SCP-1904-JP
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アイテム番号: SCP-1904-JP

オブジェクトクラス: Euclid

特別収容プロトコル: SCP-1904-JPが存在するイタリア共和国北部のドロミーティ・カレッツァ湖は日の入りの1時間前から日の出の1時間前までの一般人の立ち入りを禁止し、侵入者が現れた場合は即座に拘束の後記憶処理が施されます。またカレッツア湖の水質保全のため、周辺区域に不法に廃棄物を投棄した人物が確認された場合は即座に拘束し、記憶処理を行った後に廃棄物を持参させ下山させます。

不調状態が1週間以上継続した場合、緊急措置としてカレッツア湖上空に水分凝固剤を散布し続け、擬似的に晴天状態を作り出す必要があります。しかしながらこの方法はカレッツア湖周辺の環境に影響を与える可能性を孕む他、水分凝固剤によって発生した凝固物がカレッツア湖に落下した場合、水質汚染の要因になる事が考慮される為、緊急時以外の実行は推奨されません。

天体運行の正常性を確保するため、SCP-1904-JP-1の活動は基本的に抑制されてはなりません。 SCP-1904-JP-1に対する調律を妨害する行為1は1日につき30分まで制限されます。またSCP-1904-JP-1と接触する担当職員には10年以上の調律の経験と高度な相対音感能力を有し、かつSCP-1904-JP-1と良好な関係を構築している人物1人が選出され、SCP-1904-JP-1の調律を間接的にサポートします。この役割を次期担当職員に継承する際、職員とSCP-1904-JP-1は最低でも2年以上接触期間を設け、良好な関係性を構築する必要があります。

調律の効率化2の面からSCP-1904-JP発生地点の周囲500m圏内には如何なる場合においても照明・光源の一切の設置は許可されません。担当職員は暗視機能を搭載したゴーグルを装備し、光を発生させない特殊な記録装置を用いてSCP-1904-JPに関わる手順に従う必要があります。

SCP-1904-JP-2に関する詳細は不明な点が多く、現在も調査が進められています。担当職員は発生のトリガーとなる大規模な天体現象の発生が予測された場合、発生時期に合わせあらゆる計器や観測装置を用いてSCP-1904-JP-2を記録してください。

説明: SCP-1904-JPはイタリア共和国北部に位置するカレッツァ湖の湖面に発生するグランドピアノの形状をしたクラスC霊的実体です。当該実体は常に日没から日出までの間出現し、昼間の出現は確認されていません。外見的特徴として霊体は非常に明瞭であり暗青色の微量な光を常に放出している事、表面に多数の光点が確認できる事が挙げられます。また一般にピアノメーカーの名称が記されている位置にはCaelum Sidereum3と記されていますが、調査の結果この名称に該当するピアノメーカーが存在した事実は明確に否定されています。

SCP-1904-JPの出現と共に、カレッツア湖の湖面は不明な理由によって如何なる環境的要因によっても波が発生しない状態となります。湖面が完全に水平となった瞬間、湖面には非常に明瞭な夜空が投影されます。特筆すべき点として夜空は上空の鏡写しではなく、SCP-1904-JPの位置からは本来観測できない南半球の夜空である事が挙げられます。湖面に夜空が投影された瞬間、SCP-1904-JPの全てのピアノ線は上空と湖面に急速に伸び、一定の位置で固定されます。ピアノ線が伸びた位置は常に全天88星座の位置する方向と一致しており、それらは88の鍵盤と直結しています。

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SCP-1904-JPのピアノ線がオリオン座に直結した際の写真

午後9時から午前3時までの間、SCP-1904-JPの周囲には50代前後のコーカソイド系と目される一体の人型霊体(以下、SCP-1904-JP-1)が出現します。SCP-1904-JP-1は外見相応の知能を有しており、ラテン語による会話が可能です。上記の時間、SCP-1904-JP-1は主にSCP-1904-JPの調律を行います。調律時には空中からチューニングハンマー等の道具を生み出し、一般的なグランドピアノの調律手順に則ってSCP-1904-JPの調律を行います。この調律を行う過程でピアノ線と接続している星座を構成する天体が明滅する現象が発生しますが、これは音高や音律が正しく調整された際に起こる現象である事がSCP-1904-JP-1の証言と観察記録から証明されています。SCP-1904-JP-1に対して行われたインタビューで、SCP-1904-JP-1は自身が霊体である事を認知しており長きに渡って調律に従事していた事を報告していますが、自身がいつから調律を行っていたかについては記憶が曖昧であるとし、明確な回答は得られませんでした。また、SCP-1904-JP-1が何処でこの技術を会得したか、何故調律に必要な道具を生み出せるのかについては判明していません4

