アイテム番号: SCP-1914-JP
オブジェクトクラス: Euclid
特別収容プロトコル: 発見されたSCP-1914-JPの敷地は立ち入り禁止にし、近隣宅には常に3名以上のエージェントが滞在し監視を行います。庭の内縁には環境に基づきカバーストーリー「模様替え」を実施し、高さ3m以上のフェンスの設置、生垣や高木の植樹がなされ、SCP-1914-JP異常性発生地点の周囲からの目撃を防止します。内部で調査をする全ての人員およびSCP-1914-JP-A解析担当員は下記の条件を満たしている必要があります。
- 3親等内の姻族が二階建ての家屋に暮らしていない。
- 兄弟がいない。
- 家族に関する心的外傷を持たない。
- ペットを飼育していない。
- 自殺未遂の経験がない。
また、心理的影響を考慮し、担当職員は1日5時間以上の滞在を許可されず、3時間ごとに人員の交代が行われます。隔週の心理鑑定と専用メンタル適正テストを受けることが義務付けられ、テストスコアが150点以下の職員はオブジェクト担当から外されます。もしSCP-1914-JP滞在中の職員が不快感を覚えた場合、すぐに担当の上級研究員に報告する必要があります。
説明: SCP-1914-JPは京都府京都市右京区███に位置する一軒家です。収容以前は所有者である脳神経学者の海原烈(かいばら れつ)教授の娘、海原春香(かいばら はるか)氏、当時26歳が居住していましたが、現在行方不明となっているため無人です。
SCP-1914-JPは2018年7月20日、ホームセキュリティサービス███が当該家屋の異常を検知し、担当職員が駆けつけた時に発覚しました。発見当時のSCP-1914-JPは在宅セキュリティモードとなっており、1階居間の窓、および2階寝室の窓が開放されたことにより防犯センサーが作動したことが判明しています。███職員は裏庭のコンクリートに人間の血液や脳組織と思しき物体が飛散していることを確認し警察に通報、その後に現場の状況の異常性を確認した警察から調査権を財団に引き渡されました。
SCP-1914-JPの特筆すべき特徴は下記の通りです。
裏庭 | 2階窓直下に飛散した脳組織、血液、頭蓋骨の混合物。30分に1回の頻度で同地点に再発し、蓄積される。 |
階段 | 1階居間から2階窓に続く足跡。春香氏の足跡と一致しており、失踪当時着用していたと思われる靴下を履いていることが判明している。発見当時は泥のみが付着していたが、現在は血液や脳組織も混じった状態となっている。 |
1階居間 | 庭に面して食卓に設置された2014年型Macbook pro(SCP-1914-JP-Aと指定)。後述。 |
1階応接間 | 60cmレギュラー水槽2基。1基は計30匹の小型熱帯魚の死骸が浮いており、全て腐敗せずに残存している。1基は空になっている。両水槽から殺虫剤の成分が多量検出されており、窒息性ガスを放出している。 |
1階キッチン | まな板に固定されたレインボースネークヘッド(Channa Bleheri)。エラに釘が貫通しており、現在も呼吸を繰り返している。 |
2階寝室 | 天井から絶えず降り注ぐ画用紙、コピー用紙など、多数の紙類の燃えカス。一部燃焼が続いており、接触すると皮膚を切り傷状に炭化させる。一部の紙片からは「it's my life」という文字が読み取れる。 |
