アイテム番号: SCP-1899-JP
オブジェクトクラス: Safe
特別収容プロトコル: SCP-1899-JPの存在する美術館は現在時点で財団フロント企業の運営下にあり、一般人のSCP-1899-JPへの偶発的な侵入は施錠および警備員によって阻止されます。また、財団職員によるSCP-1899-JPへの侵入は現在禁止されています。内部調査を希望する場合は担当職員の許可と、ボルヘス心理検査における基準を達していることが必要とされます。
説明: SCP-1899-JPは██県の美術館に存在する螺旋階段です。
SCP-1899-JPの異常性はSCP-1899-JPを始点から昇った場合発生します。始点からSCP-1899-JPを昇り続けた場合、本来終点に位置する部分に新たな階段が発生、接続します。始点以外の箇所から昇った場合、この階段は発生せず、通常同様行き止まりとなります。この階段の外見はSCP-1899-JPと変わりありません。SCP-1899-JPの全長は存在する美術館の全長より長く、約3000m程であり何らかの空間異常を伴っているものと推測されます。
SCP-1899-JPを昇るごとに、昇っている対象(以下、対象)の一部は昇ることに高揚感を覚え、継続を希望するようになります。この要求は強制力を持ち合わせますが、第三者の直接的な妨害で阻害可能です。また、要求する際の発声においても微弱な強制力が発生する為、SCP-1899-JP探査の際は音声による通信は禁止されます。
対象はSCP-1899-JPを昇るに伴って、社会通念的に好ましいとされる性格へと変化していき、精神障害、精神疾患を抱えていた場合快方に向かいます。また、これらに伴い対象の影が段階的に異常な膨張を見せることが確認されています。この膨張は高揚感を覚えない人物には確認されません。
対象がSCP-1899-JPの終点に辿り着いた場合、対象の影が膨張し対象を含めた周囲を数秒間包みます。この現象発生時、いかなる方法を用いても影以外の情報は撮影、録音されません。この現象が発生後、影は急速に収縮し対象は自発的にSCP-1899-JPを降下します。この場合、対象に発生した性格の改善、精神疾患の改善は保持されます。これらの現象も高揚感を覚えない対象には確認されません。
以上の現象は中途でSCP-1899-JPを降下した場合終了し、性格の改善、精神の快方も昇降以前の状態に復帰します。また、中途で降下した場合急速に影の膨張は停止、収縮します。
以下はSCP-1899-JPに侵入し、帰還したD-1969120の聴取記録です。
インタビュー記録1899-JP-01 - 日付 20██/██/██
インタビュアー: 高研究員
対象: D-1969120 (反社会性パーソナリティ障害の診断を受けており、共感指数が著しく低いことが確認されている)
«再生開始»
高研究員: では今から聴取を行います。 D-1969120、現在の状況を具体的に答えてください
D-1969120: 生まれ変わったような気分です。俺の悪い部分が全て洗われたような気分ですね
高研究員: 生まれ変わったような、ですか。これまでの心境等と変化があったということでいいでしょうか
D-1969120: そうですね、正直今までの俺は酷い人間だったと思います。ですがあの階段を上った時、これまでの俺は徐々に無くなっていったんです。そして最後、あの階段を登り切った時、俺を包んでくれた影、あれは今までの俺その物です。これまでの俺から生まれ変わらせてくれた。感謝しかありませんし、これからは人の為に生きていけると思います
高研究員: 後悔があるということでしょうか
D-1969120: 後悔というよりはこれからの自分に対する希望でしょうか。先生、どうですか、俺はこれまでの俺と比べて
高研究員: ええ、まさしく、生まれ変わったような印象ですよ
D-1969120: ありがとうございます。生きるとは、素晴らしいことですね
«再生終了»
インタビュー後、高研究員の進言によりD-1969120の調査が行われましたが、D-1969120の生物的条件はSCP-1899-JP侵入前と変化ありませんでした。
インシデント記録1899-JP-01 - 日付 20██/██/██
20██/██/██、SCP-1899-JP探査を行っていたD-1969121において反応が消滅する事案が発生。暫定的に行方不明者として扱われました。
以下は後続調査の際発見された、事案時録音されたと推測される音声ファイルです。
音声ファイル "Audio-2" - 日付 20██/██/██
[記録開始]
D-1969121: 気味の悪い階段だ。ずっと上の方まで見えてる、どこまで続いてんだ。とりあえず昇っていく
[沈黙]
D-1969121: 誰だ
[沈黙]
D-1969121: 気のせいか? いや、確かに何かがいると思ったんだが。
[階段を上る音。徐々に音量が弱まり停止する]
D-1969121: 誰だよ、聞こえてんぞ。あぁ? 生まれ変わりたいか?
