アイテム番号: SCP-1986-JP
オブジェクトクラス: Euclid
特別収容プロトコル: SCP-1986-JPは標準的な人型収容房に収容されます。担当職員には日本語の氏名を有しない人間が充当されます。SCP-1986-JPの本名が記載された文書および電子データは公的、私的を問わず全て回収、または破棄されます。
SCP-1986-JP-Aを発見した場合、その親族に記憶処理を施した上で名の変更届を提出させ、SCP-1986-JP-Aの異常性が消失することを確認してください。その間、SCP-1986-JP-AはSCP-1986-JPと同一のプロトコルのもと、暫定的に収容されます。
説明: SCP-1986-JPは執筆時点で20代の、日本国籍を有するモンゴロイド男性です。SCP-1986-JPの左胸部には"ゲーマーズ・アゲインスト・ウィードのミスター・[データ削除](本名)"と記載されたネームプレートが、肉体に直接ピン留めされています。ネームプレートを自発的に、または他者が取り外す試みは全て失敗に終わっています。
SCP-1986-JPに対する直接の面識があり、かつ「SCP-1986-JPの本名が[データ削除]である」と認識した人間(以下、被影響者)は、氏名1の名(下の名前)に対する認識、価値観を歪曲させられます。その結果、難読、難解な名や、一般常識から著しく逸脱した名に対して非常に肯定的になります。被影響者と配偶者との間に子が生まれた場合、被影響者は上述の特徴を有する名を付けようとする傾向があります。この名には異常なミーム性または強制力があるとみられ、これまでに配偶者を含む親族が反論したり、出生届を受け付けた自治体、および法務局がこれを不受理とした例はありません。命名された子(SCP-1986-JP-Aと指定)は、SCP-1986-JPと同様の異常性を獲得します。
なお、日本語の氏名を有しない人間や、「本名が[データ削除]である人間が存在する」という事実のみを認識している人間には影響が生じないことが確認されています。
SCP-1986-JP発見の切っ掛けは、2018/07/██、短文投稿サイト「Twitter」上に投稿された「娘の保育所に変な名前の子がいる」という趣旨のツイート2が拡散され話題となった件です。財団エージェントが複数の被影響者にインタビューを実施しましたが、いずれも「異常なし」と報告されました。しかし、インタビュー記録に不自然な点が多いと指摘されたことから、海外支部の協力のもと、外国籍のエージェントによる再調査が実施されました。その結果、SCP-1986-JPの存在が浮上し、収容に至りました。
以下は財団によって発見されたSCP-1986-JP-A(いずれも改名、解放済)の一覧です。なお、被影響者がこれらの難読名をふりがなが併記されていない状態で、全て初見で正しく読むことに成功したことは特筆すべきです。
番号 | 名(表記) | 名(読み) | 備考 |
---|---|---|---|
SCP-1986-JP-A-1 | たいと | 法務省の戸籍統一文字情報には含まれず、本来は使用不可 | |
SCP-1986-JP-A-2 | ♨ | ゆのか | SCP-1986-JP-A-7に同じ |
SCP-1986-JP-A-3 | 結菜 | [言語化不可能] | 「結菜」は民間企業調査の2017年名前ランキング女の子部門で第1位 |
インタビューログ
SCP-1986-JPに対するインタビューがニックス博士によって実行されました。以下はその抜粋です。
ニックス博士: まず、あなたの過去について、覚えている限り遡って聞かせてもらえませんか?
SCP-1986-JP: えーと、そんな昔のことは覚えてないけど。ああ、最初はね、自分の部屋で目が覚めたんだ。
ニックス博士: そこはどんな部屋でしたか。誰かいましたか?
SCP-1986-JP: 真っ暗な部屋の真ん中に、テレビが1台あって、あと、ファミコンが付いてた。画面に、そうだ、名前を入れてくださいってやつ。そこに、[データ削除]って入力されてた。ふと気がついて左胸を触ったら、これが[シャツを捲ってネームプレートを見せる]。ああ、他には誰もいなかったし、他に何も無かった。ポケットにはいくらかの金と、身分証明書が入ってて、実際これが俺の本名なんだなって。
ニックス博士: 時期はいつ頃でしたか?
