録音者: 機動部隊せ-12(『配達員』)所属、チームリーダー・アルファ
日付: 20██/██/██
任務: SCP-186-JPの貨物コンテナ内部の探査
アルファ: 録音を開始。ブラボー、記録用のHDカメラの準備はいいか?
ブラボー: 大丈夫です。
アルファ: よし、デルタ。カメラは持ってるな。チャーリー、サンプル採集キットは揃ってるか?
チャーリー: 持ってます。中身も確認済みです。
アルファ: よし、小銃およびサイドアームのチェック。
(複数の金属音)
アルファ: 全員、チェックは済んだな……よし、行くぞ。
(210秒間、会話なし。部隊の歩く音のみが聞こえる)
ブラボー: 普通の森にしか見えないな。
チャーリー: ああ。だが少し霧がかってるのがどうも……不気味だ。
デルタ: 足下に注意して下さい。穴があります。
ブラボー: おっと、目ざといな、新入り。助かった。
チャーリー: んー、割と深いぞ。軍用ライトで照らしても底が見えない。
アルファ: えーと、穴の直径は50cmほど。よしデルタ、調査だ。発炎筒を落とせ。
(ノイズ。デルタが発炎筒を炊いた音と思われる)
デルタ: 落としました。
(200秒間、会話なし)
デルタ: まだ落ちてます。
ブラボー: おいおい、どんだけ深いんだよコイツ。
チャーリー: 落ちてたらヤバかったな。
ブラボー: シャレになんねぇよ、クソ。
アルファ: これ以上ここにいても時間の無駄だな。マーカーを置いたら先に進もう。
(およそ500秒間、部隊の進む音が録音されている)
チャーリー: 見ろよ、あの木のコブ。人の顔に見える。
デルタ: 自分には本当に人の顔に見えますが……。
ブラボー: 今、一瞬笑ったよな?
アルファ: お前達、任務に集中しろ。
デルタ: すいません。
ブラボー: でも本当に笑ってたぜ……。
(400秒間、部隊の移動する音とデルタの持つカメラのシャッター音、不明な人物のすすり泣く声が記録されている)
チャーリー: シカだ!
エコー: いや、あれはシカじゃない。
ブラボー: そうだ、チャーリー。エコーの言う通りだ。だって、お前、シカは足が8本もないだろ。
デルタ: じゃあ、あれは何です?
アルファ: 分からんが、写真だけは撮っておけ。少し迂回しよう。あまり"シカ"に近づきたくない。
(120秒間、部隊が森の奥へと進む音)
チャーリー: 池だ。この水のサンプルをとるから少し待ってくれ。
ブラボー: お前、気をつけろよ。
アルファ: よし、残りの人員は周辺を警戒しろ。
デルタ: 了解しました。
チャーリー: お、なんだ?
(激しいノイズ)
ブラボー: チャーリーが!
アルファ: 水の中に撃ち込め! チャーリーには当てるな!
(断続的な小銃の発砲音が記録されている)
ブラボー: クソ、クソ、クソ。
エコー: アイツはもうダメだ。
アルファ: 総員、出来るだけ池から離れろ。
デルタ: え、えーと。チャーリーが池から出てきた6mほどの大きさの腕に引きずりこまれました。
ブラボー: あのクソみたいな手はう、腕時計を付けてたぞ!
アルファ: あー、隊員が1名犠牲になった。作戦の続行は危険と判断。自主的に撤退する。
(数分間の休止)
アルファ: 再点検が終了。総員、帰還するぞ。編成は10番に変更する。
エコー: こっちだ。扉まで戻ろう。
デルタ: えーと、この道でしたっけ?
ブラボー: どっちでもいいから早く帰りてぇ。
エコー: 帰れりゃいいけどな。
アルファ: エコー、本当にこの道か?
エコー: 間違いないです。
(330秒間、部隊の歩く音のみ記録)
アルファ: おい。注意しろ、SCP-186-JP-1だ。そこら中にいる。
ブラボー: こっちをジロジロ見てやがる。
エコー: デルタはどこです?
ブラボー: そこに……は? え、アイツは?
アルファ: あー……デルタが消えた。
ブラボー: 迷子って訳じゃなさそうだな、クソ。
アルファ: ブラボー、デルタのビーコンを調べてみろ。
(30秒間の休止)
ブラボー: えーと……タブレットかビーコンがおかしいのかも知れませんが、情報によるとデルタは俺たちの真下、地下2100mの所にいます。
アルファ: 畜生、隊員がもう一名ロストした。とにかく、早く扉まで撤退するぞ。編成は7番に変える。
ブラボー: アイツ、まだ入って2ヶ月だったってのにこんな……。
(数分間、部隊の歩く音のみ記録)
ブラボー: 明らかに来た時より長い道を歩いてる。
エコー: なんか、段々アイツら近づいてきてるな。
アルファ: これ以上、我々に186-JP-1が接近してくる様なら、発砲しろ。
ブラボー: 今すぐ撃ってやりたいぜ。
(180秒間、部隊の歩く音が記録されている)
アルファ: 止まれ! ブラボー、レーションを貸せ。
ブラボー: どうぞ。
(アルファが動いたことによるノイズ)
アルファ: 見ろ。俺の投げたレーションが上に吹っ飛んだ。 重力異常エリアだ。
エコー: よく気づきましたね。
アルファ: 木の葉っぱが上に垂れ下がってたからな。ここは迂回しよう。エリアには入るな、空に落ちるぞ。
(数分間、部隊の移動する音のみ記録)
エコー: さっきよりアイツらが近づいてきてませんか?
アルファ: クソ、警告として撃ってみるか……。ブラボー、小銃用意。
ブラボー: 了解。これよりSCP-186-JP-1に警告射撃を開始します。
(散発的な発砲音とアルファが激しく動いたためノイズが記録されている)
アルファ: クソ、襲ってきた!
(更に発砲音)
ブラボー: 2体倒しましたが、死んでません!
エコー: 10時方向より更に複数が接近!
アルファ: 総員、全速力で撤退しろ。
ブラボー: いや、これもうダメだわ。アルファ、エコー、先に行けよ。俺はここでアイツらを足止めする。
アルファ: ダメだ。
ブラボー: 行けって。パパが居なくなったら███が悲しむぞ。
エコー: 逃げましょう!
アルファ: ブラボー、"鬼の手"作戦の時は2人で生き延びたじゃないか。
ブラボー: █████。(転写者注、アルファの本名)頼む。行ってくれ。
アルファ: クソ。
(210秒間、アルファの走る音のみ記録)
アルファ: はぁ。情けねぇ、ブラボーを置いてきた。俺は最低の人間だ。
エコー: 多分、彼なら大丈夫です。平気ですよ。
アルファ: ……そう願おう。
(数分間、アルファの歩く音のみ記録)
アルファ: マーカーだ。近くに扉があるはずだ。
エコー: 良かった……。
この後、機動部隊せ-12(『配達員』)のチームリーダー・アルファは無事に貨物コンテナの扉まで辿り着き、待機していた職員により救出されました。
なお、機動部隊せ-12のメンバーはアルファ・ブラボー・チャーリー・デルタの4名のみであり、記録音声の途中より出現した"エコー"が何者であったのかは不明です。