SCP-1904-JPはカレッツア湖の湖面に届く夜間の天体の光の総量や水質の状態で音高や音律が変化する異常性を有します。天候が晴天である場合音のズレは微々たる誤差に留まりますが、曇天や雨天、霧など天体の光を遮る様な天候状態や水質が汚染された状態であった場合、音楽の知識を有さない人物であっても明確に判別できるほどのズレが発生します。

SCP-1904-JP-1が消失するまでの間にSCP-1904-JPを完全な状態まで調律できなかった場合、SCP-1904-JPは不調状態に陥ります。この不調は不明な理由で地球上から観測可能な天体の運行に作用し、不調の度合いによって星の運行方向の変動や肥大化・縮小化、あるいは消失のいずれかを引き起こす結果となります。調査の結果、SCP-1904-JPの88の鍵盤はそれぞれピアノ線が伸びている先の星座に対応する星に作用する事が判明し、現在までに不調状態によって139の星が消失したとSCP-1904-JP-1は主張しています5。また不調状態が1週間以上継続した場合、天体の運行の変動は太陽系の惑星及び衛星にも影響します。過去に2週間以上不調状態が見られた際には、火星への複数の小惑星の衝突、木星の衛星████の消滅、天王星に多数の彗星が衝突した事による地軸の変動6等の現象が発生しました。

SCP-1904-JP-1はSCP-1904-JPがカレッツア湖の高い透明度を利用し天体の光を集合させる事で形成・同化を行なっていると主張しており、上記の異常性と概ね符号する事からSCP-1904-JPはカレッツア湖の水質や周囲の環境に依存していると見られています。

発見記録: SCP-1904-JP及びSCP-1904-JP-1はピアノの発明家として知られる楽器製作家バルトロメオ・クリストフォリの遺書が1921年に発見された事がきっかけとなり収容されました。遺書の内容はクリストフォリが10代の頃にSCP-1904-JP及びSCP-1904-JP-1に酷似した存在と遭遇したというもので「彼の側にある美しき音色を出すそれに私は魅入られ人生の全てを費やしてきた。結果として私はピアノを完成させるに至ったが、遂に同じ物を作る事は出来なかった」と記されていました。この記述を見た遺書の発見者がカレッツア湖に赴いた所、記述と合致するSCP-1904-JPを発見した事から周辺地域で話題となり、結果として財団の注意を引きました。収容に赴いた当時の財団は周辺地域にカバーストーリー「霧の錯覚」を発動し発見者に記憶処理を実行。SCP-1904-JP-1に対してのインタビューなどから基礎的な収容手順が確立され、その過程でSCP-1904-JPが不調状態となり天体の運行が変動する異常性が認められました。

補遺1: 2032年10月21日午後9時、SCP-1904-JPの周囲にSCP-1904-JP-1とは異なる霊体(以下、SCP-1904-JP-2)が出現しました。SCP-1904-JP-2は30代前後と目される国籍不明の女性の容姿を取り、SCP-1904-JPと同一の模様と見られるドレスを身に纏っていました。SCP-1904-JP-2は財団エージェントの呼びかけには一切応じずSCP-1904-JPに付属した椅子に腰掛け、未知の曲を演奏しました。演奏開始直後、SCP-1904-JPの位置するイタリア北部では確認された限りで5000以上の流星が確認され、この全てが地球の衛星軌道上に浮遊していたスペースデブリである事が後の調査によって判明しました。またSCP-1904-JP-2の演奏中、鳴らされた鍵盤に対応する星座の星が激しく明滅し、演奏が進む毎に世界各地で大気中に浮遊する塵が指数関数的に減少していくという事態が確認されました。3時間後、演奏し終えたSCP-1904-JP-2は腰掛けた状態で消失しました。その後、世界各地でりゅう座流星群の大流星雨が非常に明瞭に観測されました。

