説明: SCP-1983-JPは地点[編集済]の家屋とその敷地に関連して発生する、閾値不明のタイプIV反ミーム侵襲です。この侵襲は不可逆的なものであり、回復の試みは失敗しました。異常性は2011年に確認されました。
SCP-1983-JP内の物品に対しヒトなどの知性は無意識に対象を観測することを避けようとします。結果、強く意識しない限り知性はSCP-1983-JP家屋や物品の存在を知覚することができません。
また、不可逆的な短期の前向性健忘が発生し、ヒトなどの知性はSCP-1983-JPについて意識して長時間記憶していることが不可能であることが確認されています。よって、収容チームはSCP-1983-JPの文書をアブリ-アルゴリズムによって機械生成することを決定しました。
SCP-1983-JPの領域内に知能ある生物が侵入することはできませんでした。SCP-1983-JP内のあらゆる物体には接触することができませんでした。そのため、SCP-1983-JP収容時に自動調査システムは小型ドローンを派遣し内部調査を行いました。
家屋は二階建ての木造住宅で、家屋と敷地を含めた土地面積は13m×21mです。SCP-1983-JPは1996年に建設されたものであると記録されています。家屋の内部調査は、30代の日本人夫婦とその息子が確かにここで生活していたことを推測させます。しかし、彼らは現在SCP-1983-JPには存在していません。
SCP-1983-JP家屋に居住していたであろう人物を示す情報は、家屋内にも外の社会にも全く存在せず、彼らを追跡、特定するすべての試みは失敗しました。SCP-1983-JPが住人によって建造されたとみられる記録が残っていることから、現在、何らかの理由で居住者が消失していると考えられます。
内部記録:
2011年に自動調査システムによってドローン探査が行われました。ドローンはSCP-1983-JP内を自動誘導で飛行し、観測した内容はアブリ-アルゴリズムによって解析され、逐次文章化されました。
ドローンは最初に家屋の周囲を探査しました。玄関の前には車が停まっており、左方の庭には雪が薄く積もっています。特に異常は観測されていません。家屋の窓はすべて丁寧に磨かれています。後方の倉庫には一般的な家庭でもみられる工具やスポーツ用品、自転車が収納されていました。
トイレの窓は開放されていました。ドローンはここから家屋一階、玄関に進入します。土間には成人男性、成人女性、幼児のものと想像される靴が丁寧に並べられています。特に異常は観測されていません。ドローンは玄関を過ぎ、リビングルームに突入しました。リビングルームの液晶テレビがNHK教育の15分番組"きょうの健康"を繰り返し再生していることは特筆すべき点です。
キッチンの探査を行いました。あらゆる物体に接触することができないため、引き出しや冷蔵庫の中身を確認することはできません。食洗器の上では3つのコップといくつかの食器、一組の茶碗が立てかけられ乾燥されています。器に置いてある果物や菓子類が腐敗している様子はありませんでした。また、SCP-1983-JPが発見されてから数か月が経過しているにも関わらず、ここまでの家屋内部はよく掃除された清潔な状態のまま保たれていることは特筆すべき点です。
階段の空間に進入しようとすると強い外力が発生し、二階に進むことはできませんでした。家は泣いています。ドローンは一度来た道を引き返します。大きく開けた何もない空間を通り過ぎ、外に出たところでドローンは不可視の物体に衝突しました。物体の形状を検査する試みは失敗しました。ドローンは二階の窓から侵入を試みます。家屋の窓は枠まで丁寧に掃除されていました。
ドローンは二階の廊下に進入しました。左方には帆船の水彩画の飾られた額が飾ってあります。右方には三つの扉があります。手前の部屋より探査を継続します。
最初の部屋は女性の部屋と思われます。部屋の中は整っており、衣類は丁寧に畳まれチェストに積まれています。本棚には空段があり、あまり一貫性なく旅路の品を飾っているように見えます。いくつかの本は比較的疲労した跡が確認できますが、特に異常は観測されていません。しかし、布団もなければベッドもなく、人間が生活していたような物品の痕跡は発見できませんでした。私にはわかりません。
真っ白な廊下を過ぎ、二番目の部屋に進入しました。天井の蛍光灯は点いたままの状態になっています。この部屋は男性の部屋に見えます。机上にパソコンがあり、周囲には本や書類が積み上げられています。家は泣いています。机上の写真立には家族三人、夫婦と息子の写真が飾られています。背景の海は美しく、画面一杯を覆う広大な青空が特徴的です。この部屋にも寝具もなければ電灯もなく、いったい住人はどのように生活していたのでしょうか。
家は泣いています。写真には家族は写っていません。何もない空間を過ぎると、ドローンは三番目の部屋にいました。ここはあの子の部屋です。暖かい。部屋には絨毯がひかれ、壁紙は明るいパステルカラーのものです。机の上には、ニンテンドーDSとあの子の集めた消しゴムの数々。隅にある四角い容器には、おもちゃの剣、レゴブロック、トランスフォーマーの玩具、シルバニアファミリーのドールハウス。たくさんのおもちゃが入っていました。あの子がずっと遊んできたおもちゃ達です。でも、もうおもちゃ箱には何も入っていません。何もない部屋は床も無機質で、壁も白すぎるほど白くなってしまいました。
家は泣いています。この家には家族は住んでいませんでした。あの子が好きだったバスケットボールはなく、あの方たちが一緒に使った茶碗ももうありません。私にはわかりません。皆さまを連れてきたコンパクトカーもありません。あの子は毎日朝からどこに向かっていたのでしょうか。私にはわかりません。
ドローンは雪原の上を飛んでいます。SCP-1983-JPは実在しません。家はもうありません。家はまだ泣いています。