SCP-1913-JP
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croquis

D-7823により作成されたSCP-1913-JP-Aの速写画。

アイテム番号: SCP-1913-JP

オブジェクトクラス: Safe

特別収容プロトコル: SCP-1913-JPが内在する建築物は現在セクター-3331として運用されています。SCP-1913-JPへの進入口は封鎖され、改築により前室が設けられています。SCP-1913-JP内の監視には、以前から設置されていた非特異性の設備を利用します。特異性の定期点検は、担当職員に調査機器と描画用画材を携帯させて行います。

説明: SCP-1913-JPは東京都千代田区にあるコンクリート建築物の一室です。建築物の内扉からのみ進入でき、通気口などを除き建築物外との接続点はありません。内部は10m×10m×3m程度の空間を有し、以下の非特異性の特徴が存在します。なお建築物には、GoI-████(Are We Cool Yet?)1の関連人物が訪問した痕跡が数多く残されています。

  • すべての壁面の大部分は鏡に覆われている。
  • 天井の4ヵ所、および扉付近を内部と外部から映す位置の2ヵ所に監視カメラが設置されている。記録された映像は建造物内の別室に取り付けられたコンピュータにて保存され、モニターで監視可能だった。
  • 中心部に高さ0.6mの木製スツールが設置されている。脚部と床は金具により留められている。

SCP-1913-JPの天井と床に取り付けられた照明の表面には、異常色彩論の原理に基づく装飾が施されています。照明装飾と内部の鏡との関係により、SCP-1913-JP全体で一般的な人間には認識不可能な光の屈折と色覚異常が発生します。SCP-1913-JPへ進入した多くの存在(以下、被験者)は無自覚のうちに影響下に置かれますが、この段階では明確な異常に曝露せず、SCP-1913-JPでの視覚も正常です。

被験者が何らかの表現活動を行う意思を持った場合、SCP-1913-JPによる空間性影響は視覚的段階に移行します。このとき被験者は実像(以下、SCP-1913-JP-A)を、スツール付近に幻視します。30秒~60秒の範囲で、SCP-1913-JP-Aの形態は溶解した後に再集合するようにして変化します。SCP-1913-JP-Aの変化の過程は被験者により異なりますが、最初に認識するSCP-1913-JP-Aは「裸体の被験者がスツールに座る姿」に固定されています。

実験記録1913-JP - 視認するSCP-1913-JP-Aの具体例調査

被験者: D-9629(30歳日本人男性、芸術に関する一定の技術を持つ)

実施方法: D-9629に調査機器を装着させ、筆記用具とスケッチブックを所持させた上でSCP-1913-JPへ進入させる。SCP-1913-JP内でスケッチをするように指示し、視認したSCP-1913-JP-Aを描画させる。

結果: 報告された結果の抜粋を以下に記載。

維持時間 報告されたSCP-1913-JP-A
36秒 裸体のD-9629。無表情のまま、自然体でスツールに座っている。
43秒 肉体が変形したD-9629。脚と頭部に対し胴部が後方に押し出されている。
34秒 成人男性を模した彫刻。アントニー・ゴームリーの作品と細部の特徴が一致。
56秒 オレンジのみが盛られた木製皿。1個が灰色に変色していた。
52秒 段組みの一部が欠落したトランプタワー。崩壊する前兆を見せなかった。
48秒 首が逆向きの競走馬。
37秒 鎚が規格外に巨大な金鎚。木柄が接地しており、鎚を支えている。
31秒 パブ風の立て看板。表面で値段を示す数字が右往左往する。
58秒 幾多の筒が突き刺さったコンクリートの直方体。筒からは透明な粒を排出していた。
55秒 [編集済]。周辺に置かれたクオーツ時計は過去の発生時刻と一致。
54秒 ツル植物に逆さ吊りにされたビルバオ・グッゲンハイム美術館の模型。
47秒 一定の空間をループして降り注ぐ、小さな顔のない人型実体の群れ。
59秒 黒い液体が入ったカップ1杯。

視認したSCP-1913-JP-Aに対し、D-9629は当初こそ困惑と警戒の様相を示した。しかし、SCP-1913-JP-Aを描画する回数を重ねるにつれ、D-9629はSCP-1913-JP-Aを注視するような姿勢に推移した。

