クレジット
タイトル: SCP-1989-JP - 『この愉快な世界を食おうとしたら、登場人物に逆襲された僕の顛末についてと今後の展望』
著者: ©︎kyougoku08
作成年: 2016
アイテム番号: SCP-1989-JP
オブジェクトクラス: Euclid
特別収容プロトコル: SCP-1989-JP-1はSCP-1989-JP-2と共に、青木ヶ原樹海に設置されたSCP-1989-JP-3を内包する形で建造されたサイト-8150内にて収容されます。SCP-1989-JP-3の周囲50mには実物、電子関わらず一切の文章、文字媒体の設置、使用を禁止します。また、SCP-1989-JP-1の閲覧、SCP-1989-JP-2に対するインタビュー及びSCP-1989-JP-3への侵入には日本支部理事の承認を必要とします。
説明: SCP-1989-JPはSCP-1989-JP-1、SCP-1989-JP-2、SCP-1989-JP-3からなるオブジェクトです。
SCP-1989-JP-1は現実改変能力を持つティーンズ文庫です。組成面は一般的な書籍と一致していることが判明しています。
SCP-1989-JP-1の異常性は付近10m以内に何らかの文章が存在するときに発生します。該当条件を満たした場合、約12時間が経過した時点で対象となった文章は、本来の文章をオマージュした内容のティーンズ向け小説に改変され、SCP-1989-JP-1と同一の異常性を持ちます。SCP-1989-JP-1が文章を改変した場合、対象となった文章が主題とする概念は消滅し、変異後の小説作品のみが残存します。その為、本来どういった文章であったか、どのような概念が消滅したかの観測は困難です。
SCP-1989-JP-1の異常性はSCP-1989-JP-3内においては停止しています。また、改変された小説は全てが1巻で完結する内容です。
SCP-1989-JP-2は日本人女性に類似した人型実体です。SCP-1989-JP-2は自らを「財団極東支部理事、千凶」と名乗り、財団の行動に対し協力的な姿勢を取っています。SCP-1989-JP-2は明るい桃色の髪、巨大な眼といった、生物学上不可能な特徴を所持しています。また、何もない空間から刃物を取り出す、手から炎を発するなどの異常特性を所持しています。
SCP-1989-JP-3は半径約100mの他世界に由来されると推測される異常領域です。SCP-1989-JP-3内部は空間異常が最低1日から最大173日の間隔で発生します。これらの異常はSCP-1989-JP-1による現実改変に起因するものであると推測されており、SCP-1989-JP-2の証言によればスクラントン現実錨に類似した装置によって同領域は維持されています。SCP-1989-JP-3内に空間異常が発生する際、異常な特性を持つ生物、物質が出現します。出現した異常存在は多くの場合SCP-1989-JP-2に敵対的です。また、火器などによる攻撃は効果を示さず、SCP-1989-JP-2による攻撃のみ影響を与えることが可能です。SCP-1989-JP-2は現在時点で出現した全ての異常存在を破壊しています。
SCP-1989-JP-2及びSCP-1989-JP-3内に出現する異常存在がSCP-1989-JP-3外に移動することは不可能ですが、外部の存在が内部へ侵入することは可能です。SCP-1989-JP-1のみ外部への持ち出しが可能ですが、SCP-1989-JP-2の強い抵抗及びその潜在的な危険性を考慮し、現在時点での持ち出しは禁止されています。
以下は20██/██/██に財団が異常なヒューム値の変動を感知し、探索部隊を送り込んだ際に発見されたSCP-1989-JP-2との会話記録です。
音声記録1989-JP-02 - 日付 20██/██/██
担当探索部隊: 探索部隊ん-7("悪書")
<記録開始>
探索部隊隊長: 全員止まれ、誰かがいる。アルファ、周囲の状況は
探索部隊隊員: 現実性強度が我々の周囲と彼女の周囲で大きく違っています、まるで他の世界とでも言うようです
SCP-1989-JP-2: やあ、…どうやらライプニッツ現実圧縮壁は無事に成功し、この本はボクたちの予想通り動いたというようだね。初めまして、君たちはもしかするとこの世界の財団、かな?
探索部隊隊長: 全員、警戒態勢を解くな。…我々の存在を知っているのか?
