5評議会一同

また、当該事態に対し有効打と見られる縮退炉、ブラックホールを利用した大質量エネルギー発電施設の開発を目的に、一部の職員を基底現実と非常に酷似した並行時間軸α1857へSCP-████-JPを用いて移送し、完成次第帰還する「プロトコル・イザヴェル」が同時進行で進められていますが、基底現実への帰還にかかる年数は100年以上先であると推測される為、成長し続けるSCP-1857-JPの吸収総量の増大に対処できるかについては不明であり、帰還したとしても地球の内核にまで影響範囲が拡がっていた場合、地球を人類の生存可能な環境にまで修復する事は不可能であるとされています。

補遺2: 以下は「プロトコル・ギムレー」の始動までに発生した出来事のタイムラインです。

発生年 詳細
2023年 南アメリカ大陸全域で1年の平均気温が10度を下回る。エージェント・染井の長期生存実験によりSCP-1857-JP-1が人類の生存に適した環境である事が実証される。これを以て「プロトコル・ギムレー」が策定される。
2025年 北極の面積が10%増大。また南極大陸の氷がオーストラリア大陸に侵食。
2026年 アメリカ北部地域が完全に凍結。一帯の生命体は例外なく氷結していた。インフラの停止により世界経済に混乱が生じ、ドルが急激に下落する。またアメリカ北部に存在した財団所有の施設も機能を喪失し、冷気に耐性を有する一部のアノマリーが収容違反。その後収容される。
2027年 大西洋全域に氷塊が大量発生。自然に発生したものと思われる。世界各国緊急会議が行われ、被害が最も少ないとされた日本に表面的な対策総本部が設立される。
2028年 赤道付近の複数の国で大規模な積雪が確認される。O5評議会の決議により「プロトコル・イザヴェル」が発動される。財団の上層部メンバー及び研究チームがSCP-████-JPを用いた並行時間軸移動に成功、現地の財団に酷似した団体と接触し、協力を仰ぐ事に成功。
2029年 南アメリカ大陸・アフリカ大陸全域並びに大西洋が完全凍結、一部の避難者は日本に移送される。「プロトコル・ギムレー」におけるSCP-1857-JP-1内部に収容する人物が確定、同時に全員の移送を完了。
2030年 ヨーロッパ全域及び北アジア、北アメリカ大陸が完全凍結。太平洋上に多量の氷塊が出現。凍結地域の収容施設の調査に赴いた財団の調査チームが冷気に耐性を有するアノマリーの凍結を確認。SCP-1857-JPの影響によるものと思われる。調査チームは帰路の途中で音信不通となった。以降の凍結地域の調査は無人探査機を用いて行う事が決定される。
2031年 SCP-1857-JPの周囲100km圏内を除く全ての地上が凍結。財団の全管理権限がSCP-1857-JP担当職員長である松村管理官に移譲される。
2032年 非凍結地域がSCP-1857-JPの周囲50kmに縮小。非凍結地域から地下を掘削して判明した事実として、域外の凍結の影響は地下2000mにまで達していた。
2033年 SCP-1857-JP-1と指定される直径3.1kmの空間を除く地上の完全凍結を確認。地球は事実上、全球凍結状態となる。「プロトコル・ギムレー」始動。
















































2038年12月13日

これは私が公的文書に残す最後のメッセージとなるだろう。

私は松村春信。SCP-1857-JPの担当管理官であり、滅びゆくこの星の霊長の代表者でもある存在だ。

端的に言って、この世界は終末を迎えた。

正確に言えば、我等100人の人類と安住の地とするSCP-1857-JP-1があるので、いささか表現が正しくないのかもしれないが、それでもこの領域外には悉くを凍てつかせる地獄ばかりが広がっている。

恐らくこの状態はもう人類にどうこうできるものでは無いだろうと、最近は強く感じるようになった。

プロトコルの始動から5年ほどが経過したが、並行時間軸に移動した研究チームとはもう2年ほど連絡が取れていない。研究に没頭しているあまり定期報告の事を忘れているのか、それとも通信機器の調子が悪いのか。
いや、恐らくはもう彼ら彼女らは死に絶えてしまったのかもしれないな。そう考える方が何より自然なのだ。

周りは一歩でも外に出るだけで即座に死んでしまう極寒の大地、地球環境修復の見通しも無く僅かな希望さえ氷の様に打ち砕かれた。人類に残されたのはたった3kmほどの居住可能な空間だけ。これでは人類の進歩はおろか文明の復興さえ望むべくもない。
言葉にしてみればこれほど絶望的な事は無いだろう。

しかし何故だろうか、私はこの箱庭の様な世界を嫌いになる事は出来なかった。

ここは私が見てきた何よりも美しかった。見上げるほどに大きなSCP-1857-JPは太陽と月の明かりに照らされ、花びらがひらりひらりと舞い落ち、空は澄み、水は清く、人々は人種を超えて争う事もなく生を謳歌している。

我等財団側の人間もまた、憎き桜の調査を進めつつも心持ちは穏やかなものだった。これは桜の未知の異常性によるものか、それともこの美しい情景がそうさせているのか定かではないが、それはこの世界が滅んでいるという恐ろしい事実から残された人々を優しく遠ざけてくれた事に違いはない。何にせよ精神面で不安定になる人間が想定よりも少なかった事は我々としては好都合だった。

財団の研究チームとの交信が途絶えた今、我等の使命を仲間と共に話し合い、そしてそれは「地球の修復」から「人類の存続」へと変更する事となった。

つい先日、この地上に残された楽園で初めて新たな人間が産声を上げた。アジアとヨーロッパの血を継ぐ元気な赤ん坊だ。

これから生まれ行く彼ら彼女らには、この桜に絶望ではなく、希望を持って生きていく事を教えていった方が良いのだろう。財団の理念には反するかもしれんが、人類の存続には希望が必要なのだ。

その為、私は残された30年程度の人生を使っていこうと思う。人類が遺した叡智を、文化を我らの中から生まれた子供たちに次いでゆくのだ。

そうしていけば遥かな未来、人類は何かしらの打開策をみつけてくれるかもしれない。

なんとやりがいのある任務であろうか。

あぁ、本当に

悔しい限りだが

今日も桜は美しい。

松村春信

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