SCP-1914-JP-Aは1階居間の食卓に設置された2014年型Macbook proです。電源に接続されていないにも関わらず、残電量は常に71%を維持しており、電源を切る試みは失敗しています。時間表示は2018年7月20日の17:13で固定されています。画面上ではビデオチャットソフトのSkypeが起動しており、春香氏の母親の海原しのぶ氏と思しき女性(SCP-1914-JP-Bと呼称)との通話画面になっています。映像の背景はアメリカ合衆国オレゴン州シアトルの海原氏宅リビングルームですが、当該地点に映像の録画媒体は見つかりませんでした。Skypeのログ上から通話は日本時間2018年07月20日の16:32に開始したことが判明しています。ログにはしのぶ氏から春香氏へ向けた画像ファイルの共有が行われた形跡があり、サムネイルから電気代や水道代などの支払い通知のスキャン画像であると判明しています。
SCP-1914-JPでのSCP-1914-JP-Bは春香氏への呼びかけと謝罪の言葉を繰り返しており、深刻な精神失調状態にあると考えられます。職員はSCP-1914-JP-Bへの対話を試みましたが応答はなく、唯一後述の異常性に曝露した人物のみを認識している様子が確認されました。
SCP-1914-JPに進入した一部の人物、以下被影響者は、異常な状況によるものとは別に不快感を覚えます。この不快感は形容が難しいとされ、最も近いとされる感情は「悔しさ」であるという証言が確認されています。この感情はSCP-1914-JP敷地内に滞在するほど増幅し、特に居間とキッチンに滞在することで顕著になります。3時間以上滞在を継続する、もしくは一定レベルまで感情が増幅した被影響者は突然怒りを覚え、足跡を辿って2階寝室へ駆け上り、頭部を下にして飛び降ります。この行動は被影響者が飛び降りる前にSCP-1914-JP敷地外へと運び出すことで解消されますが、一度飛び降りた被影響者は他者からの干渉が不可能になります。飛び降りた被影響者は概ね脳、頭蓋骨、頚骨に重大な損傷を負うにも関わらず、10分以内に立ち上がり、再度階段を経由して2階へ移動し、飛び降り行為を繰り返します。この行為は頭部が完全に粉砕しても継続し、窓への物理的な移動が不可能になることで活動を停止し外部からの干渉が可能になります。この時、SCP-1914-JP-Bは被影響者の落下を認識しており、悲鳴をあげる、何度も謝罪を繰り返す、目や耳を覆うなどの行動が確認されます。この反応は画面を布などで目隠ししても見られ、SCP-1914-JP-Bには飛び降りる被影響者以外を認知できないと考えられます。現在に至るまでSCP-1914-JP被影響者となった職員は5名であり、飛び降りを敢行した職員は2名です。
SCP-1914-JPの発生に関与するとされる海原しのぶ氏へのインタビューを計画しましたが、海原教授としのぶ氏はSCP-1914-JPの異常性発覚と同日に消息の途絶えた███航空██便に搭乗していたことが判明しました。同機は現在も捜索が続いていますが、太平洋上で発見された右翼片を除き有益な情報は発見されていません。
SCP-1914-JP被影響者のインタビュー記録
対象: 山川研究員
インタビュアー: 南博士
<録音開始>
南博士: 山川研究員、あなたがオブジェクトに曝露された時の詳細を教えてください。
山川研究員: はい。私が家に入った時、胸の中に嫌な感覚がありました。言葉にするのは難しいのですが、ムカムカするような、イライラするような…とにかく、むず痒い不快感です。南博士: 入った時点で、ですか。それがあの行動に至った時、どのような心境の変化がありましたか?
山川研究員: 感情の増幅は穏やかなものでした。ただ、その後突然、もう嫌だ、全部めちゃくちゃにしてやる、という気持ちが弾けるように湧いて、気がついたら窓枠に足をかけていました。それも同僚たちに引きずられて家を出たら、スッとおさまりましたが。
南博士: 他に、何か感じたことは。
山川研究員: そうですね…なんとなく、あのオブジェクトがああなった気持ちがわかる気がします。
南博士: 気持ちとは?