後日SCP-1904-JP-1に対し、SCP-1904-JP-2に関するインタビューが行われました。以下はその詳細が記録された音声ログです。

インタビュアー: エージェント・アダン

対象: SCP-1904-JP-1

補足: SCP-1904-JP-1には簡易的にSCP-1904-JP-2に関する情報や写真等を提供した上でインタビューを開始しました。

<記録開始>

エージェント・アダン: それではインタビューを開始します。

SCP-1904-JP-1: 手短に頼むよ。

エージェント・アダン: 承知しています。ですので率直に。SCP-1904-JP-1、あなたはSCP-1904-JP-2に該当する霊体に心当たりはありますか?

SCP-1904-JP-1: いいや、私は全く知らないな。生まれて[少しの沈黙]いや、自己の存在を認識し始めてからだな。私と同じような存在に会った覚えはないよ。

エージェント・アダン: SCP-1904-JP-2の出現時、あなたは何をしていましたか?

SCP-1904-JP-1: 私は消えている間の記憶を持たない。だから何もしていないと答えるべきだろうね。ただ今までも偶にこういう機会はあったのかもしれないな。

エージェント・アダン: と言うと?

SCP-1904-JP-1: 一日中私が現れなかった分、何というか微妙な倦怠感を感じるんだよ。腕が鈍る程のものでは無いが、今までもこういう倦怠感は何度か感じた事があってね。

エージェント・アダン: 分かりました。ちなみにSCP-1904-JPに何かしらの変化は見られますか?

SCP-1904-JP-1: いいや。正直言って不思議なくらいに何も無いんだ。勿論いつも通り微々たる調整は必須な程度ではあるんだけど、そこも含めていつもと変わらないんだよ。そんな不思議な出来事があったと言われなければ分からないくらいにはね。

エージェント・アダン: そうですか。

[暫くの沈黙]

SCP-1904-JP-1: いや、でも。

エージェント・アダン: 何でしょうか?

SCP-1904-JP-1: ああ、違うよ。その何とか2って人の事じゃなく。

SCP-1904-JP-1: ただ、単純に、少し嬉しかったんだ。

エージェント・アダン: 嬉しかった?

SCP-1904-JP-1: 私は聞いたことはないが、ピアノ……と言うんだったかな?これを君たちは。演奏すると綺麗な音が鳴るんだろう?

SCP-1904-JP-1: このピアノはここから見える星と連動している。放っておいてはあの細い月でさえ迷い星になってしまう。私はそうならないように、星が夜を迷わぬように今まで導いてきた。それが私の唯一の使命だったからね。

エージェント・アダン: [沈黙]

SCP-1904-JP-1: 楽器を100年、1000年と調律していても、それがこの夜空を守る為に必要な義務だったとしても、結局誰にも弾かれないのならそれは楽器では無いと思うんだが、違うかい?

エージェント・アダン: [少しの沈黙]否定はしません。

SCP-1904-JP-1: それをさ、誰かが弾いてくれていたんだ。私がやってきた事はもう一つの意味でも無駄ではなかった。こんなに嬉しい事は無いんだよ。

[少しの沈黙]

SCP-1904-JP-1: ただ、それだけだ。その事が知れただけで満足だ。

エージェント・アダン: ありがとうございました。インタビューを終了します。

<記録終了>

SCP-1904-JP-1が報告した倦怠感を感じた時期と過去の天文史を照合させた結果、全ての場合において大流星雨や惑星直列などの記録的な天文現象が報告された時期と重複する事が判明しました。この事からSCP-1904-JP-2の発生条件は天文現象の発生時であると推測されており、今後のSCP-1904-JP-2の発生時期の特定に有効であると見られています。また当該事案後に判明した事実として、地球上空に浮遊していた主要なスペースデブリの総数の約4分の3が除去された事が発覚しました。財団はこれがSCP-1904-JP-2の異常性によるものとの見解を示し、異常性の解明が急務となっています。

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