SCP-1989-JP-2: もちろん、だってボクは…、やれやれ、こんなのまで改変するのか。…はあ、まあ、落ち込んでいても仕方がない。さっきの質問に答えよう。だってボクは財団理事、だからね
探索部隊隊長: …我々の所持する情報に貴女の存在は無い。説明を要求する
SCP-1989-JP-2: ああ、もちろんだとも。…でも、少々待ってくれ。何があっても決して君のいるところから進まないように。…やれやれ、ボクは戦闘経験はないんだけどね
(轟音)
<記録中断>
直後、SCP-1989-JP-3内に西洋伝承内のドラゴンと類似する異常存在が出現。約15分SCP-1989-JP-2と交戦し、死亡した後消滅した。
<記録再開>
探索部隊隊長: …アレは何だったんだ。漫画やアニメじゃあるまいし
SCP-1989-JP-2: 言いえて妙だね、すまないがセキュリティクリアランス上位の人物を呼んでくれないかい? ボクは逃げも隠れもしないからさ
<記録終了>
この後、探索部隊ん-7の要請を受け、財団による収容体制が確立されました。その過程でSCP-1989-JP-3内の異常存在により██名の死傷者が発生しています。
以下は収容体制の確立後行われたSCP-1989-JP-2に対するインタビュー記録の抜粋です
インタビュー記録1989-JP-02-1 - 日付 20██/██/██
対象: SCP-1989-JP-2
インタビュアー: 佐藤博士
<録音開始>
佐藤博士: では、SCP-1989-JP-2、インタビューを開始します
SCP-1989-JP-2: 分かった。えっと…、まず、ボクがこんな話し方しかできないことを断っておく。できればもっと適切な言葉遣いで話しておきたいんだがボクのセカイはそれを許さなくってね
佐藤博士: 分かりました、問題ありません。まず、貴女はどういった存在なのでしょう
SCP-1989-JP-2: その質問は難しいね、まあでも、一応は名乗っておこうか。財団極東支部理事、千凶だよ
佐藤博士: 極東支部…? そのような存在は
SCP-1989-JP-2: やはりこちらには無いんだね、うん、想像していたことだけど
佐藤博士: …説明をお願いします
SCP-1989-JP-2: ボクはね、失敗したセカイの観測者さ。これまでを受け継ぎ、これを続け、これからを信じるための
佐藤博士: つまり貴女は別世界の財団の人間である、と?
SCP-1989-JP-2: そう言えばそうなるのかな。正確にはこの半径100mほどの財団職員だ。…ボクのセカイは、既に完結したここにしかないんだ
<録音終了>
この後、SCP-1989-JP-2によってSCP-1989-JP-1、SCP-1989-JP-2、SCP-1989-JP-3の異常特性が供述され、財団の確認できる範囲で真実であることが判明しています。
インタビュー記録1989-JP-02-4 - 日付 20██/██/██
対象: SCP-1989-JP-2
インタビュアー: 佐藤博士
<録音開始>
佐藤博士: では、SCP-1989-JP-2、インタビューを開始します。まず、貴女の存在していた世界がどのような状態であったかを説明してください
SCP-1989-JP-2: ああ、えっと、この前はSCP-1989-JP-1が収容違反を起こしたところまで話したね? うん、そして財団はそれを止めることに失敗したんだ
佐藤博士: K-クラスシナリオが発生したと?
SCP-1989-JP-2: うん、そういうことだ。全世界の文章が続々ねずみ講みたいに改変され、世界の文化は、歴史は、人物は、宇宙も、おそらく人間が知覚し、考察できるすべてのモノがティーンズノベルに変わっていった。
佐藤博士: …そして、どうなったのですか?
SCP-1989-JP-2: どうすることもできなかった。世界はティーンズノベルに変わり、ボクはこんな姿、こんな喋り方、こんな性格のありふれたサブカルチャーに改変された。ボクが唯一残しているのは考え方、くらいだね。まあ、だからボクは最後の希望をかけてライプニッツ現実圧縮壁を起動し、ウィルクスバリ楔を用いたのさ。それによってボクの世界を圧縮し、他世界に潜り込ませたうえで留め置いた。要は君たちの世界に間借りした店子ってところさ
佐藤博士: …貴女はSCP-1989-JP-1の危険性を知りながら私たちの基準世界に転移してきた、と?
SCP-1989-JP-2: うん、君の憤りももっともだ、財団職員ならばそうはしない。でも、そうだね、その答えは…言ってしまえば誰かの世界を完結させたくなかったからさ、…すまない、いったん中断しよう。またアレが来る
<録音終了>
直後、日本伝承における百鬼夜行に類似した現象が発生、約1時間でSCP-1989-JP-2によって排除された
インタビュー記録1989-JP-02-1 - 日付 20██/██/██
対象: SCP-1989-JP-2
インタビュアー: 佐藤博士
<録音開始>
佐藤博士: SCP-1989-JP-2、先日のインタビューの続きを行います
SCP-1989-JP-2: ああ、構わない。どこまで話したかな?