山川研究員: いえ、ハッキリとはわからないんです。でも、SCP-1914-JPの各部屋を見て、なんだか状況に納得したというか、なるべくしてなったと、感じました。それにSCP-1914-JP-Bの様子を見た時、苛立ちが募りました。冷静に考えると相応しくない感情ですし、とても形容しがたいので言葉にできるまで時間をいただきたいです。
南博士: わかりました。今回はありがとうございます。
<録音終了>
終了報告書: 他のSCP-1914-JP被影響者からも、山川研究員と同様の証言が得られました。現在心理カウンセラーによる心理鑑定やインタビューが継続されています。
事案記録-2018年8月5日: SCP-1914-JP担当職員の山川研究員が失踪しました。最後の目撃報告はサイト-81██の喫煙室でスマートフォンを操作していた時であり、その後オフィスに戻らなかったことから事態が発覚しました。 山川研究員の家族も同じく音信不通となり、翌日に職員が家宅を訪問したところ、山川研究員の長男が飛び降りを繰り返していることが確認されました。リビングルームには山川研究員の飼い犬の撲殺死体のほか、長男のタブレット端末が裏庭に向けて設置され、画面にはサイト-81██の喫煙室を背景に山川研究員(以降SCP-1914-JP-B-2)が映し出されていました。SCP-1914-JP-B-2は職員への応答をしませんでしたが、以下の発言を繰り返していました。
おそらく同僚たちが見つけてくれると信じています。そうでない人は今から私のいう番号に連絡してくれ、[財団フロント企業の番号]だ、そのままは絶対に帰るな、身内を巻き込みたくなければ。同僚であれば、どうか君たちの中に私と同じ者がいないことを祈ります。私は司(長男の名前)とSkypeで通話をしていました。普通の話でした。しかし、今月分の仕送り1をする話をしたら突然司が「余計なことをするな」と怒り出しました。説得をしたのですが聞き入れてくれず、何を怒っているかもわからないうちに司は…タイ(SCP-1914-JP-B-2の愛犬の柴犬)を殴り殺し、「なにもいらない」と言いながら飛び降りました。そして、今も飛び降りています。私はSkypeを切りたくても、切ることができません。そしてここから出ることもできません。ずっと司の潰れる音が聞こえるし、見える。頭の潰れたタイが前足をばたつかせているのが見える。どうか、このオブジェクトを拡散させないでください。そして、できれば助けてください。
2018年8月15日現在、SCP-1914-JP-B-2は長男への呼びかけと謝罪を繰り返すのみであり、SCP-1914-JP-Bと同様の状態となっています。山川研究員宅はSCP-1914-JP-2に分類されました。
確認されたSCP-1914-JP
SCP-1914-JP-2
場所: 大阪府大阪市淀川区███
SCP-1914-JP-B個体: 山川研究員
備考: 山川研究員の24歳の息子が飛び降り。息子は東京で暮らし、就職していた。山川研究員は息子に断られながらも資金援助や定期的な連絡を取っており、親族の話では関係は良好だった。
SCP-1914-JP-3
場所: 中国上海市楊浦区███
SCP-1914-JP-B個体: 青森県十和田市在住の女性
備考: -Bの19歳の娘が飛び降り。娘は中国上海市の大学に通っており、女性は定期的な連絡を取っていた。親族の話では関係は良好だった。
SCP-1914-JP-4
場所: 東京都調布市███
SCP-1914-JP-B個体: 沖縄県那覇市在住の男性
備考: -Bの21歳の息子が飛び降り。息子は東京都の大学に通っており、男性は息子と定期的な連絡を取っていた。親族の話では父親が子煩悩と評されるほど関係は良好だった。
山川研究員の事例から、SCP-1914-JP実例にいくつか共通点が判明した。全ての事例において親子関係は良好だと言われているが、いずれも親側の関係者の証言だ。親はいずれも子煩悩であり、子供をとても大事に扱っていたという。一方で飛び降りした者の部屋の調査資料を見たが、いずれも家族写真はなく、異常性で破壊こそされているが何かしらのめり込む趣味があったことがうかがえる。山川研究員も自身の親のことをあまり話したがらない男だったそうだ。この子側の感情が、SCP-1914-JP発現のキーになっている可能性が高いため、より詳しい調査が必要と考える。 - 南博士