[沈黙]
D-1969121: そういうことか、そういうことかよ、ヤダよ畜生。何でテメエが決めんだよ
[約10分間、沈黙]
D-1969121: [突如叫び、激しく階段を昇り始める]俺はさ、可哀想な奴だったよ。生まれた時におふくろは蒸発して、ドブの匂いがする腐りかけた家で親父と死にかけのババアと一緒だった。親父は酒浸りでよ、ババアが死んでからは酷かった。酔っぱらって帰っては俺を蹴飛ばした。俺にはマトモなガキの時代なんてなかった。だから俺は逃げた、誰も俺を助ける奴はいなかった。助けてほしいとも思えなかった
[約10分間、駆け上がる音]
D-1969121: 家を飛び出してからもロクなことなんてなかった。酒や煙草なんてのは当たり前だった。幸い俺は腕っぷしが強かったから舐められることはなかった。馬鹿にしたやつは全員半殺しにした。反省なんてしちゃいねえ、そうしなきゃ生きられなかった。言い訳に聞こえるか? ならそれでいいよ。逃げたいか、そりゃあ逃げてえよ、ここからも、今からも、自分からも。だって生きる価値なんてねえよ
[荒い喘鳴]
D-1969121: そんな奴が行き着くとこなんてのは単純だよ、人間のゴミや屑が集まったような吹き溜まりだ。人から金巻き上げて、人を騙して狂わせて、殺して。黙れよ、今は俺の話をしてんだ。この飲んだくれ野郎が
[約30分間、階段を上る音。喘鳴、咳払い、唐突な叫びが確認される]
D-1969121: 人を殺したよ、虐めて殺して金を奪った。楽しかった、楽しかったよ畜生。薬やってるみたいでさ。そんな俺の人生は無価値なんてもんじゃないよ。マイナスだ、明らかに。誰も受け取らねえよ。俺は死んだ方が良い極悪人だね。だからこんな目に遭ってんだ。畜生、殺してやる。はは、ビビってんだろ、誰が食わせてやるか
[約2時間、階段を上る音]
D-1969121: [高音の笑い声]分かるよ、誰だって多かれ少なかれ棄ててえんだよ。生まれ変わりたいんだよ。お前もそう思ってんだろ、だから助けてやろうとしてんだろ? でも、でもよお、それはダメだろ。背負いこまなくちゃいけねえだろ、テメエが生きてきたことをテメエがダメだっつったらダメだろ。ゼロでも、地獄行きでも、自分で抱えて死ぬしかねえだろ。カッコつけてんじゃねえよ、俺は糞野郎だからな
[約10分間、沈黙]
D-1969121: これを聞く先生方、良い事を教えてやるよ、[ノイズ]は化物の巣だ。アンタらの前には出ねえだろうよ、賢い奴だぜ。[ノイズ]、自分で決めろ。あとアレだ、酒は飲むな
[嗚咽の混じった高笑い]
D-1969121: 化物、お前にゃやらねえよ。大きなお世話だ、これは俺のモンだ
[かすかな悲鳴。咀嚼音]
D-1969121: お前はそこに、その意味のない砂漠に行きてえ奴だけ持ってけよ
[咀嚼音]
[嘔吐と推測される音声]
[記録停止]
この記録を受け、再度SCP-1899-JPの実験参加者に対し薬物、催眠等の方法を用いインタビューを行いました。しかし、結果として全被験者が"化物"の存在を否定し、SCP-1899-JPの有用性が進言される結果となりました。また、この事案後SCP-1899-JPにおいてアルコール臭、吐瀉物に似た悪臭が確認されています。
補遺1: 音声ファイル回収の際、破損した画像ファイルの修復に一部成功しました。以下はその画像です。

修復された画像ファイル-1

修復された画像ファイル-2
撮影された空間、人型実体の同定は現在進行中です。