佐藤博士: 貴女が私たちの基準世界に来る経緯までです
SCP-1989-JP-2: そこまでだったか。うん、まず、ボクが示した半径100mの空間は厳密には君たちの世界ではない、ボクたちの世界だ。そこまでは理解してもらえたと勝手に思っている。さて、それからだ。実はボクたちの世界が食われる前に、ボクたちはこの本に対し一つの推測を立てた。この本は世界を食い尽くせば共食いをいずれ起こすだろうと。そして、この本が共食いを起こした先、つまり全てを食い終り一冊のみになったとき、おそらく他世界に移動するというのではないかという推測を
佐藤博士: …つまり、そうして無数の世界を移動し、破壊するということでしょうか
SCP-1989-JP-2: ああ、底なしの胃袋だ。だからボクたちはその可能性を考慮して楔を作った。胃袋から奴を繋ぎ止める楔を。奴の喰らった世界に奴自身を閉じこめる、グレイプニール、要石。登場人物が作品に叛逆し、その作品自身へ閉じ込める詭弁じみたパラドックスを。そしてボクがその見届けを担った、…残っていたのがボクだけとも言うけどね。結局のところ、推論は当たっていた。世界を食い尽くしたSCP-1989-JP-1は移動した。ただし、楔で小さな世界に打ち付けられたまま、ね
佐藤博士: …SCP-1989-JP-1は自らの改変した貴女の世界、SCP-1989-JP-3に閉じ込められ、そしてSCP-1989-JP-3ごとこの世界へ移動した、ということでしょうか
SCP-1989-JP-2: そうだね、そしてその楔はボク自身だ。君たちの世界に空間ごと留める存在、それがボク。この化け物とボクの世界と共に完結した存在さ。
佐藤博士: 貴女がSCP-1989-JP-3の世界を維持する基準点、と?
SCP-1989-JP-2: うん、分かってくれたようで嬉しいよ。…SCP-1989-JP-1はこの世界を食うために食物の無くなった胃袋に、楔を突き刺したボクを殺そうとアイツたちを送り込んできている。でも、SCP-1989-JP-1の中ではボクが死んだ、殺されたという記述はない。だからおそらく死ぬことは無い、SCP-1989-JP-1は完結してるわけだしね。完結した物語はその登場人物を殺すことはできない。…だから、君たちができることは一つだ。君たちの世界にこれ以上ボクを近づかせないでくれ、これ以上コイツに食わせないでくれ
佐藤博士: …確定はできませんが検討の上、可能な範囲で貴女の意思を尊重しましょう。ただし、監視は継続して行います、もし現在の状況を逸脱するような行為を取った場合は
SCP-1989-JP-2: 分かってる、ボクの言うことが全部嘘の可能性もあるんだから仕方がないさ。そもそもこの世界を離れたらボクは消えてしまう。物語の外に登場人物は飛び出せないからね
佐藤博士: ではSCP-1989-JP-2、これでインタビューを
SCP-1989-JP-2: …ねえ、君、時間はまだあるだろう? 一ついいかな?
佐藤博士: …どうぞ
SCP-1989-JP-2: いや、大したことじゃないけど、話しておきたいというか。…ただ、ボクだけが残ったこの世界を見ていて思うんだ。ボクの行為は正しかったのかなって。ただひたすらに世界を守ることが、正しかったのかなって? …ボクの知っているSCP-1989-JP-1は全てがハッピーエンドなんだ。みんなが幸せで、全ての難題が解決して、誰も恐れるものが無くなって…。それは、ボク達が求めた世界じゃないのかな、ボク達が望んだ世界じゃないのかな。私が留めた世界は、君たちが守り、担っている世界は、古臭いカビの生えた、手垢のついた、強制された世界じゃないのかな。それならいっそ…、そう思うときだって、あるんだよ
佐藤博士: その問いは私では判断しかねます。…ただ、個人的な意見を出せるならば、その結論に関係なく私たちはこれまでも、今も、これからも、この世界がある限り貴女を収容し続けます。SCP-1989-JP-2
SCP-1989-JP-2: …ありがとう。そうだね、そんなことはどうだってよかったんだ、よかったんだよね。…これまでも、今も、これからも
<録音終了>
補遺1: 以下の文章が、SCP-1989-JP-1に特殊な塗料で記入されているのが発見されました。
模倣に、創造に幸あれ、僕を封じた彼女たちへ、僕を託された君たちへ、僕を解き放つ誰かへ
現在、SCP-1989-JP-3の範囲が増加する兆候が見られます。この兆候に対し財団内の研究チームがSCP-1989-JP-2に協力を仰ぐ是非が議論されています。また、これに比例する形で、財団日本支部内において異常性を保持する職員の増加が確認されています。両者の因果関係については現在調査中です。