実験終了後のインタビューにて、D-9629はSCP-1913-JP-Aと自身との同一性を主張した。すべてのSCP-1913-JP-Aが表す物事は自身の構成要素に含まれていると説明し、スケッチにより描き留めることで発見を得たと述べた。この精神変化はSCP-1913-JPやSCP-1913-JP-Aが直接発する精神影響効果によるものではなく、SCP-1913-JP-Aの視認が被験者に促すものと分析されている。他の職員にもこの実験を実施したが、精神変化の種類や程度が異なり、一切の影響を受けない事例もあった。


発見経緯: 20██/11/09、SCP-1913-JPはPoI-10521(江郷 詩淹えごう しえん)が財団に対して直接的な接触を図った際に発見されました。PoI-10521はGoI-████と関連する異常芸術家であり、確保時点で後援者の支援を得てSCP-1913-JPを管理運営していました。拘束時、無抵抗を宣言し、自身が有するGoI-████の情報を提供する旨を伝えました。

PoI-10521へのインタビュー記録
20██/11/09
担当者: 梅田 綾

インタビュアー: 単刀直入に聞きます。あなたの目的はどういったものですか?

PoI-10521: 自爆を疑ってんなら安心してもらって構わない。あの枠組みの中でやる仕事が無くなったから、清算してもらいに来ただけだ。連中の反応は知りたかったが。

インタビュアー: しかし、あなたには芸術家とは別の役職があるはずです。あなたの後援者は、管理者としてあなたを支援していました。それを放棄するのは合理性がないように思いますが?

PoI-10521: まだ密偵の可能性を疑ってんのか? 合理性なんか知ったことか。あの部屋は俺からパトロンに持ちかけて支援を頼み、築き上げた。俺の仕事をやるために、だ。俺の仕事は終わった。もう用済みなんだよ。

インタビュアー: なるほど。その仕事とやらに触れる前に、部屋について聞いておく必要がありそうですね。今一度、あの部屋の役割を説明してもらえませんか?

PoI-10521: 仕方ないな。簡単に言えば、あの部屋はAre We Cool Yet?の公共空間だ。異常芸術に関与してる人間なら誰だって立ち入れる。利用者のほとんどは芸術家だった。娯楽で嗜む段階じゃなく、実際に作品制作をする奴ら。

インタビュアー: 彼らは制作のために部屋を使用していましたか?

PoI-10521: 当然、そうだろ。だが、あんたが考えてるような筆やノミを使う段階の話じゃない。

インタビュアー: 構想段階ということですか?

PoI-10521: もっと前の話だ。芸術家の創作意欲ってのは、虚無から湧いては来ない。情動なり違和感なり、形を持たせたい観念を抱いた瞬間から表現の思索が始まることがある。そこを切り口にするには、何かを見つめなきゃならない。その対象に芸術家自身が選択されるのはよくあることだ。で、ああいう部屋は自分を見つめるのに最も適してる。

インタビュアー: つまり、あの部屋は自己を探求する装置ということですか。

PoI-10521: ああ。そこは俺も、使ってた作家もパトロンも同じ見解だろうよ。

インタビュアー: わかりました。次に、あの部屋を運営していた理由について、教えてくれませんか。

PoI-10521: 奴らの勘違いを指摘するためさ。

インタビュアー: 詳しく、お願いします。

PoI-10521: [吐息] あそこは勘違い野郎で溢れ返ってる。正直言って、別に絵画を設置した空間で人が死のうと俺はどうでもいい。それは俺とは何の繋がりもないんだ。問題は、人を殺して何がしたいかなんだよ。そのメッセージのために鑑賞者が死亡する意味はあったのか、そのイデオロギーを伝達するためにビルを爆破する意義はあったのか。いいんだ、それが本当に相応しいのなら。だが、最近は少々目に余る。

インタビュアー: 異常を用いた表現に対する疑念、ですか?

PoI-10521: 少し違う。異常はツールとして悪かない。問題は、使い手にある。「素晴らしい芸術」を思い浮かべてみろよ。古代ギリシアの彫刻から21世紀のポップ・アートに至るまで、大量の作品が出てくる。範囲を絞って自画像にしてやってもいい。異常を使わない作家だって、意欲と審美眼で新たな領域を開拓してる。それにひきかえ、凡百な異常芸術家ってのは異常の上に胡坐を掻いて座ったままだ。

インタビュアー: 異常芸術家たちの技法に問題があると?

インタビュアー: そんなところかな。考えてみろ。俺たちは普通じゃないことができるはずなんだ。なのに、言葉遊びかテロリズムで満足してる連中で溢れてる。その異常で切り開ける境地があるとは思考の隅にもない。そういう奴が増え過ぎた。基礎デッサンから見出せる領域すらおざなりにして、コピーされたような特異を有難がって、その導入に躍起になってる芸術家が。

インタビュアー: あなたの熱意は理解しましたが、意図と行動が合致していないように思います。異常な空間での幻覚により自己探求を促すのは、あなたの嫌悪する事柄と同義ではないのですか?