SCP-1986-JP: 一昨年の5月の、下旬くらいだったと思う。
ニックス博士: その後、誰か不審な人物から連絡があったり、接触してきたりという事は。
SCP-1986-JP: あったよ。あんたらだ。
ニックス博士: 特に無し、ということですね。あなた自身の異常性に気づいたのはいつでしたか?
SCP-1986-JP: 切っ掛けになったのは、風邪ひいて病院へ行った時だった。看護師のおばさんに「██さん、██ [データ削除]さん。」って名前呼ばれて、立ち上がった瞬間、周りにいた客が全員、一斉に俺の方を向いて。みんな、えっ、ていう顔してた。でも、俺の顔を見ると、なんか納得したような顔になって、また、何も無かったように。ああ、でも俺の隣にいた子供が、かっこいいね、[データ削除]だって、って親に囁いてるのは聞こえたな。で、そういう事が何度かあって、俺の名前は特別なんだなって。まあ、あんたらが言う程の力があったなんて思わなかったけどさ。
ニックス博士: [データ削除]という名前について、ご自分ではどう思いますか?
SCP-1986-JP: 別に、どうってこと無いと思ってた。人の名前なんて、こんなもんだって。でもそういう事があったから、ネットで調べてみて初めて、あり得ない名前だったんだって。ああ、あんた外人だからわかんないかな、日本にはキラキラネームっていうのがあってさ。[データ削除]、ってのも、まあその部類なんだけど。
ニックス博士: 一般的でない名前を子に付けようとする親がいるのは、日本に限ったことではありませんし、浅からぬ歴史もあります。ただ、そうした名前がカテゴライズされて、揶揄や侮辱を受けたり、あるいは議論の対象となったりするのは、ある意味、現代の日本ならではの風潮とも言えるかもしれませんね。
SCP-1986-JP: ふうん。まあ今は、かっこいい名前だと思ってるよ。何かこう、ゲーマーって感じ?
ニックス博士: あなたの名前に対して、周囲の反応は概ね好評だったようですが、例外は?
SCP-1986-JP: 例外? ああ、そういえば1人だけいたな。付き合ってた子がいたんだよ。
ニックス博士: 聞かせてもらえませんか?
SCP-1986-JP: ああ。彼女とは、出会い系サイトで出会ったんだ。まあ、俺も男だしさ、下心が全然無かったとは言えないけど、その、生まれながら独りもんだったしさ、とりあえず話し相手が欲しかったんだ。彼女も、最初は乗り気じゃなさそうだったけど、何度か会ってるうちにいい感じになってきてさ。そんである日、[数秒間の沈黙]
ニックス博士: 続けてください。
SCP-1986-JP: 彼女と渋谷のクラブに行ってさ、バッキバキのハードコアでめちゃくちゃ盛り上がって、その流れで、うん、その、近くのホテルに駆け込んだんだよ。それで、俺も、気持ちが緩んでたんだな。つい、服を脱いじまったんだ。こいつがあるのをすっかり忘れてさ[左胸を指差す]。
ニックス博士: それで、彼女があなたの名前を。
SCP-1986-JP: そう。そしたら彼女、どうしたと思う? [数秒間の沈黙]名札を指差して、ゲラゲラ笑いだしたんだよ。しまいにはベッドに突っ伏して、苦しそうに、死ぬ、死ぬ、ってヒーヒー言いながら笑ってた。かれこれ2分くらいはね。そんで俺はもう、すっかり気持ちが冷めちゃってさ。服を着て、家に帰った。彼女とは、それっきり。
ニックス博士: ふむ。[タブレット端末を操作しながら]我々はあなたに影響を受けた市民を捜索し、影響を取り除くよう処置を行ってきました。その中に、あなたの話と、恐らく一致する人物がいますね。[タブレット端末の画面をSCP-1986-JPに見せる]この方ではないですか?
SCP-1986-JP: あっ、そうそうこの子だよ、間違いない。彼女だ。
ニックス博士: これは私の仮説ですが、彼女は元からこのような珍奇な、いや不適切とすら言える名前であったために、他の被影響者とは異なる形で影響が出てしまったのかも知れません。[画面を指差す]これが彼女の名前です。
SCP-1986-JP: ███ ████、えっ████、ええっ。