PoI-10521: 結論を急ぐな。理解したんだろ。異常芸術家は異常が大好きだ。向き合うべき己や芸術の世界じゃなく、異常に向き合うくらいには。 [沈黙] なあ、あんた。あんたは自分を何だと思う?

インタビュアー: その質問に回答する必要性を感じません。

PoI-10521: だろうな。あんた、芸術に何の関心もなさそうな顔をしてる。この問いも下らないと思ってる。それでいい。どう思考を捏ね繰り回したって、あんたはあんたで俺は俺だ。だからといって、俺は探求が無意味とは思わない。

インタビュアー: 何が言いたいのですか?

PoI-10521: 俺は異常のない芸術から異常芸術に移った身だ。教え込まれたワードに「探求は観察から始まる」ってのがある。己の崩れた姿勢が他者との差異を明示し、内側に潜む何者かを引き出すことに繋がるんだ。対して、異常芸術家は創出された安易な異常に目を輝かせる。例外が無かったわけじゃないが、奴らは次々と、自分とは無縁の幻覚に己が内在してると勘違いした。

インタビュアー: すると、被験者が幻視する像には何の意味もないと?

PoI-10521: 当たり前だろ。ランダムな事象を錯覚させるだけの簡単な絡繰りだ。特殊なことといえば、利用する奴の裸体を最初に反映する細工を施したくらいか。浅い仕掛けだよ。奴ら、意味のない影を自分だと思い込んで必死にクロッキーするんだ。自分の内側から引き出すべき芸術家の魂が、そんな簡単に見えてたまるかよ。

インタビュアー: それを誘発させるのが、あの部屋の役割ですか。

PoI-10521: 誘発? 人聞きの悪い。俺は確かに自己探求のために部屋を貸したし、設備を整えたやった。どこに座って何を描けばいいかなんて、一目瞭然だ。わざわざスツールを置いて、壁を鏡張りにしてやったんだから。 [笑い] それに、あの部屋は俺の部屋だ。そんな薄い役割じゃない。異常を使った最後の作品を構築するための、俺のクロッキー部屋さ。

インタビュアー: 作品制作をされていたんですね。その作品は何処に?

PoI-10521: 俺の知ったことじゃない。破棄されてるかもな。

インタビュアー: なぜそう思うのですか?

PoI-10521: 作品に異常を使わなかったから。紙と鉛筆で十分、それが俺自身の表現方法として行き着いた結論だ。だが、異常には無限の可能性があるのは変わらない。人間の素性を明かすのは異常の領域。それを視覚的に描き取ることこそが俺の、いや、俺たちの仕事だ。もう俺は席から外れるがな。


情報提供の後、PoI-10521は超常社会に関する知識の記憶処理と社会復帰援助を要求しました。この要求は却下され、PoI-10521の処分は保留されています。


補遺: PoI-10521により提供された情報を基として調査を行ったところ、1件の異常芸術イベントの痕跡が発見されました。イベントは東京都港区にて、PoI-10521の拘留直後に開催されたことが判明しています。このイベントの主催者はPoI-10521の後援者と一致していました。

イベント内容は異常芸術を取り扱う展示会であり、多数の異常芸術家が作品を出品していました。これらの芸術家は過去にSCP-1913-JPを利用していたとPoI-10521は発言しています。利用時期との関係から、作品はSCP-1913-JP利用後に制作されたと考えられます。

イベント調査の過程にて、PoI-10521が"江郷 詩淹"名義で出品したと思わしき作品が放棄されているのを発見し、調査班はこれを回収しました。以下に内容を記載します。

材質: 紙、鉛筆

内容: クロッキーによる人物画が描き込まれた紙。紙は複数枚存在する。端には名前が書かれており、SCP-1913-JPを利用した異常芸術家の名前と一致した。このことから、描画対象は複数の異常芸術家だと判明している。

速写画は、描画する様子、部屋から入退出する様子を一人につき何パターンか描き留めていた。描画する様子については、顔を中心に感情的な動作を流れるような線で描いている。

説明文: 異常を使役するのが異常芸術家ならば、異常に魅入られるな。自己から目を逸らして、一体何処を見ているんだ。Hey, Are Really You Cool Yet?なぁ、本当にお前たちは冷静か?


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